提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

10 / 87
提督の皆さん備蓄月間ですよ。

前話で紛らわしい記載があったので修正しました。

ズイズイにダディと呼ばれることは無いんやゴメンよ。

正しくは、瑞鶴さんにミック先生印の烈風をガン積みです。




提督(笑)試練の時

シャープペンて偉大だよね。もちろん鉛筆を馬鹿にしているわけではないよ。

芯が折れてもまたニョキっとペン尻を叩けば出てくるんだから。

 

─ペキッ

 

ところで、提督になるためには(なりたくなくても)適性試験を受ける。例の特例海軍人事法なるものの影響で15歳くらいの時にそれが行われるらしい。

甲乙丙の適性判定を受け、結果は厳重な機密扱い。本人すらも適性があるのか、あればどの適性なのか知らずに過ごす。

で、ある日突然、適性のある者はスーツ姿の強面が家にやって来るらしい。

大体、高校卒業間近とかに…。せっかく、一流大学受かって楽しいキャンパスライフでキャハハウフフを想像したら強面のおっさんがぶち壊しに来る。

 

…何それ超怖い。

 

甲判定 乙、丙および艦娘を指揮する能力あり。

 

乙判定 丙および妖精さんと意思疎通可能。

 

丙判定 艦娘の艤装を触って気分が悪くならない。

 

全国にある中学、高校に艤装の一部だけならともかく妖精さんと艦娘を連れていくのは困難である。

それでも国の存亡がかかっていたから最初のころはそんな無茶やったらしい。

 

でも今はそんな問題解決した。

 

ユーリエちゃんがもっていたタブレットである。

あれ、妖精さん印らしいよ。アレは普通の人だと反応しないんだってさ、謎技術過ぎる。

本人に画面が見えないように触らせてタブレットの反応見て適性が一発でわかるんだって、うむ、やっぱり謎技術過ぎる。

で、タブレットは無事に提督になれたら皆もらえるんだってさ、エッロイ動画見ると妖精さんに筒抜けになるから気をつけろ。

 

まぁ、いつの間にか艦娘を2名ほど指揮下に置いた俺には関係ない話なんですけどね…。

 

俺氏、現在は普段使われてない教室で学力試験中です。

 

ついでに指揮下に置いた一名様が艤装を展開して威嚇してる。誰をって? 

 

かとり…カトリーヌ先生をだ。

 

蒸栗色の髪、眼鏡にタイトスカート。Sっ気のある美人教師といった雰囲気を持っている彼女に、ちょっとセクハラでもしたら厳しく躾けてくれそうなんだよ…。

何しちゃってるのさメロンちゃん。

 

「あの、夕張さん。…どうしてこちらに主砲を向けられているのでしょうか?」

 

若干、顔の青いカトリーヌ先生、気持ちは分かる。メロンちゃんのコンパクトボディに似合わぬ重武装だ。

怖いよね。俺なら向けられたら、ちびってる自信あるよ。

 

「気にしないでください」

 

いや、気にするでしょう! あと、こちらを向かないで!? 君がこちらを向く。

すると、なんて事でしょう。艤装もこちらに向くのです。

 

──ペキッ

 

あ、またシャー芯折れた。

 

「緊急時以外は室内での艤装の展開は禁止のハズですが…」

 

そうだそうだ、もっと言ってやれ。

 

「今、緊急時なんです」

 

「「なんの?」」

 

思わずハモった。

 

「私語は謹んで試験に集中してください」

 

真面目か! いやそれは悪い事ではないが…、この状況で集中ってできるわけないじゃん!?

それよりもカトリーヌ先生も意外と肝が据わってるのね。

メロンちゃんに大砲向けられてるのに、試験は全うしようとしてるんだから。

 

「そうですよ提督。提督は試験に集中していてください。香取さんはそれ以上提督に近づかないでください」

 

誰のせいで集中できないと思ってるんだ…お前が言うな。

 

「……」

 

「…いいですか提督、この学校に在学中は私と鳳翔さん以外の艦娘に接触しちゃダメですからね」

 

分ったから艤装をこっちに向けないで!? ちびるから。俺の単装砲が縮みあがっちゃうから!

 

─パキッ

 

ほら、またシャー芯が折れたじゃないか。

 

「自分の提督が出来たのが嬉しいのは分かりますけど、ちょっとやりすぎですよ?」

 

「そうだな」

 

「はい、長野君は黙って試験を受けてくださいね」

 

この空間に俺の味方はいないのか…。

 

「…長野君…。提督、私も長野君って呼んでもいいですか!?」

 

「なんでだよ!?」

 

どうしてそうなる? 思わず素で突っ込めたわ。

 

「だって、学校にいるんですよ? 同級生の男の子と女の子のシチュエーションに憧れたりしませんか?」

 

いや、そんな事に同意を求められたって困るんだけど…。

そういや、艦これでは夕張ってアニメとかゲームが好きな設定だったんだっけ?

