Fleet Collection -復讐への忠義-   作:霖雨

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Ep2 Bloody birthday

  1

 

 ―20xx年 4月―

 呉鎮守府にて吹雪型一番艦駆逐艦【吹雪】着任。

「ひゃ、はじめまして! 本日より呉鎮守府に配属されました。吹雪型一番艦吹雪です! よろしくお願いします!」

 震えた声が執務室で木霊する。

 緊張のせいか一言目から噛んでしまい恥ずかしさの余り顔が茹蛸の様に真っ赤に染まる。

 それを見かねた提督は笑いながら吹雪の前まで立つと、吹雪の顔の位置まで跪いた。

 しっ司令官!?、と云う言葉を無視して提督は咄嗟に後退った吹雪の頭を撫でる。

「着任お疲れ様、私は此処、呉鎮守府を任せられている海色白兎(みいろ はくと)提督だ。先ほど建造を経て着任したばかりだ、赤子と何ら変わらん。最初は不安な事ばかりだろう。だが安心してほしい、仲間が君の盾となって守ってくれるだろう……、勿論君も仲間を守れる盾となってくれ、よろしく頼む」

「は、はい! これからよろしくお願いします!」

 白兎の優しく、そして力強い言葉に感銘を受け吹雪は白兎に対して精一杯の敬礼をする。

「あ――それから私の秘書官を紹介しよう」

 執務机で先ほどから腕組をしながら立っている艦娘を指さす。

「提督、艦娘を指で刺すな」

 おっと失礼と云わんばかりに提督はわざとらしく右手で頭を軽く叩く。

「はぁ…、全く。これで優秀で無ければ一発殴っていたものを……」

 その言葉に吹雪は苦笑いを浮かべた。

「おっとすまん、私は長門型一番艦戦艦【長門】だ。この新・呉鎮守府にて提督の秘書官を任せられている」

 〈戦艦長門〉この名を知らない艦娘は恐らく居ないであろう。世界のビッグセブンの一隻であり、終戦まで生き残った戦艦である。その姿は当時の大艦巨砲主義の体現と云っても過言ではない。

 そんな長門を前に吹雪は興奮を隠せないでいた。

「す、すごい。あの戦艦長門に会えるなんて……、あっ! 失礼しました! 長門さん!」

 元々は戦艦であった彼女らには上官である艦娘に対しての「さん」着けは何処か違和感があるらしい。それもまだ建造したばかりの吹雪に対しては尚のことである。

「フッ、まだ艦娘としては慣れていないから仕方ない事だ。それにそんな風に思って貰えているのだ、不快に思う方が失礼ではないか?」

 そう笑いながら長門は吹雪に握手を求めた。

「はい! よろしくお願いします!」

 長門との握手を終えた吹雪は提督から渡された諸々の書類に目を通し、提督からこの鎮守府の生活する上での簡単なルールの指導を受けた。

「――と、こんな感じかな? あとは吹雪と同じ部屋で暮す事になる艦娘に施設の案内を頼んであるから、もうすぐ来ると思うから座って待ってて」

「はい、ありがとうございました!」

 そう云って執務室のソファに座ろうとした瞬間だった。

「ぽぉぉぉぉぉい!」

 叫び声と共に執務室の扉に衝撃が走った。そのままドンッと云う音と共に扉は勢いよく開け放たれた。

「夕立……! 何度言ったら分かるんだ? 扉は普通に開けろと」

 長門が頭を抱え右手に力を込めながら夕立と呼んだ女の子を睨んだ。

「うう~ん、長門さん落ち着くっぽい?」

 何故か疑問形の返しに長門の右手はミシミシと音を立て始める。

「ほう…、落ち着けと? 安心しろこの長門、一発殴ってやる程度には落ち着いている」

「まぁ落ち着いて長門。吹雪、そこの彼女が貴方と共にする艦娘の一人夕立よ」

 提督が仲裁に入り何とかこの場は落ち着く。

 すると夕立が吹雪の腕を取り――

「こんにちは! 白露型4番艦駆逐艦【夕立】よ。よろしくね!」

 無邪気な笑顔を吹雪に見せ、それに応じ吹雪も自己紹介を返した。

「じゃぁ行くっぽい、提督さんまた演習でっぽい」

「あぁ、吹雪の事をよろしくっぽい」

 提督も夕立の口癖に合わせて返事をする。それを聴いた夕立は年を考えるっぽいと爆弾発言を残して吹雪と共に執務室を後にした。

  

