機動戦士ガンダム ‐inherited force-   作:群雲 沙耶

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第2話 少女の夢

 またあの夢だ―――――――。目覚めた瞬間、ノア・フロイスはそう思い枕元に置いていた目覚まし時計に手を伸ばした。時刻は午前5時12分。ハイスクールに行くには少し早い目覚めだが、もう一度寝る気にもなれなかった。寝起きで重い身体でのそのそとベッドから抜け出し、カーテンに手を伸ばした。外は微かに明かるくなっている。夜を引きずって静まり返っている部屋の中は時計の秒針の音だけが響き渡っていた。

「・・・あの夢を見た後って絶対頭が痛くなるなぁ」と呟くと、電気もつけずに部屋の外に出たノアは廊下に干してあったバスタオルを手に取りバスルームに向かった。軽く顔を洗い、眠気が完全に覚めた目で洗面台の鑑を覗き込む。

 深緑の瞳に、雪のように透き通った白い肌。髪留めをしておらず腰の位置まで垂れ下がった髪は瞳と同じ色で、特に手間をかけなくても長くつややかに流れていた。鏡に写った15歳の少女の顔つきは、高貴さを感じさせており誰が見ても”美少女”とか”容姿端麗”といった言葉を思い浮かべるほど整っていた。ノア自身はそんな自分の外面はそれなりに好きではあったが、自分の内面のことは快く思っていなかった。

 ノアは気弱な自分が嫌いだった。嫌でも目立ってしまう容姿のせいでいつ自分が攻撃されるのかと耐えずオドオドしていた。人と積極的に関わる事が出来ず、言いたい事は何一つ言えない。自分を変えたいと思っていても、怖くて実践することが出来ない。おまけに生まれながらの虚弱体質であり、クラスメイトたちに出来ることが自分には全く出来ない、なんてことも珍しくなかった。「内面的で大人しい性格」と言えば聞こえは良いが、彼女はそんな自分が嫌いで嫌いで仕方がなかった。

 いつのまにか自分が陰鬱な考えに浸っていると我に返ったノアはため息をつき、気分転換にそのままバスルームに入りシャワーを浴び始めた。シャワーを浴びるのは好きだ。先程のように陰鬱とした自分や嫌なことをすべて洗い流してくれる気がする。こうして頭上から流れる熱湯に身を任せているときだけが唯一の癒しの時間と感じるのだった。

 朝の身支度を終え、リビングに出るとそこにはすでに今日の分の朝食が用意されていた。自分の席の正面に座り、コーヒーを啜りながらタブレットで朝刊を読み漁っている男性に声をかけた。

「おはよう、お父さん」

 お父さんと呼ばれた男性――――アルバート・フロイスは娘の顔を見て「おはよう」と笑顔で返した。このコロニー<テルモピュレイ>の工業区に勤めている父は多忙にも関わらず、気弱な性格の娘を気遣い「朝食はなるべく一緒に食べる」と約束していた。以前まではいつも夜遅くに帰ってくる自分と年頃になった娘の間にロクな会話はなかった。いつも1人でいる娘の様子を見ては父親としての不甲斐無さを痛感していたが、その約束をしてから自然と会話は増えてゆき、互いの事情を知ることで「ちゃんとした親子でいられている」という安心感が得られた。それがこの親子にとっての平和の象徴だった。

 朝刊に載っていたニュースの話や気になる異性の話、焼き立てのパンを頬張ったりと何気ない朝の時間を過ごしていると、アルバートは「ノア、最近”夢”のほうはどうだい?」と話題を切り替えた。

 その言葉を聞いたノアはピタリと食事をやめ、俯いたまま答えた。

「・・・今朝またあの夢を見たの。真っ白な何もない空間で黒い炎がずっと、ずっと燃え続けている夢・・・」

「そうか・・・」

良くはない解答を聞いた父はそのまま口を閉じた。さわやかな朝の空気には似合わない気まずさが辺りを支配した。

 ノアにはその夢が何を示しているのか、当たり前ではあるが全く見当がつかなかった。ただ、それが悪夢であることはなんとなくだが分かっていた。燃え続ける黒い炎がいつか自分の身を焼き焦がすのではないか、そんな考えが浮かんでしまい何ともいえない恐怖心を抱いていた。

 ノアが俯いたままでいると、その場の雰囲気を変えようとアルバートは口を開いた。

「そうそう、今日は少し遅くなるんだ。鍵は持っていくから戸締りは先にしておきなさい。」

「またお仕事大変なの?」

「あぁ、今やっている仕事がもうすぐ終わりそうなんだ。大詰めになるから少しでも時間をかけたくてね」

 なんだかんだ仕事一辺倒な父の言うことに特に反論もせず「はぁい」と返すとノアは椅子から立ち上がり玄関へと駆け出した。時計を見ると時刻は午前7時30分を指していた。ハイスクールに着くにはこれぐらいの時間に出るのがベストだった。

「じゃぁ、今日は夕飯お父さんの好きなもの作っておくからね!いってきます」

ドアを開け、外に駆けていく娘の挨拶に「あぁ、いってらっしゃい」と返すとアルバートは再びタブレットに目を落とした。そこには先程まで表示されていた朝刊とは明らかに違うもの、何かの設計図のようなものが表示されていた。タブレットに映っている画像はやや不鮮明ではあったが、そこには巨大な人型にも見える装甲の一部が写っていた。

「地球軍の新型モビルスーツ、こんなものを私が作ることになるなんてな・・・。」

 娘とともに平和に暮らしていたい。自分が関わっているこの仕事はそんなたった1つの願いさえ簡単に壊していってしまいそうで、アルバートの胸は罪悪感でいっぱいだった。

 




<人物紹介>
◇ノア・フロイス…本作のヒロイン。15歳。通っているハイスクールの「女子人気ランキング」で入学当初から堂々の1位をとるほどの容姿端麗な少女。内向的で大人しい性格であるが、気弱な自分を嫌っている。
◇アルバート・フロイス…ノアの父親。コロニー<テルモピュレイ>の工業区に勤めており、地球同盟軍の新型モビルスーツの極秘開発計画に関わっている。

<用語解説>
・”あの夢”…ノアが度々見ている悪夢。その内容は真っ白な何もない空間で黒い炎がただ燃え続けている、というもの。この夢を見たあとは起きると必ず頭痛に苛まされており、ノアの悩みの1つでもある。
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