提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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よろしくお願いします。

この物語はフィクションであり実在の人物や団体と関係ございません。


提督(笑)

「浸水、傾斜止まりません!!」

 

「後部甲板の火災勢い強く…」

 

阿鼻叫喚とはまさにこのことか。艦橋でこの有様では他も大して変わらないだろう。

 

「…総員退艦だ」

 

 

──心拍数低下。腹部損傷甚大。直ちに医療機関にて治療を施すことを提言します。

 

 

「…死んだな。これは」

 

 

俺の腹部を貫いて壁に刺さる鉄骨を見下ろしながら呟く。

 

 

この二度目のろくでもない人生を思い返せば始まりは唐突だった。

 

 

 

 

 

 

「おっし、あ号が終わった…。ろ号は今週は無理そうだな。さ、寝よ寝よ」

 

そんな呟きのあと起動していたブラウザを閉じようとした時に、その異変は起こった。

いや異変が起こったというよりもそれを感知する暇もなかったというのが正しいか。

 

 

なんせ、瞬きをした俺の目には、ほんのコンマ何秒かの瞬きの間にPCの画面が消え、でかでかとした日章旗を背景に『大艦巨砲主義』と書かれた特攻服を着たリーゼント頭のおっさんがいる不思議な空間が飛び込んできたんだからな。

 

「日本がやばい救ってくれ」

 

「は?」

 

特攻服+リーゼントなおっさんが開口一番それ。

当然、こちらはクエスチョンマークだ。

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

そんなセリフの時点で大丈夫じゃないと言いたいわけだがそんな暇もなく徐々に己の体が光の粒子となって消えていくことに唖然。

 

「俺の考えた最強を準備した」

 

どや顔のおっさんに結局、何も言えないまま意識が暗転。

 

 

次に意識が戻った時には赤ん坊というね。

 

で、悟った。いわゆる転生ですねってな具合に。

 

あれが神だったのか悪魔だったのか知らんがとにかく状況把握だ。

奴は日本を救えといったのだから場所は日本か、もしくは日本に関わりが深い場所のはず。

 

──現在地は大日本帝国群馬県です。

 

頭の中に響く電子の歌姫の声。

 

──各システム、リンク100%完了。

 

「あう?」

 

──脈拍、心拍数に異常が見られます。精神安定に努めることを推奨。

 

これが落ち着いていられるか! なんぞこれ!?

 

──私は情報集積体で名前はまだありません。

 

「ふぁあ!」

 

あかん、赤ん坊だからまともに声でない。

 

──声を出さずとも意思疎通は可能です。

 

いや、そうじゃない。それはありがたいけどそうじゃない!

待って、待って! いろいろ追い付かないから待ってちょうだい。

俺に整理する時間をちょうだい!

 

おうけー。まず転生したこれはいいね?

 

──肯定します

 

場所はグンマー県ね。

 

──群馬県です

 

で、大日本帝国って何なのさ!

 

──日本国の国号呼称の一つ。江戸時代末期に外交文書に使用され始め、1946年頃まで公式に使用され一般には1889年(明治22年)の

 

待って待ってそういうことじゃなくてさ、あー、今西暦何年?

 

──1898年5月○日午後3時10分

 

お、おう装甲巡洋艦の浅間が進水した年というより米西戦争の年と言った方がいいか。その年にタイムスリップしとるのか。おうけーおうけー。

 

それじゃあ、君は何なのさ?

 

──私は情報集積体で名前はまだありません。かみ砕いていうと超すごいAIです。

あなたの頭の一部を間借りさせていただき、情報面で貴方にできる限りのサポートさせていただきます。

 

なんか一部聞き捨てならないこと言ってる気がするが、一先ず置いておくとして要はインターネット検索みたいなものが使える感じ?

 

──簡潔に述べるのであればその認識でも問題ありません。

 

おうけー。細かいところはとりあえず後にして、で、本題なんだけど日本を救えってどうすればいいんだ?

ていうかこの世界どんな世界なのかもわからんしな…。

おいおいまさかベータがいる世界とかじゃないよね、詰んでるよそれ。

 

──ベータはいません。このまま貴方が何も起こさないと仮定して、時代が推移しますと貴方の世界と同じ歴史を歩みます。

日本を救う方法は貴方に委ねられているため現段階での回答を持ち合わせておりません。

 

つまり、自分で考えて歴史を変えろってことかよ、てか、1898年生まれってことは伊藤博文の暗殺も10歳位じゃ防げないし、

日露戦争も同じだ。WW1の時だって終結ころにようやく20歳位だろ何もできることないわ。海軍兵学校へ入ったとして観戦武官にくっついていけたりとか…ないな。

そうなると関東大震災の被害をどうにか軽減させるように動くくらいか。それだって日本を救うってことにならんだろう。

 

 

ていうか薄々気付いてはいるんだが、やっぱり太平洋戦争だよな…。日本がやばいってこの時代それしかなくね?

