機動戦士ガンダム ‐inherited force-   作:群雲 沙耶

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第1話 見えない現実

――――そのモビルスーツ、地球同盟軍の量産機<ストライクダガー>は宇宙にいた。漆黒というだけでは足りない。一切の光を吸い尽くして広がる無辺の闇の中にただ1機、漂う漂流物の影に身を潜めていた。

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・!」

荒い呼吸音がコックピット内に響く。一緒に出撃した味方は全員撃墜された。シートに座った男、ニック・ラリィは落ち着かない様子で辺りをギョロギョロと見回した。

「どこだ・・・どこからくる・・・!?」

左右正面、どのモニターを見てもだた広がる闇、闇、闇。本来人間がいることの出来ない非情な空間1人でいるストレスと焦りでニックの精神は極限にまですり減っていた。

周囲に異常がないことに安堵し一息つこうとするも束の間、コックピット内にけたたましく警戒音が鳴り響く。

「ッ!きやがった!!」

ギョッとしたニックがアラートが示すの方向に<ストライクダガー>のカメラをやると、そこには先程とは違い画面中央にポツリとした小さな光の玉が見えた。目を凝らして見るとそれは緑色の光だった。光はみるみる増大していく。いや、大きくなっているのではない、こちらに近づいているのだ。光は微小なデブリを呑みながらさらに接近してくる。注意深く見たそれが敵から撃たれたものだと男は気付いた。が、すでに時は遅かった。超高速で接近してくる光はすでに回避可能なほど離れてはおらず、コックピットのモニターは画面いっぱいに広がる光に埋め尽くされて――――

 

 

 

計器やコックピット内の照明が暗転し、正面のモニターには赤い文字で[YOU LOSE]と大きく表示されていた。

 

 

 

         ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「チッッッックショーーーーーー!!また負けたぁぁぁぁぁ!!!」

暗転したコックピット型の筐体から出てきたニックは周りの目も気にせず大声で叫んだ。

ここは地球同盟軍とアイゼンラート帝国軍間の戦争において中立の立場を示した第3コロニー郡<リュクルゴス>を構成するコロニーの1つ、<テルモピュライ>。ニックはその民間人用生活区画にある1店ゲームセンターにいた。

あまりの悔しさに地団駄を踏んでいると彼の取り巻き達がニヤニヤとした表情で近付いてきた。

「ヘイ、ニック!今回もまた見事な負けっぷりだったな!!」

友人の軽口に余裕を持って返すことも出来ず「うるせぇ!!」と吐き捨てるようにニック言葉を返した。

「おま、これで俺はあいつに16連敗だぞ!今日だけで4回も負けてるのに!!」

頭を抱えてギリギリと歯軋りをしているニックは正に笑いの的だった。彼の歯軋りは仲間内でも特級でうるさいと有名で、ルームメイトによると「歯軋りのオリンピックがあったら金メダル常連は確認」だそうだ。

そんなニック達を置いて、取り巻きの1人はニックの座っていた筐体の隣の筐体に近付き、その中から出てきた1人の少年を迎えた。

「おかえり!俺たちの蒼い流星ちゃん!」

"蒼い流星"と呼ばれた少年、レオンハート・スフォルトは迎えに来た友人と「ハイタッチ☆!」と互いの掌を平手打ちした。髪も瞳も蒼い、取り巻き達と同じ17歳にも関わらず少し大人びた印象を周りに与える少年は、ニック達の元に戻ってきて開口一番にヘラヘラとこう言った。

「ニック、また僕の勝ちだね~?今日もよろしくー」

負けたばかりで気が立ってるニックはそんな軽い煽りにも耐えられず、すかさずレオンハートの背後にまわるとそのままスリーパーホールドをキめていた。何を隠そう、ニックは「歯軋りの金メダリスト」以外に「スリーパーホールドの巨匠」という別名も持っているのだ。相手の背後にまわり絞め技をキめるという一連の動作だけは歴戦のプロレス選手顔負けという妙な特技だった。

「レ・オ・ン・ハ・ァ・トくぅ~ん?調子いいね~お前!俺ってば羨ましいなぁ~?」

「ニ、ニック!君声が笑ってない!全然笑ってない!あと痛いからね!?君いつも何気なくそれしてるけどすごく痛いからね!?」

ギリギリと音をたてて絞めるニックと、首を絞めているニックの腕を必死で外そうとするレオンハート。何とも間抜けな絵面だが、これが彼らの日常茶飯事だ。と、同時に毎日を何気なく過ごす彼らの平和の象徴でもあった。

「うるせぇ!今日もお前に4回も負けた俺の身にもなってみろ!またお前のランチ奢りじゃねぇか!!これでもう5日連続だぞ!!」

レオンハートの命乞いのような悲鳴に対し、ニックが泣き声が少し混じった怒鳴り声で答えた。そう、彼らは昼食の支払いを賭けて勝負していたのだ。そしてニックの言葉通り、彼は5日連続でレオンハートに敗れ、ランチの代金を支払い続けていた。ニックは特別バイトをしているわけではなく、親や親族から与えられる小遣いで暮らしていた。元々多くない小遣いからゲームの代金と自分のランチ代に加え、レオンハートのランチ代も支払っているのだ。つまりは破産寸前で、今回の勝負はニックにとって絶対負けられないものだったのだ。

