クロガネ回姫譚-不動不朽-   作:冷目

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プロローグの第二話目です。
今回は第一話から出ている黒金についての説明回です。
あと何回かのうちに残った説明と第一学園との交流をやった後、日常回という名の本編に入っていきたいと思います。
さて、今回ですが前回の倍近い長さです……
いらないであろう部分は何か所か見受けられますが……どうか見逃してください……
それでは、どうぞ!





第二学園黒金班

 1月8日(木)

 

 

 

 「はあ……」

 

 ミカサと話していたオレだが、アイツは昨日の報告があるとかで仕事に入った。

 別にいてもいい、とは言われたが仕事の邪魔するわけにはいかん。手伝うにしても報告系はさっぱりだしな、オレ。

 眠気覚ましに歩いてくる、と適当なことを言って会長室を後にした。

 

 「オッス、悟!」

 「今日も眠そうだな、お前は」

 「おー、まあな」

 

 会長室の近くには3年の教室がある。オレは3年生のため必然的に知り合いに会う確率が高くなる。

 ……まぁ、同じ学校にいるんだから確率もクソもないが。

 つうか、この学校じゃオレ「は」知らなくてもオレ「を」知っている奴は大勢いる。

 

 「お疲れ~、繰銀副会長!」

 「会長室から来たってことは……また敷島会長と仕事? 大変だね~」

 「どーも」

 

 そう、オレはこの学校の副生徒会長を務めている。いつの時代でも、自分の学校の会長副会長くらいは把握しているものだ。

 ちなみにミカサは生徒会長。だから会長と呼ぶ奴が多い。

 ……オレが呼んだら怒られるんだけどな。しかし、黒金班の班長と生徒会長を兼任するなんて物好きな奴だ。オレなら絶対に無理。どっちか片方でも無理だ。一般的学生の集まりである生徒会の副会長くらいがちょうどいい。

 しかし……

 

 「ふわぁぁ……」

 

 やば……。夢見が悪かったからか、また眠気がこみ上げてきた。

 かといって会長室に戻るわけにはいかないしな。さて、どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「あー、極楽極楽」

 

 悩みに悩んだ結果(時間にして3分ほど)、会長室とは別に存在している生徒会室で横になることにした。

 会長室ほどじゃないが、ここもそれなりに整備されていているしソファもある。それに室内だから暖房もあるから、ただ寝るだけなら十分だ。

 

 「寝心地は会長室ほどじゃないが……我慢するとしよう」

 

 寝れるだけでもありがたい。眠気を覚ますには寝るのが一番だからな。

 それじゃあ今度は変な夢を見ないことを願って。いざ夢の世界へ────

 

 「先輩!!」

 「どわぁ!?」

 

 突然、生徒会室のドアが大声と共に勢いよく開かれる。

 どこのヤクザのカチコミかと思って見てみると……見知った顔が3つ。

 

 「……誰かと思ったらお前らか。国綱、瀬織、伊号」

 

 見知った、というより昨日も共に仕事をした黒金班のメンバーたちだった。

 

 「す、すみません先輩。お休み中に」

 

 和泉国綱。

 日本でもかなり名の知れている名門道場、和泉流剣術道場の跡取り。真ん中で分かれた茶髪にネクタイだけでなく制服の上着までキッチリと着こなす真面目な奴。

 なんでも十年前くらいに幼馴染に剣術で負け続けた経験があるらしく、ほぼ努力と根性で剣術を磨いてきたという。その努力の甲斐あって、若くして和泉流剣術は免許皆伝。その戦闘力も黒金班トップクラスだ。

 頼りになる奴なんだが……真面目なのもあって頭が固いところがある。そこさえ直ればな……。

 

 「む~……!」

 

 で、なんかむくれてるのは瀬織摩耶。大声上げてたのはコイツだな。

 桃色で首元の辺りが少しはね気味のくせっ毛。頭の右の方に白い花の髪留めをしている。スタイルは……ミカサと比べると気の毒、とだけ言っておく。でも平均的だとは思う。

 国綱の幼馴染で、大体いつも国綱と一緒にいる。昔、とある事件で家族を全員亡くしており、それからは和泉家に引き取られて育ったという。国綱といつも一緒なのもそれが理由だろう。大体の奴は瀬織って呼ぶが、幼馴染の国綱はロッコと呼ぶ。誕生日が6月5日だからロッコ(6・5)……だそうだ。

