メインではないとはいえ、遅れるに遅れて申し訳ありません!!
仕事やらなにやらと、言い訳はどんどん出てきますが……言い訳なので言いません、ハイ
そして今回なのですが……自分で言うかと思うでしょうが、退屈です
理論的な部分という、自分も全然理解していないところなので、ぐだぐだと長くなっております
それでは、どうぞ!
1月15日(木)
オレの中で、宿というのは慣れない土地でも快適に過ごすための一つの手段だと思っている。だから自分の家じゃあ考えられないような贅沢もできるわけで、清々しい気持ちで起きることもできる。
……と思っていたのが甘かった。
「──寒っ!?」
セットした携帯のアラームで起きるよりも先に、極寒の風がオレの意識を叩き起こした。身体の芯から凍えるような寒さを全身に感じ、急いで布団に包まって暖をとる。
「あら、おはようございます。ちょうど空気の入れ替えをしたところでして」
「そ、そうですか……」
従業員さんの営業スマイルが寝起きのオレに向けられる。容赦ない行動をしながらも完璧な営業スマイル……小悪魔か何かか? いいだろう、相手になってやる。(←錯乱中)
(く、空気の入れ替えはいいが……暖房がついてないとはどういうことだ、ちくしょう……。ミカサの野郎、宿代ケチったな……!)
東京とかの都会の宿だったら、少なくとも冷暖房は完備している。そこがどんなに格安でもだ。
ただ、都会から離れた鏡ヶ原みたいな場所だとそうはいかないらしい。冷暖房はあるにはあるんだろうが、ほとんど機能していないようなものだ。見ると、十年位前の古いタイプを使っている。部屋全体が温まるのにもそれなりの時間がかかりそうだ。
「今日は天気もいいので、観光にはもってこいですよ。では、失礼いたします」
(確かに天気はいいが……気温が低すぎる。もしかして、鏡ヶ原ではこれが普通なのか……?)
未だに布団から出てこないオレに一礼して、従業員は去っていった。
くそ……都会の快適な生活に慣れているオレにとっては辛い朝だ。自分が軟弱な男だと思い知らされているようで、なんだか情けない。
はぁ、朝から散々だ……。
でも、その後の朝食は非常に美味でした。
─────────────────────────────
───────────────────────
─────────────
─────
──
「さて、どうするか……」
宿を出たオレは、念のためにと持ってきておいた厚手のコートに身を包んでから外に出る。昨日、学長には観光するなんて言ってしまったが、特に観光スポットとかを調べずに来たからどこに行けばいいのかよくわからん。
「どうしたもんかな……。とりあえず適当に歩いて…………ん?」
適当に歩いてみようとしたところで、少し大きめの看板が目に入る。そこには、「1km左、鏡ヶ原ショッピングモール」と大きく書かれていた。
「……ショッピングモールか。土産も買う予定だったし、ちょっと行ってみるか」
幸いにも道は直進だ。そのまま歩いていけばそれらしい場所が見えるはず。
そう思って、オレは一本道をひたすら歩いていき…………到着した。
「……デケェ」
ひとつ言うならば、そこはオレの予想以上に……デカかった。
中に入って見ると、一日かけても全部の店を回るなんて不可能じゃないかと思うくらい大きく、様々な店が商品を並べていた。
「スゲェな……。ここまでのショッピングモール、東京にだってないぞ」
……いや、逆か。
こういう大型のショッピングモールっていうのは、土地が余っている田舎に多いとか。東京とかはビルとか施設が所狭しと並んでるから、建てたくても建てられない……らしい。よくは知らんが。
「ま、あるなら使えばいいだけだ。こんだけデカいんだから、土産選びには困らないだろうし」
暖房もしっかり効いてるから快適だしな。さて、ちゃっちゃと選ぶとしますか。
「え~っと……ミカサはとりあえず何かしら買っていけば満足だろうからな。この『鏡ヶ原名産(になったら嬉しい)饅頭セット』でいいか」
なったら嬉しいだからまだ名産じゃないんだな。……とりあえず()の部分はテープで消しておこう。
「国綱には……お、あったあった。鏡ヶ原のご当地ゆるキャラコーナー。キーホルダーでいっか」
人間、誰しも意外な一面を持っているものなんだよなぁ。これもギャップと言えるのか?
