機動戦士ガンダム ‐inherited force- 作:群雲 沙耶
次話あたりから文章が少し長くなるかもしれません。
「接近中のアイゼンラートに通告する!貴艦の行動は L3 コロニー郡<リュクルゴス>との中立条約に大きく違反するものである!即刻停船されたし!」
通告もなく近づいてきたアイゼンラート帝国軍の戦艦 1 隻を補足したコロニー<テルモピュライ>の管制区にけたたましい警戒音が鳴り響いた。中立の立場を取るこのコロニーでは、特別な事情がない限り戦艦の入港を認めていない。だが、接近してくるアイゼンラート帝国軍のグロースハーツォーク級<メクレンブルク>は停船勧告に応える様子はなかった。全通信にノイズがまぎれていく。
「アイゼンラート艦より強力な電波干渉を確認!これは明らかに戦闘行為です!」
管制員の 1 人が叫んだ途端、管制室に冷たい空気が流れた。張り詰めた緊張に追い討ちをかけるかのように再び警戒音が鳴り響く。
「敵艦より多数の熱源確認!」
報告を受けた管制員は横目でレーダーパネルを確認する。確認できた反応は 5 つ。ミサイルか?それにしては数が少ない。そう思ったのも束の間、ミサイルと思われる反応を示す物体は突如ジグザグに動くように、自らの進路を変えた。その軌道を見たレーダー担当の管制員を驚きを隠せなかった。ミサイルがこんなにも複雑に軌道を変えた?浮かび上がった疑問は次第に1つの確信へと変わった。数が少ない、ミサイルには不可能なほど複雑な軌道変更、まるで意思を持っているかのように見える。それだけ情報が揃えばどれだけ察しが悪くても否応なしに気付いてしまう。徐々に顔が青ざめていくレーダー担当の管制員は必死に事態を伝えた。
「モビルスーツです!敵艦からの熱源は、 5機のモビルスーツです!!」
「こちらモビルスーツ<シグー>ランバート機、コロニーへの浸入に成功した。これより作戦を開始する」
冷酷な口調でジェスロ・ランバートは作戦の開始を母艦のオペレーターに告げた。バイザーごしにもわかる、キリとした精悍な顔つきとオールバックにまとめた焦げ茶色の髪はいかにも、と言ったように彼の生真面目さを物語っていた。
コロニーに侵入した 5 機の機影は<シグー>が 1 機、<ジン>が 2 機、<リーオー>が 2 機という編成だ。モビルスーツ<ジン>と<リーオー>は共にアイゼンラート帝国軍の量産兵器で、最も配備が進んでいる機体等だった。それぞれ<ジン>はトサカ状の多機能センサーアレイやモノアイカメラ、羽の様な背部スラスターなどが、<リーオー>はボール状になっている両肩部の中央前後や両脚部の太腿側面に 2 つずつ備えるラッチや、背部のアタッチメントが特徴的な機体だ。両機とも各種オプションを換装できるよう設計されており、その汎用性は折り紙つきだった。
一方、ジェスロの駆る<シグー>は<ジン>の後継機として開発された機体で、<ジン>の高い汎用性を受け継ぎつつ、スラスターの増設、高出力化により宇宙空間での機動性、運動性が大幅に向上していた。つまりは指揮官用のモビルスーツであり、少数のみが量産されたこの機体に乗るジェスロは間違いなくエースパイロットであり、一流のパイロットといっても過言ではなかった。
ジェスロは引き連れた遼機たちに通信を繋いだ。
「ランバート機から各機へ、これより作戦を開始する。作戦内容は本コロニーで極秘開発されている地球同盟軍の新型兵器の可能な限りの奪取、または破壊することだ。いいか、必ずタッグを組んで行動しろ。中立コロニーとはいうがそれなりの自衛戦力はもっていてもおかしくはない、油断するなよ!」
ジェスロが作戦の概要を伝え終わると「了解!」という返事とともに部下たちは<ジン>と<リーオー>の別機種同士でタッグを組み、コロニーの地表へ降下していった。近中距離での戦闘を想定した 76mm 突撃機銃を 装備した<ジン>と中遠距離での支援射撃が可能な実弾大型砲ドーバーガンを装備した<リーオー>のタッグはそれなりにバランスのいい編成だった。唯一の懸念といえば<リーオー>に搭乗しているパイロット2名のことくらいだ。彼らはモビルスーツ搭乗時間が 100 時間にも満たないくちばしの黄色い新人だった。おまけに 2 人共今年士官学校を卒業したばかりの少年兵だ。今年で 26 歳になるジェスロは成人すらしてない彼らが戦場に出ることに大人である自分たちが情けなく見えるという嫌悪感を抱いており、快くは思っていなかった。しかし、今回彼らに付いてくれる<ジン>のパイロットたちは開戦当初から自分と戦ってきた歴戦の勇士だ。きっと新兵たちを守ってくれる。
部下たちの突入を見届けたジェスロはフットペダルを踏み込み<シグー>をコロニーの工業区へと進ませた。背部の翼状スラスターが火を噴き、 <ジン>よりも細身の体型をしているシルバーグレーに塗装された機体が高速で迫る。
運命の時は刻一刻と迫っていた。
<人物紹介>
◇ジェスロ・ランバート…アイゼンラート帝国軍に所属するMSパイロット。26歳で、階級は大尉。生真面目な性格で模範的な軍人である。
<メカニック解説>
□グロースハーツォーク級…アイゼンラート帝国軍が開発した宇宙用のモビルスーツ搭載型高速巡洋艦。搭載MSの迅速な運用を主眼に艦自体の機動性を高めている。搭載可能なモビルスーツは8機。グロースハーツォークとはドイツ語で『大公』という意味。
□ジン…アイゼンラート帝国軍の量産型モビルスーツ。背部の羽状スラスターにより高い機動力と様々な兵装の保持と繊細な作業をこなすマニピュレーター、地形を問わぬ高い踏破性を備える両脚を併せ持ち、人型機動兵器ならではの汎用性を体現している。※機動戦士ガンダムSEEDより
□リーオー…アイゼンラート帝国軍の量産型モビルスーツ。ボール状になっている両肩部の中央前後や両脚部の太腿側面に2つずつ備えるラッチ(窪み)や、背部のアタッチメントなどに各種オプションを換装できるよう設計されており、宇宙用、地上(陸戦)用、高機動型などに大別される装備に変更することであらゆる戦場に対応できるようになっている。※新機動戦記ガンダムWより
□シグー…アイゼンラート帝国軍の指揮官用量産型モビルスーツ。ジンの後継機として開発された機体で、ジンの特徴を受け継ぎつつ、より細身の体型となっている。※機動戦士ガンダムSEEDより