  2

「ここが――で、ここが~――」

 夕立の案内の下、吹雪は鎮守府内の施設を一通り見学していた。

 これからここで頑張って行くんだ!と云う鼓舞の下夕立の話に耳を傾ける。

「ここが演習場っぽい、砲撃訓練とか海上近接格闘訓練だとかするっぽい」

 ふむふむ、成程ここで砲撃や近接――

「近接格闘ですか――?」

「そうっぽい、でも近接訓練するのは天龍型や伊勢型みたいな近接兵器を運用している艦娘だけっぽい」

 だから、と続けて

「吹雪は余り関係ないっぽい?」

 疑問形で云われた言葉に吹雪は思わず首を傾げる。

「でもどんな感じの訓練か気になっちゃうかな?」

 疑問形に対して疑問で返す吹雪。確かに鉄の塊である戦艦だった頃は、近接なぞ精々戦艦と戦艦とのぶつかり合い、至近距離での砲撃戦くらいしか思いつかない。そんな事を考えると【ぶつかり合い】と云う単語で何故か身震いしてしまう。

「じゃぁ見学するっぽい? ちょうど天龍と日向さんが訓練中ぽい!」

 その言葉に頷き吹雪は夕立に連れられ【海上近接格闘訓練】のブースに入る。

Side-天龍VS日向

 訓練ブース内の見た目は広めの屋内プールに近いものだった。その中で水面に浮かぶ二人の艦娘、天龍と日向がお互いの正面に立っていた。

 近接格闘訓練と合ってか艤装は水上を滑る為の足の艤装のみでありお互いの手には剣と刀が握られていた。

 片方は戦艦、片や相対するは軽巡艦。艦種のスペックだけで既に勝負が決しているほどの差。

 しかし、吹雪にはあの軽巡艦がそう易々と負けるビジョンが想像できなかった。

 動きやすい用に改良された少し地味目の巫女装束を着た戦艦日向は日本刀一本とシンプル、片や天龍は服装こそ動きやすい制服であるが頭部に一風変わった艤装と既に抜き身となった、紫と赤のブレード一本である。

「あら~、天龍ちゃんの見学かしら?」

 ねっとりするような声色を発する艦娘が一人こちらへと歩いてきた。

「はい! ここで近接での訓練演習があると夕立ちゃんから聞いたので」

「そう、私はあそこに居る天龍ちゃんの妹の龍田よ。天龍ちゃん共々よろしくねぇ」

 軽く龍田との自己紹介を終えた吹雪達は一緒に演習の見学をすることになった。

「日向、準備はいいか?」

「あぁ、そうなるな……」

 お互いに構えを取る。日向は居合の構えを、天龍は両手でブレードを握り、下から真上へ斬り上げる構えを取った。

 瞬間、日向が居た場所から凄まじい水飛沫が上がった。水面を蹴ったのだ。

 本来艦娘とは砲撃戦が主軸となっており水面を走る・歩くではなく、滑るの重心移動が必須となってくる。しかし、日向は蹴ったのだ。

 日向の身体は水面擦れ擦れまで下がり天龍の足元まで一蹴りで迫ったのである。そしてそのまま勢いを刀に乗せ一気に天龍の腹部めがけ一閃した。

 ガギンッ――金属と金属が衝突した音が鳴り響いた。日向の居合の一撃を天龍がブレードの腹を左手で抑え防いだのである。そのまま天龍は日向の重い一撃の反動を利用しバックステップからの右回転からのブレードの一撃を日向へ叩き込む。しかし、読んでいたとばかりにその攻撃を日向は防ぐ。