「伊号はなぁ……。下手に食い物持っていってもアレルギーの関係があるしな。……この羽飾りがついたアクセサリーでいいか」
あいつのことだから、どうせ何を持っていっても文句が出てくるんだろうけどな」
「……よし、こんなところでいいだろう。さて、少し休んだら他に行ってみるとするか」
なんだか頭のどこかでピンク頭の誰かが文句を言ってるような気もするが、きっと気のせいだろう。
~その頃~
「ふぇっくしょい!!」
「うお!? 大丈夫か、ロッコ!」
「う~……。突然のくしゃみと共に謎のムカムカが……」
「ムカムカ?」
……時間は少し昼を過ぎたところか。一応、モールで簡単には食べてきたし、このまま散策といくか。
「……つっても、どこに行けばいいもんかな」
ぶっちゃけ、鏡ヶ原にあるもので知っているのは第一学園しかない。かといって第一学園に行ったところで早すぎるだろう。そう何個も大型のモールがあるわけはないし、完全に行き詰っていた。
「特に候補はないけど、せっかく来たんだから鏡ヶ原ならではのところを見たい気がする……。どこかいいところはないものか……」
と、鏡ヶ原ならではのものについて考えるオレ。決して優れているとは言えない頭をフル活用して、鏡ヶ原に関する知識や記憶を呼び覚ます。
その中で……一つあった。
「……あ」
でも、他に候補もなぁ……。
「う~ん……」
オレからオレに対する数分の問答の末、オレの中で「とりあえずGO」という結論が出た。
というわけで、オレは浮かんだその場所に向かって歩きだした。
─────────────────────────────
───────────────────────
─────────────
─────
──
「……なるほど。つまり君は、暇を持て余した結果としてこの診療所を尋ねてきたわけですか」
「そうですね」
「門前払いしたい気持ちが普段の倍以上になりそうですが、こうも正直に言われると反応に困りますね……。少しは嘘をつこうとか思わなかったのですか?」
「嘘をついたところで見破られるかなと。だったらいっそ、清々しく全てを認めようと」
「……そうですか」
問答の結果、オレが辿り着いたのは昨日も少しだけ話題に出た杉本診療所。秘密裏に黒金の研究をしている施設だ。診療所の代表である杉本さんには、自分が黒金班であること、自分がここに来ることになった経緯を隠さずに話した。
その結果は……ご覧の通り、ほぼ呆れられている感じだ。
「あ、もしここがダメなら先生オススメのスポットでも教えていただければ」
「私はあまり外には出ないもので。よほどの用がない限り、中に籠っているんですよ」
「いかにも、研究者の日常って感じですね」
「……一応、一般的には医師で通っているんですがね」
この杉本さんは、当然のことながら普通の人ではない。黒金の研究をしている施設の代表なのだから、もちろん黒金の研究者だ。唯一の研究施設にいる研究者……つまりこの人は黒金の唯一の研究者だ。
研究所の仮の姿が診療所なので、それなりに医療にも精通しているらしいが。
「それは失礼しました。それで、先ほどお話したことですが……ダメですか?」
「……黒金について学びたい、という話でしたか。あなたが黒金班であることを考えれば、もちろん黒金について知ることは必要なことだと思います。ですが、結局あなたがしたいのは暇を潰すことなのでしょう?」
「……言ってしまえば、まぁ。でも、興味があるのも事実です」
暇つぶしに来たと杉本さんには話したが、それと同時にオレは黒金について学びたいという話もした。実際のところ、暇潰しと黒金への学習欲は5:5の割合だ。暇も潰したいが、オレはこの機会に黒金について理解を深めたいとも思っていた。
……ミカサたちへの土産話も増えるしな。
「……ふう」
やれやれ、といったようにため息をつく杉本さん。……やっぱダメか?
