機動戦士ガンダム ‐inherited force- 作:群雲 沙耶
「…搬送準備、終わりました!」
<ストライクガンダム>を寝かせていた格納庫から4ブロック先の、工業区から港区への搬出口にノアとファルトマンはいた。そこには先に送られた4機と残った<ストライクガンダム>の計5機分の予備パーツを含めた装備が運び込まれており、15台以上ものトレーラーが並んでいた。ちょうどファルトマンが指定した装備を自分たちが乗ってきたトレーラーに積み込む作業が終わったところだった。
「よし<ストライク>のところにもどるぞ、フェイズシフトとはいえ長くはもたんかもしれん!」
トレーラーの助手席にノアが乗り込んだことを確認するとファルトマンはトレーラーのエンジンを始動させアクセルを踏む。低い唸り声を上げ、トレーラーは進み始めた。それと同時、誰かがパッと物陰から飛び出て、トレーラーの前に立ち止まった。ファルトマンは急ブレーキをかけ、トレーラーが目の前に飛び出た人物に当たらないように止めると窓から顔を出して怒鳴り声を上げる。
「いきなり目の前に出てくるなんて、何考えて…!」
言いかけた言葉は、目の前にいる人物と物陰から出てきた2人目を視認すると同時に止む。
「アルバート!?それにブライアン、何しとるこんなとこで」
「主任こそなにを…いやそれよりも!なぜ<ストライク>が動いているんですか!あなたはあの機体の搬出準備をしているはずでは!?」
物陰から出てきた男性の声を聞き、先ほどの急ブレーキの時にかかった衝撃で「きゅ~…」と間抜けな声を上げてのびていたノアはハッと起き上がり、トレーラーから降りて「お父さん!」と声を上げる。その声を聞いたアルバートはトレーラーから自分の娘が降りてくるのを見て驚きの表情を浮かべる。
「お父さん、無事だったんだね!」
「ノア…」
駆け寄り自分に抱きつこうとした娘の肩を掴み、アルバートは「なぜお前がここにいる!」と怒号を上げる。顔は火を噴くように真っ赤になっており、その顔色から怒りが込み上げているのが見てとれた。
「だ、だってお父さん電話にも出なくて…」
「工業区には来るなとあれほど言っただろう!それにこんな非常事態に…どうして避難シェルターにいかなかった!なぜここに来たんだ!」
父親の怒りの言葉は娘の弁解すらかき消す勢いだった。
まさか怒られる、なんて想像もしていなかったノアは自分の表情が青ざめたものに一変するのが分かった。アルバートは気弱なノアを気遣ってか大声を上げて怒りを顕にしたことがなかった。故にノアは誰かから怒られ慣れておらず、アルバートの怒号を聞くのは初めてだった。普段見慣れた父が表すことのない表情にノアは怯えることしか出来なかった。いくら父に問い詰められても感情が勝り、「あっ…あっ…」と狼狽えるだけで会話になるような言葉を出すことも叶わない。
そんな状態を見かねてか「まぁまぁ」とファルトマンが2人の間に入る。「この
「それで…<ストライク>にはその民間人の少年が乗っているんですね?」
それまで沈黙していたブライアンが口を開いた。涙が溜まる目を擦りながらノアは「はい」と答える。
「なら急ぎましょう、さっき反対側の港区から指揮官機が戻ってくるのが見えました」
ブライアンが早口で伝えると、4人は慌ててトレーラーに乗り込みその場を後にした。
「…ところで主任」
ノアに変わって助手席に座ったアルバートはトレーラーを運転するファルトマンに話しかける。
「なぜその少年に<ストライク>への搭乗許可を出したのですか?あれは我が軍の秘密兵器ですよ」
問い掛けられたファルトマンは「んん~…」とはっきりしない唸り声を上げると、運転しながら答えた。
