セブンスドラゴンⅢ code:VFD inブルー 作:メレク
それでは本編を。
「ゼロベクトル定義、エネルギー充電完了...進路オールグリーン...ブルー」
「なんだ?」
「今度は倒れるなんてヘマすんじゃねぇぞ。隣の二人宥めるの大変なんだかんな」
「!?」
「ナガミミ!?」
「そんなことは知らん。死にそうなら放っておけ」
「帰ったらアイス」
「...善処する」
「じゃあさっさと行ってこい!」
----------------
転送の光に目を閉じ、再び開いた頃には幻想的な世界が広がっていた。
しかし、首都アトランティカの様な華やかさはなく、鉱石の光とそれを反射する水によって産み出される水色の明かりは、ブルーにとって寧ろ好みの雰囲気だった。
『あー、あー、マイクチェック。グラディオンについたはずだ。どうだ?』
「ついたよ。人は誰もいないけどね...」
『用意出来たのがそこだけだったんだ。恨むならジュリエッタを恨め』
「...恨むことはないけどさー...もう座ってアイス食べ出した人がいるんだけど」
『おいブルー!!』
ブルーはトランクを開け、中に入っていた棒アイスを食べ出した。シャリシャリとした食感と広がる甘味が極上の旨みとなってブルーを震えさせる。
「なにか問題があるのか?」
『ありまくりだわ!動けバカ!』
「こんな魔物ばかりの所でか?」
「ええ?」
ブルーの言葉にヤイバが怪訝な声を上げる。ブルーは気にすることなく食べ終わったアイスの棒で指した。
「そこに三体、小型。そっちには二体大型だな」
『マジか!?...索敵機能がまだ不十分か!気を付けろ、ドラコンを倒してるお前らの相手じゃないかもしれないが、数はいるから』
『kisyya!!』
気づかれた魔物達は一斉に外に飛び出るも、全てのマモノが的確に目を潰された。
「...ふん」
投げたのはアイスの棒だった。突き刺されたマモノが悲鳴を上げる。
『な...って、おかしいだろ...刀ならともかくただの木の棒だぞ?』
「あとはお前らがやれ」
「...いやあれ、目を潰されたせいで余計に暴れてるんだけど」
「でなければ知能の低いマモノなど倒す練習にならないだろう?」
喋りながらも器用にアイスを食べ続けるブルーに、アオギリが口を開いた。
「...じゃあブルーも練習するんだよね?」
----------------
結論を言うと、ヤイバとアオギリはマモノを全て倒しきった。あちこちに傷が出来上がったが、どれも軽傷だ。
そして、ブルーはマモノを倒すことなく、あちこちに傷が出来上がっていた。
「くそ...ニンゲンのくせに...」
「ほらー早く走ってきなよ!」
「アオギリ...何だかんだで苛立っていてたんだね」
ブルーが二人に暴れる魔物を倒せと課したように、二人(というよりアオギリだけだが)もブルーに条件を課した。
「くっ...がぁ!」
ブルーが走って転ぶ。これで二桁達成だ。
アオギリが課したのは、ブルーが『走って』アオギリに追い付く。と言うものだった。
(せめて尻尾があれば!!)
ブルーはやっと、転ばずに歩ける様になった。つまりまだ走ることは出来ない。
多少ブルーに付き合い、介護系の夢を持つアオギリだからこそ出せた条件でもある。
「私に追い付くだけだと、ブルー翔んで来そうだからね...スカイタワーの時みたいに。ここ洞窟だし」
「アオイ...なんとしてでも捉えてやる...おおぉぉぉぉ!!!」
「逃げるか!」
「マモノ討伐って、もっと真剣にやるんじゃないかなって...思うんだけど...聞いてないよね」
実際、ブルーは驚異的脚力で飛ぶ様に跳ね、手を壁にめりこます、足を使うなどということで方向転換、再度跳躍するという術を身に付けている。ここが洞窟のためそれは可能だろう。
しかし、しっかり約束を守り走っては転び、走っては転びを繰り返しているうちにある程度まで行けるようになった。
「ほらほらちゃんと出来る様になってきたじゃん!」
「黙れ。貴様ぁ!」
『この任務の主体覚えてるよな13班!!』
ブルーがこんな提案に乗り、律儀にこなしているのには理由がある。
(態度は腹立たしいことこの上ないが、これがためになるのも事実だ)
自分を殺した人間達、真竜を倒した伝説のムラクモ13班_______自分達の部隊名でもある_______の動きを敵として見たブルーにとって、『走る』という行為がどれだけ重要かを理解していた。
(奴らは歩くことなどなく、走り続けて攻撃を避けていた。当たり前だ。速さがあれば相手はそれだけ攻撃しにくい。非常に腹立たしい話だが!)
