Fleet Collection -復讐への忠義-   作:霖雨

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Ep5 Ever and Ever

  1

 

「本当に大丈夫? 吹雪ちゃん」

「大丈夫だよ睦月ちゃん」

「睦月は心配性っぽい」

「夕立ちゃんはいい加減すぎなの!」

 睦月に心配されながらも吹雪たちは廊下を歩く。この後執り行われる重巡足柄による座学の為だ。

「この教室だよ吹雪ちゃん」

 睦月に案内され教室に入ると、そこには既に何人かの艦娘がいくつかのグループに分かれて談笑していたり、机に向かって教本を読んでいたりと各々が授業開始までの時間を有効に使っている。

 すると何かを思い出したのか夕立があっと、声を上げる。

 「どうしよ、宿題忘れたっぽい!」

 慌てて睦月に救難信号を送るが睦月はそれを拒否する。涙目になりながら対象を睦月から吹雪へと変え再び救難信号を送る。が、吹雪は今回がこの鎮守府での初の座学となるのでそもそも宿題が無いのである。その旨を伝えると夕立の表情は絶望に染まる。

 夕立がわなわなとしていると後ろから声が聞こえた。振り向くとそこには可愛らしい手さげ鞄を肩に掛けた如月が居た。彼女は微笑むと挨拶をしてきた。

 それに気づいた睦月は、如月の名を嬉々として呼ぶ。彼女の前まで駆けて行くと、二人で仲良く談笑を始めだした。

「もぉー! 聴いてよ如月ちゃん! また夕立ちゃん、宿題忘れて来たんだよ!」

「ふぅーん、そうなの? ところで――」

 すっかり自分たちの世界に入っている睦月と如月を見て吹雪は、二人の仲の良さについて夕立に喋り掛ける。

「姉妹愛っぽいね……」

 あれは仲がいいと云うか――夕立は細目になりながら、そこからは何も云うまいと呆れ気味で呟いた。

 暫くすると授業開始の予鈴が鳴り、今回の座学を受け持つ足柄が入室してきた。

「はぁーい! 授業を始めるわよ、席に着きなさい」

 はぁーいと、皆が一斉に足柄の声に反応して各々の席へ着く。

「さて、早速前回の宿題を回収するわよー。各列の一番後ろの子が集めてきて頂戴。まさか忘れてきてないわよね?」

「――ッ!」

足柄の言葉に夕立は冷や汗を流す。

 宿題の回収が終わると、足柄は前回の内容の復習を始めた。

「――であって、これが水雷戦隊の重要性ね。では問題よ。水雷戦隊の主兵装である酸素魚雷、その優位性は?」

 その問題に対して夕立が指名される。さらについでとばかりに正解すれば追加の宿題を半分にすると云われた。当然不正解ならば二倍だ。

「ぽい……」

「ぽいぽい五月蠅いとでぽいぽいしちゃうわよ?」

 その言葉に場が凍る。

「(今日の足柄さんいつにも増して機嫌悪いね?)」

「(この前の合コンまた失敗し―キャァ!)」

「私語は厳禁よ」 

 睦月の疑問に答えた如月の身体が吹っ飛び、その場に粉々に砕け散ったチョークの粉が舞う。

 その悲惨な現場を目の当たりにした夕立はさらに顔が青ざめていく。

 夕立の丁度後ろの席に座る吹雪は、そんな夕立を見兼ねて助け舟を出す。

「(圧倒的長射程、そして雷速、炸薬量でも優位。だよ、夕立ちゃん)」

 後ろから小声で夕立に語りかける。

 夕立は吹雪から聴いた言葉を一字一句そのままで問いを答えた。

「正解よ……」

 足柄は詰まらなそうに云うと、そのまま次の問題へ移る。

「じゃぁ酸素魚雷にはもう一つ優位性があるわよね? それは何かしら」

 その問題はそのまま一つ後ろの席に座る吹雪へ問われる。吹雪は席を立つと、

「普通の魚雷と違って圧縮空気じゃなくて酸素を使っています。なので発射後排出されるにはCO2になります。これは海水で溶けやすいの敵に雷跡が発見されにくい、つまり攻撃の隠密性が高くて――」

「もういいわ、正解よ」

 吹雪の言葉を途中で遮って正解を云い渡す。

 するとパチパチと他の艦娘が吹雪へ拍手を送る。

『やるじゃない!』『ハラショー』『はっやーい!』そんな称賛の声を貰いながら、何が速かったのだろうかと考えながら吹雪は照れた。

「あら御免なさい、あなた今日が初めての子よね? ちょっと苛ついて当ててしまったわ」

 包み隠しの無い直球発言に対して皆苦笑いになる。

「でもその感じだったら座学は完璧ねぇ――夕立もあなた見たいに優秀だったらどんなに……」

「夕立は戦闘では一流っぽい!」

 夕立の弁明を睨みで黙らす足柄。そのせいでまた夕立は意気消沈してしまう。こればかりは吹雪も自業自得だと思ってしまった。いや、宿題を忘れる時点で自業自得なのだが…。 

 因みにだが、その後の演習で吹雪は散々な結果を叩き出した。

 

  2

 

その日の夜は鎮守府内の広い食堂を使っての吹雪歓迎パーティーが開かれた。

 普段とは違い一段豪華な食材に、食堂を任せられている軽空母鳳翔と普段は甘味処を任されている給糧艦間宮の二人は腕を捲くる。

 二人が奏でるフライパンの上で焼かれる肉の音、新鮮な野菜を目にも止まらぬ速さで切分けていくトントンと云う軽快な包丁の音に、腹を空かせた艦娘達は今か今かと気分を高揚させる。