「どうぞ。研究所は地下です」
「え?」
「……なんですか?」
その答えに、オレは思わず素っ頓狂な返事を返してしまう。そんなオレを見て、杉本さんは首を傾げている。どうやら冗談ではないみたいだが……意外だ。
だって、この展開は……
いくらオレが黒金班だろうと、黒金の研究っていうのは最高レベルの機密事項だ。その黒金を使う当事者でも、オレがただの学生であることに変わりはない。つまり、ただの学生の頼みでその研究を見せるわけがない。
この人、決して機密とかに緩い人ではないはずだ。そもそも、そんな人は黒金の研究者に選ばれないだろうしな。なのに……
「あの、許してもらっておいてなんですが……どうして、許したんですか?」
「……わざわざ理由を尋ねますか。どうやら、かなり慎重な性格のようですね」
「…………」
別に、そういうわけじゃない。ただ、状況的にあらゆる状況を考える必要があると思っただけだ。
それこそ……二度と第二学園には戻れない、なんてこともな。
「…………」
オレが何も答えないでいると、杉本さんもその場で黙ってしまう。ここで下手に何か喋るよりは、相手が口を開くのを待っていた方がいい。あくまでこっちは質問者で、あっちは回答者だからな。
だが……
「……君が、『無血』の適合者だからですよ」
その答えを聞いても、今のオレにはそこに込められた意図を読み取ることはできなかった。
─────────────────────────────
───────────────────────
─────────────
─────
──
「おお……」
杉本さんに連れられてやってきた診療所の地下には、まるでマンガやアニメのような世界が広がっていた。無数に並べられて意味不明の数字や文字列を映している無数のモニター、もはや何に使うのかすら見ただけで想像もできないほど大掛かりな機械……とてもじゃないが、一般的に知られているようなものとは思えない。
「なんか、まさに最先端って感じですね」
「それはもう。黒金を作っている研究施設なので、最先端でなければ困ります」
「当然でしょう?」とでも言いたげな表情を見せる杉本さん。なんか呆れられているような気もするが……気にしないでおこう。
「ここって、黒金を作るために作られたんですか?」
「正確に言えば違いますね。元々、ここはかつての日本軍の研究施設です。航空機や兵器関係の。終戦後に建物は診療所になり、航空機置き場だった場所に第一学園が建てられました」
……なるほど。つまり、鏡ヶ原に第一学園が建てられたのは偶然じゃないってことか。それなりに所以がある場所ってわけだ。
「それでもこの地下の研究施設だけは残り、今ではここで黒金の研究が続けられているわけです」
「元々、日本軍の土地ってことは……この施設の所有は軍ですか?」
「軍なんて輩に管理されたら今のように研究なんてできませんよ。ここの所有は学長です」
納得だ。軍所有の施設だったら、こうして見学に来ることもできないだろう。それに、もっと他にも研究者がいるはずだ。もちろん、軍の人間が。
「さて、黒金についてでしたね。……そもそも、あなたは黒金についてどの程度理解していますか?」
「まぁ……かつて起こった事象を再現しているってことくらいです」
「基礎の基礎ですか……なるほど」
顎に手を当てて、杉本さんは何やら考え始めた。話す内容を考えているんだろうか?
「少し待っててください」
案外すぐに考えるのを終わり、そのまま杉本さんは奥の方に消えた。もしかして、分厚い参考書とか持ってくる気か……? ちょっとそれは勘弁してほしい。
「どうぞ、コーヒーです」
「え? あぁ……どうも」
「フレッシュはいります?」
「えっと……一応もらいます」
杉本さんが持ってきたのは、何の変哲もないただのコーヒー。オレは飲めるならブラックで飲むが、少し厳しい場合だけミルクを使う。マニアのようにこだわりを持っているわけじゃないが……強いて言うなら、甘ったるくなるので砂糖とかガムシロップは使わない。
って、今はオレのコーヒー事情はどうでもいい。
「あの、なんで今コーヒーを?」
「君は『エントロピー』について知っていますか?」
「は?」
明らかに日常生活とは無縁っぽい言葉が出てきて、オレは思わず間抜けな声を上げてしまった。なんだよ、エントロピーって。このコーヒーに使われてる豆の名前とか?
