Fleet Collection -復讐への忠義- 作:霖雨
1
「今作戦での被害を報告致します。死亡者36名、重傷者8名、軽傷者13名。原因は敵イ級が放ったミサイルの内部に小型の鏃が内臓されており、空中で炸裂したものとされます」
執務室して今回の惨劇についての報告が終わる。
「超近距離型の弾道ミサイルに内蔵されているのはフレシェット弾ときたものだ――端から民間人目的と考えるのが普通か……」
吹雪周辺の電子機器が全て機能停止に陥っていた事により、データとして残っているのは吹雪が実際にその眼で見た惨劇のみであった。
本来艦娘とは極論すれば人造人間に近い存在だ。艦娘にはそれぞれの情報処理を行うCPU及び、情報を受信、送信をすることのできるルーターの様なデバイスが埋め込まれている。それにより艦娘にしか見えない情報ウインドウ等を駆使し戦闘を円滑に進める事が可能である。戦闘に置いて如何に情報と云う武器が戦況を左右するか自明の理である。
勿論、高度な情報処理、情報の送受信以外に艦娘が実際に見たものは全て映像として、データ抽出も可能である。
「吹雪には悪いがこの映像を本部へ提出する。そして今回のミサイルと電波妨害及び、ステルス性の装備を深海棲艦が所持していると言う可能性……」
それだけ云い終えると軍帽を深く被り直し椅子に凭れ掛かる。
「長門――吹雪はどうだ?」
「今は酷いストレス状態で自室で休ませている。何かあれば夕立と睦月に頼んでいる。今はそっとしておくことが賢明だと判断した」
長門の言葉にそうかと言葉を漏らす。
「厳しいんだな、初任務でこれだぞ?」
「乗り越えられるかは本人次第だ…、ただ立ち上がるのに私たちが必要だと言うのならば私は幾らでも手を貸そうじゃないか――」
その言葉と共にこの場は解散となった。
2
夢を見た。
それは今日出会った親子達と一緒に訓練終わりの昼食を取る夢だ。
夢を見た。
それは自分が護った人たちから感謝され、艦娘と人の入り乱れた宴の夢。
夢を見た。
それは見事民間人の誘導に成功し、且つ敵深海棲艦を倒した自分が提督に褒められる夢。
夢を見た。
それはいつしか立派になった自分が艦隊を率いる夢を――。
夢が覚めた。
思い出すのは力も無く、壊れた人形の様に倒れる少年の姿。
夢が覚めた。
思い出すのは少年の死を垣間見た、母親の悲鳴と絶叫。
夢が覚めた。
思い出すのは阿鼻叫喚の嵐と共に、人から噴水の様に鮮血が飛沫出す光景。
夢が覚めた。
思い出すのは――自分だけが無傷と云う事実だ。
「あぁぁぁぁぁ――ッ!」
その事実が自分の心臓を締め付ける。
涙を流し嗚咽の声が漏れる。
何度死にたいと思った事か、だけど自決できるほどの勇気も覚悟も無い自分が一層情けなく、無力を呪う。
自己嫌悪に陥っていると、背中を優しく包み込む感覚がした。
「吹雪ちゃん――」
吹雪を後ろか抱き、睦月は吹雪へ語りかける。
「怖ったよね、辛かったよね――眼の前で誰か死ぬのはとてもじゃないけど見ていいものじゃないと思う。睦月もその光景を知ってる――」
違う、慰めてほしい訳ではない。慈悲では無く求めるのは糾弾であり弾劾だ。違うのだと、無意識に否定の言葉を呟いた。
「違わない! 吹雪ちゃんは自分が許せないんだ――だったら私が許すよ。私が、私たちが、吹雪ちゃんを――許すよ。よくやった! 吹雪ちゃんは最善を尽くした! それでも吹雪ちゃんが救えなかった人達を失望させない為に、それ以上の人を救おう」
ただただ優しい言葉、綺麗ごとでしかない言葉。それでも吹雪はその言葉に縋るように泣く。大声で、次こそ救おうと護ろうと――。
3
「私の出番は要らないっぽい?」
吹雪と睦月の会話を扉越しに聴いて居た夕立は、そう呟くとその場を離れ、執務室へと向かって歩き出した。
数度のノックすると、扉の先に居る人物の返答を聴かず、扉を開け足を踏み入れる。
「入室の許可は取ってないんだけど? 夕立……」
「ノックはしたっぽい、全く提督は細かいっぽい……」
一方的に夕立にため息を吐かれた提督は渋々夕立をソファへ座るよう促す。
「で、吹雪の様子はどうだ?」
「いきなりそれっぽい? 提督さんは早漏っぽい!」
「一体何処でそんな言葉を……、それに私は女だ」
提督が睨むと夕立は仕方ないなぁと吹雪について語りだす。
「吹雪なら大丈夫っぽい、睦月が何とかしたっぽい」
大雑把な内容に提督はそうかとだけ返事をする。
「まぁソロモンの悪夢がそう言うのだろう、問題無しと処理しよう」
「あんまり
夕立のいつものお道化た喋り方とは違い冷たい言葉が提督へ突き刺さる。
それに対して提督は、
「さぁな、だが“結果は吹雪は大丈夫”なのだろう? ならいいじゃないか。私は余りと言うのは好かぬのでな――」
提督の言葉に夕立は微笑を洩らすとサッと敬礼をすると執務室を後にする。
Episode-Out