セブンスドラゴンⅢ code:VFD inブルー 作:メレク
「こいつがメイヘム...総員、戦闘配置に____」
「ぐっ、ああっ!!!」
ヨリトモの号令より先に、ユウマが頭を抱えて膝をついた。
「ユウマ!?」
「あ、頭が...いたいっ!」
「ここで...インストールの副作用か!?一時撤退を」
「するわけねぇだろ」
「あぁ、ここで退くわけがない」
ヨリトモの声を遮ったのはレトロとブルーだった。
「メイヘムってやつ相当お怒りだぜ?どのみち逃げれねぇよ。逃げるつもりもないけどな!」
「......そいつを連れて下がれ」
「ユウマさん大丈夫ですか!?」
「お、俺はまだ...」
顔をあげるユウマの目に、絶望するようなブルーの目が重なった。
「戦えないやつは、下がっていろ」
「っ!!!!」
明確な拒絶に、ユウマは今度こそうちひしがれた。
「たたかえない...うぅ...」
「しっかりしろユウマ!」
「ヨリトモ!ユウマを下がらせな!こいつは俺が殺す!」
「貴様ではない。俺だ」
「レトロ...13班...頼む」
「「あぁ」」
ヨリトモがユウマを支えて最前線から離れる。しかし、やるべきことは変わらない。
「お前も下がれよブルー、邪魔だ」
「...元は同等の力を持っていた、一人でも負けないだろう...だが、下がるのはお前だ」
「喋ってる場合なの!?」
この短時間で恒例となったやり取りにヤイバが注意するも、二人は不遜な態度をやめなかった。
今は人間の姿とはいえ指揮官竜が二匹、今さら一匹に負ける通りはなかった。
「...はぁ、分かったよ。右側殺れ」
「では貴様は左側だな。しくじるなよ」
「誰にもの言ってやがる!お前らも俺の方には手を出すなよ!」
言うが早く、レトロは動き出した。メイヘムも先程より大きな唸りを上げ、遂に戦闘が開始される。
「ブルー...私達に、手伝えることある?」
「やることは変わらない。ヤイバ、シェナはついてきて傷を一つでも多くつけろ。アオイはここにいろ」
「私じゃ役立たずか...」
「...万が一何かあったら補助に回れ。お前は攻撃するよりそっちの方が得意に見えるし、不慮の事態が起きた際、全滅するかしないかの重要な仕事だ。任せるぞ」
「!!...分かった。皆頑張ってね」
ブルーが何かを任せるなど滅多にない。アオギリはその判断を信じた。
「行くぞ」
一歩踏み込み、そのまま突っ込んだ。
「バーニング...ナッコゥゥゥゥ!」
「切れろ!」
左側から拳が、右側から刀が迫る。これまで幾度となくドラゴンを葬ってきた一撃。
誤算があるとすれば。
「...って!」
「硬い...」
竜同士お互い干渉しないために生じる知識の少なさ、指揮官竜以上の持つ特殊能力の失念にあった。
「なんだこの硬さ...おかしいだろ」
打ち付けた右手を閉じて開いてを繰り返すレトロ。ダメージはないものの、あちらに与えたダメージもありそうにない。
「...能力か」
一方で冷静に分析するブルー。この二人も元指揮官竜だが、その特殊能力が他でも使える氷、炎の異常な強化であり、他に類を見ない重力を操作する、などではないため失念していた。
「ま、どんなに硬くたって!」
先程より硬く握りしめた拳をメイヘムにぶつける。だがそれは今まで通りドラゴンを吹き飛ばすにはいたらない。
「おらおらおらぁ!!」
レトロは諦めず今度は左を、その次に右を。何度も何度も叩きつけ始めた。
「シェナ、腹を狙え。ヤイバは俺と奴の注意を剃らさせる」
「わかった!!」
「ん、任せて」
剣を突き立てられないことに歯痒さを感じながら、なおブルーは戦いに身を投じた。
「はぁぁぁ!」
ヤイバが刀を滑らせるも、その鱗は切れない。ブルーがやっても同様。
反対側で殴り付けるレトロも効果はあまりないように見える。
そして、なにもせずただいるだけのメイヘム。
(なぜ、硬い鱗があるとはいえこれほど攻撃されていながら反撃してこない......!)
「ヤイバ!」
「え?ええぇ!?」
剣を一本投げ、ヤイバの手を掴んで__________そのままアオギリの元まで投げ飛ばす。
『通信戻ったか!?おいブルー撤退だ!そいつは』
「わかっている!!」
(後手に回りすぎた!!)
余裕は一瞬にして消え失せ、重くなった体を奮わせて、
(間に合え!!)