「定義づけは多様にある言葉ですが、示量性における熱量と示強性の優劣を体積の定義に位置づけたものです」
「???」
「まぁ、わからないのも無理はありません。簡単に説明すると……こういうことです」
意味不明の言葉を並べたかと思うと、杉本さんはミルクをコーヒーへと入れる。黒色のコーヒーの中に白い楕円が浮かんでいる。
「今はまだコーヒーの中に白くフレッシュが見えます。これが、フレッシュのエントロピーが小さい状態です。そして、これをかき混ぜると……」
「……ミルクが溶けましたね」
「今、フレッシュはコーヒーの中で急速に分解しています。つまり、先ほどのまとまっていたエントロピーの小さい状態に対し、増大したというわけです」
「増大……ですか?」
「ええ。フレッシュは増大したことで、元の白い状態では見えなくなった。ですが、コーヒーの中でなくなったわけじゃありませんよね?」
それはわかる。確かにミルクを入れたばかりなら白い部分があって、
「えっと……一つのものが散り散りになることをエントロピー……の増大? って言うわけですか?」
「かなり簡単に言うとそういうことです。そして、そのエントロピーの増大はこの世の全てを形作っている。要点を絞って言うなら、この宇宙はある一点のエントロピーが増大して現在の形を作っている」
「宇宙で起きたエントロピーの増大……」
宇宙で、何か一つだったものが散り散りになった現象? 散り散り……霧散……爆散…………爆発?
「……ビッグバン?」
「正解です」
一発正解できた。たまたま頭に浮かんだ言葉を言っただけなんだが……言ってみるもんだな。
「確か、この宇宙は最初に大爆発……ビッグバンが起きて、それが広がっていったことで今の宇宙の形になったんですよね」
「その通りです。そして、あらゆる物質、あらゆる現象が一つの爆発でエントロピーが増大していく過程で生じたものならば、それら物質と現象には核になった何かがあるのでは。ビッグバン以前にあった何かが。……これが、黒金理論の基礎的な発想です」
「……?」
「広がったエントロピーを縮小させることで、あらゆる物質、現象を形にできるのではないか、と考えたわけです」
……つまり、物質とか現象を形にすることで、その形を操作するだけでその物質や現象を起こすことができるようにした? んで、その形っていうのが……黒金?
「……いまいち理解できませんね」
「あなたは科学者ではないのです。無理もない」
「というか、その話が本当だったら、ビッグバン以前に引き戻させようってわけですよね? それって可能──」
「不可能です」
バッサリと切り捨てられた。
「今の化学はそこまで及んでいません。人類はまだ火星にすら旅行できないのですから」
「火星にすらって……」
「それでも、地球上に起こる現象なら、増大したエントロピーも地球上に残っています。つまり、地球上から採取したもので作れます」
にわかには信じられない話だが……現に黒金班は黒金を使っている。理論についてはまったく理解できていないが、なんとなく黒金について詳しくなれたような気がする。
「そうなると……現晶って正確にはなんなんですか?」
黒金について知識を深めたところで、オレは現晶についても聞いてみることにした。黒金が地球規模、現晶が宇宙規模の事象の再現をするってことは知っているが……今の理論を踏まえての説明も気になってきた。
「……かなり簡単に言うなら、黒金は人工物、現晶は天然物というわけです。昔から地方で伝えられている不思議な力を持つ石……触れば『怪我が治る』とか『幸せになれる』など言われている石の多くは現晶であると言われています。その存在は希少で、今も世界中に10個ほどしかありません」
俗に言う「魔法の石」ってことか……? メルヘンとかおとぎ話みたいな感じだが、身近な人間の国綱が実際に現晶を使っている。その存在は否定しようがない。
