機動戦士ガンダム ‐inherited force-   作:群雲 沙耶

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今までの話の中で一番ガンダムしてます、第6話です。
あと多機能フォームでルビふれるの初めて知りました。


第6話 目覚めの時

 レオンハートとノアを乗せたエレカは鉱山部へ続くセンターシャフトへ向かっていた。シャフトへ上がるエレベータの中へそのまま乗り入れ、ドアが開くとエレカが自動的に進む。センターシャフトはこの<テルモピュライ>の背骨ともいうべきもので円筒形のコロニーの中央に真っ直ぐ通っている。そこと円筒状の内壁を無数の支柱(アキシャルシャフト)が繋ぎ、このように地表、センターシャフト間の移動手段と、回転する外殻を支えるステーの役割を果たしている。

 センターシャフトの内部は工業区になっており、無重力という条件を生かした工業生産物を地球向けに製造している。片方の端に宇宙港があり、もう片方に、元は宇宙空間を漂う小惑星であった鉱山が接続している。今エレカが向かっているのは、鉱山の内部だった。

 「ここが…工業区?」

 ノアは不審に問い掛ける。

 「うん、その入口。僕も来るのは初めてだけど…」

 レオンハートはエレカから降りて守衛所に近づいた。本来、工業区に入れるのはここに勤めている従業員のみでありその入口には強固なセキュリティが施されていた。しかしすでに避難してしまったのか、守衛所には誰もおらずその強固なセキュリティは容易く解除できた。

 「よし、中に入れるよ」

 不意に誰かに手を握られ、レオンハートは振り返る。ノアだ。いつの間にか腰が抜けていたのも治ったらしく、2本の足でしっかりと立っていた。深呼吸をして、怖い気持ちを必死に抑えてノアは言う。

 「行こう」

 レオンハートは「うん」と頷き、ノアの手を取って工業区の中へと走り始めた。

 

 

 

 

 工業区の外では、激しい戦闘が繰り広げられていた。コロニー防衛隊は地対空ミサイルで応戦しようとするが、ミサイルを積んだ装甲車は片端からアイゼンラートのモビルスーツ、<シグー>に潰されていく。

 工場から出たところに4台のトレーラーが止まっていた。その荷台にはそれぞれ1体ずつ、明らかにモビルスーツと分かる機体が積まれていた。その先頭のトレーラーの助手席にはアルバート・フロイスの姿があった。

 「…ブライアン、<G>の状態は?」

 険しい顔付きでアルバートは部下に問い掛ける。

 「現在、X102、103、207、303の4機は我々が運搬中のため起動させられません。唯一起動させられるのはX105のみですが…」

 ブライアンと呼ばれた男性はそこまで報告すると口ごもってしまった。

 「そのX105はまだ工場内で搬送準備中…か」

 アルバートはどうしようもない現状に溜め息をついた。ブライアンは思いつめた表情で話しかける。

 「それにしても何で情報が漏れたんでしょうね…」

 部下の問いに「中立コロニーだからな…」とぼやくように答えた。

 「同盟軍のコロニーではないし入国審査も厳しくはない。そこをやられたな…。まあ何にしてもまずはこの4機を搬出口まで無事に届けよう」

 気を取り直したアルバートは部下に働き掛け、応じたブライアンは先頭のトレーラーを搬出口へと向かわせた。

 長かったのだ---と、アルバートの胸の中で呟いた。極秘裏に<G兵器開発計画>が動き始めて数ヶ月、彼はその初期から携わり、すべての過程を見守ってきた。<テルモピュライ>で開発、製造された地球同盟軍の新型秘密兵器は<G>と呼ばれ、これからの戦局を占ううえで重要な価値を持つものだった。その<G>が完成し、搬出も目の前といつ段階までこきつけたのだ。

 今回のアイゼンラート軍の襲来は、これでやっと肩の荷が降ろせる、と思っていた直後のことだった。

 「ここまで来て…!」

 アルバートは気を引き締めようと、自分を叱咤するように叫んだ。

 「ここまで来て、あれに落とされてたまるか!」

 

 

 

 