 ていうか何でこの子はオレのこと睨んでんの? 怖い。

 

 「……ぐふっ」

 

 そんな瀬織に対して小馬鹿にしたように笑うコイツは伊号雷。この3人の中だと一番クセがある奴。

 右の頭半分が濃い茶髪のオールバックで、左側は白い髪を垂らしている。あと、結構ひどいのは左側だが……コイツの顔にはかなり大きい傷痕がある。といっても事故による傷とかじゃない。

 コイツはいくつものアレルギーを持っていて、さらに情緒不安定なところがある。それらが起因して感情が高ぶると全身に痒みが出るらしく、皮膚が傷つくほど掻いてしまうのだ。ちなみにミカサの一番のお気に入りで、伊号本人もミカサに心酔している。どんなにひどい痒みも、ミカサの手にかかれば抑えられるという。

 ……愛だな、うん。やはり女同士の愛は素晴らしい。

 

 さて、一通り紹介したわけだが、そもそもこいつらは何の用があってここに来たんだ?

 と、それを尋ねようとしたまさにその瞬間に瀬織がズイ、と身を乗り出してきた。

 

 「先輩! さっきまでどこで何してたんですか!?」

 「……何って?」

 「だから! どこで! 何を! どんな理由があってしてたんですか!?」

 

 鬼気迫る表情で声を張り上げる瀬織。おかしいな。コイツ年下のはずなのにすごく怖いぞ?

 ……とりあえず正直に言った方がいいよな。

 

 「さっきまでなら……会長室で寝てたぞ? ミカサに起こされたがな」

 「やっぱり……」

 「だから言ったジャン。どーせ寝てるって」

 「ッ~~~~!!」

 

 オレが正直に答えたところで、国綱はやれやれと目元を押さえ、伊号は呆れたようにため息をついた。瀬織に関しては顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。

 そりゃあオレは寝るのが趣味といってもいいくらい寝ているが……そんなリアクションまで出るか?

 さっきから意味がわからな──

 

 ──バン!!

 

 「ふざけんのも大概にせぇよ、コラァ!!」

 「ファッ!?」

 

 え? 何この子?

 急に訛ったんだけど。つーか急にキレたんだけど。

 キミそんなキャラじゃないよね? 鬼の形相して机を思いっきり叩くようなキャラじゃな──

 

 「聞いとんのか、オイ!」

 「はい!」

 

 思わず背筋を伸ばして敬語になってしまった。なにこれ、怖い。

 オレの中の逃走本能が働いたのか、オレは無意識のうちにコイツの幼馴染である国綱の方に視線を向けていた。

 視線の意図がわかったのだろう。国綱は頬をポリポリかくと、申し訳なさそうに目を伏せた。

 

 「すみません、先輩……。こうなったロッコはどうにもできません」

 「観念して殴られてろっての。ぐふふ……」

 

 もっとしっかりしろ、幼馴染! てゆーか殴られんのかよ、オレ!

 本当に意味がわからないぞ! 誰か説明を──!

 

 「往生際が悪いわ! そこに正座せぇ! 正座!!」

 「はい!!」

 

 ……後輩でも、人を怒らせたらいけないね。

 オレは今日、新しくそれを学んだ。

 

 「……一個聞くで。今日は何月何日や」

 「は? それ、なんの関係が──」

 「何月何日や!」

 「1月8日! 木曜日! 平成スタートの日です!」

 「最後のはいらん!」

 

 ちなみに前日の1月7日が昭和天皇崩御の日。これが朝に起こったため午後に臨時閣議が開かれて、次の元号は「平成」に決まって翌8日からスタートしたという。年号としては1989年。

 他にも「()()かの勝負」にかけて勝負事の日、()()ホンの語呂合わせでイヤホンの日というのもあるんだが……お気に召さなかったらしい。

 ……当然か。

 

 「それで、今日は何の日や」

 「いや、だから平成スタートの──」

 

 ──バシ!