「やる気は充分ありそうだったし…MSBの公式大会で3回優勝してる"蒼い流星"だって言うから操縦はいけそうだと思ったし…まぁ…若いっていいよな、ってやつよ」
ファルトマンがニヤリと笑いながら答えると、アルバートは釈然としない表情を露にする。「それに…」とファルトマンは続ける。
「これであの坊主に決まるかもしれんしな、ずっと空いてたしちょうどいいじゃろ」
その言葉を聞くと微妙な顔をしていたアルバートの表情が険しいものになった。
「…しかし、民間人ですよ?」
「動かしちまったもんは仕方ないじゃろ、軍規つきつけりゃたぶん言うこと聞いてくれるわい」
険しい表情をしたままアルバートは口をつむり前を向く。ノアには大人たちが話していることがただ1人、解らないままだった。
なおこの時後ろの席で隠れMSBプレイヤーであるブライアンが「"蒼い流星"!?」と言いながらガタッとしていたが一同は気にしないことにした。
モニターに[CAUTION]という文字が浮かぶのと同時に警報が鳴り響く。タオルを顔に乗せ、目を瞑っていレオンハートはガバッと体を起こしレーダーに目を向ける。映っている反応は3機。コロニー内に残っていたアイゼンラートのモビルスーツは残り2機だったはずだ。1機数が増えているということは---否応なしにそれが指揮官用モビルスーツ<シグー>が戻ってきたことだと悟ると、レオンハートはオフにしていたフェイズシフトを再びオンに直し<ストライクガンダム>を起動させる。
「ノアたちは…まだ来てない!くそ、思ったより早すぎる!」
悪態をつきながらレバーとペダルを操作し<ストライクガンダム>を格納庫の外へと歩かせる。それと同時、接近していた<シグー>はシールド裏面に設置されたガトリングガンが火を噴いた。発射された弾丸は格納庫の外壁を易々と貫通し、コンクリートの地面を抉る。ガトリングガンの射線は横へとずれてゆき、<ストライクガンダム>に迫っていく。それを回避するには格納庫の外に出るしかなかった。
レオンハートはペダルを踏み込み、機体にブースト移動を命じる。それに応じた<ストライクガンダム>は背面のスラスターを噴かし、勢いよく格納庫の扉を突き破って外に出る。
敵機を確認した<シグー>の僚機、もう1組の<ジン>と<リーオー>も手に持った76mm重突撃機銃とドーバーガンを斉射する。当たるまいとレオンハートは<ストライクガンダム>にブースト移動を続けさせるが、3機からの同時射撃を捌ききるとこは出来ず数発の被弾を許してしまう。装甲にダメージはないが、被弾に応じてエネルギーはみるみる減少していく。コンソールに表示されているエネルギー残量を見ると、ゲージはすでに50%を切っていた。応戦しようと頭部のバルカン砲搭で射撃するも、移動している間に易々と頭部バルカンの射程外にたどり着いてしまった。これでは撃っても無駄に弾を消費するだけだ。
「このままじゃなぶり殺しにされる…そうだ、さっきの<ジン>から!」
ブースト移動したまま撃破した<ジン>に近付き、その右腕から76mm重突撃機銃をもぎ取り<ストライクガンダム>に持たせる。
「残弾は…ある、よし!」
手に取った76mm重突撃機銃の射撃モードをフルオートからセミオートに変更し、銃口を飛来する<リーオー>に向ける。シートの右側から精密射撃用の照準器がせり出し、レオンハートの両目を覆う。
いくら量産機とはいえ<リーオー>の装備はマシンガンの単発射撃で墜ちるような薄いものではない。それ故に銃口を向けられた<リーオー>も特に警戒せず、<シグー>と<ジン>に連れて接近してくる。
「でもカメラなら!」