 そこからはお互いの剣戟のぶつかり合いである。

 日向は戦艦の元々の腕力を生かし一撃一撃が凄まじい威力を持つ、しかもそれを高速で放つのである。一方の天龍は相手には決して力で闘ってはいけない事を分かっているのか日向の一撃一撃をすべてブレードで流し、決して防がず流しては一度の反撃を入れるの繰り返しである。その為か天龍のブレードから先ほどから金属が削れる音がよく聞こえる。

 お互い決して剣戟を緩める事をせず、状況は常に拮抗している。このまま永遠に剣戟をお互いに繰り出し続けるのかとさえ思ってしまうが、最初に動いたのが天龍であった。

 日向の剣戟の隙を突き、日向の腹部を蹴り、その勢いで後ろに下がり助走をつけて日向に斬りかかる。

 しかし、日向にとって天龍のその攻撃は完全に悪手、元より居合に自信があった日向は刀を鞘に戻し居合でのカウンターの構えを取った。

 天龍が居合の範囲に入る、その刹那眼を見開き抜刀、天龍の身体に横一閃の斬撃が入る――はずだった。

「なッ――!」

 思わず漏れてしまった日向の声に天龍は笑った。

「フフフ、怖いか?」

 日向の一撃を喰らった筈の天龍は飛んでいた、しかも上下逆様の状態でだ。そのまま上半身を捻り右手のブレードで日向の後頭部を一撃。

 海上近接格闘訓練・演習は天龍の勝利でこの場を収めた。

  Side-out

 