 レオンハートとノアは通路をたどって走り、やがてひらけた場所へ出た。格納庫のようながらんとした空間に突き出た、キャットウォークだった。2人は止まり、汗を拭いながら座り込んだ。

 「ここまで来て誰もいないだなんて…」

 思わずはぁ、と溜め息をついてしまう。大分奥の方まで走ってきたが、工業区内には誰1人として見当たらなかった。ノアは隣で虚脱したように俯いている。

 レオンハートは地図を見ながら立ち上がると、ノアの手を引く。

 「あの向かい側に退避シェルターがあるみたい。そこに行ってみよう」

 ノアがゆっくりと頷いたとき、爆発による地響きがした。今まで通ってきた通路から爆風がこちらに向かっているのを見てとって、レオンハートはノアを抱き抱えて後ろへ飛び退いた。熱風が吹き付け、間一髪のところで巻き込まれずに済んだ。1秒でも遅ければ2人は丸焦げになっていたに違いない。

 「ここに留まるのは危険だ」と判断したレオンハートはノアを抱えたまま走り、退避シェルターの入口へたどり着いた。インターフォンを押しても、スピーカーからは応答の声はしない。

 「…本当に誰もいないのか…」

 内心、レオンハートは焦りを感じていた。放っておけなくて着いてきたものの、やはり工業区は襲撃を受けているだけあって規模に大小はあるものの爆発が続いていた。探し人どころか従業員すらおらず、退避シェルターはすでに応答しない。所謂絶体絶命、といっても過言ではなかった。

 どうする…ここから先はどうすれば…。焦燥を隠せず頭を掻いていると、先程からノアが全く言葉を発しないことに気付いた。 

 「ノア?」

 振り向くと彼女はキャットウォークから階下を見下ろしていた。しかし微動だにしない。

 「ねぇ、どうし…」

 彼女の隣に立ち、同じく階下を見下ろしたとき、レオンハートは愕然とした。

 「レオンハートくん…これって…」

 すがるようなノアの問い掛けに言葉を返すことも出来ず、言葉を失ったままレオンハートは立ち竦んでいた。

 そこには鋼色の巨大な人型が、モビルスーツが床に横たわっていた。鋼の色をした装甲、4本の角を生やした頭部、人間のような双眼、すらりとしたボディ---明らかにアイゼンラートのモビルスーツとは違う。

 「もしかして…地球同盟軍の新型機動兵器…」

 レオンハートの隣でノアが、がくりと膝をついた。キャットウォークの手すりを両手で握りしめながら、うめき声を上げる。

 「お父さん、最近帰りが遅いのって…こんなもの作ってたんだ…こんなもの…!」

 彼女の声は高い天井にはね返り、思ったより大きく響いた。するとその声に呼応するかのように男性の怒鳴り声が聞こえた。

 「こら、お前たち!そこで何をしてる!」

 声のした方を見ると、階下から作業着に身を包んだ小太り気味の男性が1人立っており2人に銃を向けていた。レオンハートは慌てて立ち上がり両手を上げて答える。

 「ちょ、ちょっと待って下さい!僕たちは民間人です!」

 「えっ!?なんで民間人がここにいるんだ!?」

 「えぇっと、それは…」

 レオンハートがしどろもどろとしていると、今まで座り込んでいたノアが立ち上がり男性に叫び返した。

 「あの!父を!アルバート・フロイスを探しているんです!どこにいるか知りませんか!?」

 その言葉を聞くと男性は銃を下げて、穏やかな声で答えた。

 「なんだ、お嬢ちゃん。アルバートの娘さんかい?とりあえず、こっちに降りといで」

 キャットウォークの端に掛けてあった梯子を伝って2人は階下に降り立った。近くで見た作業着の男性は遠くから見るよりも老けて見え、思ったよりも老人のようだ。この老人はモルコ・ファルトマンというらしい。70代後半だろうか…背はノアと大差ないがノアより低い。帽子からはみ出た白い前髪が目立っている。髭もかなり延びており一見もふもふに見えた。