操縦捍の射撃トリガーを押し込むと銃口から弾丸が射出され、銃身の側面から空になった薬莢が排出される。放たれた76mm機銃弾は<リーオー>の四画カメラを易々と貫き、撃ち抜かれた<リーオー>の頭部はつつかれた爆弾のように爆散する。そのまま姿勢を崩し頭を失った機体は地面に落下する。
ふぅと息を吐き、照準器を外したレオンハートはある異変に気付く。倍率が通常に戻ったモニターには<ジン>しか映っておらず、<シグー>の姿が何処にも無いのだ。マシンガンの射撃モードを再びフルオートに変更し、<ジン>に向けて発砲する。射撃トリガーを押しっぱなしにしながら弾幕を張り、レーダーに目を移して<シグー>の位置を確認する。再びコックピット内に警報が鳴り響く、と同時にコンピュータが<シグー>の位置座標を算出しレーダーに映し出す。その位置は---。
「---っ、真後ろ!?」
機体を転身させ背後を向くと、レオンハートの目に手に持ったサーベルを<ストライクガンダム>の頭上に今まさに降り下ろさんとするシルバーグレーのモビルスーツ、<シグー>の姿が飛び込んできた。
咄嗟にペダルを踏み込み機体に回避運動を取らせるも、避けきることは出来ず右腕部でガードする。赤い火花が散り、右腕を振り回して<シグー>を突き放す。ほぼ直撃にも関わらず装甲にダメージは入っていなかったが、もしこの機体に
「こいつ…強い…」
苦い顔をして額に溜まった汗を拭う。
間髪入れずに再度、<シグー>はアタックを仕掛けてきた。シルバーグレーのモビルスーツは右手に持ったサーベルを逆袈裟斬りの要領で振りかぶる。撃破した<ジン>や<リーオー>とは比較にならない速さだったが、レオンハートの目はしっかりと<シグー>の右腕を追っていた。
「そうそう何度も!」と叫ぶと、左側のレバーを押し込み高速で振られる<シグー>のサーベルを持つ右腕を<ストライクガンダム>の左腕でガードする。そしてチャンス、とばかりに右手に保持したマシンガンを投げ捨てると、右腰のアーマーシュナイダーを引き抜き斬撃トリガーを強く押す。操作を受け付けた<ストライクガンダム>は右手のアーマーシュナイダーを逆手で持ち直し<シグー>の胸部に向けて渾身の力で降り下ろす。
「これでぇぇぇぇぇ!!」
ザクリ、とナイフが装甲に刺さる音を聞いてレオンハートは勝利を確信した。---が、モニターに映る<シグー>を見てレオンハートは驚愕とする。
アーマーシュナイダーは確かに<シグー>の胸部に突き刺さった。しかし、焦りで目測を誤ったのかエンジンにもコックピットにも届いていないようで稼働停止させるまでに到ってなかった。急いで離れようとするも、<シグー>は突き刺さったナイフを持つ<ストライクガンダム>を右腕をがっしりと掴んでおり、身動き1つ取れなかった。<シグー>のモノアイカメラがギョロリ動き、こちらを睨み付ける。
「う、うわぁぁ!」
思わず悲鳴を上げると、コックピット内に男性の声が響く。
(…驚いたな、まだ子供じゃないか)
突然鳴り響いた聞いたことの無い声にドキリと心臓が跳ねる。コンソールをよく見ると"
(君だな?私の部下を2人も殺ってくれたのは、いい腕をしているじゃないか)
投げ掛けられた言葉にレオンハートはギョッとする。この状態で敵から来た通信は罵倒か謗りに違いないと身構えたが、まさか賞賛が来るとは思いも寄らなかった。しかし敵のパイロットの声には確かに怒気が籠められており、明確な殺意を感じる。冷や汗が流れるのを感じながらレオンハートは口を開く。
「…あんた達が来なければ、そんなことにはならなかったさ!僕たちのコロニーをメチャクチャにしておいて…!」
(ハハハハハッ!皮肉も言えるとはね、肝が据わってるな)
精一杯の皮肉を言ってやったつもりだったが、再び賞賛を送られ思わずキョトンとする。
(ところで君、先ほどから何やら警報が鳴っているが…見なくていいのかね?)
