セブンスドラゴンⅢ code:VFD inブルー 作:メレク
「...ここは」
最近、というより人間の姿になってからは、知らない場所で目覚めることが多すぎる気がした。
「...俺は」
何をしていたかを思い出す。確かニンゲンを見限り、殺そうとして_________フライドラゴニカから助けた少女がいきなり目の前に現れて、やたら距離が近くて。
「俺は...何をしていた?」
その後、何を言われたかが思い出せない。しかし、不思議と人間に対する憎悪がかなり霧散していた。
アレ__________自身を地球に顕現させた腹立たしい存在、フォーマルハウトの言葉すら肯定していたのに。
アオギリとヤイバにも手を出したのに。
「何がどうなっている?」
焦燥に似た何かを感じ、思わず立ち上がる。ベッドの暖かさは全く気にならない。
見渡すと、扉が一つ、机と椅子が二つのとても簡素な部屋だった。
『ブルー、起きたか』
「...ナガミミか」
耳に入っていた通信機から聞こえる声に、どこか懐かしさを感じる。
(さっきから俺はどこかおかしい。だがこれを普通だと考えている俺もいる。なんだ?)
『言いたいことも聞きたいことも山ほどあるが、まずは扉を開けてみな。お前の大体の疑問が消える筈だ』
「......」
大人しく扉を開けると、一人の少女が座っていた。青紫色のウェーブがかった髪、装飾の施された薄い服、視線が合うことで解る黄緑色の目。
「お前は...」
「起きたんだ。よかった。座って?」
「...」
特に逆らう理由もないので座る。すると少女の方から口を開いた。
「さっきのこと、覚えてる? 」
「...俺がお前の仲間を殺そうとした時、割り込んできた」
「そう。そこまで覚えてるんだ。正気じゃなかったから分からなくなってるかと思ったんだけど...先ずは、ドラゴン助けてくれてありがとう」
「...俺はうるさい雑音を払ったまでだ。礼を言われる筋合いはない」
「私が言いたいから言っているだけだから、気にしないで。理屈とかじゃないんだよ。こういうの」
少女は立ち上がり、二つの容器と水を持ってきて、そこに注いだ。透き通った水は木でできた容器の底もはっきり分かる。
「どうぞ?毒は入ってないから」
「...旨い」
一口飲んで驚嘆した。氷を作ってきたブルーだからこそ、この水がどれほど清らかか分かる。
「その辺の湧き水から手に入れたからね。すごくおいしいよ。レモンってやつも冷たくて美味しかったけど...いや、そうじゃないか」
「なにがだ?」
「話す話題を戻すよ。私はシェナ。ルシェ族で、低層区グラディオンで暮らす一人だよ」
「...ブルーだ」
「そっちは知ってるよ。ヤイバとアオギリが散々叫んでたし」
「ここはどこだ?」
「私の家。グラディオンの一角だよ。二人は今町長と武装団団長のエーグルと話してる」
「ヤイバとアオイについて話されても知らん」
「そっか...チャンスかな」
ぼそりと呟いた声はブルーの耳に届かなかった。
「傷は痛む?」
「傷?...あぁ肩と足か。問題ない」
「血まみれだったから頑張って止血して包帯巻いたんだけど...大丈夫なの?」
「寧ろ楽だ」
(恐らく、氷が原因)
ワイバーンと戦った後もだが、無理矢理氷を生やした所は治る頃には寧ろ扱い易くなっている気がした。
(元が氷竜だからか...?)