「大丈夫だよナガミミ!この辺はマモノいないみたい...!」
「...追い付いたぞアオイ!!貴様...覚悟は出来て」
「それどころじゃない!」
先頭で走っていたアオギリが止まる。ブルーがやっとの思いで追い付いた先には、とある景色が見えた。
『......』
「......いや」
空を飛び羽音を振りまくドラゴンと、怯え、その場から立てずにいる少女。その小さな声はまだ遠くにいるのにも関わらずはっきり聞こえた。
「間に合って!!」
一変として真面目な顔になったアオギリが突っ込む。ブルーはその様子を見るだけだった。助ける義理はないのだから。
しかし。
『...私じゃ、ブルーを納得させることは出来なさそうだけど......人が倒れてるのを見過ごせない、助けたいって思う気持ちは、本物だから』
(...なぜ今、あの言葉が甦る!!)
突然出てきたミオの言葉に、思わず頭を抑えた。
「ブルー、大丈夫!?」
『ルシェ族が襲われてるのか!』
「...さい」
「え?」『え?』
そこからの行動は神速の域だった。空気を切り裂き、先行するアオギリの横を通り抜け、ブルーの投擲した刀はドラゴン、 フライドラゴニカを正確に貫いた。
「嘘、あんな細いのを!?」
「その羽音、俺の前で響かせるな!!!」
瞬間、跳躍。
『!!!』
瞬時に距離を詰め、勢いそのまま刀が刺さった状態のフライドラゴニカの体を握りしめる。
「失せろ!!」
そして、近くの壁に叩きつけた。受けた壁がへこみ、ドラゴンから血がほとばしる。完全に命を落としていた。
「...は」
嘲笑するように血で出来た水溜まりを見下げる。フライドラゴニカの能力は幻惑を見せることだ。幻聴が聞こえ、幻覚が見え、動揺した相手をいたぶり殺す。ミオの声を幻聴だと判断したブルーは、その元凶を断った。
(竜の頃には聞いても問題なかったが...まさかここでニンゲンであることの弊害が出るとはな)
頭にかかった返り血を拭うことなく振り返り、駆けた道を見る。
(これだけの距離を跳躍出来るのも、空中でバランスを保てた結果...人間の体に慣れるためには、確かに走るという行為は必要だな)
「ひっ!」
「?」
気づくと、少女が怯えた様子でブルーを見ていた。先程フライドラゴニカを見ていたように______
(...幻聴の言葉通り、人を助けてしまったわけか)
薄い青紫色の髪はウェーブを描き、服は現代では到底着ないであろう薄さで、各所に宝石の様な光が彩る。頭に特徴的な三角形の耳がついている。
儚げな顔は恐怖に染まっており、しかし目は涙で輝いている。その様子が酷くアンバランスだった。
「やめ、ごめん...近寄らないで!」
「うるさい。貴様も黙れ」
ブルーは拒む少女に無理やり近づき、持参したアイスを口に押し込んだ。棒つきアイスはとうに尽きており、ポケットに入れていた丸く小さなアイスだ。
「持ってきた最後の一つだ。ありがたく味わえ」
「......」
「旨いだろう?これは酸味が広がる...レモン、と言っていただろうか」
「...んっ」
「渡すのは不愉快だが...何故だろうな。なぜ俺はお前に渡した......?」
「...んっ」
「...自分の物が減ると分かっていながら渡したのか?俺が?ニンゲンに?」
言葉が続かず、自問自答を繰り返す。しかし答えは出てこない。
「ブルー!よかった!」
「なんだかんだで良い奴だって私は信じてたよ。うん」
(俺が、縁のないニンゲンを助ける?)
喜ぶヤイバと、偉そうにするアオギリの言葉を聞いて、さらに分からなくなる。
(なんだ?なんなんだ?この感情は?)
「...俺は、やりたいことをやっただけだ。それだけだ」
呟いた言葉が、心にストンと纏まった。
(そうだ。やりたいことをやったまで。つまりこれは気まぐれだ。助けたついで、後でいくらでもナガミミから奪える物に固執する必要ない)
「...」
「ただブルー、そろそろ退いてあげたら...」
「ん?あぁ...」
アオギリの言葉にえらく素直に、馬乗りしていた少女から身を引いて_______
「シェナちゃんから離れろぉぉ!!」
「ぐっ!?」
後ろから、肩を刺された。
「えっ!?」
「あ、あんた誰!?なにやってんの!?」
「うるせえ余所者が!シェナちゃんを殺させるかよ!」
「な!ブルーはドラゴンからその子を助けたのよ!?」
「じゃあ何で血まみれの余所者がシェナちゃんの上に乗ってて、お前らは動かないんだよ!?おかしいだろ!?」
後ろで男の声がする度に、肩が抉られる。痛みでうずくまりそうになったが、下にいる少女が邪魔のため左手で地面との空間を作った。しかし、力を入れても起き上がることは出来ない。
「おいルーズ...!この低層区に余所者が!?何奴!」
「こいつらシェナちゃんを殺そうとしてる!」
「シェナ!!貴様ら動くなよ!!」
「あ...あぁ!!」
「貴様も動くな!!」
「がはぁ!」
「ブルー!」
そして、完全に肩を貫通した。後ろから刺さった鋭利な刃がブルーの視界に飛び込んでくる。
「や、やめ...」
「失せろ!余所者が!」
さらに一撃、足に食らう。下の少女の声はブルーにしか届かない。
「そうらよっ!」
「...がはっ」
「大丈夫シェナちゃん!?」
「怪我は!?」
「ざまぁみやがれ!」
「ブルー...ひ、酷い...」
「そこ退きなさい!ブルー!」
「もうやめてぇ!!」
『おいブルー!?返事をしろ!』
肩を基点に持ち上げられ、壁に叩きつけたられた。
見えたのは七人、ヤイバ、アオギリと、それを抑える二人の男。青紫髪の少女と、それに寄り添う男。そして、血に塗られた槍を構え、勝ち誇った笑みをする男。
聞こえたのは高音叫び声と低音の笑い声、耳に着けた通信機から届くナガミミの声で__________
----------------
なぜ俺は、助けたはずのニンゲンに怖い顔をされた。
なぜ俺は、助けたはずのニンゲンの仲間に肩をやられ、いいようにやられた。
なぜ俺は、縁すらないニンゲンを助けた?