となると満州事変に海軍軍縮に五・一五事件と…まぁ阻止せねばならないこと山積みだし…、

 

ああ…国力差10倍、月刊正規空母、週刊軽空母 どこのデ○ゴスティーニだバーロー。物量チートの米国さん相手にどうにかしろってことですか?

とんだムリゲーだ。

 

我輩もちと疲れたぞ…。しばらく、寝るっ!

 

 

──おやすみなさい。

 

どうでもいいけど最強を用意したのってこの超すごいAIのことなのかな。

名前がないって言ってたからミック先生と名づけよう。電子の歌姫の名前とウィッキーとぐぐれ先生からとって。

本当はミッキーのほうが語呂いいんだろうが夢売り王国の巨大ネズミと同じ名前だからやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで紆余曲折あったわけで俺は二度目の人生超頑張って生きた。ミック先生が超優秀でだいぶ助けられたけども。

むしろ優秀過ぎて俺いらないのでは? と何度思ったことか。それでもまぁ、

金集めたり、人集めたり、育てたり、技術向上させたり、食料自給率上げたり、それはもう寝る間も惜しんで超頑張った。

時には札束でビンタして政治家動かしたり、陸軍海軍の仲を改善…ちょっとは歩み寄らせることができたかなぁ…。

軍上層部の連中はどいつもこいつも頭硬くて…今考えてもムカムカしてくるわ!

だいたい、こんな無茶な作戦考えやがって普通に死ぬわ!

最後まで開戦回避するようにも駆け回った。それが無駄になってしまったけどもそれでも史実より大分マシな状態での開戦。

この時代来て分かったけど、民衆は良く言えば愛国心が強い、悪く言えば周りが見えなくなるほど熱くなりすぎるね。

マスコミが煽って民衆も手が付けられなくなって…。まぁ、そうなるな。

あと人種差別がパネェわ。アメさん本当に日本と戦争したかったんじゃねと思われる節も結構あったしなぁ。

結局、史実通りにハワイの真珠湾奇襲から始まり今、天一号で沖縄近海、お船の上で俺氏瀕死。

 

笑えないね…。

 

それでも各海戦での被害を減らしながら、今日に至っているんだ。

ああ…しかし、今回の海戦は甚大な被害が出たろうな…味方も…敵も…。

これでどうにか講和までこぎ着けられなければ日本全土が焼け野原かなぁ…。

もう、この体じゃどうにもできん、あとは祈るのみ…。

 

「儘ならんもの…だな」

 

「靖国までお供します」

 

「主計。君は退艦しなよ…まだ若いんだ…」

 

独り言をつぶやいたつもりだったが聞かれていたらしい。

 

「ですが…!」

 

「最後の命令だ主計。退艦しろ。あと俺は靖国には逝かんよ。欧州では勇敢な戦士には戦乙女って美人さんが迎えに来てくれるそうだ」

 

「な、なにを」

 

「俺は男所帯の靖国より美人がいるヴァルハラにするよ。幸い金剛は英国生まれだからね。戦乙女が宿ってると思うんだ」

 

死ぬ間際にようやく饒舌になれた。

普段は表情筋と言語数が著しく低下している。俺を転生させた奴のせいで。

あのリーゼント曰くぼくのかんがえたさいきょうのていとく像らしいよ、

寡黙で無愛想っていうのが…。

ミック先生が教えてくれた。

 

「あぁ、主計、此れを妹に返してくれないか。頼むよ」

 

内ポケットから取り出したお守りを部下に差し出す。あと腰に差した刀も。

 

「分かりました。…お預かりします」

 

「じゃあ、頼んだよ。さぁもう行きたまえ」

 

「…失礼します!」

 

最後まで愚図っていたが何とか納得してくれて、わんわん泣きながら最後に敬礼して脱出していった部下を見送り艦橋に一人。

 

これでまだよく生きてられるなと思いつつも眠気と寒気が襲ってきているからそろそろなんだろう。

 

結局、日本を救うことは出来たんだろうか?

 

敵さんの主力艦隊には大打撃を与えることはできた。大和は座礁して固定砲台になれたかな?

ソ連の南下に備えて北方に捻じ込んだ長門と陸奥は仕事してくれるだろうか?

いや、海軍戦力だけ考えたらソ連は日本の敵ではない。むしろ樺太やカムチャッカの日本将兵を撤退させられれば御の字だ。

こんな体じゃ助からないだろうから後日談は聞けないな。

まぁ、でもやれることはやったよ。もうゴールしてもいいよね。

 

「少し疲れたな…。金剛、ヴァルハラまで頼むよ…」

 

震える手で煙草に火をつけ最期の一服。

 

『…まか…せるネ』

 

改造巫女服着てる美女の幻覚まで見えるようになった。

これはもう、いよいよらしいな。

 

紫煙を肺から吐き出してゆっくりと瞼を閉じる。

 

 

 

 

 

 

こうして俺の二度目の人生は幕を閉じることに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるぇぇぇぇぇ!? なんで実家!?」

 

 

 

桜舞う二回目の人生の実家。

の庭先で何故か佇む三度目? の人生が始まる。

 

 


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