「現晶の生成も可能になればいいのですが……生憎、今は黒金ですら満足に作れていない。どのような事象が凝縮されているのか、実際に黒金ができるまでわからないのですから」
「……そうなんですか?」
「ええ。そして、精製物のうち99%はそこらにある事象を凝縮してしまったため、これといった効果が出ません。あなたたち黒金班が使うような、武器ともなり得る黒金ができる確率は……0.01%ほどです」
万に一つ……奇跡の代物だな。武器として使えない黒金は『屑鉄』として、国綱の木刀みたいに別の用途で使われ、使える物だけが黒金班が扱える。黒金班の人数が少ないのもそれが原因か。
「実用化できるものができるまで半年から1年はかかりますし、黒金と使用者が適合しない場合もあります。将来的には、再現する事象の固定……少なくとも今あるもののコピーくらいはできるようになりたいものですね」
ということは……今の段階でも量産とかはできていないんだな。つまり、今ある黒金は全部一点もの。オレの『無血』もこれ一つだけ。
オレは、右耳にピアスとして着けている『無血』にそっと触れた。
「もっとも、武器として使い続けるのなら……ですがね」
「……武器として黒金が使われることをよく思ってないんですか?」
「あぁ、いえ……。こちらの話です」
無意識に出ていた言葉なのか、杉本さんは話をはぐらかす。まぁ、いいように言っても黒金だってその気になれば人を簡単に傷つけられる道具だ。それを快く思わないのは不思議じゃない。
といっても、
「今日はありがとうございました」
「いえいえ。ですが、今回のように話しを聞きに来るのはもう勘弁してもらいたいですね。私はあくまで研究者ですので、そこまで人に話すのは得意じゃないので」
「すみません」
「まぁ、また黒金の話が聞きたいのなら次は学長を尋ねるといいでしょう。あの人は私と違って、“授業”が好きですから」
その後、なんだかんだで話を聞いていたら夕方になっていた。人に話すのは得意じゃないと言っているが、難しい所はわかりやすく解説してくれたし、なによりこんな時間になるまで話してくれた。案外、この人も“授業”が好きなのではなかろうか……。
「わかりました。では、失礼します」
「……あぁ、少し待ってください」
「はい?」
軽く一礼して診療所から出ようとしたオレを、杉本さんは思い出したような口調で引き止める。杉本さんの方に振り返ると、彼はかけていた眼鏡を指で押し上げてからオレ……いや、オレの黒金を見た。
「君の黒金……『無血』。ぜひ使いこなしてください。私の研究のためにもなります……それに、あなた自身のためにも、ね」
「……そう、ですか」
その言葉に、いったいどれほどの意味が込められていたのか……少なくとも、今のオレにはただのアドバイス程度にしか聞こえなかった。
そうしてオレは、杉本診療所を後にした。目の前にある……次の目的地に行くために。
─────────────────────────────
───────────────────────
─────────────
─────
──
「やぁ、繰銀君」
「悟でいいよ。苗字は語呂がカクカクしてるから慣れてないんだ」
「ハハハ、独特の感性だね。じゃあ、僕のことも名前で呼んでくれるかな?」
「モーマンタイ」
杉本診療所を出たオレは、そのまま目の前の第一学園へと向かった。目的は見てわかる通り天照……じゃなくて、一期と合流するためだ。
まぁ、正確にはもう一人いるわけだが。
「悟様! お久しぶりです!」
「よう、天国。……あれ? お前、背が伸びたんじゃないか?」
「え!? 本当ですか!? 第一学園に来て、天国も成長できたということで──」
「バカみたいに風邪引いて寝込んでたおかげだな。おめでとう、天国」
「素直に喜べません!」
久しぶり……といっても一週間とちょっとぶりだけど、天国はいつも通りといった様子だった。もちろん背だって伸びていないよ?