なぜニンゲンは、勝ち誇った笑みを浮かべる。
なぜヤイバは、涙を浮かべる。
なぜアオギリは、必死の形相をする。
なぜこいつらは、俺の名前を呼ぶ。
なぜミオは、この二人を、助けたいと思った?
分からない。解らない。判らない。わからない。ワカラナイ。
なぜこうも俺の心は動揺する。
ニンゲンのすることがわからないのは何故だ。
オレガ『竜』ダカラダ___________
----------------
「ク...クハハ...」
「こいつまだ!?」
「エーグル呼んでこい!」
「ブルー!大丈夫!?」
「クハハハ...」
『ブルー?』
「ハハハハハハハハハハハハ!!」
ヤイバは恐怖した。肩と足から血を垂れ流し、ドラゴンの返り血なのか自身の血なのか分からなくなったブルーの目は、焦点があっていなかった。普段の透き通った水色とは違う、淀んだ、荒い目。
「理解した。アレの言う通りだった。ニンゲンは醜い。とても理解出来ない。出来損ないの存在」
「な、なんだこいつ...」
「互いを滅ぼし、何の為にもならない戦いを引き起こす外道ども。竜は己のために戦う。貴様らの戦う理由はなんだ?主張、理想、種族、全て違う貴様らが真竜に勝てたのは何故だ?」
「ぶ、ブルー?」
『お前何言って...』
「言ってみろ。貴様らの掲げる大義はなんだ?言えない奴から始末しよう」
底が見えない冷たさを出し、辺りが冷気で満ちる。
「ちょっとブルー落ち着いて」
「黙れ」
アオギリが一歩前に進んだ瞬間、その靴が凍らされた。間違いなくブルーは、敵意を持ってアオギリを相手どったのだ。
「っ!」
「ブルー!話を聞いて!」
「なぜ聞く?そこのニンゲンは俺の話を聞いたか?お前らの話を聞いたか?この期に及んで話し合いの余地があるというのか?」
「......」
「ヤイバ、俺はお前に初めて会い、帝竜を倒した時から何も変わらない。やっていることは己のため、感謝される謂れはない」
「違う...違うの、ブルー。私は感謝してるの」
「ルシェ族を助けたいとも言っていたな。そいつらを助けないなら、貴様らを殺そうとする俺は脅威だ。剣を取り、殺しにこい」
「私はルシェも助けたい...でもブルーを傷つけたいわけじゃない!」
「それは傲慢だ。その二つは同時に成立しない」
「する!!」
「しないと言っている!!!」
叫び、あちこちから氷が顕現される。大地がうねり、氷柱が重なり、この世の終わり、氷河期が再生されたかと錯覚させるほどに凄まじい。
そして地面から生えた物が、ヤイバの足をからめとった。
「動かずそこで見ているといい。貴様が助けたいと思った物が、無様に散る様をな」
「ひ、ひぃぃぃぃ!!」
男の一人が走り去ろうとするのを見て、刀を投げ捨てる。
「あ...」
圧倒的速度で投げられた刀は__________男の頭を掠めていった。
「ち...外したか。肩の血が煩わしいな」
すると、ブルーは自分の体に氷を生やした。肩と足、出血部分に氷が生える。
「だめブルー!そんなことしたら血が冷たくなりすぎちゃう!!」
「...次は当てる」
アオギリの言う通り、血が回らなくなれば人間として終わってしまう。それに気づかないまま、ブルーはもう片方の刀を取り出した。
「ブルー!!!」
「っ!!!」
そして、その瞬間は訪れた。
今まで黙っていた少女が駆け出し、
投擲するブルーと男の間に割り込んで、
ブルーを抱きしめ、口づけをした__________
「「!?!?」」
種族とか、大義とか、関係ない。
人は、もっと単純だよ。
私は、私を助けてくれた貴方に感謝します。
ありがとう__________