 訓練を終えた天龍達が何か談笑をしながらこちらに向かってきた。

「天龍ちゃ~ん」

「おぅ、何だ観てたのかよ龍田。そうならそう言えよな」

「天龍ちゃんの邪魔しちゃ悪いでしょぉ~?」

「まぁ――そうなるな」

「オイ、日向テメェそれ言いたいだけだろ」

 三人は軽い冗談を交わしていると、天竜が吹雪達に気づいた。

「お! 夕立も観てたのか―、そっちの奴は新人か?」

「は、はい! 本日着任しました、駆逐艦吹雪です!」

 ふ~ん、と云いながら天龍は吹雪をまじまじと見つめる。その行為に緊張している吹雪に気づいたのか天龍は悪そうな顔で、

「どうしたァ? 怖くて声もでねぇか~? オラオラァ」

 吹雪がふえ~、と涙目になる。この天龍実に楽しそうである。

「悪ぃ悪ぃ、反応が面白くてついな」

「もう~、吹雪を虐めるのはよくないっぽい!」

 吹雪の仇を取るべく夕立は天龍の顔面に飛び付く。

「ダァー! だから悪ぃって言ってんだろ? 悪かったな吹雪、オレの名は天龍、んでそっちが妹の龍田だ」

「私は伊勢型の日向だ」

 ついでとばかりか日向も軽い自己紹介を交わす。

「は、はい! すみません、お二人の訓練が凄すぎて……、第一線で活躍している方々は凄いなって―」

 すると少し間が空くと吹雪の言葉に堪らず天龍が笑いだし、吹雪の背中をバシバシと叩き付ける。

 突然背中を叩かれた吹雪はまた涙目になりながら慌てふためく。

「いやぁ~悪ぃ悪ぃ、つい面白くてな」

「ふむ、純粋が故にか…まぁ、そうなるな」

「だからそれを言いたいだけだろ…」

 天龍の突然の笑いと日向の言葉に理解が追い付かず、何か失礼な事を云ったのではないかと尚も焦り続ける吹雪、それに気づいた天龍が言葉を続ける。

「あぁ――吹雪。確かにさっきから変な事しか言わないこいつァ第一線で活躍している戦艦だ」

 天龍の発言に日向が君は失礼だなと口を挟むが、それを黙れと天龍が軽く流す。

「だが俺は違う。第一線は兎も角、戦闘自体あまり参加しないんだよ。やる事と言えば遠征やら新人の教育係とかだな」

 天龍の言葉に信じられないと吹雪は眼を見開く。その吹雪の様子に対して、それにと、続ける。

「そもそも戦闘は遠距離から中距離の砲雷撃戦が主軸だ、近距離戦なんぞよっぽどだ。それこそ命を極限まで懸けた――な……」

「因みに俺は砲撃戦が苦手だし、他の同型に比べるとスペックで圧倒的に劣る。」

 言葉の後に、小さな声でこれでも昔は世界水準軽く超えてたんだけどなぁと不貞腐れて呟いた。

「ところで着任なんだろ?艦娘として建造されてどれくらい経つんだ?」

 天龍が突然話題を変えて来たので吹雪は慌てて質問に答えた。

「いえ! 建造も着任も本日です」

 その言葉に皆が少し驚きの声を挙げる。

「ほ~、と言う事は着任日と誕生日は一緒だってことか! こいつァ派手に宴でも開かないとな!」

「まぁ、そうなるな――」

 段々日向に慣れて来た吹雪である。

「それにしても建造日と着任日が一緒なんてやるじゃねぇか。普通は施設とかである程度訓練してからになるんだが……、もしかして天才新人って奴か!?」

 天龍の言葉に慌てて首を振る。

「お~?何だ謙遜かぁ?」

「吹雪は天龍と違って謙虚で偉いっぽい!」

 そう胸を張って発言する夕立に、何でお前が威張ってんだよとツッコミを入れる。

「んじゃ、オレ等は先に部屋に帰ってるから」

「分かったっぽい、それじゃぁ吹雪、夕立たちも部屋に行くっぽい」

 そうして吹雪達は訓練所を後にする。

 

 

「ここが夕立たちの部屋っぽい、荷物はベッドの横に纏まってるから後で確認するっぽい」

 案内された部屋の内装は、それなりの広さのワンルーム、部屋の左側にはベッドが三つと反対側には畳の居間がある。

「あなたが吹雪型一番艦の【吹雪】ちゃん?」

 部屋に入ると早速もう一人の同居人が話掛けて来た。

「初めまして、睦月型一番艦【睦月】だよ、同じ一番艦同志よろしくね」

「こちらこそよろしくね! 睦月ちゃん!」

 お互いに挨拶を済ませ、直ぐに同居人と仲良くなれそうでほっと胸を撫で下ろす。

「分かってると思うけど、これが吹雪ちゃんのベッドね。一応ベッドの下にも――って」

 そう云いベッド横の収納スペースを啓くと大きなクマのぬいぐるみが収納スペースを占領していた。

「もう!吹雪ちゃんが来るまでに片付けといてって言っといたのに!」

「睦月は細かすぎるっぽい」

 睦月の糾弾に夕立は両手で両頬を持ちあげブ~、と悪態を吐く。

 その光景に吹雪は思わず微笑んでしまう。

 その時後ろから自分を顔を撫で回す手が現れる。

「キャッ―!」

 慌てて手を振り解き、睦月たちの下へ行き、後ろを振り向くとそこには、

「ふむふむ、これが特型駆逐艦一番艦の餅肌……、そしてその反応――垢ぬけないけど可愛いじゃん」

 そんな変態発言をしながら両手をわきわき動かす謎の艦娘と思わしき人物、そして隣で頭を抱える同型と思われる艦娘が一人。

「あぁ―ごめんごめん、私は川内!」

「妹の神通です、姉がご迷惑をおかけします……」

 そう云い神通は吹雪達に軽く頭を下げる。

「第三水雷戦隊の那珂ちゃんでーす!ファーストライブやりまーす!」

 そんなハプニングから間髪入れずに窓の外から大声が聞こえる。その声を聴き神通はまた頭を抱え、

「妹がご迷惑をおかけします……」

 本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

  4

 同時刻・南硫黄島周辺海域

 旗艦:球磨 多摩 愛宕 高雄 翔鶴 瑞鶴

 