 

 「はたくぞ、コラァ!」

 「痛ってぇ! もうはたいてんだろうが!」

 

 ああ、ダメだ。意味がわからない。コイツは何に怒っているんだ。

 こうなったら今度こそ国綱に助けてもらうしかない。止めるのは無理だとしても、国綱なら瀬織がキレてる理由くらい想像できるだろう。

 

 「おい、国綱。お前なら答えもわかるだろ? 早くこの暴走珍獣を鎮めたいから教えてくれ」

 「……あの、先輩? 本当にわからないんですか?」

 「? ああ」

 

 何言ってんだ、コイツ。わからないから聞いたってのに。

 

 「……だとしたら、オレも一発だけ殴っていいですよね」

 「ハア!?」

 

 嘘だろ、国綱まで敵に回ったぞ!? マジで八方塞がりじゃねぇか!

 1月8日が何の日か!? 知らねぇよ、誰かの誕生日か、おめでとうハッピーバースデー!!

 

 「おい、伊号。本当に助けてくれ。助けてくれたら何か奢るから」

 「アンタに奢られるほど苦労はしてないジャン」

 「うぐ」

 

 ダメ元で聞いてみたがやはりダメか……。

 くそう、いったい何が答えなんだ……。

 

 「……ハァ。テンだよ、テン」

 「Ten?」

 「そっちじゃねぇっての」

 

 てん? 点……店……天…………etc,etc

 ……………………。

 

 「あー!?」

 「やっと気付いたジャン」

 

 そういうことかよ! つか、それならそれで最初からハッキリ言えっての!

 

 「えーっと、つまり瀬織はオレが天国の見送りに行かずに寝ていたことを怒っているんだな?」

 「当たり前やろ!」

 

 やっぱり。テンっていうのは天国のあだ名だ。

 オレは呼ばないが、女性メンバーは大体そう呼んでいる。

 そりゃ幼馴染の瀬織は怒るわな。同じように、兄の国綱も。

 

 「いや、それは本当に悪かった。でも、ミカサも言っていたけど天国は気にしてなかったんだろ? 昨日のうちに言うこと言ったし、渡す物は渡したし」

 「ゴラ! 気安く会長様を呼び捨てにしてんじゃねぇジャン!」

 「普通は当日にやるものやろうが! 大体、寝てたっていうのが問題やろ!」

 「ああもう、しっちゃかめっちゃか」

 

 両方の導火線に火を点けちまった。ていうか、本人は呼べって言うのに伊号の前じゃダメって面倒臭すぎるんだが。

 伊号の方は今後気を付けるとして、瀬織の方は……仕方ないから真面目な理由を話すか。

 

 「しょうがないだろ。お前らのも相当だが、オレの黒金はかなり身体に負担かけるんだから」

 「う……」

 

 ビンゴ。

 コイツは国綱と同じで根が真面目だから、まともな理由を言えば引くときは引く。悪く言えばバカ正直だが、良く言えば物わかりのいい良い子だ。

 

 「昨日の仕事じゃそれなりに使ったし……オレの意志でどうにかなるものじゃないんだ。もちろん申し訳ないと思ってるし、後々に別の形で取り返そうとは思ってる」

 「…………」

 「今回のところはそれで許してくれないか?」

 「そういうことなら、いいけど……ツナちゃんは?」

 「元から天国が気にしてなかったからな。一応、覚えてはいたみたいだからオレは別に」

 「ギリギリギリ」

 

 ふぅ、助かった。そこで爪を噛んでる後輩のおかげだ。

 それにしても、黒金がこんなところでも役に立つとはな。実際に使ったわけじゃないが、物は使いようってことだ。

 

 「その、先輩……? もう大丈夫なの?」

 「ん? ああ、さっき起きた時点でだいぶ疲れはとれた」

 

 夢見は最悪だったけどな。寝起きは……まあ、良かったと言っておく。

 