敵のパイロットの言葉にハッとし、音源を見るとレオンハートは思わず目を息を飲んだ。コンソールのエネルギーゲージ---それに表示されていたエネルギー残量が20%を切っていた。さっきから鳴っていた警告音はエネルギー残量を示すゲージが、レッドゾーンにまで下がっているのを知らせるものだったのだ。
「パワー切れ!?…しまっ…」
口を開くと同時、機体に変化が起こる。
(どうやら、パワー切れのようだな。そうなればこちらの攻撃も通用するだろう)
無線越しの冷たい声を聞き、思わず唾を飲む。<シグー>は自身の右腕を掴んでいた鋼色になった<ストライクガンダム>の左腕を払うと、再び<ストライクガンダム>の頭上にサーベルを掲げる。振り上げられたサーベルの剣先がキラリと光り、レオンハートは全身の毛が逆立つのを感じた。
(君は実にいいパイロットだ、ここで殺すのが惜しいよ)
普段のレオンハートなら「そんなこと絶対思ってないだろ!」と突っ込みの1つや2つが出たであろうが、そんな余裕はあるはずも無かった。歯を食い縛り、震える目で<シグー>のサーベルをジッと見つめている。
(…最後に名前でも聞いておこうか)
心臓が胸から飛び出るほど大きく鳴っているのを感じながら、ゆっくりと口を開く。
「…レオンハート、レオンハート・スフォルト」
(レオンハートくんか、勇敢な君に似合ういい名前だ)
どこか悲しげな声を上げ、敵のパイロットの声が再び殺意を内包する。
(悪いが、私は部下の仇を取らなければならない…)
(死んでくれ)
男の声を合図に<シグー>がサーベルを降り下ろす。迫り来る殺意に押され、レオンハートの体は凍ったように動かなかった。いくら考えようとしてもこの状況を覆す手立てを見い出せない。自分の頭は明らかに戦いの思考を失っていた。何も考えが浮かばないからだろうか、絶対的な死を目の前にしても恐怖は感じない。
降り下ろされたサーベルが刻一刻と迫る。なぜそんな様子をこの眼は捉えることが出来るのだろう。そうか、これはスローモーションだからだ。自分にはそう見えている。ではなぜスローに見えているのだろうか。分かりきったことだとレオンハートは目を閉じる。
死に際に思い出すことは守ると約束した女の子のことだけだった。なんであの子を守りたいと思ったか---考えてみれば簡単なことだ。あの子の眼が、涙を浮かべた深い緑色の瞳が見たことがないほど綺麗だったからだ。こんな綺麗な瞳が無くなるのが、とても寂しいと思ったのだ。多分、一目惚れなんだろう。
でももうあの女の子の瞳を見ることはもう無い。最後にあの子の声が聞きたい。耳を澄ませば聞こえる気がした。そう、耳を澄ませば…---
(レオンハートーーーーーー!!)
---今だ!
緩んだ<シグー>の両腕を振りほどき、レオンハートはペダルを踏み込んだ。それに即座に反応し、<ストライクガンダム>は高くジャンプする。
(レオンハート、大丈夫!?大丈夫なの!?)
ノアの声がコックピット中に響く。「大丈夫だ!」と短く返すと、さっきまでとは別人のように落ち着いた声で無線に話しかける。
「ノア、<ストライク>の装備は!?」
(準備出来てるよ!そこから2ブロック先の格納庫の中にいつでも使えるようにしてあるから!)
2人の会話にファルトマンが割り込む。
(もしもし坊主、格納庫の座標を送った!それを頼りに行け!)
低い声で「了解」と答える。ふと、装甲に何かが掠める音を聞く。飛び上がった機体を追撃しようと<シグー>と<ジン>がマシンガンを撃ちながら迫ってきたのだ。スロットルを上げ、ペダルを踏み込んでから離しまた踏み込む。飛んで来る弾丸をいなすような回避運動を取りながら、レオンハートはモニターに表示された座標データに目を移す。示された格納庫は<ストライクガンダム>と同じ座標---ちょうど<ストライクガンダム>の真下に位置していた。
---ここだ!
