思えば、特に印象に残らない人生だった。
いや、自分の人生なんだが…その程度に俺の人生は平凡だった。
思えば、賢しいフリをした子供だったのだろう。
好きなものはファンタジー小説やアニメやゲーム。細々とそれらに浸り、週五日働くサラリーマン。
憧れていたけどきっと届くことはない物語のキャラクターたち。
大人になっても空想で自分は大活躍。
このまま適当に生きて行くのだろうか。
そんな憂鬱に包まれたいつもの通勤途中。
「何々?」
「酔っぱらいだってさ」
地下鉄のホームに酔っぱらいが落ちたらしい。
朝っぱらから迷惑なことだ。通勤に響かなきゃ良いけど。
軽くため息を吐きながら迷惑な酔っぱらいの親父を眺めていると、自業自得のその男を助けるためか線路に降りる人影が在った。
女学生が懸命になっておっさんをひっぱている。
若いなあ。周りの奴らも助けてやれよ。
なんていつも通りの自分の読者目線に自分で情けなくなる。
「そんなだから一生物語の主役にはなれないのさ」
自分の中の少年が、そんなことを言う幻聴が、聴こえた気がした。
少女は必死で、時折周りを見ながら必死でおっさんを引っ張る。
「…ぁ。目があった」
思わず洩れでた声は、自分のものだった。
そこからは早かった。確実に電車にのるため、線路前に張っていたのが良かったのか、直ぐに線路を飛び降り、駆けた。
くっそ。なんでもっと早く決断しなかったんだろう。もう電車のライト見えてるじゃねーか。
そんなことを思いながら少女を無理やりおっさんから引き離し、ホームに向けて投げ飛ばした。
火事場の馬鹿力ってやつなのか。滅茶苦茶腕に負担はあったが、続けておっさんを投げ飛ばした。
女学生より全然重かった。死ね。
まあ、死ぬのは俺か。
凄い音が鳴った。そんな他人事の様な感想が、俺の最後だった。
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気がつけば、一面に広がる白い世界。
呆けたように辺りを見回せば、デスクに座ったメガネをかけた痩せこけて髪の生え際が後退した冴えない中年サラリーマン風の男が、書類やノートパソコンと格闘していた。
ああ、ああいうとこまで行くと幸せってどういんだろうな。なんて呑気に眺めてると、此方に気づいた中年が業務的に此方に話しかけてきた。
「いらっしゃい。君、死んだけどここ最近君たちの世界で言うと29年くらい前かな。善行転生…正式名称は忘れたけどその法律に該当したから記憶持ち越しで、ある程度希望が叶う転生が可能になるよ。これ、申請用紙」
極めてお役所仕事的な言い回しと共に紙(申請用紙)とペンを受け取る。
「あの…」
「ん?申請しないの?その方がこっちとしても楽でいいんだけど。だいたいこの法律だって急に決まって、手間が増えるのは私みたいな下っ端ばっかだしさ」
イライラした風な男の雰囲気に押されて、思わず黙々と記入用紙に手を付ける俺。
一つ目の項目は…希望する世界観ね。
…好きだし『Fate/stay night』の世界とでも書いとくか。
二つ目の項目は…生まれる環境か。
『金持ち』っと。
最後は…所持したい才能や能力(複数選択可)か。
優秀な頭脳に、優秀な身体…他には…Fateの世界観って過酷だしコンテニューとか…
「まだ?」
滅茶苦茶苛立ってますって感じの中年が威圧するでもなく呆れるようにため息を付きながら聞いてくる。こういうのやだよなぁ。
「解りました。もういいです」
半分投げやりだが、こんな中年と一緒の空間は正直嫌だったので、適当に終わらせて用紙を渡した。
「はい確かに。抜けはないね。それじゃあっち並んで」
「はぁ。どーも」
よく解ってないが今までの小市民的な性格からか適当な返事を返しいきなり現れた結構な人の数の列に続いた。
なんにせよ感じの悪い中年とはおさらばだ。
「なあ、お前能力何にした?」
「そりゃお前、魔力SSSだよ」
「俺バビロンにしたよ。やっぱ鉄板だよな」
なにやら同類っぽい人たちの会話が前列から聞こえる。
ちょっと会話に混じりたくなるが、間に何人かいるので無言を通す。
先頭集団は先にある黒い渦に入っていっているようだ。なんだかすり潰されそうで不安だわあ。
あ、俺の番だ。よっこらせっと。
…今まで考えないようにしてたけど俺本当に死んでたら電車にすり潰されてるだろうから、あんま変わんないのかもな…
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「生まれたか。」
ん?視界がやけにまばゆい。よく見えん。それになんだか無性に叫びたくなるなあ。
「はい。歴代のどのエルトナムより、美しく、多数の回路をお持ちです」
続いて、美しい音色の楽器のような女性の声。
「ふん。そのための母体だ。」
つまらなそうな男の声は遠ざかっていく。
「旦那様。ご子息様のお名前は…」
「ズェピアだ。では、後は任せる」
うわぁ~愛情薄そう…てゆーかマジ転生したの俺!?
夢とかじゃなく!?
あ~…赤ん坊だから自分の頬も抓れないや。
その日、大人としてはみっともなく、赤ん坊としては至極真っ当に、泣きに泣いた。
転生特典。もっとちゃんと考えりゃ良かった。