クロガネ回姫譚-不動不朽-   作:冷目

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さて、第六話目となりました
今回からオリジナル展開がチラリと見えてきます
第一に興味津々の主人公はどう動くのか……注目を
では、どうぞ!





そこにあなたがいたから

 1月12日(月)

 

 

 

 一般的に、月曜日というのはひどく憂鬱なものだ。

 また新しい一週間が始まり、学生なら学校が、社会人なら仕事が待っている。それを嬉しがる奴はかなり少ないだろう。

 

 だが、何事にも例外というものは存在する。まさしく今日と、コイツ(・・・)がそれだ。

 

 『悟様~! やっと第一学園に行けると思ったのに、なんで休みなんですか~!』

 「それはな、天国。今日が成人の日、国民の祝日という素晴らしい日だからだ」

 『天国は早く学園に行きたいのに! 世界は残酷です!』

 「なんで休みなのに文句言ってんだ。この奇行種め」

 

 1月第2月曜日……成人の日として休みが約束されているこの良き日に、オレは無駄に早起きをすることになった。その原因は、休みなのを嘆く物珍しい真面目な学生……和泉天国のせいだ。

 朝7時なんていう早い時間に電話をかけてきたコイツは、「なぜ今日が休みなのか」という文句を延々と続けている。

 

 「つうか、なんでオレに文句言うんだ。国綱とか瀬織に電話すればいいだろうが」

 『そう思ったのですが、兄様はこの時間だと鍛錬をしていますし、摩耶姉は朝が弱いので……』

 「消去法かよ」

 

 そもそも電話しなきゃいい話だろうが。というか、国綱はこんな時間から鍛えてんのかよ。兄妹揃って真面目なことだ。

 

 「どちらにしろ、今日が休みってのは仕方ないだろう。お前も寝るなり、鍛錬するなり何かやってろ」

 『天国は眠くありません。日課の素振りと居合の型取り両百回もすでに終えました。朝なので、過度の鍛錬はかえって毒と習いました』

 「そういう時は目を瞑ってろ。自然と時間は過ぎている」

 『悟様……意地悪です』

 

 オレの塩対応に、今ごろ天国は頬を膨らませていることだろう。電話越しだが、眼に浮かぶ。

 ……にしても、本当に兄妹揃って真面目だな。素振りと型取り百回ずつとか、もうやり過ぎだろ。

 

 『……わかりました。でも、ちゃんと話を聞いてくださってありがとうございます。やっぱり悟様は優しいですね』

 「……別に普通のことだろうが。ああ、そういえば身体の方は大丈夫なのか?」

 『ふふ、大丈夫ですよ。もうすっかり。それじゃ、失礼します』

 

 ツーツー、と電子音が鳴って通話画面が消える。やれやれ、朝から一気に疲れた感じだ。

 まぁ、天国もすっかり調子が戻ったみたいだし、そこは良しとしておくか。さて、せっかくの休みなわけだし、オレはまた夢の世界に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 目が冴えて……眠れねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「アハハハ! テンちゃんらしいね!」

 「笑い事じゃねぇ。おかげで無駄に早起きしちまった」

 「うふふ、健康的でいいじゃない」

 「どうせ電話来なかったら土曜みたいに昼過ぎまで寝てんだろ。むしろテンに感謝しろジャン」

 「先輩……寝過ぎも身体に悪いですよ?」

 

 昼前、オレは天国から連絡があったことを伝えるために黒金班メンバーを学園に集めた。電話とかメールでも良かったが、直接文句を聞いてほしいのと、ただ単に暇だったからというのが理由だ。

 一通り文句を言ったが、やはり天国の体調が回復して嬉しいんだろう。国綱や瀬織はどこか嬉しそうだった。ミカサと伊号に関しては……まあ、いつも通りだな。

 

 「人のライフスタイルは様々だ。オレからしたら、朝からバカみたいに鍛錬してるお前の方が信じられん。国綱、お前も天国みたいに百回素振りとかやってんのか?」

 「基本的に朝の日課は天国と同じですよ。オレは男なので、数は倍の二百回ですが」

 「聞かなきゃよかったわ」

 

