世界は二つ、存在する。
元々は何かが作り出した世界。
その何かは、あるいは神と言われ、あるいはビッグバンと言われ、あるいは無と言われた、「何か」
そしてもう一つ。
その世界の中に生まれた生命体が作り出したもの。
現実の、物理の法則に支配された世界とは異なる新たなる世界。
「デジタルワールド」
人間が生み出したその世界で、今。
かつてないほどの危機が巻き起こっていた。
この世界に数多存在する伝説の中で等しく災厄と予言されていた危険。
デジタルハザードの胎動。
次々とあらゆるエリアに住まうデジモンたちが消滅し、暴走する中、世界の管理権、「オーダー」を所有する究極体たちがデジタルハザードを収束させるため動き出した。
「オーダー」を持つ者たちの中でも最上位の権限を持つ集団。
ロイヤルナイツ。
世界の危機を敵とし、新たな夜明けを導いてきた彼らは、長きデジタルワールドの歴史において最大の危機を相手に、世界と己の存亡をかけて戦っていた。
12人の騎士がそこにはいた。
彼らの前に居た敵。
いや、あった現象。
そのカタチは巨大な黒。
申し訳程度に身体と認識できるほどの、丸く部位としては頭部と両肩、そして腰以外は、蠢く無数の触手で出来上がっていた。
触手が触れた部分は0と1に分解され、暗黒へと変わり、吸収されていく。
「……行くぞ」
騎士たちの一人。
完璧、まぎれもない至高を表すかのような白の騎士は呟く。
右腕の砲門が開き、ロイヤルナイツとデジタルハザードの戦闘は始まった。
その戦闘は全てが神話の領域だった。
ただ剣をふるうにせよ、ただ盾をかざすにせよ。
あまりに莫大な質量同士の激突は世界が描画することを拒む。
仮に完全体以下のデジモンがその場に居合わせたなら。
ともすれば並みの究極体であったとしても、余波だけで消し飛んでしまいそうなほどの衝撃。
それだけの強さを具現しても、敵は微動だにしなかった。
「ギギギギギギギギギギギギ」
存在ごとゆさぶるような不快な鳴き声を、その敵は叫ぶ。
間断なく攻め入る騎士たちも、疲れを見せ始めていた。
「どうする、ドゥフトモン!このままではジリ貧だぞ!」
鉄拳をふるうガンクゥモンが、獅子を模した鎧に身を包む騎士に問う。
「……仕方あるまい。みな、最終手段だ」
手にしていた細剣を天に掲げ、指揮をとるように振るう。
「配置につけ!転送プログラムを起動する!」
彼らの序列に、順位は存在しない。
みな等しく絶対価値基準たる「ユグドラシル」の前に等しく平等の存在。
今この場でドゥフトモンが指揮をとっているのは彼がただ「向いている」という以外にない。
そしてその事実をみな認めている。
ゆえに。
騎士たちは配置につく。
「結局、彼の主はこなかったか……」
その言葉をつぶやいたのは誰だったか。
「案ずるな。創造者が来ている」
配置についた騎士たちに指揮者が言葉を投げる。
その視線は敵ではなく、天を捉えていた。
白の鎧、白の翼、そして白の剣。
聖騎士たちの集団をつくりあげた、古代よりの騎士。
皇帝、騎士を名に冠する彼は言った。
「空白は私が埋める!騎士たちよ、己のすべきことをせよ!」
円状に飛ぶ騎士たちの中心を創始者は降下していく。
その最中。
最後の名を持つ騎士と彼は視線を交わす。
そこに何の意味が込められていたか。
オメガモンには測りかねていた。
胸中にあったのは、一つの憤りに似た疑念。
なぜ来ないのだ、アルファモン……!
お前がいれば、あるいは……!
その思いをねじ伏せ、敵を見据える。
騎士たちの最大火力を同時にぶつけ、敵の処理能力をオーバーフローさせる。
その隙をつく。
処理限界を迎えたところで、ダークエリアへと転送し、デジタマへと転生させることにより事態の収集を図る魂胆だ。
だが、一つ欠けていた。
13いるはずのロイヤルナイツにおける空白の席の主。
アルファモン。
彼はこの世界の危機においても現れなかった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
騎士たちの最大の火力が、怪物を襲う。
それはまるで宙に浮かぶ華のようであった。
「後は頼んだぞ、ロイヤルナイツ!」
創始者、インペリアルドラモンはその最後を担う。
もだえ苦しむ敵に剣をつきさし、その勢いのまま彼は暗黒の地へと己ごと押し込む。
最後の言葉を残して。
「ギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!!!!!!!!」
断末魔のような、その叫びは騎士たちのいる世界をめぐる。
その声をかき消すように。
終わらせるように。
古代の聖騎士は、現象ともいえる災厄と共にダークエリアへと落ちていった。
己の存在そのものをかけて。
深淵に近づくにつれ、白と黒の二つの存在はそれぞれ0へと近づいていく。
徐々に、徐々に。
0へと。