 「傷とかは?」

 「モーマンタイ。かすり傷一つねぇよ」

 「相変わらず便利な黒金ジャン」

 「この反動さえなければな」

 

 黒金──。

 オレたち黒金班が使える特別な武器であり、この世に存在する不思議の一つ。

 難しいことはよくわからないが、なんでも地球で起こった事象を凝縮させたものらしい。つまり、昔起こった事象を再現することができる道具。再現する事象は黒金によって違うんだが、どれも人智が及ぶ範囲の事象じゃない。とてもじゃないが、現代科学でも再現不可能なことが現実にできる。デフォルトが鉄として生まれるため、加工することも可能。まあ、石ころ持って戦うわけにいかんからな。

 

 あと、黒金は地球上で起こった事象なんだが、宇宙規模で起こった事象を再現するものも存在する。それは現晶(げんしょう)と呼ばれる。こっちは宇宙規模のため、起こる事象のレベルが黒金の比じゃない。地球に存在する「不思議な力を持つ石」などは現晶なんだとか。

 早い話、不思議度は「黒金=現晶」で、レベルは「黒金<現晶」って感じだ。ああ、あと黒金も現晶も尋常じゃないくらい硬い。DCD鋼……ダイヤモンドカットダイヤモンド鉄鋼だっけか。最新鋭の研究で作られたダイヤすらスパスパ切れる金属よりも硬いらしい。

 オレたち黒金班は、そんな黒金や現晶を使って日々の仕事をこなしている。

 昨日だってそう──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「おい、どうした!?」

 「あのトラック……荷台が開いたぞ!」

 「なんだありゃ、ガキじゃねぇか!」

 

 ハイウェイバスジャックをし、要求に従わなければ乗客もろとも特攻……だっけか。まったく、物騒極まりない連中だな。

 

 「よし、行くぞロッコ!」

 「ツ、ツナちゃん! 心の準備くらいさせてー!」

 「そんな暇ないジャン!」

 

 まずは先陣として国綱、瀬織、伊号の三人がトラックからバスに向かって跳ぶ。一応、訓練されているため身体能力だって同年代とはワケが違う。車から車に跳ぶくらいなんてことない。

 

 「飛び込んできたぞ!」

 「バカが! このバスは最新鋭だぜ! 体当たりしようが何しようが止められねぇよ!」

 

 なんて中のテロリスト共は思ってるだろうが……そりゃ間違いだ。

 

 「じゃ、先に仕掛けるジャン。そしたらよろしく」

 「ああ、任せろ」

 「早くして~! 足を地面に着かせて~!」

 

 バスに触れる前に、空中で伊号が空気を握る(・・・・・)。そのまま空中で振りかぶり、バスに向かって……投げた。

 

 ──パァン!

 

 「うわぁ!」

 「な、何が起こった!?」

 「わからねぇ! わからねぇけど……凍ってるぞ!」

 

 伊号の黒金は『圧縮』。グローブ型の黒金で、どんな物質でも握り潰すことができる。しかも、握り潰せるのは物質だけでなく空気も同じ。その場合、窒素や酸素が圧縮することで固定化するため急激に温度が落ちる。結果としてマイナス200度近い氷弾となるが、投げればすぐに周囲の空気に溶けて蒸発してしまう。まあ、それでもマイナス100度は周囲に伝播するため効果としては充分だ。

 マイナス100度という超低温が伝播し、バスの前方をカチコチに凍らせる。こうなればあとは簡単になる。

 

 「よし……行くぞ!」

 「うわうわうわ!! ツナちゃん、怖い! 急に動かないで~!」

 「ちょ、ロッコ!? 暴れるな! 構えられない!」

 「い~や~!!」

 「く……! はあああっ!!」

 

 ──ガシャアアアアア!!