「舐めるなクマー!」

「そこにゃ!」 

「ぱんぱかぱ~ん!」

「大人しくしなさいッ――!」

 怒声と共に球磨の単装砲は火を噴く。それに続き他の艦娘も次々と砲撃を行い深海棲艦を沈めていく。

「第二次攻撃隊、稼働機、全機発艦!」

 それに追い打ちをかけるように戦闘機を敵に向け発艦する瑞鶴。それを確認した球磨は、

「翔鶴、偵察機の方は何か解ったクマ?」

 既に艦載機を放っていた翔鶴は敵艦隊を突き抜け、その先の偵察を先ほどから行っていた。

「見つけた!」

 その言葉と共に翔鶴を閉じた眼を開く。

 

 

  Side-Operations room

 呉鎮守府内作戦司令部

「翔鶴より緊急入電! 敵棲地を発見!」

「どうするの? 提督」

 大淀からの翔鶴が敵棲地を発見したと云う情報を聴き長門型二番艦[陸奥]は自分たちを指揮する提督に指示を仰ぐ。

「ならばここで叩く――長門、執務室へ主力艦娘を呼べ。連合艦隊を以て敵深海棲艦を水底へ叩き落とす。それと、今回の敵棲地が囮の可能性を視野に入れ、それなりの練度を持った艦娘を鎮守府内で待機させておけ」

 普段お道化ている海色提督とは考えられない冷たい言葉で長門に命令を下す。

 その命令に頷き長門は緊急招集をかける。

 Side-Out

 

 そこから少し時間は戻り吹雪たちは三人で鎮守府内を歩き回っていた。その間、暁型駆逐艦四名又の名を第六駆逐隊と共に甘味処「間宮」にて甘味を食べたり、利根たちとのマラソンにも少し参加した。

 夕立、睦月のお陰で色んな仲間を紹介して貰いその都度仲良く為っていった。特に仲良く為ったのは一緒に走った睦月の一つ下の妹の[如月]だ。

「二人とも今日は色々ありがとう、最初は不安だったけど二人のお陰でやって行けそうだよ」

 心からの感謝の意を伝える。

「いいよぉ―これから一緒にやって行くんだから当り前のことしただけにゃしぃ……」

 そう云って睦月は頬を染めて照れる。それを見た夕立が睦月を弄る。そんなことをしていると吹雪が何かに気づいたのか空を見上げる。空を見つめる吹雪を見て二人も一緒に空を見上げる。

「何か飛んでるっぽ――あぁ、たぶん一航戦の先輩たちの演習っぽい」

「一航戦! 聞いたことある!」

 納得したように夕立は云うと、吹雪は興奮しながら言葉を続ける。

「たった一艦隊で数十の深海棲艦に立ち向かい完全勝利したといわれる伝説の艦娘たちだよね? ここに配属されているんだぁ……」

「ちょっと見学に行ってみようか」

 興奮した吹雪を見て睦月は吹雪に提案を持ちかける。それに吹雪は二つ返事で快諾した。

  

  5

 赤城型一番艦正規空母[赤城]又の名を一航戦赤城。

 太平洋戦争初期に機動部隊の旗艦を務め、かの有名なミッドウェーの大戦にて最後を遂げた戦艦の一つである。

 赤城は今、遥か先の的を見つめ集中する。それを少し離れた所から正座の姿勢で見つめるのは、同じく一航戦である二番艦加賀である。

 足踏みでの自分の立ち位置を確認した赤城はそのまま胴造り・弓構え・打ち起こし・大三・引き分け・会までの動作を流れるように行う。それも決して雑では無く、思わず見惚れてしまうほどだ。かくいう吹雪も一連の赤城の動作に思わず生唾を飲んだ。