でも、おかげでこっちもいつもみたいに話すことができる。肝心の天国は若干涙目で睨んできているが気にしない。適当に頭をポンポンしておく。
「それで、他の黒金班は?」
「別の場所に集まっているよ。もうすぐ夕食時だからちょうどいいと言ってね」
「そういやそうだな。腹も減るわけだ」
夕食時だからちょうどいいってことは、第一黒金班が集まっているのは飯屋か。顔合わせをしたらリニアで帰るが、せっかくだからこっちで食べていくとするかな。
「悟様、早く行きましょう! 大丈夫です! 皆さん、とっても良い方たちですから!」
「なんでお前がリードしようとしているんだ」
「そりゃあもう、第一学園のことに関しては天国の方が先輩ですから! だから天国に任せて──ってイタタタタタ!? 悟様、髪! 髪を引っ張らないでください~!」
「すまん、つい力が入った」
「ハ、ハハ……」
「……ところで天国さんよ」
「どうしたのですか、悟様。そんなボソボソ声で」
第一黒金班が集まっているという飯屋に向かう道中、オレは気にされない程度に一期から離れてから天国に話しかけた。用件はもちろん、
「お前、ミカサから頼まれた仕事はどうした」
「お仕事……ですか? えっと…………」
「…………」
「あ、あわわわ……!」
どうやら完全に忘れていたらしい。目をしぱしぱさせて口をパクパクさせている。大方、怒られるとでも思ってるんだろうな。まぁ、オレもミカサから頼まれた以上、怒る必要はあるかと思うが……。
「忘れてたならいい。そのまま忘れてろ」
「……え?」
「お前は確かに天然だが、やるべき仕事については忘れたことなんて一度もない。そのお前の頭が忘れてたってことは、お前だってやりたくないんだろ? ……オレだって、気に入っている連中の情報をこっそり流すなんてマネ、好きじゃないし」
「悟様……」
ミカサには、「確認するのを忘れてた」とでも言っておけばいい。そうすれば咎められるのはオレだけで済む。そもそも、オレがミカサから頼まれたのは「確認」であって「催促」じゃないしな。
「……やっぱり、悟様は優しいです」
「本当に優しい奴は女の髪を引っ張ったりしないぞ」
「本当に冷たい人なら、引っ張った後の髪を撫でてくれたりしませんよ?」
「…………」
……負けた。
─────────────────────────────
───────────────────────
─────────────
─────
──
「さ、着いたよ」
「へぇ、ラーメン屋か」
「ネットにも載ってない穴場中の穴場だよ」
一期に案内されて着いたのは、見るからにボロボロの小屋だ。看板には……「西春軒」と書いてあり、のれんには「ラーメン」と大きく書かれている。
穴場中の穴場というのは本当らしく、見る限り客の姿は無い。まぁ、だから集合場所にしたのかもしれないが。
「一応まだ開店時間前だから、一般人が来ることは無いよ」
「ああ、だから人がいないのか。でも、開店時間前に入っていいのか?」
「大丈夫です。天国もよくお世話になっているので」
「……お前、そんな迷惑な客になっているのか」
「許可をもらってから入ってます!」
情報が漏れる心配は無く、ついでに腹も膨れる……なるほど、集まるにはベストだな。……いや、開店前なのに食えるのか?
まぁ、いい。いろいろ考えるより、実際に入って見るとしよう。オレは意を決して、扉を開けた。
「らっしゃい」
「うぉ……!」
入ってすぐ、オレは思わず驚きで声を上げてしまった。内装……も確かに普通とは少し違うが、そこじゃない。ちなみに内装としては、調理用の屋台、テーブルと椅子がいくつか、折り畳み式のべニアで囲ってある。いや、今は内装はスルーして良い。
オレが驚いたのは、その屋台の中に立っている人間。迫力ある体格、実年齢を混乱させる低い声、そして印象的な顔。その顔は、オレがつい最近見た顔だった。
「って、アンタ初めて見る顔だな。開店時間は8時ッスよ」
「……なるほど、黒金班が集まりやすいわけだ」
忘れるわけがない。印象的な顔だからじゃない。仮にも自分が興味を持って調べた中で見た顔だ。どんな顔でも忘れるわけがない。
……つーか、店主に気を取られて気付かなかったが、すでに椅子には何人か座っている。そして、見事に全員が見たことのある顔をしていた。
「すみません、お待たせしました!」
「やぁ、待たせたね」
「あ、テン! それに班長さんも! これで全員集合ね!」
「……お腹空いた」
「二人と一緒ということは……もしかして、彼が?」
天国と一期が入ってきたことで、彼らの視線は一同にオレに集まる。
彼らが……第一学園黒金班。
資料で一度は見た面々を前にしても、オレの視線は無意識に一人の男に向いていた。
「…………」
「…………」
(彼が……白銀正宗)
少し熱気が籠る店の中、オレと白銀は真正面から互いに視線を向けていた。
さてさて……こっから、どうするかな。
理論的な部分……原作で確認しつつ書きましたが、改めて見ても理解できない残念な頭です
さて、いよいよ第一メンバーと顔を合わせてお話タイムです
ガッツリ話すのはもう少し後なので、あくまで軽くですが
次回以降、こちらはゆったりとなるのでいつになるかはわかりませんが……なるべく早くなるように
では、失礼します