機動戦士ガンダム ‐inherited force-   作:群雲 沙耶

8 / 10
結構日にちが空きました、第7話です。しばらく戦闘パートの話が続くと思います。


第7話 フェイズシフト装甲

 ---ほんの数分前。

 メンテナンスベッドに架けてある梯子を登り、レオンハートは横たわるモビルスーツ、<ストライク>のコックピットに転がり込みんだ。シートに座った体勢から見えるモニターの配置、操縦捍を握った感覚やフットペダルの踏み応えに「MSBと同じだ」と既視感を覚え、緊張で高鳴る鼓動を抑えようと無意識に深呼吸を繰り返す。

 「…よし!」

 まずは指示された通りコンソールのボタンを押し込み、システムの立ち上げにかかる。計器類に光が入り、ブゥン…という駆動音が徐々に高まる。モニターが明るくなり、外の風景を映し出した。横のモニターにコンソールをいじるファルトマンと不安そうにこちらを見つめるノアの姿が見える。

 その顔を見て、より一層気を引き締めなければなと思いを正面を向いたレオンハートの目に、モニターに浮かび上がった文字列が飛び込んでくる。

 

   ---General 

      Unilateral 

      Neuro-Link 

      Dispersive 

      Autonomic 

      Maneuver.........

 

 咄嗟にレオンハートの目は、赤く輝く頭文字だけを拾い上げていた。

 「G.U.N.D.A.M.(ガンダム)…?」

 (シャレた名前じゃろ?)

 無線機を介したファルトマンの声が聞こえてくる。

 (起動は成功したな?まずは機体を起き上げさせろ、で次に…)

 ファルトマンが指示を伝えようとした時、通信を遮るように爆発が起きた。工場の天井とキャットウォークが吹き飛ばされ、アイゼンラートのモビルスーツ<リーオー>が顔を覗かせる。

 「リ、<リーオー>が!?ファルトマンさん!」

 先程の爆発で通信は強制的に切断されており、横のモニターにはトレーラーの中に隠れようと移動しているノアとファルトマンが映っていた。モニターに[CAUTION]という文字が浮かび、警報が鳴る。正面のモニターを見ると<リーオー>が右肩にマウントしているドーバーガンをこちらに向けているのが見えた。呼吸が荒くなり冷や汗が流れるのを感じた。

 「くそ!させるかぁ!!」

 左右の操縦捍を握り力の限り引く。

 「立てぇぇ…!!」

 まるでレオンハートの意思を汲み取っているかのように、鋼色のモビルスーツは命を吹き込まれたかのようにモビルスーツの両目に光が灯り、ぴくりとその指が動く。

 エンジンが低い唸りを上げ、巨大な四肢がぎくしゃくと動き始める。メンテナンスベッドに機体を固定していたボルトがバシバシと音を立てて弾け飛んでいく。どこかぎこちない動作で、そのモビルスーツ<ストライク>は爆炎の中、立ち上がる。燃え盛る炎が鋼色の装甲に照り映え、そびえ立つその姿を朱く照らした。

 モニターに浮かぶレティクルが<リーオー>を捉えると、<リーオー>は構えていたドーバーガンを発射する。それと同時、レオンハートは目の前に立つ<リーオー>を睨み付け、レバーを引いた。くっと身を沈めた機体がドーバーガンの放った砲撃をかいくぐり、そのまま体当たりする。

 「あうっ…ぐ…!」

 衝突時の衝撃が機体に伝わり、激しい振動となってレオンハートを襲う。体が大きく揺さぶられ、軽く脳震盪すら起こしそうになった。MSBでは味わうことのない衝撃や圧迫感が「これは遊びではないんだ」という感覚を再認識させた。

 「負けて…たまるか…!」

 恐怖心を押さえつけるため自分を鼓舞するように両頬を叩くと、再度左右の操縦捍を握り正面のモニターを睨み付ける。そこには体当たりでぶっ飛ばした<リーオー>とこちらに気付いて接近してくる<ジン>の2機が映っていた。

 

 

 

 

 吹き飛ばされた<リーオー>を追って、爆炎の上がる工業区から運び出されなかった最後の1機---<ストライク>が飛び出してくる。背にした燃え盛る炎が、鋼色の装甲に朱く照り映える。その姿はまるで怒りに身を染めた鬼神のようにも見えた。

 「すごい…」

 メンテナンスベッドに接続されているトレーラーの助手席から顔を出して、ノアは思わず感嘆の声を上げる。隣にいたファルトマンも運転席から顔を出して言った。

 「どうやらうまくいったようじゃな」

 これが自分たちの仕事の成果だ、と自賛の表情をしている。ニシシッと笑い声を上げながら前を向き、トレーラーのエンジンを始動させたファルトマンは「さて、今のうちにやることをやるぞ!」と怒鳴り声を上げる。