 「それであの、ファルトマンさん、父はどこに…」

 挨拶を済ますなり、ノアは質問を繰り返す。

 「アルバートなら工業区の外にいるよ。あれみたいなのが他に4機もあってね、それの搬送についてったよ」

 「じゃあ…無事なんですね!」

 「大丈夫じゃろ」とファルトマンはウィンクしながら答える。ノアの安堵した顔を見るや否や、突然思い出したかのように慌てた様子でメンテナンスベッドに寝かせているモビルスーツに近付いた。

 「っと、呑気に話してる場合じゃなかった!こいつを早く搬送せんと!」

 機体に接続してあるコンソールをいじりながら、ファルトマンは2人に声をかける。

 「ここはもう危険じゃ!お前さんたち、早くお逃げなさい!」

 「上の退避シェルターはもう動かないんです!下のシェルターは?」

 「あぁ!あそこはもうドアごと吹き飛んじまったわい!」

 この階下にある退避シェルターを見るとその扉からは爆炎が上がっていた。

 上のシェルターもあと一歩遅れてたら自分たちごとあぁなってたかもしれない---身体中から血の気が引き、思わずゾッとした。震えているノアの肩を押さえながらレオンハートが叫ぶ。

 「僕らに何か出来ることはありませんか!?」

 「モビルスーツの勝手も分からんガキが何を言っとる!」

 「で、でも…!」

 「お前には今は何もできん!大人しく逃げなさい!」

 叩き付けられる現実に押され、レオンハートは口ごもる。

 ---冷静に考えればそうかもしれない。思わず叫んでしまったが、自分に出来ることなどあるのだろうか…?この人の言う通り逃げた方が…。

 ふと、あることにレオンハートは気付く。自分の手が震えるノアの肩をずっと押されていることだった。そしてその小さな肩はもう震えていない。深いエメラルド色の綺麗な眼で、ノアはしっかりとレオンハートの蒼い眼を見据えていた。

 少年の手を取り、少女は思いを伝える。その顔は今にも泣き出しそうだった。

 「大丈夫だよ。私、怖くないよ。だって…。」

 震えた声の少女は、1度言葉を区切り落ち着くのを待ってから、満面の笑みで言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、あなたが守ってくれるって約束してくれたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いたとき頭の中で、何かが弾けた。自分が今、どうすればいいのか。自分が今、何をすればいいのか。全てを教えてくれた気がした。

---そうだ。あるじゃないか、"(蒼い流星)"にしか出来ないこと。

 

 

 

 

 思いを吐き出したら思わず泣き出してしまったノアの涙を拭い、メンテナンスベッドに近づく。

 「ファルトマンさん、やらせてほしいことがあるんです」

 「なに?」と振り返ったファルトマンは目を見開き、思わず息を飲んだ。少年の雰囲気が先程とは全く違うからだ。それが"覚悟を決めた"のだと老人は肌で感じた。そしてその"考え"が何なのか、何となくだが分かった気がした。

 彼の"考え"を少年の口から直接聞くと、思わず老人はニヤリと口元を歪める。

 「おもしろい、準備はしてやる。やってみな!」

 

 

 

 

 

 

 

 <シグー>に搭乗する上官から通信が入った。

 (こちらランバード機、定期報告に一旦艦に戻る。全員油断するなよ)

 (了解!)

 (ヒルズ、工業区の監視は君に任せる。頼んだぞ)

 「りょーかい…っと…ふん、ボロい初任務だぜ」

 上官の機体がコロニーの外へと飛び立つのを、ヒルズ・ニルストはモビルスーツのカメラを介して見ていた。居住区に降り立ち、肩にマウントしたドーバーガンで巨大なビルディングを破壊した<リーオー>のコックピットの中だった。

 ヒルズは退屈していた。せっかく軍に入ってモビルスーツのパイロットになったはいいものの、隊長であるジェスロ・ランバードの判断で就任してからしばらくは実戦に出ることがなかったからだ。士官学校を5位で卒業した自分が、だ。「君が優秀な人材なのはわかっている。しかし充分に訓練をしてからでも遅くはあるまい?」とはそのジェスロの言葉だったが、自尊心が強いヒルズにとって屈辱でしかないのだった。初出撃の任が下ったとき、ようやく自分の力を存分に発揮できると舞い上がったものだ。だが、肝心な初任務が大した戦力もない中立コロニーの占拠だ。退屈にもほどがある。

