Fleet Collection -復讐への忠義- 作:霖雨
鎮守府内堤防にて簡易折り畳みイスに腰かけ、竿を握る赤い衣服の人物が一人。軍から支給される中で一番安物の煙草を咥え、口から煙を吹かす。煙草をフィルターギリギリまで喫い携帯用の吸殻入れに吸殻を入れると箱からまた新しい煙草を咥え、火をつける。
ただそれだけを繰り返し目線は竿先ではなく、遥か水平線を見つめる。
「龍驤―あんた、こんな処で何黄昏てんのよ? ……それ餌付いてるの?」
こちらへ歩きながら喋り掛けて来た少女へ龍驤と呼ばれた赤い少女は、視線はそのままで意識だけを向ける。
「ちょっち考え事してたんや、天津嬢にはまだ早いな」
お嬢と呼ばれた天津風は髪を手で払うと、『どうせ碌な事考えてなかったんでしょ』と、呟くと笑いながら龍驤は、『敵わんなぁ――』と、空いた手で降参とばかりに手を挙げた。
「で、本当は何してたのよ?」
「んー……、もしも海の水ぜんぶインクやったら、うちは何人にさよならの手紙を書けるんかなぁ~って――」
「そんなことしたら手紙を書くだけで人生が終わるわよ、さよならだけが人生と言うなら私はまた来る春の為に人生を捨てるわ」
そんな天津風の返答に龍驤は予想外だったのか天津風の顔を見上げる。そこには頬を染め、少し照れくさそうな天津風が存在した。
「驚いたなぁ……、キミ「好きな人の好きな物くらい調べるわよ」あぁ―」
「やっぱりキミにはどうやっても敵わんようや」
完全敗北、彼女の好意は今に知った事ではない。ただこんなに押せ押せだっただろうか。そんな事を考えつつ新しい煙草を口に咥え火をつける。
「ふぅ~、ところでどうなん? 新人の調子は?」
「新人? ――あぁ、例の娘ね」
天津風が云った例の娘とは、無論吹雪のことである。しかし、その印象は前回の大規模作戦での事件の印象が強く、事の経緯を風の噂で聞いた時は耳を疑った。勿論敵が未確認の武器を使用したと云うのもあるが、一番は吹雪の心配であった。
「そうや、例の事件が初任務やったんやろ? それにまだ
「あんたの比喩表現は……、また今度でいいわ。まぁその娘なら大丈夫そうよ、夕立の太鼓判付きらしいし」
「よりにもよって夕立か…、まぁええか」
ブスっとした顔で云うと龍驤は再び水平線へ顔を向ける。
「あら? 心配してると思ったら案外どうでも良かったの?」
その言葉に、そんな事はないと手を振る。ただ――そう龍驤は言葉を続けた。
「――ただ、うちらは止まる事ができんのや、後ろを振り向くことさえできひん。かと言って横に逸れる事もできひん。只ひたすらにレールの上を逝くだけや」
龍驤の言葉に静かに天津風は聴き入る。
「それでもただ一許される事がある。決して走らなくてええんや、ゆっくりと確実に一歩ずつ歩けばええ――」
そう云い終えるとまた一本煙草を新しく吸い始めると、
「でも何でやろうな……、うちら艦娘をこんなレールの上に立たした奴らがやってくる忌まわしい海やのに、それでもこう眺めていると心が落ち着くんやろうな?」
「それはきっと永遠だからよ。平凡で幸せな一日だって、どんなに辛い戦いだって、それこそ“艦娘としての生”もいつしか終わりが来る。だけど海だけは終わらない」
「キミには慰められてばかりやなぁ……」
「あら、あたしに惚れた?」
「惚れた惚れた――」
素っ気ない態度で云い返したはずだが、当の本人は満更でもない。可笑しいなと頭をかき、吸殻を片付け竿を上げる。
今日はこれでお開きであることを悟った天津風は龍驤へ近づくと荷物を黙って半分持つと龍驤の空いた手を取った。
「あかんて、煙草の匂いが髪に付いてまう」
「別にいいわよ、この匂いを覚えて初めて恋をしたのよ」
その言葉にもう何も云うまいと、
「キミはほんまに――ええ女や。うちには扱いきれん」
龍驤の言葉に風が吹く。
「本当にいい風ね……」
二つの影はいつしか一つとなって、夕日の堤防を去る。
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