本能的にシェナの元へ向かった。
投げた剣は竜の尻尾に弾かれた。
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「レベレーション!!」
『gyaaa!!』
「よし!」
(これならいける!)
レベレーション_______シェナのスキルであるそれは、相手の脈に神聖術で能力を付与した鎌を切りつけることで、相手に睡眠作用などの効果を施せる技。
シェナが今回使用したのは幻惑効果だった。見事に攻撃は腹をかっさばく。
(これでなにも見えない...でも)
いくらブルー達が横から鬱陶しく攻撃しているとはいえ、目の前にいるシェナが攻撃しているのにも関わらずなにもしないメイヘムに、シェナは違和感を抱いた。
(目眩ましもされて動揺してない...なんで......!!)
「っ!」
二つの異変に気づいて戦慄するのと、ヤイバが後ろに飛んでいったのは同時だった。助けたいがそんな力も働かない。
目の前のメイヘムが体を震うと、シェナのつけた傷もふさがった。それだけでなく腹すらも硬化していっているように見える。それでも彼女自身は膝をつくことしか出来なかった。
「っ...つっ!」
咳き込むと抑えた手から赤い液体が滴る。どう見ても血。
(やられた...)
動こうにも体は言うことを聞かずにメイヘムの目の前に無様を晒している。
そして相手が遂に動いた。体を軸に尻尾を回転させて来たのだ。
「うぉぉぉ!?」
見えないところでレトロがぶつかり、壁の高いところに打ち付けられた。そのまま地面に落ち、割れた岩が後を追うように落ちていく。
そして迫る尻尾が異様に遅く感じた。
(これ、死ぬんだ)
シェナは死を覚悟した。咄嗟に思い浮かんだのは一目惚れした______
(さっさと言えば良かったな。残念...)
『gaaaa!!!』
そんな事を思いながら、静かに目を閉じ__________
「死なせは...しない」
彼の声が聞こえる頃には体の全体が衝撃を受けた。
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「...あれ、私、何で生きて...」
「っ!!!」
地面にぶつかる音がしながら衝撃があまり来なかったことを疑問に思い目を開けると、そこはまだシェナの慣れ親しんだ洞窟の中だった。
「がはぁっ!」
代わりに目の前の男_________ブルーが血を吐いて倒れている。
「ブルー!シェナ!!」
「大丈夫!!?」
「な、なにが...」
駆け寄るヤイバとアオギリを見て、尚更混乱するなかで、ブルーの耳元から音が聞こえた。
『お前ら下がれ!作戦は中止だ!』
「この声...ナガミミ?」
『あいつはずっと毒を出してたんだ!吸ったら体から壊していく悪質なやつをな!!』
「「「!!」」」
『ブルーとレトロは効いてるのが弱いし遅いし、離されたヤイバと離れてたアオギリはまだセーフだが、目の前にいたシェナはアウトだ!撤退しろ!』
ナガミミの悲痛な声に全員の顔が青くなった。このままでは全員毒殺されるだろう。いや、シェナは既に瀕死だ。
「...引き下がれない、だろうな」
それに反応したのは、痰を吐くブルーだった。その色は赤い。
『お前もわかってんだろ!?シェナを庇って攻撃された今のであばら骨イッテるだろうが!!』
「...だが、逃がしてくれはしなさそうだぞ」
ブルーの目線に釣られると、メイヘムが歩き出していた。巨体のため早くはないが、到達するのは決して遅くない。
「...ヤイバ」
「!なに!?」
「アレの気をそらせ」
「どうやって!」
『そうだ!まず毒が...』
ブルーの虚言にナガミミとヤイバが反論する。一方シェナは唯一逆転出来そうな手段を構築した。
「...風の安らぎを」
式句を唱え、指をヤイバに向ける。緑の靄が手から離れ、ヤイバを包み込んだ。
「シェナ、なにを...」
「...加護。体に害をなす物を取り込まないように...かはっ、したから...これなら。お願い...」
息絶え絶えに話した内容で、ヤイバは理解できたらしい。
「でも、私だけであれを止めるには...」
「ヤイバ」
次に喋り出したのはブルーだった。シェナと同じく血が滴る口元を拭い、はっきりと言葉を紡ぐ。
「アレを倒せとは言わない。抑えるだけでいい。時間をくれ」
「嫌でも、私...」
「...俺は、出来もしない相手にこんな事を言うつもりはない」
「!!」
「...頼む。ヤイバ」
「......分かった。任せて」
涙目だったヤイバは目元を拭い立ち上がる。その顔は決意に満ちていた。
「抑えれる自信はない...でも、仲間が出来ると信じてくれるなら」
一歩助走をつけて、走り出す。
「はぁぁぁぁ!!!」
『gaaa!!!』
刀をつき出すヤイバに、メイヘムは先程とはうってかわって激しく相対した。
『おい!確かに時間は稼げたがどうするつもりだ!ヤイバを見殺しにでもする気かよ!』
「そんなわけないだろう」
ブルーは起き上がってからずっと体を氷で修復しようと試みていたが、任意で出来ないそれは今活動してくれない。
「...ヤイバは仲間を、俺を信じて突っ込んでくれた。ならば、今度は俺が態度で示さなければならない......」
『おい無茶だ!』
体の中が焼けるように痛い。だがそんな痛みを気にしている場合ではない。
(たかだか同じ指揮官竜に負けている場合では...)
