Fleet Collection -復讐への忠義- 作:霖雨
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「只今、夕張主任をお呼びしていますので、そちら御席に御掛けになって御待ち下さい」
そう云われた海色白兎提督は海軍本部内にある夕張の研究所に来ていた。用件は当然前回の事件と、夕張が提案した現代化改修の案についてだ。
席に掛けて待っていると部屋の扉が開き、夕張が入室してきた。お互いに軽い敬礼と挨拶を交わし、海色提督は夕張が保有する実験室の一つに案内される。
「さて、ここです。で、何の話でしたっけ?」
夕張の素っ頓狂な問いに白兎は無言の笑顔で返す。但し眼は笑ってはいない。
「あぁ! じょ、冗談です! そう! 艦娘ジョーク! 取り敢えず前回の深海棲艦との戦闘時に相手が使った兵器についてこちらで分かった事を報告しましょうか?」
続けろ、と白兎の言葉に夕張は一枚の報告書を渡し説明を始める。
「では。今回の深海棲艦――駆逐イ級ですね。イ級から発射された兵器は内部に“艦娘に影響の無い”フレシェット弾が内臓されたミサイルです。そして弾道を見る限り確実に標的をロックオン、誘導しています」
「WG42などのロケットの線は?」
「有り得ません、主観映像ではありましたが弾道を計算したところ確実に標的を狙っています。そして付近の電子系統がすべてダウンしていた事から相手はECM(電波対抗手段)を保有していると言うことです」
「笑えん冗談だな――だが実際それしか考えられないんだな?」
「はい、そうなります」
夕張の報告書に眼を通した白兎は書類を机に置く。
「話を変えよう。前回の案について詳しい内容、結果を聴きたい」
その言葉に夕張は待ってましたと、云わんばかりに早速準備に取り掛かる。
光の粒子が充満している空間に案内した夕張は、海色提督と少し距離を取ると瞬時に艤装を展開した。その状況に眼を丸くしている提督を見ると、自慢げにこの艤装について語りだした。しかし、長くなりそうと云う提督の言葉で一蹴されてしまう。
「むぅ―、まぁいいです。見ててください」
すると夕張の艤装が光の粒子となって消えたと思うといつの間にか白銀の艤装を展開していた。これには流石の海色提督も言葉を失う。
形状を見れば艤装だと分かるのだが、質感が違った。 本来鋼鉄、鉄の塊のゴツいイメージがある艤装だが、夕張が展開している艤装は機械的且つスマートな印象がある。白銀の艤装を纏い、辺りに光の粒子に囲まれた夕張は『どうです?』と、云うと白兎はその美しさに感嘆の声が漏れる。
§
「原理は簡単です。本来艦娘が保有する艤装を、こちらが用意した新たな艤装に詰め込んで艦娘側に旧艤装だと誤認識させる事です」
聴く分には無茶苦茶な理論だが、現に今、それが成功してるのだからそう云う事なのだろう。
しかし、その理論が適用されているのなら何処にあの鋼の塊を収納するのだろうか、艦種によっては大小は様々だが夕張が現在展開している艤装にはそんな物を収納するスペースはない。寧ろ小さくコンパクトになっているくらいだ。その疑問を海色提督は夕張へ質問する。
「その事に関しましては先程私が見せた艤装の瞬時展開に答えがあります。これは元々艦娘がいかなる緊急時でも展開装置を介さずに瞬時に艤装を展開できないかと言うテーマの元、妖精さんの協力の下開発が行われました。そして完成したのが艤装の粒子化です」
すると夕張は周囲に待っている光の粒子へと意識を向ける。
「実際、私は現在も旧艤装を展開中です。この“光の粒子として”、ですが」
そこまで云い終えると、結局粒子化した艤装を一点に纏める為にはこの様な特殊な部屋が必要なので本来の目的であるコンパクト化携帯化については無理だったと付け加えた。
§
その後も夕張から全艦種の試作型の新艤装の説明及び、現時点で実用段階を迎えている新兵装の説明を諸々受け、それも終了した現在、休憩室で海色提督は夕張と共にコーヒーを飲んでいた。
「どうですか、提督のお眼鏡にはかないましたか?」
その疑問に海色提督は素直に肯定した。
「そ、そうですか? 正直また何か言われるのではないかと思ってました……」
海色提督の素直な肯定が意外だったのか夕張は少し拍子抜けする。何故なら前回の会議では目の前の提督が一番今回の案について食って掛かって来たからだ。正直今回も提督が直々にこちらへ伺いに来ると、聴いた時は何かの連絡ミスではないかと思った程だ。
「ふむ、まだ私は小言ばかりの小姑と思われているらしい」
「い、いえ! 大変失礼しました!」
すると提督は笑いながら冗談だと云った。
「くっ――。海色提督は少し性格がよろしくないです…」
「ハハッ、さて――本題に入ろうか」
そう、今回の現代化改修についてだ。
「率直に言うと是非我が鎮守府に来てほしい。そして初の実戦投入は私の艦隊でお願いしたい――」
そう云い終えると提督は『どうかな?』と、夕張の顔を伺った。
「――正気ですか?」
「君は私が何らかの障碍者に見えるかね?」
「そう言う事では無「君にとっても悪い話ではないだろう」……はい」
夕張の反論を言葉を持って叩き伏せる。
「幾ら君が優秀であろうと実験対象が居なければ役立たずだ。“軽巡”だけじゃぁ物足りんだろ?」
海色提督のその言葉に夕張は恐怖を覚えた。恐る恐る顔を見るとそこにはニッコリと笑顔と云う名の仮面を付けた提督が居た。咄嗟にこの人に敵う者は居ないと悟った。
しかし、それでも夕張は言葉を発する。確かめなくていけない、先の発言で思った事だ。この人は本当は我々艦娘を“どう”思っているのか。
「海色提督、貴方は先程言いましたよね? 実験対象が居なければ――と。
夕張の必死の抵抗に海色白兎と云う人間は表情を変えず云い放つ。
「君は優秀だろ? なら失敗はないだろ」
提督からの遠まわしの失敗は許さないと云う発言、そしてもし“動物”を作ってしまった場合自分がどうなるのか――。それを考えるだけで夕張は自身の胃から金切り声が聴こえてくる錯覚を覚えた。
詰み、今の夕張の状況を二文字で説明するなら正にそれだ。別に海色提督の提案を蹴る事も可能だろう、ただその選択をした自分に先はあるのだろうか。
この提督なら何かを仕掛けてくる気がする。否、必ず何かこちらに対して制裁なり報復なり仕掛けてくるだろう。それに海色提督の云う通り実験対象が自分だけで困っていたところだった。
毒を食らわば皿まで――。そんな意気込みで夕張は苦虫を噛み潰したような表情で海色提督の提案に頭を縦に振る。
夕張の(半ば強制させた)承諾に海色提督は笑顔で『君ならそう言ってくれると信じてた』と、思っても無い事を云ってのけた。
「では、私はそろそろ鎮守府に戻るとしよう。君も移動の為の準備があるだろ。書類関連は全て私がやっておくから安心してくれたまえ」
そう云って海色提督は部屋を出ようとする。
「提督! 貴方の目的は何ですか?」
自分でも何故こんな質問を投げかけたのか分からなかった。海色提督はその質問に顔を見せずはにかむと、
「勿論世界平和だよ――“永久”に願っているさ」
それだけ言い終えると足早に部屋を退出した。
「“永遠”に…ですか。それが機械的な平和じゃ無い事を私は祈りますよ――」
誰にも聞こえない声で夕張はそう呟いた。
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