 

 「ギャアアアア!!」

 「い、いったい何なんだぁぁぁぁ!!」

 「……ふぅ」

 「ったく、ヒヤヒヤさせんなジャン」

 「だ、だって~……」

 

 なにやらトラブルがあったが、凍ったバスの前方を手持ちの木刀で粉々に砕く国綱。これで侵入することはできるし、後からオレたちが跳び込むこともできる。

 国綱が持っているのは現晶の『無軸(むじく)』。詳しいことはわかっていないが、重心を移動させる現晶だと国綱は理解している。拳でも蹴りでも、はたまた武器の一撃でも。自身の重心を攻撃の瞬間にそれらに移すことで通常ではあり得ない遠心力を発生させることができるという。簡単に言えば、「どんな状態からでも達人級の攻撃を繰り出すことが可能になる現晶」。

 ペンダントの先に現晶を付けているが、普段はネクタイに隠れて見えない。ちなみに、国綱が木刀を使うのは『無軸』によって生まれる威力が強すぎるから。これが真剣ならバスなんて真っ二つになってしまうだろう。といっても、あの木刀もこしらえに黒金の屑鉄が使われているからクソ硬いんだけどな。

 

 「さて、オレたちも行くぞ。準備は良いな、ミカサ」

 「もちろんよぉ。じゃ、さっそくお姫様抱っこでお願い」

 「は?」

 

 ……オレの聞き間違いか? まさかこんな状況でそんなこと言うはずが……

 

 「お、姫、様、だ、っ、こ……ね?」

 

 あったらしい。なんだろ、頭痛くなってきた。

 

 「一応聞くけど、それには戦略的意味があるのか?」

 「ないわぁ。私の自己満足よ」

 「元からやる気ないが、それ聞いて死んでもやりたくなくなった」

 「なによぉ、女の子は王子様にお姫様抱っこしてもらうのが夢なのよぉ」

 

 そんなメルヘンチックな乙女、今の時代じゃ逆に希少価値だと思うんだが。

 てゆーか……

 

 「お前は美人だからお姫様でもいいとして、オレは王子様なんて呼ばれる男じゃないぞ」

 「心配いらないわぁ。私にとってはそうだから」

 「心配だな。乗り込む前に眼科の予約でも取っておくか」

 「うふふ、冷たいのねぇ」

 

 当たり前だ。大体、そんなことしてバスに跳び込んだら明らかに変人だ。いや、それよりも先に伊号に殺されかねん。

 

 「言っておくけど、お姫様抱っこ以外で運んだら……私、今回は仕事しないわよ?」

 「なんつー脅しだよ」

 

 コイツのこういうとこ……早く治ってくれないかな。オレはお前にそこまで言われるような男じゃないんだが。

 はぁ、仕方ない。腹をくくるか。

 

 ──ぐい

 

 「ひゃ……!」

 「瀬織みたいに暴れるなよ」

 

 ご希望通り、お姫様抱っこして跳んだ。コイツ本当に軽いな。ちゃんと食ってんのか。

 バスの前方の広い入り口を通り、オレたちもバスに到着する。そして、ほぼ同時にミカサを下ろしてやった。注目されるのは嫌だ。

 

 「か、会長様になんてことを……!! ギリギリギリ」

 

 それでもコイツの目はごまかせなかったようだ。ああ、もう嫌だ。

 

 「…………」

 「おい、ミカサ。なにボケっとしてんだ」

 「え? あ、ああ」

 

 運べって言った本人がなに呆けてんだ。つか、せめて礼の一つくらい言ってくれ。

 

 (い、意外と照れるものなのねぇ、これって……)

 

 なに赤くなってんだ、アイツは。こっちも照れるからやめてくれ。

 

 「しっかし国綱。随分と派手に壊したな。一般人に被害出てないといいんだが」

 「大丈夫ですよ。加減しましたから、運転手にだって怪我はありません」

 

 さすが免許皆伝。現晶も凄いが、コイツの剣術の腕前もかなり人外レベルだ。

 

 「な、なんだ……! なんなんだ、お前らは!」

 「あいにく、テロリストに名乗るような名前は持ち合わせてねぇよ」

 「私たちは特警です! 大人しくしなさい!」

 

 なにドヤ顔で答えてんだ、このバカは。瀬織の奴、正義感があるのはいいが少しは落ち着け。

 それにしても……7人ってところか。それなりにいるが、大した武装はしてないな。

 