「...ブルー」
「邪魔するなアオイ...?」
「......」
なぜかブルーはアオギリに抱き締められていた。しかもそれだけではない。体が安らぎ、痛みが引いていく__________
「なんだこれは...」
『スキルの発動!?この状況で!?』
「...私も信じてるよ。ヤイバを、貴方を、仲間を」
「...あり、がとう」
きっとこういうときに使う言葉は、思ったより素直に出なかった。
「風の安らぎを...ブルー、お願い...」
「シェナ!」
神聖術を唱えたシェナが目を瞑り、アオギリがブルーから離れて支える。
「シェナ、しっかりして!」
『気を失っただけだ!あまり揺するなよ!』
「......アオイ、シェナを連れてヨリトモの元まで下がれ」
「...でも」
「ヤイバと俺は必ず戻る......信じろ」
「っ...必ず戻ってくるんだよ」
「言われるまでもない。不覚をとったが、俺は真竜を殺すのだからこんなところで死ねるわけがない」
軽くなった体を動かし、手に持つ残り一本の剣を構え________そこに、辺りを冷やす冷気が纏って。
「...アオイ、また後で」
「!!ブルー、らしくないよ」
「......そうだなぁ!!」
一瞬で、メイヘムの元まで跳躍した。
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「はぁ...はぁ!」
『......』
気合い一閃、新しい刀は今までのより軽く扱いやすいと思っていたヤイバだが、メイヘムにその刃は届かなかった。
「くぅっ...」
初めこそ後ろを気にしながら戦っていたもののすぐにそんな余裕はなくなって、今ではメイヘムの攻撃を喰らわないよう努めることで精一杯だった。 通信機はとうに壊れ、ナガミミのアドバイスも受けられない。何か重要なことを話そうとしていたのようだが__________
(なにもできない...強すぎる)
数日前は同じ帝竜スペクタスに恐怖するだけだった。それを考えれば十二分に偉業を成し遂げているが、ヤイバは満足していなかった。
(でも)
『俺は、出来もしない相手にこんな事を言うつもりはない』
(私の仕事は時間を稼ぐこと...メイヘムの足を止めれてるとは思えないけど...)
シェナから貰った加護もあるが、自分の動きがどんどん鈍くなるのを感じる。それでも引くことはせず、ただがむしゃらに立ち向かう。
「私だって!」
『ggaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』
しかし、一際大きな雄叫びと共に迫る尻尾には、抵抗出来そうにもなかった。咄嗟に剣を壁として構えるが、ぼろ雑巾の様に纏めて吹き飛ばされるだろう。
(まだ!!)
だが、諦めはしなかった。最後までメイヘムを睨み付け、威圧する。
しかしもちろんそんなものは効かず__________
「っ!...あれ?」
「はぁ!」
しかし、好機は遂に来た。
「凍れ!」
氷を纏った剣は見事に尻尾を突き刺さり、氷が中から生えでてきた。
「待たせた」
「ブルー!!助かったよ!」
「...それはこちらのほうだ。よく持ちこたえた」
「...もしかして疑ってたの?信じてたんじゃないのー?」
「...黙れ。いいから交代だ」
「...任せたね」
「あぁ」
余計なことは口にせず、毒ガスがまだ蔓延していないところまで離れる。
「頑張って!!ブルー!」
「...任せろ」
叫んだ声にブルーは小さく答えた。
(...私も信じるよ。ブルーを。だから!)