 「たしか、<ストライクガンダム>用の装備を持ってくるんですよね!?」

 それに返すノアも、周囲の騒がしさもあって自然と怒鳴り声になる。

 「そうじゃ!<ストライク>は元々装備換装型の機体でな、何も武器を持っとらん状態での戦闘は想定されとらん!」

 その言葉を聞いたノアは再び助手席の窓から顔を出し、遠ざかる<ストライクガンダム>を見つめる。背中に配置された大きな差込口が目を引くその体躯には確かに武器らしい物は何1つ装備されていなかった。内蔵されている武器も、頭部のバルカン砲塔"イーゲルシュテルン"と両腰サイドアーマーの対装甲コンバットナイフ"アーマーシュナイダー"の2つのみだ。完全な非武装状態、という訳ではないが対モビルスーツ戦を行うのであるならあまりにも心許ない。つまりは自分たちの装備運搬にすべてがかかっているのだ。

 与えられた大役にノアは思わず唾を飲む。

 ---私たちが少しでも遅れたら、レオンハートがもっと危険に晒される…そんなことは絶対にさせない!今は、私に出来ることをするんだ!

 今の自分が今朝までの"情けない嫌いな自分"とは違うことに気付くことはなく、ノアは装備の搬送作業を進めることに専念するのだった。

 

 

 

 

 

  (どうしたヒルズ!?応答しろ!)

 工場から飛び出てきたモビルスーツ<ストライクガンダム>に吹き飛ばされた<リーオー>のコックピットに無線越しに男の声が響く。ヒルズの<リーオー>とタッグを組んだ<ジン>のパイロット、パウ・ザピーコだ。ヒルズも所属するランバート隊の最年長者であり、その実力は折り紙つきだ。

 パウの<ジン>が自分の乗る<リーオー>の隣に立つと、ヒルズは<ストライクガンダム>を前にして慌てふためきながらも駆けつけた上官に対し起こった出来事の詳細を正しく伝える。

 「こ、工場内で発見した敵軍のモビルスーツが起動、戦闘に入りました!」

 (なんだと!?あの鋼色のヤツがか!)

 燃え盛る工場を背後に<ストライクガンダム>はその双眼でこちらをじっと見ている。

気のせいではあろうが、鋭く険しい目で睨まれているような気がして、ヒルズは思わず身震いをした。

 (ともかくあれを破壊する!ヒルズ、フォーメーションAだ!俺の前に出るなよ!!)

 パウの<ジン>が右手に持った76mm重突撃銃を撃ちながら眼前の敵モビルスーツに接近していく。それを見たヒルズは再び<リーオー>にドーバーガンを構えさせながらパウに注意を促す。

 「気をつけてください!敵は近距離でドーバーガンを回避できるほどの運動性です!」

 モニターに浮かぶレティクル内に<ストライクガンダム>を納め、右の操縦捍の射撃トリガーを押す。その操作により<リーオー>のドーバーガンから実体弾が発射される。

 それに対し、<ストライクガンダム>が取った行動は背面のスラスターを吹かし左方向に水平移動するものだった。至極単純な動きであるが、着地際に短距離のステップを交えることで<ストライクガンダム>は放たれた弾の全てを回避する。ヒルズは舌打ちしながら射撃トリガーを2回3回押し、<リーオー>はそれに従ってドーバーガンを連射する。依然として敵には回避され続けているがそれでいい、本命は自分ではない。ヒルズがニヤリと笑ったとき、スピーカーからパウの怒鳴り声が聞こえた。

 (よくやったヒルズ!こいつでシメだ!)

 モニターには動きが止まっている<ストライクガンダム>と、それに対しサーベルを振りかぶっている<ジン>の姿が映っていた。始めからこれが狙いだったのだ。

 フォーメーションA。<ジン>の76mm重突撃銃による射撃で敵を牽制し、<リーオー>のドーバーガンによる援護射撃で動きを止める。そしてその隙に接近した<ジン>がサーベルによる近接戦闘で敵機を仕留める。これまでに多くの地球同盟軍の兵器を葬ってきた戦法だ。

 勝利を確信したヒルズだったが、<ジン>のサーベルが降り下ろされようとしたとき信じられないものを見た。しゃがんでいた<ストライクガンダム>の鋼の色だった装甲が瞬くように色付いたのだ。

 ---今のは一体!?

 息を飲んだヒルズの前で、<ジン>の動きが止まった。衝撃とともに、敵のモビルスーツは白い両腕で<ジン>のサーベルを受け止めていた。

 (な、なんだ今のは!?)

 パウが狼狽えるように叫び、<ジン>を1度敵機から放すためフットペダルを踏み込んでスラスターを吹かす。今、モニターに映る<ストライクガンダム>の装甲は、本来のメタリックグレーから胸部と腹部が鮮やかな青と赤、四肢は輝くような白に変化していた。その装甲には、先ほど斬り付けたはずのサーベルの跡が何1つ残っていなかった。

 「ぶ、物理的攻撃を無効果する装甲…なのか!?」

 (そうとしか考えられんな…)

 再びモビルスーツに武器を構えさせる2人だったが、話し声には焦りが隠せていなかった。

 (こんな化け物…どうやって倒せというんだ…!?)