 「と、特警だぁ?」

 「ガ、ガキの集まりが……なめんじゃねぇ!」

 

 突然のことに頭に血が上ったようで、テロリストたちはナイフを取り出して向かってくる。……単純だな。これなら長くはかからないだろう。

 

 「国綱、伊号。そっちの4人任せた」

 「はい!」

 「言われるまでもないジャン!」

 

 テロリストの中でもナイフを持っている奴らを近接系の二人に任せた。あの二人ならまず問題はない。オレはビビって動きが止まっている残りを片付けることにした。

 

 「ま、さっきバカが名乗ってたが特警だ。逮捕させてもらうぜ」

 「う、ぐうう……!」

 

 オレたち黒金班の目的はあくまで逮捕。普通の特警と同じだ。だから手錠も持っているが……おそらくまずは戦闘不能にすることが必要だろうな。

 

 「う、うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 一人が叫びながら突っ込んできた。武器を出さないところを見ると、どうやら手ぶららしい。こりゃ好都合だな。

 

 「シッ!」

 「あがぁ!」

 

 隙だらけだ。細かいことなしに思いっきりぶん殴ってやると、いとも簡単に倒れてしまう。やれやれ、簡単だな。

 

 「こ、このヤロォォォォォ!」

 「ふざけやがって!」

 

 残った二人も突っ込んできた。こっちは……それぞれサバイバルナイフ一本か。特に問題はないな。

 

 「よっ」

 「な!? あ、が……!」

 「や、止めろ……!」

 

 ナイフを持っている手を掴んでひねってやる。思ったより根性がないな。すぐにナイフを落とした。

 

 「──よし、終了。国綱、そっちは……」

 「こっちも終わりました」

 

 3人に手錠をかけてから国綱と伊号の方を見ると、あっちも終わっていた。よし、上々だ。

 あとはこいつらを連行すれば今日の仕事は終わり──

 

 「う、動くなァァァ!」

 「ッ!」

 

 突然、奥の座席の方から怒鳴り声が上がる。見てみると、明らかに目が血走っている男が震える手でナイフを持っている。

 切っ先を隣にいる女性に向けながら。

 

 「い、いや! 助けて!」

 「騒ぐな! おい、お前ら! 今すぐ手錠を外して武器を捨てろ! この女がどうなってもいいのか!」

 

 ……しまった、奥の方に一人隠れていたか。人質なんていうテンプレな方法をとっているが、あの眼はかなりヤバい。下手に刺激すれば人質に切りかかる勢いだ。

 

 「聞いてんのか、お前ら! 早く手錠を──ッ!?」

 

 まあ──

 

 「あ、ああ……」

 

 問題は無いんだけどな。

 

 「痛ぇぇぇぇぇぇ!! 腕が! 痛ぇぇよぉぉぉぉ!!」

 「女の人を人質に取るなんて……最っ低!」

 

 突然狂ったように左腕を押さえるテロリスト。その隙に女性は無事に逃げてみせる。見ると、瀬織が真っ直ぐとテロリストのことを見て怒りの表情を浮かべている。どうやら黒金を使ったらしい。

 瀬織の黒金は『空蝉(うつせみ)』。頭に着けている花の髪飾りがそれなんだが、意外と能力はえげつない。『空蝉』は自分が感じている神経系の感覚を相手にそっくりそのまま写す能力で『写せ身』とも言う。

 普通の状態で使っても意味は無いが、瀬織が使えば話は別だ。コイツは見る限りだとわからないが、実は常に激痛が伴っている。なんでも子どもの頃に巻き込まれたテロで負った傷が原因だとか。本人は長い間、その痛みを味わっているため慣れているなんて言うが、慣れていない人間に写せば見ての通りだ。1対1の状況なら間違いなく強い。

 

 ──ドサッ!