 特に駆逐艦の子達は眼を輝かせながら、まだかまだかと、それをあやす天龍に問いかける。何故か一部正規空母が混じっているが、そこは流石遠征指導の天龍、巧みな話術説き伏せてしまう。

 その反面、我慢の出来ない艦娘達は隠れた場所で既に酒瓶を軽く何本か空けている始末である。

 そうこうしてる間に料理が完成し、主に軽巡と重巡の艦娘が率先して料理をテーブルへと運ぶ。

 一通りの料理がテーブルへ行き渡ると、秘書官の一人である長門が檀上に立ちマイクを取る。

「秘書艦の長門だ。皆はもう知っていると思うが、この鎮守府に新たな仲間が加わった。今回はその着任祝いと云う事でこの催しを開催させて貰った」

 今回のパーティの経緯を云い終えると、入れと一言。 その言葉の後に食堂の扉が開かれる。

 

  §

 

「大丈夫?」

「は、はい!」

 先程、提督から自分の歓迎パーティがあるから付いて来てほしいと云われ、現在提督と共に食堂へ向かっているのだが、どうも提督の前では緊張のせいか舌が上手く回らない。

「ここの子達はね、凄く仲間思いなの。だから、貴方の事は凄く心配しているわ。だから貴方はただ今日は楽しめば良い。全て忘れてね」

「――はい」

 その言葉にほんの少しだけ胸が軽くなった吹雪であった。

 食堂の扉の前まで行くと立ち止まる提督、それに合わせて吹雪も扉の前で立ち止まる。

 すると提督は無言で吹雪の左手を握ってきた。少し頬を染める吹雪、それと同時に扉越しから、入れと云う言葉が聞こえて来た。この力強い自信に満ち溢れた声色は恐らく秘書艦の長門さんであろう。そう確信を持ち、提督と共にドアノブを回し扉を開ける。

 

 『吹雪ちゃん、着任おめでとう!』

 

 吹雪を心から迎え入れる暖かい言葉の波に吹雪の目頭がほんのりと熱を帯びる。

 

 §

 

 そこからは夢のような時間が続いた。

 鳳翔、間宮、二人の料理は勿論のこと、全ての艦娘と話せるようにと長門と提督が気を使ってくれたのか、ローテーションの形で順番に各艦娘達と楽しい一時を過ごす。

 殆どの艦娘達の話を終えると急激な喉の渇きに襲われた。それ程までに話に夢中だったのかと思うと少し燥ぎ過ぎたなと反省をする。

 すると、そんな吹雪を察して気を使ってくれたのか、一人の艦娘が吹雪のグラスにジュースを注いでくれた。 その艦娘が軽空母の先輩であると気づくと慌てて吹雪も相手のグラスに何か飲み物を注ごうとするが『かまへん』と、一蹴されてしまう。その後、碌に話もせずにその艦娘は一人の艦娘の元へと歩いていく。呆けている吹雪に気づいたのか、軽空母の艦娘と共に居る艦娘がこちらへ笑顔で手を振ってきた。それに笑顔で手を振り返す、おそらく自分と同じ駆逐艦の子だろうと予想を立てる。

 パーティも中盤と云ったところで睦月、夕立、如月の三人と合流した吹雪は皆で那珂ちゃんのライブを観る。途中那珂ちゃんに無理やりステージに引きずり込まれ翌日神通さんに謝られたのはまた別の話だ。

 那珂ちゃんのライブで少し辱めを受けた吹雪は秘書艦の長門に誘われ、飲み物片手に人気のないテラスに誘われた。

 誘われた吹雪はと云うと(はしゃ)ぎ過ぎて怒られるのかなと内心ビクビクしていた。

「吹雪」

 長門が自分の名を呼んだだけなのに『ひゃい!』と、間抜けな声を上げる。それに対し長門は緊張するなと、笑いながら吹雪の肩を叩く。

 再び吹雪の名を呼ぶと長門は前回の作戦の詳細を語りだした。

 何故あの場に深海棲艦が出現したのか。

 深海棲艦が使用した兵器の詳細。

 あの場に居た奇跡的に助かった民間人の安否。

 その人たちが誰も吹雪を恨んで居ないこと。

 そして、吹雪はやれる事を全てやったこと。

 それだけ云い終えると長門は吹雪へ頭を下げた。

「済まない、こちらの采配ミスだ」

 突然自分へ頭を下げる長門を目の前に慌てる吹雪。それを笑いながらこちらへ向かってくる人物が居た。

「て、提督さん!」

「ふむ――吹雪、私からも謝ろう。元はと言えば私の責任だ。すまない」

「そ、そんな! 提督さん達は悪くないです! 長門さんも顔を上げて下さい!」

「む? そうか」

 すると海色提督は吹雪の言葉に対して、ならと続けた。

「吹雪、君も悪くはない。君はまだ自分を責めている、それをやめてほしい」

 提督の言葉に言葉が詰まる吹雪、やっと吐き出した『でも』と云う言葉に海色提督は続けざまに云った。

「忘れるなと言ってるのではない。だが君のその思いは錘となり枷となる。そんな状態の君を戦場へは出せない。だから覚えていてほしい、君が救えなかった人も救った人もただ忘れないでほしい。背負わずに思い出として共に歩んでくれ」

 正直今の言葉は吹雪には理解できるものでは無かった。あんなのを思い出として、これから生きて行くと考える発狂しそうだからだ。だが決して忘れてはいけないと云う事だけは理解できた。

「まだ理解はできないと思う、だが決して自分一人の責任だとは思うな」

 その言葉にただ頷くことしかできなかった。

 その後、ただ一人残された吹雪は壁に背中を預け、空を見上げた。

 先程提督が云った言葉について少し考えた。

 やはりいまいち理解が出来ない吹雪は、ただ忘れてしまう事だけはしないと夜空に誓った。

 いつまでも決して忘れはしない――と。

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