 本当に兄妹揃ってバカ真面目だ。オレだったら耐えられん。やっぱりオレには昼過ぎまで爆睡して自由に過ごす人生がベストだ。

 

 「けど……日課ができるまで回復したっていうのは素直に安心かな」

 「テンちゃんが風邪引いたって聞いた時のツナちゃん、この世の終わりみたいな顔してたもんね~」

 「そ、そんなこと!」

 「オレは天国から連絡が遅れただけで鼻水と涎を垂れ流しながら泣きついてきた女を一人知っている。この点を踏まえて瀬織、何か言いたいことはあるか?」

 「涎までは垂らしてないよ! あと、それとこれとは話は別!」

 

 こいつらの場合は揃って心配性……っと。というか、鼻水垂れ流して泣きついたことは認めるのか。相変わらず素直というか、バカというか。

 

 「あまり瀬織さんをイジメちゃ駄目よ? はい、よしよし」

 「わひゃ! ちょ、くすぐったいです~」

 「イジメてねぇ。あと、その状態はしばらくキープでよろしく頼む」

 「鼻血出しながら言うなっつの……」

 「……伊号も、無意識かもしれないが空気を握るのやめてくれ」

 「ぐぎぎ……!」

 

 顔を真っ赤にする瀬織をなだめるように頭を撫でるミカサ。これだけでご飯三杯以上イケます、本当にありがとうございました。

 そしてオレは気付かなかったが、伊号は伊号で瀬織に無意識に嫉妬してたらしい。国綱がツッコまなかったら大惨事だったかもな……。おっと、鼻血は拭いておこう。

 

 「どちらにしろ、天国ちゃんは無事に第一学園に転入できそうねぇ。とりあえず、第一段階はクリアってところかしら」

 「ですね! いよいよ明日からか~。テンちゃんいい子だから、上手くやってけるよね!」

 「人付き合いは上手い方だからな。オレもその点は心配してない」

 「…………」

 

 手を叩き、簡単に話をまとめるミカサ。その言葉に瀬織と国綱は安心しきった表情を浮かべている。

 オレとしては……何か含みを感じるけどな。

 

 「……なぁに?」

 「……いや、なんでも」

 

 第一段階はクリア、か。さてさて、次の第二段階は何を求めているのやら。

 その後、適当に話に付き合ってからオレは寮へと戻った。気になることはあるが……無理に聞く必要はないからな。何事も無ければ……それでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 1月13日(火)

 

 

 

 「ミカサ、この前集めた資料ってどこだ? 確か今日提出だったはずだが」

 「あれなら昼休みに職員室に持っていったから問題ないわぁ。それより来月使う分の資料をまとめてくれない?」

 「そっちはもう終わる。後で持ってくるからチェックしてくれ」

 「あら、ありがと」

 

 一日遅く、火曜日からの学園生活が始まった。といっても、もう放課後だから終わりかけだが。

 オレは会長室でミカサと一緒に処理すべき書類の整理に追われていた。だが、ミカサは要領がいいし、オレだってやれることはやっている。そこまで忙しくはない。

 

 ──prrrrr!

 

 「ん?」

 

 突然、オレの携帯から着信音が鳴る。電話に出るくらいの余裕はもちろんあるので、オレは会長室から出て携帯の画面を見る。

 そこに表示されていた名は……「和泉天国」。

 

 「どうした、天国。風邪の次はインフルエンザでももらったか」

 『もらってません! 風邪だってすっかり治りましたし、天国は健康そのものです! 無事に転入の方が済みましたので、その報告です!』

 「ああ、なるほど」

 

 オレの軽口に対して、真面目に反論する声はまさしく天国。声の感じからして、どうやら本当に全快したらしいな。……ま、よかったといえばよかったけどな。

 

 「で、上手くやっていけそうなのか?」

 『はい! クラスメイトの方々もいい人ばかりで、楽しくやっていけそうです!』

 「まあ、その点は心配してなかったけどな」

 『そうなんですか?』

 

