ヘタレな男とポンコツオペ子   作:人類種の天敵

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鴉達の行方

 

 

「退いてください!道を開けて!」

 

ガラガラガラとストレッチャーを押す教員が通路を埋め尽くす生徒達に注意喚起を促し、道を開ける。

生徒達の目はどれもが、怯え、恐怖、嘲笑、などと言ったマイナスな感情があり、その視線はどれもがストレッチャーの上で眠り続ける彼に注がれていた。

 

「ごぷっ……」

 

「大丈夫ですか!?もう少しですよ!」

 

彼は一度口から血を吹き出し、そのままがくりと力なく首を倒す。

教員はそれに気付き、一層額に冷や汗を掻く。

それはどの教員も同じで、彼女らは一様に顔を合わせると全速力で目的の部屋まで駆け巡った。

 

「生徒の容体は!?」

 

「右腕、右足が目も当てられない程の重傷です。夥しい血が流れていて失血死の可能性も十分……。顔に至っては右半分が焼け爛れています」

 

「彼の血液型と同じものを集めて!顔は問題ないわ。それよりも彼の体力が保つかどうか……」

 

「時間はありません。緊急手術を始めます。もし彼を死なせれば、世界2人目の男性IS操縦者を死なせれば私たちの首は確定でしょうね。死ぬ気でやりましょう」

 

執刀医の一言に彼女達の表情は恐怖に引きつった。

強張る顔で彼の様子を見て気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之。貴様何故あの様な勝手な真似をした」

 

別室、そこには教師の織斑千冬と山田摩耶他数名の教員が篠ノ之箒を取り囲んで尋問をしていた。

 

「わ、わた…し、は…一夏の為に……」

 

「織斑の為だと?ふん。それで貴様は何をもたらした?織斑と凰の集中力を乱し隙を作る原因になったばかりか、至鋼を死に至らしめることか?」

 

千冬が口にするのは予想していた名前に、しかし篠ノ之箒はビクリと肩を震わせた。

今や彼女の顔はびっしりと汗を掻き、その頭の中には私は間違っていなかった、という自分勝手な結論で埋め尽くされている。

 

「まさか貴様があのような行動をとるとはな」

 

そう言った千冬の目つきは篠ノ之箒を明らかに非難していた。

それは他の教員も同じで、とりわけ山田摩耶はいつもの柔和な顔を崩し、篠ノ之箒の目を真正面から見つめている。

 

「貴様。至鋼が間に入らなければどうする気でいた。いや、どうするもないか……至鋼がいなければ死んでいたのだから」

 

「………」

 

「貴様の警戒レベルを引き上げることを考えねばならんか」

 

「織斑先生、それは……!」

 

篠ノ之箒を取り囲んでいた教員の1人がやり過ぎではないですか?と反論した。

しかしそれを千冬は目で威圧し、決定事項だと告げる。

それを受けて女性ーーー女尊男卑派の教員は流石に押し黙った。

それほどまでに織斑千冬の放つ威圧感は凄まじく、更に山田摩耶の今まで見たことのない険しい表情もあり、篠ノ之箒も1週間の謹慎の上反省文の提出を受け入れた。

 

しかし、それを受け入れることのない者達もいた。

 

「失礼するよ。先生方」

 

「な、常盤さん!?」

 

「?」

 

「何の用だ。雨燕」

 

二年の雨燕常盤が、憮然とした態度で教員と覚えのない自分に対して警戒の目を向ける篠ノ之箒を睥睨する。

 

「そこの一年生の処分に納得が出来ないので、こうして物申しに来た次第ですよ」

 

「ほう?私の決定に不満か。雨燕」

 

「謹慎処分と反省文の提出。……ボクは高がそれでは篠ノ之箒は何度でも同じことを繰り返すと言って差し上げてるんですよ。織斑教論?」

 

ブリュンヒルデの睨み目を飄々と受け流すばかりか篠ノ之箒の処罰を厳しくしろと、暗に言いのけた彼女に対し、山田摩耶を含む教員は驚きに目を見張る。

 

「しかし」

 

「しかしも何も、彼女は織斑一夏と再会して彼の交友関係を知ったことで些か情緒不安定になっていますね。嫉妬か焦りか、その巻き添えでボクのお気に入りが壊れる寸前まで傷付けられた。……これで分かりますか。今回ボクが来たその理由を」

 

ニコッと笑っている、が、その目は一切笑っていない。

教員越しに見える篠ノ之箒を見据え、背筋も凍る薄ら笑いを浮かべた。

 

「しかし、篠ノ之箒は篠ノ之束の身内で、IS学園へ要人保護ーー」

 

「へえ、するんですね。身内贔屓。クスクス。彼女が篠ノ之束の妹で、女だからですか。それとも彼が男だから?貴女の弟ではないから?」

 

「常盤さん、口の聞き方には気をつけなさい」

 

一般ザコは黙ってろ。

雨燕常盤は含み笑いで教員達を威嚇し、織斑千冬と相対する。

 