「ならよかった...一応、ことの顛末を話すね。あのあと団長のエーグルも来て沈静化、こっちの責任は火を見るよりも明らかだったから貴方の治療と話を聞くことを承諾してここに招待したの」
『ついでに捕捉すると、今竜殺剣についてヤイバとアオギリで聞いてるな。そっちのモニタリングはアリーとジュリエッタがいるから大丈夫だ』
ナガミミの説明もうけ、もう一口水を飲む。
「貴方を...ブルーって呼んでいい?」
「好きにしろ」
「ありがとう。ブルーを攻撃した人達は今厳重注意だけだけど、ブルーの一存でかなりの罪まであげられる」
「...今さら、あいつらにとやかく言うつもりはない。好きにさせておけ」
「分かった。そう伝えるね。私の仲間だし、そう言ってくれて嬉しいよ...というか静かだね」
「...俺は何がしたいのか、分からなくてな」
「ブルーは難しく考え過ぎなんだよ。人間はきっと、何かをしてくれたから感謝する。されたから怒るみたいに、もっと単純な生き物だと思うよ」
「...」
「だからヤイバもアオギリも理屈とかじゃなく、貴方を心配してるんだと思う」
「......それを決めるのは俺だ。だが...話を聞くくらいは、しよう」
そう言ったブルーの顔は、なんとも表現のしにくい顔だった。
『こいつホントにブルーか...?全然違くね?』
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「Dインストールの弊害はないか?」
「寧ろ調子が良いですよ」
「ならいい」
「ここが例のポイント。違い過ぎないですか...」
「あのブルーという少年がやったらしい」
「彼が?」
ISDF所属のヨリトモとユウマを含めた部隊は、アトランティカで王女達と出会ったものの取り巻きから門前払いされ、ブルー達が先行しているというグラディオンへの道を歩いていた。
マモノもドラゴンもかなり減っていたが、それでも現れた者はユウマが倒していく。それだけで部隊が生き残り突き進めるほどユウマは強かった。
一名、それを快く思わない者もいたが。
「壁、地面、至るところから氷が生えている...」
彼らはとある一角で見た光景に戦慄した。まるでドラゴンが無差別に放ったように氷が地面を貫いている。真ん中に立てば、周りを拒絶する壁にも見える。
辺りがマモノだけの時なら、この上ない範囲攻撃だろう。
「これを人間技とは言いがたいな...」
ヨリトモがぼやくと、一人が突然走り出した。連絡を取ったノーデンスによると、グラディオンへ続く道を__________
「なにやっている!」
男は、ユウマの制止する声も聞かず、走り続けた。
(間違いねぇ。俺が間違える筈がねぇ)
短めの赤髪を揺らしながら、男_______レトロは、狂喜をはらんだ笑みを浮かべた。
「俺が殺してやるよぉ!!」
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「入るぞ」
「ブルー...怪我は!?」
「問題ない」
扉を開けて一番最初に飛んできた声はヤイバのものだった。用意していた返答をしっかり返す。
「あんたか...すまない。俺の仲間が」
「貴様は何者だ」
「あぁ、あいつらのまとめ役...って言えばいいんだろうな。エーグルと言う」
「...ブルーだ」
簡単な自己紹介を済まし、促された椅子に座る。この椅子は氷の床と同じくらい固かった。
「それじゃあ話を戻すか...確かに、『アトランティス』はオリハルコンの星晶石を使い、この国ごとニアラを潰そうとしている。先代のユトレロ王が亡くなってから強行手段に出てるんだ」
「ユトレロ王って、ウラニアのお父さん?」
「あぁ、ニアラに立ち向かい、王宮騎士団もろとも...それから数ヶ月で、ルシェの国もほとんどが消されちまった」
忌々しげに喋るエーグルを、ブルーはただ見つめている。
「確かに自爆すればニアラを倒せるかもしれない。レイデンが占拠されているからもう助からないかもしれない...だが...俺は最後まで『アトランティス』を犠牲にすることなくニアラを殺す道をとる!!」
「エーグル...」
「今強行策に出ているのは執務間のタリエリを含めた一部だ!ウラニアと話せれば...説得出来れば、ニアラのいる所までは行ける!」
「なら行くぞ。時間はそうない」
「ダメに決まっているだろう」
今まで黙っていた女が口を開く。出鼻を挫かれたブルーは睨み付けた。
「トグラウ町長...分かってる。ここの守りが手薄になれば子供や老人が...だが!」