 

 あまりの痛みにテロリストは気絶してしまった。つうか痛みだけで気絶とか、コイツが軟弱なのか瀬織が感じている痛みが半端ないのか……どちらにしても凄いな。

 さて、無事にテロリストは制圧できたみたいだし、後は後始末だな。特に今回は……

 

 「…………」

 「…………」

 

 一般人っていう目撃者もいるわけだしな。

 

 「ミカサ、頼む」

 「了解よぉ。とりあえず一か所に集めてちょうだい」

 「はいはい」

 

 言われた通り、怯える乗客を落ち着かせながら一か所に集める。無理もないか。突然テロに巻き込まれて、それを助けに来たのが特警を名乗る少年少女たち。しかも摩訶不思議な力を使っているときた。怯えるのも無理はない。

 幸いにも満席じゃなかったらしく、奥の方に詰めたら何とかなった。準備ができたことを伝えると、ミカサは乗客たちの前に進み出た。そして、不敵に微笑む。

 

 「さて、皆さん。さっきのことなんだけど……私の眼を見てくださらない?」

 「……?」

 

 不審がりながらも、言われた通りミカサの眼を見る乗客たち。そして、次の瞬間……

 

 「あなた方を助けたのは大人(・・)の特警の方々。学生の私たちなんて誰一人として見ていないわぁ」

 「……そう、だな」

 「助けてくれたのは……大人の特警だ」

 「ああ、助かったんだ……!」

 「…………」

 

 いつ見ても恐ろしいな。ミカサの黒金……『認識』の黒金。

 アイツの場合はあの眼が黒金だ。つまりは義眼。アイツは学園に入学して黒金班に入るまで、まったく眼が見えない状態で生活してきた。深くは知らないが、瀬織と同じく子どもの頃に巻き込まれたテロの影響らしい。

 学園には障害者でも入学できるし、身体障害の検査は厳しくない。だが、優遇措置などはないし偏差値だってそれなりだ。それをまったく見えない状態でクリアしてきたんだから大したものだ。

 

 さて、そんなミカサの黒金だが、『認識』の名の通り「黒金そのものが認識して使用者が把握する」というものだ。つまり、黒金が眼の代わりになるのだ。そのため、今のミカサはちゃんと見えている。

 だが、『認識』の真価はその先だ。これは黒金そのものを起点とし、使用者の知覚を対象に逆投射することもできる。つまり、あらゆる『誤認識』を起こさせることができる。もっと簡単に言えば強力な幻や催眠術だ。今使ったのがまさにそれで、ミカサはオレたちの仕事を大人の特警がやったと乗客たちに思いこませた。

 

 黒金や黒金班は存在自体が秘密裏なもの。たとえ巻き込まれた被害者といえ、情報が漏れるわけにはいかないためこういった措置が必要なのだ。

 まあ、普段はテロリストしかいない状況がほとんどだから、こんな風に使うことはまずないんだが。今回は特別ってワケだ。

 

 「……よし、これで完全に終了だな」

 

 テロリストも完全制圧、情報漏えいも防いだ。結果としては申し分ないだろう。

 

 「繰銀コラァ……! さっき会長様にしたこと忘れてねぇからな……!」

 「文句ならその会長様本人に言ってくれ。オレは被害者だ」

 「テメェ! 会長様に触っといて被害者とは何だ! むしろ感謝しろ、コノヤロー!」

 「お前は何に対して怒りたいんだ」

 

 難癖つけてくる伊号を適当にかわしながら、オレは制圧したテロリストたちのところに向かう。連行する時に手間がかからないよう、とりあえず一か所にまとめておくことにした。

 まずは最初に倒しといた武器を持ってない奴から──

 

 「うがあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 「!?」

 

 オレがそいつに近づいた瞬間、耳をつんざくような奇声が耳に入ってきた。

 見ると、何も持っていないはずのテロリストがナイフを持っており、その切っ先をオレの胸に向けて突っ込んできた。

 結局持ってたのかよ。さっきは頭に血が上りすぎて出すことすら忘れてたのか──!

 

 「先輩!」

 「くそ! 往生際の悪い!」

 

 それに気付いた国綱と伊号がこっちに来るが、どう考えても間に合わない。そしてオレ自身、あと数cmという距離の今の状態からナイフをかわすのは難しい。このままじゃ、間違いなくこのナイフが俺の心臓を抉る。

 ……くそ。あまり使いたくないが……仕方ない。オレだって死ぬ気は無いんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──『無血(むけつ)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ガキン!