「ダメだ」

 

「そうですか。なら、ボクの気に入ってる生徒だけでも一組から離してもらっても?こんな爆弾の近くに彼、彼女らを置いて居たくない」

 

「私がいる」

 

毅然と返す千冬。

だが、雨燕常盤は嘲笑を一つ、それから言った。

 

「だから、貴女では役不足と言ってる。些か耄碌しすぎでは?……はぁ、本当に貴女と話すのは疲れる。面倒だ」

 

それっきり、彼女は織斑千冬を居ないものとして無視し、篠ノ之箒を冷めた目で一瞥するとそのまま部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

「彼の手術は成功しました。ですが、何時目が醒めるかまでは……」

 

「………」

 

至鋼存夜のオペレーターを務めるカルマはその報告を受けてうな垂れた。

任務も順調に、軌道に乗っていた、しかしそれを天災に潰された。

一応のところ、上では彼が目を醒ますまで待機と、組織所属のベッツィ・ロスと一緒の言葉を貰っている。

 

「どうしましょうか?お嬢様」

 

「はぁ、お嬢様はやめて。待機命令を受けた以上、組織について探るのも無理。パパになんて言えばいいかな……」

 

これまでの計画全て水の泡だと深い溜息を吐いた。

 

「ただ、ヴェニデという組織の勢力が非常に拡大されているのは分かりました。後は彼の眠りに亡国機業やIS委員会が……代表が動き出すのを待ちましょう」

 

「待った挙句、持ってかれますよ」

 

ベッツィ・ロスはカルマに対し彼の置かれている危険性について説いた訳だが、彼女は毅然と返す。

 

「させませんよ。そんなことは。先ずはロザリィさんに連絡を取って世界中の武器の流通と武器商達の動きを掴んでもらいます。そこからある程度の考えは読み取れますので、亡国機業の先手を取ります。行きますよ」

 

「はい、了解しました」

 

ポンコツオペレーターの皮を被った彼女とその従者は一体何者なのか。

その謎だけが残った。

 

 

 

 

 

 

「美穂ー。入るよ」

 

電気の付いていない暗い部屋の中、小柄な体躯の佐藤美穂は布団の中で息を殺していた。

 

「存夜っち、命に別状はないけど、何時起きるかもわかんないんだってー。こりゃ、参ったね!」

 

「………です……か」

 

反応の乏しさに頭をぽりぽり、続いて何をいうか足りない頭で考えたが結局、自分の心中を吐露することにした。

 

「私さ、あの時すっごく怖かったよ?」

 

「………」

 

「打鉄もラファールも何もないし、周りは人のことなんて関係なく逃げようと必死だし、美穂を庇って殴られちゃったし」

 

ま、勲章だけどねー。

あはは、と笑う斎藤真希の額には小さいが確かに痣が出来ていた。

 

「私でそれなのに、なんで存夜っちはああも簡単に動けたんだろ〜ねぇー。扉を開けちゃったりさ、アリーナのシールドエネルギーを破る攻撃を捨て身で庇ったりさ」

 

ISの絶対防御が無いノーマルACは、ISのような安全保障など無い。

レーザーブレードで胴体を断ち切られればそれまで、頭部ヘッドパーツごと爆散すればそれまで、レーザーで心臓を射抜かれればそれまで。

ノーマルACは未だ、ISとの戦闘に耐えられるものでは無い。

今までマシな戦いが出来たのは至鋼存夜の本能と、ISの武装が非致死性の威力レベルまでしか出せないリミッターが付いていたことにある。

 

「あの後、常盤先輩に言われちゃったよー。辞めるなら今だって。でも私さ、辞めないよ。ノーマルACのテストパイロットになるの」

 

ぽん、と一撫で親友の背中を叩き、彼女は立ち上がる。

 

「狂った世界を正すには、その世界を壊せるほどの力がいる。……常盤先輩の言葉だけど、結構好きなんだなー」

 

「………」

 

「待つのは簡単。でも、体を動かしてないと私じゃない。そう言ってくれたのは美穂でしょ?……だから、前に進むよ。次は私が戦えるように」

 

彼女は部屋を出た。

そして少女もまた、ベットから抜け出し、前に進むため、立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

「ぜえ、ぜえ、ぜえ………」

 

雨燕常盤が拵えたシュミレーター室。

そこで1人の生徒が荒い息を吐きながら仮想世界で銃を撃つ。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

ショットガンを撃ち、ロケット砲を正確に当て、追撃とばかりに2連蹴りを喰らわせると即回避行動に移る。

軽いジャンプと急降下。

この二つを絶妙な塩梅に組み合わせ、使うたびに少しずつタイミングをずらし、敵の射線をコントロールする。

およそ常人には真似出来ない神業を、その少女は長時間にわたって維持し続けている。

 

「ダメだ。この場合は右に回って小ジャンプ。ならこの時は?……」

 