「いくらここの星晶石がマモノを寄せ付けないとはいえ...落ちるぞ」
「...」
「竜殺剣の作成も、工房は帝竜に制圧されている。道中もドラゴンで溢れている。竜殺剣を作るのは不可能だ」
「......思ったより、ヤバい状況?」
『帝竜までいるのかよ...とにかく人手が欲しいな、くそ』
沈黙が部屋を満たす。町の守りを完璧にし、工房を取り戻し、ウラニアに竜殺剣を作らせ、自爆という作戦が終わる前にそれらを全て行う。
「外界の者達よ。同族を助けてくれたことは感謝する。が、これ以上は我らの問題だ。立ち去るがよい。このままでは貴様らも道ずれだぞ?」
「...黙れ」
凍てついた声が部屋に響いた。発したのは勿論_______
「俺はニアラを殺すと誓った。貴様らを利用して必ず殺す」
「ブルー...でも」
「ヤイバ、貴様も言っていたな。ルシェを助けたいと。俺はお前の思いすら利用してニアラを叩き潰す......」
「そんな...」
「だから」
「え?」
「だからお前らも俺を利用しろ。必ずニアラを殺すと誓う俺を手駒の様に使い、この国を守るなり助けるなりすればいい」
「!」
「利害は一致している。あとは好きにしろ」
早々に立ち上がり、部屋から出たブルーを止めるものは誰もいなかった。
『あー...聞こえるかあんたら。今そこで吠えずらかいた奴の仲間なんだが...俺達も協力すれば、それ、出来るかもしれないのは確かだぞ』
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「どうしたの?急に」
グラディオンに飾られていた星晶石を見上げるブルーの元に駆け寄ったのは、ヤイバとアオギリだった。どちらも驚きや困惑といった感情が顔から読み取れる。
「なにがだ?」
「いや...なんか、変わった?あんなこと言うなんてブルーらしくないというか...」
「...らしくない。か」
目線を星晶石に戻す。確かな明かりが周りを照らし、目を細める。
『人はもっと単純だよ』
「俺は、自分の言いたいことを言っただけだ。周りにどう思われてるかなど知らん」
どこかで聞いたことのあったような声に同調するよう、静かに声にする。
「俺は真竜を殺したい。かつての自分の届かなかった世界へたどり着きたい。だがそんな思いとは別に全く知らない。分からない感情がある。それを...この姿なら育み、見つけることが出来る」
「ブルー?聞こえない...」
「......聞こえなくていい」
(喋ってしまったが、独白など聞かれて良いことなどないからな。一人だった弊害か...)
そう思いながら、青い瞳を二人に向ける。剃らさず、ひたすらに真っ直ぐに。
「...ヤイバ、アオイ。貴様らのことはあてにしているぞ」
「!...ヤイバ、聞いた?」
「聞いたけど...ブルーほんとにどうしたんだろ」
(ここ数日で低階級とはいえ竜を倒せるまで成長した力は目を見張るものがある)
「...仲間、としてな」
「...キスされたから?」
「!!」
「...貴様ら話を聞いているのか?」
「聞いてますよ!うん!」
「大丈夫だから!」
噛み合っているのか噛み合っていないのか誰も分からない三人の会話がうわべだけで流れていく。
「...真面目に話をしているんだ。聞けよ」
「「!!」」
愚痴の様にこぼれたブルーの声は、かなり小さかったのにも関わらず二人の耳にしっかり入り。
「ブルー、ごめんね」
「別に貴様らは謝るようなことをしていないだろう」
「...じゃあ、これからもよろしく!!」
「ヤイバだけじゃなく私ともね!」
「...頼む」
二人の笑みに、ブルーは一言返すことしか出来なかった。
『お前ら終わったか?取り敢えず今日は一度戻るぞ。ルシェの方の許可は取った。こっちの時間は夜だし、少しは休め。特にブルーはメディカルチェックを受けてからな!』
「ナガミミ、良いところなんだから邪魔しないでよ」
『うるせぇ!!明日は朝一で帝竜討伐行くからな!覚悟しろよ!』
「帝竜か」
ナガミミの言葉が確かなら、明日は帝竜__________指揮官級の竜を倒すことになる。
「前回の様にはいかない。完膚なきまでに殺してやる」
『ポータル設定終了、これで直接グラディオンまでこれるな...よし!転送する!』
数日前戦った赤い竜と、それを完璧に倒してみせた人間を思い出している間に、三人は白い光に包まれた。
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「いない...いない...どこだ!!どこにいる氷竜!!!」