 国綱も言っていたが、天国は人付き合いが上手い。だが、それは決して意図してのものじゃない。あくまでアイツが生まれ持った性格とか雰囲気とか……そういう天性のものだ。

 簡単に言うなら、アイツは人から好かれやすい。

 

 『……あ、ところで悟様。今、会長さんはやはりお仕事中ですか?』

 「ミカサ? まぁ、オレも手伝っていたところだからな。絶賛仕事中だ」

 『そうですか……。会長さんには直接報告をと思っていたのですが、お仕事の邪魔をしてはいけませんね。悟様、簡単にでいいので会長さんに転入の件、伝えていただけますか?』

 

 あれ、おかしいな。オレも仕事手伝ってたって言ったのにスルー。さらには伝言役を頼んで来やがったぞ、この娘。あくまで手伝ってるだけのオレの仕事は邪魔してもいいってか、この野郎。

 

 「ああ、いいぞ。オレも仕事していたが可愛い後輩からの頼みだ。喜んで、お前が無事に転入して上手くやっていけそうだと伝えてやる」

 『さ、悟様……? なんだか言葉に棘があるような……』

 「ハハハ、気のせいだろう。仕事中だったから気が立ってるのかもな。だが気にするな。仕事中のオレが仕事中のミカサにキッチリ伝えるから」

 『ご、ごめんなさい……』

 

 ふむ、素直に謝った以上は許してやろう。しかし、直接報告しようとか、仕事してるかどうかの確認とか……。こいつは社会人とかになっても人間関係に困ることは無さそうだな。

 

 「まぁ、気が立ってる云々は冗談だ。仕事だってすぐに終わりそうなものだしな。だから──」

 『テーン! 転入記念にスイーツ巡りしよーってお誘い──って、もしかして電話中? ご、ごめん!』

 『メー様、気になさらないでください。伝えるべきことは伝えたので、すぐに準備しますね』

 『ホント、ごめんね! じゃ、待ってるから!』

 

 本当に上手くやってるみたいだな。転入初日から女子力全開なイベントのお誘いとは。

 にしても、メー様て。ヤギみたいな女子しか思い浮かばんぞ、失礼ながら。

 

 「どうやら忙しそうだな。せっかくの誘いなんだし、楽しんでこいよ」

 『すみません、悟様。また今度、ゆっくり話す機会があればその時に』

 「ああ。しかし、随分と仲が良さそうな感じだったな」

 『それはもう。メー様とは一緒にお風呂に入った仲ですから。では、失礼します』

 「天国さん、その件について今すぐ詳しくお願いしm──くそ! 切りやがった!」

 

 最後の最後にとんでもない爆弾(ネタ)ぶっこんできやがって! これじゃ悶々として仕事に集中できねぇだろうが!!

 ……本当なら今すぐ電話をかけてやりたいが、用事があることを知っている以上それはできない。オレは悶々とした気持ちを抱えたまま、会長室へと戻った。

 

 「おかえりなさい。随分と楽しそう……ってわけでもなさそうねぇ」

 「察してくれて助かる」

 

 会長室に戻ると、ミカサが組んだ手の上に顎を乗せてこちらを見ていた。どうやら仕事は終わったらしい。相変わらず早いことで。

 オレは残った分の仕事を片付けながら天国から連絡があったこと、無事に転入も終わったことをミカサに話した。ちょうど話が終わると同時に仕事も片付き、オレはまとめた書類をミカサに渡した。

 

 「順調に事が進んでるみたいでよかったわぁ。……ただ、その様子じゃ少し心配ね」

 「なにがだ? 特に心配することは無いと思うが」

 「……天国ちゃんに頼んだはずのお仕事が、よ」

 「ああ、なるほど……」

 

 天国に頼んだ仕事……そう言われてオレの頭に浮かんだのは「スパイ」の三文字。

 確かに、ミカサが天国を第一に行かせたのには第一学園黒金班の情報を探るためというのもあった。いや、むしろミカサにとってはそれこそがメインかもしれない。

 でも、直接電話で話したオレはミカサ以上に確信している。天国の奴、たぶん忘れてるだろうな。

 