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「まず尻尾...」
『毒は尻尾から出てる!まずそこを潰せ!』とナガミミに言われた通り、尻尾に氷を生やしてみせた。普段自由に扱えない氷も今はかつての様に自在に扱える。
『gaaa!!』
「ちっ」
メイヘムは尻尾を暴れさせるので後ろに下がる。剣は尻尾に突き刺さったままだったが壁に叩きつけられ、氷の破片と共に地面に落ちた。
(拾わせてはくれないだろう...もう一本もかなり奥で投げ捨てた)
ナガミミに言われる前から毒に気づいて尻尾に向けて飛ばした剣はぎりぎり鱗部分に当たり弾かれてしまっている。メイヘムを死なせる武器は今、ブルーの手元にない。
「......ないなら作り出す!」
両手に力を込めて冷気を集める。得意としていた氷の特技。
「凍れ!!」
飛ばした冷気はメイヘムの足元に着弾、同時に足ごと地面を凍らせる。
両前足を動けなくされたメイヘムは後ろ足に力を入れて氷を壊そうとしたが、すぐに飛ばした二射目が地面と縫い付けた。
「凍てつく世界の構築を!」
続けざまに唱えた特殊な式句により、ブルーの周りを囲むように氷の礫が生まれる。その数は百を越え千を越え__________
「滅せ。氷河の果てに」
礫一粒一粒が、鉄の塊のような力を持って__________とはいかないが、その技はかつての最強技『ブリザード』に酷似していた。それがメイヘムを殺すべくつきすすむ。
一つ目が当たり、即座に二つ目、三つ目。その時間の間隔が狭くなり、吹雪が動けないメイヘムを襲う。出来上がったのはまさに極寒地帯。
『やったのか!?』
「......やはり、限界があるか」
『gaaa』
吹雪が止んでなお佇むメイヘムは、硬い鱗のあちこちが剥がれ血を流し、凍傷の後が数多くあるが、生き残っていた。威勢のない声が放たれる。
『ブルー、もう一撃いけるか!?』
「......時間が、あればな」
『メイヘムもまだ足を動かせてない!もう一回貯めて』
「それも込みで、もう少し時間が欲しい...!」
まだ上手く扱いきれていないブルーが今から即座に作れるのは、メイヘムの足を凍らせた冷気の倍程度でしかないことを瞬時に見極め、歯噛みした。まだ足りない__________
その時、メイヘムの後ろから爆発音が聞こえた。
「いいぜいいぜいいぜおい!!やっぱ戦いってのはこうでなくちゃな!!竜最高じゃねぇか!!」
レトロが上に乗っていた岩を粉砕して叫ぶ。その全身からは血が流れ、辺りを焼き尽くす炎が出ていた。
『あいつもブルーみたいなことしやがって...』
「今まで何をしていた。まだ寝ぼけてるのか」
「うるせぇぞ!ニンゲンの体がこんな脆いと思わなかったわ!!体の毒も周りの毒も全部焼くのに時間かかりすぎだっての...だが、今のこの体は最高だなぁ!!!」
レトロの纏う炎が爆発したように光ると、本人はいつの間にかメイヘムの背中を殴り付けていた。
「取り敢えず礼だ...受け取れっ!!」
そのまま上空で体勢を変えて踵を落とす。メイヘムから変な音が鳴り、傷口から血を吹き出した。
『あいつ、ちゃんとブルーが足固めたこと分かってやがる...』
「奴は攻撃的だが考えなしではない。そういうやつだ」
横から殴れば衝撃でメイヘムの足につけられた氷が壊れてしまうかもしれない。それを考慮してレトロはさらに三段拳を入れた。
「鱗が取れ出したってのにかてぇなこいつ...」
「レトロ。力を出せ」
「はぁ?誰に言ってやがるてめぇ!」
「奴には物理より属性技の方が効く。どちらが強い技を出せるか勝負だ。勝った方が一つ相手に命令できる」
「...乗ったぜ」
勝負事に敏感なレトロは賭けに乗った。ブルーの隣に降り、炎を作り出す。その隣でブルーはほくそ笑んだ。
(...たまには、悪くもない。気がする)
「命令ってのはなんでもいいんだな?」
「死ぬ以外ならなんでもやろう」
「ちっ...だが、確かに命令じゃなくて殴り殺したいしいいか」
正反対の色が並び、片方を取り込まんとする勢いで大きくなる。
「まだいけるだろう?」
「うるせぇなぁ...お前の方がやつれてるくせによく言うぜ」
『gaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』
一際大きい咆哮が響く。メイヘムが遂に足の氷を引き剥がし、こちらに向かってくる。そう時間はなく______準備は既に終わっていた。
「おぉ元気だねぇ。満身創痍で」
「さっさと終わらせるぞ」
「指図すんじゃねぇぞ!」
互いに右手を相手に構え、狙いを定める。
「バーンズ!!」
「アイシクル!」
レトロの炎と、それに合わせる様にして出されたブルーの氷は同じ場所、同時にメイヘムに着弾し_______辺りを含めて爆発を起こした。
『...』
「さよならだ」
「そうだな」
煙が晴れ、メイヘムがいた場所には三つの『核』が落ちていた。