 

 

 

 レオンハートは<ストライクガンダム>のコックピットからモニター一杯に迫った<ジン>と、鋼色の装甲の色が変わるのが見えた。どうやらうまくいったらしい。

 <ストライクガンダム>の装甲の色が変わったのは、彼がフェイズシフト装甲のスイッチを操作したからだった。フェイズシフト---位相転位装甲は、一定の電流を流すと位相転位が起こり、装甲が硬質化してミサイルなどの実体弾をはじめとしたあらゆる物理的攻撃を無効果する強度を持つものだ。以前から理論的には開発されていたが、兵器に応用したのは<ストライクガンダム>等、Xナンバーがはじめてだ。

 ふぅと息を吐き、レオンハートはコンソールのボタンを押し、機体の両腰にマウントされた対装甲コンバットナイフ"アーマーシュナイダー"を<ストライクガンダム>に掴ませる。すでに彼の目は怯むことなく倒すべき敵の姿を捉えている。

 「---行くぞっ!」

 まずはあの<リーオー>からだ。フットペダルを踏み込み、スロットルを全開にさせる。先ほど体当たりしたときとは段違いのスピードで、<ストライクガンダム>はドーバーガンを乱射しながら後退する<リーオー>に迫る。機体にドーバーガンの弾が当たってもフェイズシフト装甲が悉く無効果するため、<ストライクガンダム>の加速は止まらない。

 「うぁぁぁぁぁっ!!」

 斜線を縫うようにかいくぐり、レオンハートの操る機体のスピードと運動性に避ける間もなく、アーマーシュナイダーの切っ先が、<リーオー>のコックピットハッチに突き立てられた。突き立てられたナイフは装甲に深々と刺さり、電気系統が火を噴く。<リーオー>は動きを止め、そのままバランスを崩して斜面に倒れ込んだ。そのコックピットにはアーマーシュナイダーが1本刺さったままだ。

 「1機目…!」

 モニターに注意を告げる[CAUTION]の文字が浮かび、仲間の敵討ちと言わんが如くの勢いで再び<ジン>が迫る様子が映る。レオンハートはぱっと顔を上げ、トリガーとレバーを操作した。頭部の75mm対空自動バルカン砲塔システム "イーゲルシュテルン"から弾丸が発射され、全弾が<ジン>に命中する。そして押し退けるように<ジン>の腕をはね除け、残ったもう片方のアーマーシュナイダーを今度は<ジン>の胸部に突き立てた。モノアイのカメラが消灯するのを見て、撃破したのだとレオンハートは確信し、<ストライクガンダム>に<ジン>からアーマーシュナイダーを引き抜かせる。

 「これで…2機…!」

 モビルスーツでの戦闘は自動車の運転とは別次元ともいえるほど体力を消耗する。ハァハァと肩で息をしながらレオンハートはレーダーに目をやる。レーダーに表示されている残りの敵の数は<ジン>と<リーオー>がそれぞれ1機ずつ。まだこちらには気付いてないようだ。さっきまで戦っていたものと同種だが、アーマーシュナイダーを片方失った上に頭部バルカンの弾数も減っている。それに何よりエネルギーの消耗が激しい。ほんの少ししか戦闘をしていないつもりだったが、実際はかなりの時間が経っているのか。コンソールに表示されている<ストライクガンダム>のエネルギー残量は残り60%に差し掛かるところだった。このまま<ジン>と<リーオー>だけなら相手に出来るかもしれないが、いつの間にか工業区からいなくなっていた<シグー>がもし戻ってきたとしたらそうはいかないだろう。

 「ノアとファルトマンさんが戻ってくるのを待とう…」

 レオンハートはまだ爆発していない格納庫の中に<ストライクガンダム>を移動させ、膝をつく姿勢になるよう操作する。体に蓄積した疲労は想像以上に辛く、ポケットのタオルを取り出そうとした手は軽く痙攣を起こしている。

 ---疲れた、少し休もう。

 少年は取り出したタオルで全身の汗を拭き取り、荒くなった息を治めながらノアとファルトマンの到着を待つことにするのだった。

 

 

 




<人物紹介>
◇パウ・ザピーコ…アイゼンラート帝国軍のMSパイロット。ヒルズと一緒に死にました。もう出ません。今後こういった登場した話の中で死ぬ名有りキャラが増えるのかな、と思うと昨今の作品でサブキャラに濃厚な設定を用意する作家の気持ちが少し分かった気がしました。

<用語解説>
・フェイズシフト装甲…PS装甲(Phase Shift Armor)。一定の電圧の電流を流すことで相転移する特殊な金属でできた装甲。このことから相転移装甲とも呼ばれ、相転移した装甲は一定のエネルギーを消費することにより、物理的な衝撃を無効化する効果がある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。