 「私から電話して確認してもいいけど、天国ちゃん天然さんだからねぇ。うっかり誰かの前で仕事内容を話しちゃうかもしれないし……」

 「ああ、眼に浮かぶな。それに、天国は向こうのクラスメイトに誘われて外出中だ。しばらくは電話しても無駄だろう」

 

 「お仕事、ですか? ……ああ、思い出しました! 第一学園黒金班のことを調べるんですよね!」……なーんて具合にうっかりを発動させる天国がオレの頭の中に思い浮かぶ。もしそうなったら面倒事になるのは必然だ。

 この事態をどうするか、ミカサは頬に手を添えながら考え始める。そして、何かアイデアが思い浮かんだのか、静かに手を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……なら、直接天国ちゃんに確認すればいいわぁ」

 「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミカサが口にしたアイデアを聞いた瞬間、思わず瞬きを繰り返す。直接ってことは、自分から第一学園に行くってこと……だよな?

 

 「おいおい、それは矛盾ってやつだろ。お前が第一に知られないよう天国に第一のことを調べさせようとしてるのに、このタイミングで会長のお前が天国のところに行ったらさすがに向こうも察するんじゃないか?」

 

 確かに確実な一手ではあるが、向こうに知られるリスクを考えると賢いとは言えない。何か別の方法を……と考えていた、が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫よぉ。だって、行くのはあなただもの」

 「そうか、あなたか。了解、了解…………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬スルーしたが、何か違和感を感じて首を傾げる。今、なんて言った?

 「行くのはあなた」って言ったよな? 今、会長室にいるのはミカサとオレだけ。となると、ミカサの言う「あなた」っていうのは、まさか……

 

 「ちょっと待て! なんでオレなんだよ!」

 「だってベストじゃない? 会長の私よりは警戒心が和らぐだろうし。それに、第一の先生方に伝言も頼みたいから、ある程度の肩書も必要だしね」

 「伝言……?」

 「ええ」

 

 なんでオレはこうも伝言役ばかり頼まれるんだ。オレは伝書鳩じゃねぇんだぞ、畜生。

 

 「それに、あなたにとっても都合がいいんじゃない?」

 「どこがだ」

 「だって、一足早く会えるのよ? ……向こうの副班長にも」

 「ッ──!」

 

 ……なんというか、本当に女ってのは怖い生き物だな。ミカサにとっても、オレにとっても良い条件が揃っている以上、「NO」と言うには相応の理由が必要だ。

 そして、オレにはそれだけの理由を考えつく頭がなかった。

 

 「……わかったよ。あくまで伝言役として行ってやる。天国への確認はそのついでだ」

 「ふふ、よろしく」

 

 オレはミカサから伝言内容を伝えられ、そのまま15日の公休届を書く。予定としては明日の放課後にリニアで出発し、15日には帰るってところだ。公休する意味としては「せっかくだから色々見てきてちょうだい」というミカサからの言葉があったからだ。

 ……しかし、結構重要な内容だったな。ミカサの奴、天国が覚えていようがいまいがオレを第一に行かせるつもりだったのか……?

 

 「……じゃ、届を提出したらそのまま帰る。少しは準備もしなきゃだからな」

 「構わないわぁ」

 

 さっさと公休届を書き上げたオレは会長室を出ようとする。すると、突然ミカサが「そうそう」と何かを思い出したように手を叩いた。

 そして、意地悪そうな笑みを浮かべながら言った。

 

 「あなたに行ってもらおうと思ったのには、もう一つだけ理由があるわぁ」

 「なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そこにあなたがいたから……よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……へー、へー。運が悪かったってことな」

 

 元からオレに行かせるつもりだった……ってのは杞憂らしい。ホント、女って怖いな……。

 




以上、次回から鏡ヶ原へ出張です!
今回はとことん女の怖さというものを体感しているようでした
そして所々で欲望に忠実な主人公でした
鏡ヶ原に向かい、一足先に第一メンバーたちと関わることになる主人公はどうするのか……
真相は次回に!


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