 

 「……あ?」

 

 ナイフを突き刺してきたテロリストが間抜けな声を上げる。まあ、奇妙に思うのも当然だろう。なにせ刃物突き刺せば、簡単に皮膚が裂けるはずの人間にナイフを突き刺して……

 

 まったく刺さらない(・・・・・・・・・)んだから。

 

 「な、なんだよコレ……。なにがどうなって──!」

 「ハアッ!」

 「ぐげっ!」

 

 訳がわからず混乱しているテロリストを、国綱の拳が一撃で沈める。……はぁ、危なかった。

 

 「……ふぅ」

 「先輩! 大丈夫ですか!?」

 「問題ない。見てわかる通り、『無血』を使った」

 「ちぇ。一瞬だけ急いで損したジャン」

 「おいコラ」

 

 まあ、オレも同じ立場だったら心配しないけどな。それくらい、この『無血』は便利な黒金だ。

 

 「ッ……!」

 

 この副作用を除けばな。

 

 「大丈夫……?」

 「……ああ、すまない。大丈夫だ、ミカサ」

 

 ぐらりと視界が揺れて、身体のバランスが崩れて倒れそうになる。すると、ミカサが自分の身体全体を使って支えてくれた。正直言ってありがたい。

 

 「使ったのはほんの一瞬なのに……燃費が悪いわね。いつものことだけど」

 「オレ自身、そう思ってるよ」

 

 オレの黒金……『無血』は『静止』の黒金。右耳にしているピアスがそうだ。

 『静止』の名の通り、「使用者の身体を静止させる黒金」だ。つまり、オレ自身の身体の動きを完全に(・・・)止める黒金。そう聞くと意味のないものに聞こえるが、実は違う。

 静止っていうのは言ってみれば「何も変わらない」こと。『無血』を使えば、オレの身体は何があっても変わらない……つまりはどんな変化も起こらない(・・・・・・・・・・・)

 たとえナイフで何十回と刺されようが皮膚が裂けることは無いし、至近距離で爆発があっても身体が焼けることは無い。

 絶対防御の黒金……なんて言えば聞こえはいいが、使っている間はオレは動けないから攻撃なんてできないし、一瞬でも使えば強い反動が来る。詳しいことはわからないらしいが、やはり生身の状態で身体が完全に静止するのは物凄い負担がかかるんだそうだ。

 一長一短……オレの黒金はそれを形にしたような黒金だった。

 

 「あー、ダメだ……。こりゃ帰って寝ないとキツイな」

 「なんなら、トラックの中で休んでる? あとのことはやっておくわぁ」

 

 情けないな……。まぁ、天国への用事も仕事前に済ませたし、このまま寝てしまっても問題はないか。

 

 「……すまん。ちょっと、先に休む……」

 「大丈夫よぉ。和泉君、お願い」

 「はい」

 「先輩、やっぱりきつそう……」

 「男のクセにだらしねージャン」

 

 好き勝手言いやがって……まあ、真実だけどな。

 そのままオレの意識は暗闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 




黒金
 かつて地球上で起こった事象を物質として凝縮したもの。使える者が限られており、特警学園で適性がある者が黒金班の候補として選ばれる。能力は千差万別だが、共通しているのは元となった事象の再現をしているということ。

現晶
 宇宙規模で起こった事象を再現することができるもの。黒金と違い、宇宙規模の事象のため物によっては地球すら壊れかねない。事象の再現をしているところは黒金と同じだが、その規模は比べ物にならない。



この二つは難しいこと考えず「不思議な力が使える石」とでも考えてもらえれば大丈夫です。本編が日常なのでそこまでメインに出るとは思いませんが……まあ、一応。
瀬織さんはキレると怖いオカンキャラです。原作プレイ時は笑いながら見ていました(笑)
そして主人公の黒金は『無血』。これはまさに「何を受けてもノーダメージになる黒金」とでも思っていただければ。で、使うと反動が来るというタイプです。
それでは長々と失礼しました。
また次回、よろしくお願いします!


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