 赤城はそのまま離れの動作により矢を放つ。

 放たれた矢は艦載機へと姿を変え、遥か先の的を艦載機が機銃で狙い撃つ。

 残心――時間が止まっているのではないかと錯覚してしまうほどの静寂を吹雪達を包み込む。

 すると吹雪たちに気づいたのか赤城が吹雪たちの方へ身体を向けると、

「見学するなら一言言って貰えばよかったのに――」

「すいません!」

 吹雪の謝罪にいいのいいのと赤城は笑顔で顔元で手を振る。

「あなたが吹雪さん?提督から話は伺ってます。天龍さんからは天才が来たと――、いつか一緒の艦隊で戦いましょう」

 天龍の名前を聴いた吹雪は赤城の言葉に感激しつつ内心少し天龍を恨んだ。

 この時、この瞬間赤城は吹雪に取って目標であり憧れの存在に変わったのである。

 その時だった、平穏な日常を壊すサイレンが鎮守府内を響き渡った。

「秘書官の長門だ。現在南硫黄島方面の海域にて我が艦隊が敵深海棲艦の棲地を発見、これを主力連合艦隊にて撃滅する、鎮守府主力部隊に配置されている艦娘は直ちに執務室まで来るように、そしてこれが陽動の危険性があるため主力部隊以外の艦娘は常時出撃できるように待機するように。繰り返す――。」

「行きましょうか、加賀さん」

「はい、赤城さん」

 緊急招集のサイレンを聴いた赤城たちは執務室へ向かう、それを見送るように吹雪達は赤城達に敬礼をする。

「さて、吹雪ちゃん夕立ちゃん、私たちも抜錨待機室に行こう」

 それに吹雪は頷くと緊張の面持ちで二人の後ろに付いて行く。

 

  6

 「今作戦の内容をお伝えします」

 そう云い待機室にて待機する主力以外の艦娘を見回し摩耶型二番館重巡【鳥海】は作戦の内容を伝える。

「既に我が連合艦隊は敵棲地まで進行しています、私たちの任務は手薄になった鎮守府の防衛、民間人の避難誘導になります。天龍さん龍田さんを旗艦に艦隊を組み防衛ラインにて待機して下さい。自分が何処に所属するかはデータで送りましたので確認して下さい、それ以外の練度の低い艤装状態で民間人の誘導をお願いします」

 一通り言い終えると、無事を祈る言葉と共に敬礼を送る、その鳥海に対して皆も敬礼を返す。

「ほら吹雪ちゃん、睦月たちは民間人の避難誘導だよ」

「う、うん。大丈夫かな?」

「大丈夫っぽい、もしも敵が来ても夕立たちで倒すっぽい!」

 手をギュッと握り吹雪たちは持ち場へと急ぐ。

  

  7

「へぇー! お姉ちゃん達が艦娘? 何か弱そう」

「こらッ――! この子ったら……、ごめんねぇ」

 初めての任務であったが、街の人が素直に指示にしたがってくれるのでそこまで困難ではない。寧ろ先ほどの会話のお陰で大分緊張が解れて来た吹雪である。

「あはは――大丈夫だよ! 君たちを守れるくらいには強いから!」

 子供の頭を撫でると吹雪は持ち前の笑顔で民間人たちを避難所へと誘導する。

 その時だった、鎮守府付近を担当する全ての艦娘に緊急電報が送られる。目の前にウインドウをスライドし内容に眼を通す。

「嘘――本当に来たの?」

 その内容とは鎮守府を狙う深海棲艦が近海に出現したとの報せ。

「(ここまで来ないよね――? 流石にレーダーに引っ掛る筈だし、先輩たちが何とかしてくれるよね)」

 心に不安が生まれる。

「お姉ちゃん! よくわかんねぇど俺が守ってやるよ!」

 子供は何かと敏感だと云う。吹雪の不安に気づいたのか、何時の間にか震えていた吹雪の手を少年は優しく握った。

 

 Side-夕立

 