独り言を唱え続けていた彼女は、集中が切れたと一度席を立ち、スポーツドリンクを口に含んだ。

 

「……ふぅ」

 

画面に映る勝利の文字。

彼女は既に前モンドグロッソの上位トップを連続抜きしていた。

しかし、彼女の内に込み上がる熱はそれだけでは足りないと新たな獲物を探していた。

 

「次は……」

 

少女、深緑霧影は、先の不明ISとの戦闘で、1番最初に戦線から離脱したことを恥じていた、後悔していた、許せなかった。

自分があそこで抜けなければ、彼が重傷を負うことはないだろうと、自責の念に駆られ、こうして自分を極限まで追い詰め続ける日々を繰り返していた。

 

「何してんの。ぼっち」

 

「……ぼっちじゃない」

 

甲高い声、顔を上げると、端正な顔立ちをした金髪のアシンメトリーの髪型をした女性がいる。

 

「唐御茶 鳴歌……」

 

唐御茶 鳴歌、カラミティメイカーの名で知られる問題児が、ニヤニヤ顔で霧影を見ていた。

 

「強くなるための練習だよ」

 

「は?」

 

無理に笑顔を作り、彼女の問いに答えると、カラミティメイカーは霧影をバカにした顔で首を傾げた。

 

「アンタのスコア。最近の連続抜きから、もっと言えばここ一ヶ月間の平均スコアをだいぶ下回ってる。当たってる回数も減ってるし、当てられる回数も上がってる。正直今のシュミレータもギリギリだった。それで?アンタ、何がしたいの?これじゃ1週間後にはただのサンドバックになるんじゃない?」

 

矢継ぎ早に飛ばされる言葉に戸惑うよりも、霧影は自分が弱くなっていると指摘されたことに戸惑いを感じ得なかった。

 

「そんな…はず」

 

「アンタ。昔は踏み込みの思い切りが良かったのにね。今じゃ変にビビっちゃってるから逃げ感も山勘も中途半端になっちゃって以前のキレが無いわ」

 

カラミティメイカーの辛辣な言葉に、霧影は確かに、と思い当たる節を幾つも見つけていた。

 

「飄々と敵の攻撃を避けるのがアンタの強みでしょうに。それを活かせなくなった時点でアンタの負けよ」

 

カラミティメイカーの言葉は霧影の頭の奥深くに突き刺さった。

不明ISとの戦いで役に立てなかった自分が、もっと役に立てないほどに弱くなっている。

その事実が、彼女を震え上がらせていた。

 

「ま、アンタが自分から落ちてくれるんならこっちも万々歳だけどネ。アリガト♪」

 

ペロリ、舌を出した彼女は意気揚々とシュミレーター席に座ろうとした。

 

そこで彼女は思い至る。

どうして彼は、あそこで敵の攻撃に対してぶち当たったのか。

死のうと思わなかったのか、いや、違う。

死ぬ気で背後にいる者を守ろうとしたのだ。

ーーーそう、死ぬ気で。

 

「そう、か……」

 

「……ちょ、何よ。今から私が使うトコ…」

 

「私は、少し死ぬ気が足りないらしい」

 

ゴキュゴキュゴキュ、とスポーツドリンクを全て消費し、深呼吸をした彼女はカラミティメイカーを押しのけてシュミレーションを開始した。

その獲物は、今までやろうとも思わなかった敵。

 

「え?アンタ…本気?」

 

「ああ!」

 

構え、始まった瞬間にーーー斬られる。

それでも構わず、回避行動をすると同時に霧影は敵の間合い、敵の呼吸、タイミング、敵の癖を観察し始める。

 

「自分を死ぬ気で鍛え直すには、最適の相手だ!」

 

最強ーーーブリュンヒルデが、実体剣を両手に彼女へ襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

『やめ、て』

 

「嫌だ」

 

『やめて!』

 

「嫌だ」

 

『やめ、てよぉぉぉぉ』

 

「だが断る。こんな楽しいお遊び、なんでやめなきゃなんねえの?」

 

彼は笑った。

なぜならそこは楽しい。

わざわざ眠りから醒めてやろうなど一片も思わない。

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私が悪かったんです。だってあなた、イレギュラーだって、この世界にいらないって。ま、ママが言ってたから。だ、だから、あな、あ、あ、貴方を…傷、つけ……。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

 

「あははははははははは。気にしてない気にして無い。だから、もっと遊ぼうよ。ね?」

 

少女は泣いて泣いて泣いて許しを請うた。

 

少年は笑って笑って笑って翼を広げた。

 

彼と彼女のいる場所は、めちゃくちゃに破壊された世界。

まるで真っ白な下地の上から黒を塗りたくり、その上からまた黒をぶちまけ、壊し、焼き尽くしたような歪んだ世界。

 

「ははっ!次目が醒めたら、ぜぇんぶ壊してやる。だから、それまで、良い子にしてろよ?天災」

 

彼が目を醒ました時。

それは、イレギュラーによる、世界の破壊を意味していた。

 

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