スロットルを勢いよく下げ、フットペダルを離す。推力を失った<ストライクガンダム>はまるで糸が切れた操り人形のように落下を始めた。機体にかかる強烈なGにレオンハートは歯を食い縛る。頭の中がやけに鮮明になっているせいかまたは慣れていないからか、激しい頭痛がする。強烈なGに身体が揺さぶられ吐き気すら感じた。が、ただ「死んでたまるか!」という思いで重なる不調の全てを抑えつける。感情で限界を超えたのは初めての経験だった。
やがて落下する<ストライクガンダム>は格納庫の屋根を突き破り、広々とした空間にたどり着く。再びペダルを踏み込んで逆噴射をかける。機体が着地すると同時に顔をあげると、目の前に鎮座するトレーラーが目に飛び込んだ。トレーラーのハッチは開いており、中には水色の巨大な剣のような物が見えた。レオンハートはモニター上に呼び出した
ペダルを踏み込むと機体は高くジャンプする。モニターに映った<シグー>と<ジン>は<ストライク>が背負う巨大な剣を警戒しているのか迂闊に近付こうとはしてこない。その間にレオンハートは背中の対艦刀"シュベルトゲーベル"を<ストライク>に構えさせる。命じられたモビルスーツは両手でしっかりと自分の身の丈ほどもある巨大な剣を保持し、剣先を敵に突き付ける。
深く深呼吸をし「うぉぉぉぉ!」と雄叫びを上げながらスロットルとペダルを全力で押し込む。レオンハートの意思を汲み取った<ストライク>は"シュベルトゲーベル"を振り上げ、眼前の<シグー>に目にも止まらぬ速さで駆け出した。掲げられた大剣が大気を切り裂く。敵をめがけて空を走る白い巨人が、轟と空気を振動させる。
突然、突風の如く速度で迫り始めた<ストライク>を前に<シグー>のパイロットが取った行動はシールドを構えることだった。しかし、<シグー>の左腕は操作を受け付けずシールドを構えようとしない。(な、何!?)と焦る声が無線越しに聞こえる。ふと、レオンハートは<シグー>の胸部に目を向ける。そこにはさっきの戦闘で使った"アーマーシュナイダー"が突き立てられたままだった。傷つけられた装甲が火を噴き、激しいスパークが機体を走る。
瞬間、高速で<シグー>に肉薄した<ストライク>は渾身の力で"シュベルトゲーベル"を降り下ろす。「今度こそ!」と、声を上げて斬撃トリガーを力一杯押し込む。しかしモニターに映ったのはサーベルごと右腕を切り落とされた<シグー>とそれを庇うように前に出る<ジン>だった。どうやら敵は寸前で回避したらしい。思わず「くそっ!」と吐き捨てると<シグー>から通信が入る。今度はコックピットの上部モニターに<シグー>のパイロットが映し出されていた。キリとした精悍な顔つきとオールバックにまとめた焦げ茶色の髪が目を見張る。
(本当に…君はいいパイロットだな)
言葉を発さず、レオンハートはモニター越しの敵を睨み付ける。17歳の少年のものとは思えない鋭い目付きに<シグー>のパイロットは息を飲む。再び<ストライク>が"シュベルトゲーベル"を両手で構える。
「まだ…やるか!」
(いや、遠慮しよう。これ以上部下を死なせる訳にはいかない)
地上に降りた<ジン>が頭部を失い転がっていた<リーオー>を持ち上げ、隻腕の<シグー>と共に撤退を始めた。追撃は十分可能だったが、集中力が切れた途端溜まっていた疲れがレオンハートを襲う。額からどっと汗が噴き出し呼吸も次第に荒くなる。
(…そう言えば名を伝えて無かったな)
無線から声が聞こえる。<シグー>のパイロットだ。滞空したまま<シグー>がこちらを向くと、ブゥンとモノアイカメラが瞬く。
(私の名はジェスロ・ランバードだ…覚えておきたまえ、レオンハートくん)
再び<シグー>が後ろを向き、背面スラスターを吹かしてその場を去る。港区からコロニーの外へと飛び去る機影をボーっとした目付きで見送る。
「ジェスロ…ランバード…」
力が抜け、ぐったり項垂れた体勢でポツリと敵の名前を呟いた。自分の力で、なんとか強敵を撃退することができた。モニターに笑顔でこちらに手を振るノアが映り、レオンハートは安堵の表情を浮かべる。
---僕は、守れたんだ。
<メカニック解説>
□ソードストライカー…近接格闘戦用に開発されたストライカーパック。敵艦船に接近、取り付いて斬撃を加えるための対艦刀「シュベルトゲベール」とその運用装置で構成されている。その目的上、「シュベルトゲベール」自体は装備するMSの頭頂高と同等かそれ以上の長さを持つ片刃型の大型ビームサーベルであるが、本来の用途である対艦戦以外、対モビルスーツ戦でも効果を発揮する。その他の武装は左肩にマウントされたビームブーメラン[マイダスメッサー]とシールド兼用のロケットアンカー[パンツァーアイゼン]の2種が装備されている。