「なぁレオンハート?実は俺、破産しそうなんだ!ここは男らしく今日の分は勘弁してくれないか!?」

「そうは言ってもこれ、君から言い出したことじゃんか…」

呆れたレオンハートの指摘に的を射られたニックは「うぐっ!?」と声を上げて彼の首を絞めていた腕を離した。正にぐうの音も出ない、といったところだ。

「まぁ、君がそんなに言うならよっぽどだろうし別にいいさ。奢りとか無くていいからさ、お腹空いたしランチに行こうよ」

気を取り直そうとレオンハートが提案を飲むと、「マジか!?感謝!!さすがレオンハートだぜ、話が分かる!!」と泣きながら感謝するニックの声が聞こえた。やれやれ、といった表情で頭を掻くとレオンハートは先程まで自分達が座っていた筐体に目をやった。

ドームスクリーン式戦術チーム対戦ゲーム<モビルスーツバトルシミュレーション>。彼らがプレイしていたゲームの名前で、よく「モビバト」とか「M.S.B」と略される。実在するモビルスーツを題材としたアーケードゲームで、大型筐体に乗り込み、本当に大型戦闘ロボットを操縦しているような体験が出来ると話題を呼んだ。

ノラミック・オプティカル・ディスプレイ(p.o.d.)とよばれる半球スクリーンを持った操縦席型の筐体にプレイヤーが入り、地球同盟軍とアイゼンラート帝国軍に分かれて最大8人対8人で戦うことができる。同一コロニー内の店舗同士ならボイスチャットにも対応しており、登録されているモビルスーツのカラーリングを変更しユーザーごとに個性を出せるなど、意外と自由度は高い。レオンハートが"蒼い流星"などと言われているのも、このカラーリング変更機能により使用するモビルスーツを悉く青系のカラーリングにしていることが由来していた。このゲームにおいて青色はもはやレオンハートの専用カラーのように扱われており、<テルモピュライ>内の全店舗でモビルスーツを青一色に染めているのは彼だけである。

「現在も戦争をしている国家同士の兵器をゲームの題材にするとは何事か」とリリース当初は世間の批判を浴びたが、今となってはそんな声を上げる者もほとんどおらず若者達の格好の遊び場となっている。しかしこのゲームには謎が多い。第一に製造した企業が不明なのだった。地球やコロニーのすべてのメーカーに問い合わせても「MSBを製造した」または「MSBを運営している」と公言している企業は存在しないのだ。さらにこのゲームは製造元や運営元が不明にも関わらず両軍が新型モビルスーツを公式発表すると、発表と同時に自動でアップデートが入りそのモビルスーツが使用可能になるのだ。ユーザーとしては不定期にも関わらず新しく使える機体が大がかりなメンテナンスも入らないで使用出来ることは大変ありがたいのではあるが、冷静に考えれば気味が悪いものだった。おまけにその自動アップデートのせいで、「実際に戦争が起こっている」という現実が霞んで見え、「このゲームのアップデートのために両軍は戦争をしているのではないか」とか、「本当は戦争なんてしておらず、あれはただドキュメンタリーである」などといった意識が生まれ始めていた。若者達は"戦争"という言葉や行為がどれだけ自分達の生活とは乖離していることかと常々感じることになったのだ。

「おーい、レオンハート!早く来いよー!」

ニックの声が聞こえて、レオンハートはハッと我に帰り声のした方向を向く。ぼんやりとMSBの筐体を眺めている間にニック達はすでに店ので入り口まで行ってしまっていたようだ。「うん、すぐ行くよ」と声を返すと筐体を振り返ることもせず、レオンハートは友人達の元へ歩き出した。

 彼らは、近付きつつある運命に気付かないまま歩き出すのだった。




<人物紹介>
◇レオンハート・スフォルト…本作の主人公。17歳。特別尖ってる訳でもなくおとなしい性格ではあるが髪も瞳も蒼色という身体的特徴のせいで人混みでも目立つことが多い。
◇ニック・ラリィ…レオンハートの友人。17歳。「歯軋りの金メダリスト」や「スリーパーホールドの巨匠」といった珍名を持つ。MSBではレオンハートに42回敗北しており、リベンジに燃えている。
◇ニックの取り巻き達…モブ。4人くらいいるけど名前考えるの面倒なんでそのうち死にます。

<用語解説>
・第3コロニー郡<リュクルゴス>…L3宙域に点在するコロニー郡。<アイゼンラート独立戦争>において中立を宣言している。
・テルモピュライ…第3コロニー郡を構成するコロニーの1つ。主に工業が盛んである。
・MSB…正式名称<モビルスーツバトルシミュレーション>。A.A.界にて絶大な人気を誇るゲームであるが、製造元や運営元が不明にも関わらず自動で実在する新型モビルスーツがアップデートにより使用可能になるなど謎が多い。
※ぶっちゃけた話バンナムが展開している「戦場の絆」である。
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