「民間人の皆はこっちぽ~い!」

 両手を大きく振り夕立は民間人の誘導を行っていた。その間に、あらあらぁ、可愛い子ねぇ、うちの息子の嫁に来ねぇか? そんな言葉を軽く受け流す。

「んー、は天龍が居るから大丈夫っぽい?」

 そんな事を呟きながら今回初任務である吹雪の事を考える。

「あそこ海近いっぽいから担当変えて貰えばよかったぽい」

 少し弄ってやろうと吹雪に個人通信を送ろうと思い通信リストから吹雪をタップしようとするが、

「あれ? 何でオフラインっぽい?」

 機械の不備かな? と首を傾げ考えていると、突然作戦司令部からの緊急通信が入る。

「はい、こちら駆逐艦夕立っぽい。提督さん、ご用事はなーに?」

「夕立! 今すぐ駆逐艦吹雪が担当する区域へ行け! そこは別の艦娘に任せる」

「て、提督? 吹雪に何かあったっぽいッ!?」

「現在、吹雪の区域“だけ”通信及び電気機器が全てオフラインの状態になっている。吹雪に何かあった可能性が高い、避難誘導が完了次第他の艦娘も現場げ向かわせる、今はもっとも近い夕立が問題の確認を頼む」

「分かったっぽい!」

 そう云うと脱兎の如くその場から駆け出す。途中林を抜け道を真っ直ぐに横切り最短距離で海へ着水する。

「吹雪、待ってるっぽい!」

 最大船速で海を駆ける。

 

 Side-Out

 

  8

 駆逐艦吹雪は存在しない筈の“敵”を前に呆然としていた。あッ――と、感嘆が漏れると同時に思考をフル回転させる。敵は恐らく駆逐艦イ級、大丈夫そんなに焦る敵ではない。後ろへ下がってて下さいと、民間人に伝えると自分の持つ単装砲を敵深海棲艦へと砲身を向ける。

 発射――砲撃は敵横海面に着弾する。

 続けて発射――敵右舷に命中。

 さらに発射――敵正面に弾着、深海棲艦は呻き声を上げその場に平伏す。

「やった! 私勝てた! 守れたよ!」

 歓喜の声を上げる吹雪。するとそこへ少年が抱き着き少年も吹雪に対して称賛の言葉を掛ける。

 その時だった。倒した筈のイ級が突如立ち上がり、

「■■■■■■――■■■■■■■■――ッ!」

 この世の者とは思えない叫び声を上げイ級の背中が大きく割れる。

 中からは黒い突起物が現れ徐々にその姿を露わにする。その全貌をただ見つめていた吹雪は我に帰るとイ級に向けて砲撃する。焦っているせいか砲撃は掠るか横を過ぎるかで命中はしない。

「■■■■■■■■■■■■――ッ!」

 最後の雄叫びと共に背中の黒の異形を発射する。

「ミサイル――ッ!? そんな兵器聞いてないよ!」

 だが現実は、今放たれたミサイルは上空へと上がると吹雪へと向かって下降していく。

「こっちへ来るッ!?」

 このままでは吹雪は勿論の事民間人もただでは済まない。護るんだ。そう呟くと吹雪を砲身をミサイルへと向ける。

「お願い――当たって!」

 迫るミサイルへと狙いを澄まし、引金を引く。

 吹雪の単装砲から放たれた砲弾はミサイルへ命中しミサイルは空中で爆発、残骸である破片も幸いにも全てこちらへは落下はしてこなかった。極度の緊張状態から解き放たれ、ほっと胸を撫で下ろし後ろの少年へと向き直る。

 少年は又もや歓喜の声を上げ吹雪に称賛を送る。

 こうして吹雪の活躍により敵深海棲艦イ級を撃破し、市民の命は護られた――はずだった。

 少年と共に民間人の誘導へ戻ろうとした瞬間だった。

 シュッ―と云う音と共に突然少年が後ろへと倒れた。慌てて吹雪が少年を受け止め、何かに躓いて転んだと思った吹雪は少年の顔を見て――顔を見て絶句した。

 その瞬間母親であろう悲鳴と共に黑い雨が降り注いだ。

 瞬く間に降り注いだ先は地獄へと化す。絶叫と云う不協和音の下鮮血が其処彼処から飛沫が上がる。

 だが只一人、無事だった者が居る。艦娘であるお陰で、その雨は石ころ程度にしか感じない吹雪である。

「――――――――――――ッ!」

 血の海で声に為らない悲鳴を上げる。

 こうして吹雪を囲む蝋の火が消え、一生忘れる事のない誕生日が幕を閉じる。

 

  Episode-Out

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