 「工業区ねぇ…例の新型ってやつももう運ばれたあとみたいだし、こりゃまた期待外れだな…っとおおっ!?」

 突然鳴り響いた轟音にコックピット内で欠伸をかいていたヒルズは思わず舌を噛みそうになる。どうやらヒルズの<リーオー>の近くにあった工場が爆発したらしい。

 「なんだよ、おどろかせやがって…ん?」

 言葉の途中でヒルズはある異変に気付く。爆発した工場にレティクルを合わせると、そこには<Unknown>という文字が表示された。ヒルズは息を飲んだ。戦車や戦闘機ならそれに対応した形式番号がレティクルに表示されるはずだ。そこに<Unknown>という文字が表れたということはそれが未確認の兵器であることに他ならない。

 ---何かいやがるな。ひょっとして例の新型か…!

 ヒルズは意を決して爆炎を上げる工場に<リーオー>を進ませる。するとそこには、自軍では見たことがない形状の---4本の角を持った2つ目のモビルスーツが床に横たわっていた。

 「やっ、やっぱり同盟軍の新型か!」

 ヒルズが<リーオー>にドーバーガンを構えさせたのと同時だった。

 

 

 ブゥン…という音とともに横たわっていたモビルスーツの両目にの光が灯り、ぴくりとその指が動いた。エンジンが低い唸りを上げ、巨大な四肢がぎくしゃくと動き始める。メンテナンスベッドに機体を固定していたボルトがバシバシと音を立てて弾け飛んでいく。

 どこかぎこちない動作で、そのモビルスーツは爆炎の中、立ち上がる。燃え盛る炎が鋼色の装甲に照り映え、そびえ立つその姿を朱く照らした。

 

 

 「たったっ…立った…」

 ヒルズは怯えていた。手が震えて操縦捍を握ることすらままならない。相変わらずレティクルには<Unknown>という文字が表示されており、依然として恐怖心を駆り立てる。モビルスーツを恐ろしいと思ったのは初めてだ。

 ギュン、と音を立てて目の前のモビルスーツの頭部が回る。その双眼は確かに<リーオー>を捉えていた。

 「た、隊長ぉ!モビルスーツが!同盟軍の、新型がぁ!!」

 思わず操縦捍の射撃トリガーを引き、<リーオー>に構えさせたままだったドーバーガンを発射するも、目の前のモビルスーツはくっと身を沈めてかわす。そのままの体勢でドーバーガンを掻い潜り、モビルスーツは<リーオー>にショルダータックルを仕掛けた。

 「うおぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?」

 <リーオー>の巨体がぶっ飛び、中にいたヒルズは間抜けな悲鳴を上げる。

 

 

 

 「副主任!あ、あれを!」

 ほかの4機のモビルスーツを無事搬送し終えたアルバートはブライアンとともに残りの1機も搬送するため工業区に戻ってきたのだ。

 「な、なんということだ…」

 ブライアンに続きアルバートも驚きの声を上げる。

 「X105が…<ストライクガンダム>が動いている!?」

 

 

 A.A.2181年7月13日。<ストライクガンダム>と呼ばれたモビルスーツはその2本の脚で大地を踏み締め、圧倒的な性能差でアイゼンラート軍のモビルスーツ<リーオー>を下した。この日のこの戦闘は、同盟軍の反撃の狼煙となるのだった。




<キャラクター解説>
◇モルコ・ファルトマン…<テルモピュライ>の工業区に勤める老人で、アルバート・フロイスの上司。地球同盟軍の新型モビルスーツの極秘開発計画に関わっている。
◇ヒルズ・ニルスト…アイゼンラート帝国軍のMSパイロット。ジェスロの部下。ファーストでいうジーンポジなんで次の話で死にます。

<メカニック解説>
□ストライクガンダム…地球同盟軍が極秘裏に開発した新型モビルスーツ。背中の装備を換装することであるゆる戦局に対応できる、高い汎用性を持つ。※機動戦士ガンダムSEEDより
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