深夜アニメとか見て影響受けたのだろうか…。

他は結構、忘れてることとかあるんだけど、艦これの知識の劣化だけないとはこれいかに…。

 

「あの、試験に集中していただけませんか? 夕張さんも大人しくしていただかないと、困るのはあなたの提督さんではなくて?」

 

「…そうですね。すいません。でも、香取さんは私の提督に近づかないでください」

 

「…はぁ、わかりました。私はこちらに座ってますから。ただし、カンニング行為はダメですよ」

 

足を組んで座るカトリーヌ先生。なんかエロイし超見てたい。

 

「そんな事しなくても大丈夫ですよ。ね、提督」

 

だけど、メロンちゃんが近くで俺の事ガン見してくる。

 

「今は、話しかけるんじゃない」

 

また、カトリーヌ先生に怒られちゃうだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、目立たない為に敢えて高得点は狙わない…策士だ…」

 

艤装をしまって教室の後ろに積んであった椅子を持ち、俺の真横に座ったメロンちゃんが俺の答案用紙を見ながらブツブツ言っておられる。

さっきからこんなことばっか言っているけど…、

 

本当に分からないだけだから…。

 

言い訳させてもらえば、いきなりのぶっつけ本番だから教科書的なものを見ることもなんだかんだで叶わなかったんだよ!

 

「はい、それじゃそこまで。夕張さん答案用紙をこちらに」

 

「はーい」

 

「じゃあ今から採点しますね。といっても余程ひどくなければ合格間違いなしなんですが…」

 

はぁ、やっと終わった。まぁ、50~70点の間位は全教科取れてるんじゃないだろうか?

 

「学力試験を受ける前に艦娘を指揮下に置いたなんて前代未聞ですからね。余程、夕張さんと相性が良かったのですね」

 

そう言って俺の答案の採点を始めるカトリーヌ先生。採点が終わるまでしばらく待ちぼうけである。

 

「ねぇ提督、香取さんと艦時代に会ったりとかしなかったんですか?」

 

声を潜めてそんな事を聞いてくるメロンちゃん。

 

「…香取か」

 

トラックで一度か二度? 彼女がクェゼリンに行く経由で見かけたと思うが…、トラック空襲の際も帰還兵乗せてうまく逃げ切ってた。

というかあと一日出港が遅れてたら危なかったんじゃないか? それくらいの認識だな。

 

「すれ違った事があるくらいか」

 

「なら一先ず安心なのかしら?」

 

なんの話だね?

 

「あとは要注意は比叡さんかな…あ、鹿島さんは第四艦隊の旗艦だった…って事は…」

 

だから、何の話だ? また一人でうなり始めたぞ。

 

「…提督、本当に鳳翔さんと何も無かったんですよね?」

 

もうその話はいいんじゃないかなぁ。散々説明したじゃん…お艦が。

 

「…ああ」

 

朝、お艦とともに部屋を出る。メロンちゃんダヨ? に遭遇。

メロンちゃん何故か艤装を展開。しかし艤装を展開した瞬間、お艦に関節極められ行動不能。

お艦、関節極めつつ状況を説明。

 

その間俺、口開けたまま固まってたと思うよ? 意味が分らなかった。

お艦は強しとは言ったものである。お艦に逆らわない事を俺氏、深く誓う。

 

そんな朝の穏やかな一コマがあったわけですが、メロンちゃんがシークレットサービスの如く俺から離れない。

君、授業とか受け持ってないのか? とか、色々疑問には感じてたけど口にはしない。

 

なんか凄く、鬼気迫る迫力だったんだもの。

 

「採点終りましたよ。問題ないですね、合格です。おめでとうございます」

 

ほっ、妹よ、お兄ちゃんとりあえず最悪の事態は避けることが出来たよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤煉瓦と呼ばれる建物の一角で、

 

海軍服に身を包んだ三人の男が席に着き、一人の男がそれらと向かい合う形で話し合いが行われていた。

 

「なんだね? このふざけた名前は?」

 

海軍服に身を包む、いささか恰幅が良すぎる中年の男が手元の資料を眺め、言葉を発した。

肩の中将の階級章が脂肪に押され悲鳴を上げている。

 

「仕方あるまい。この世界の経歴も戸籍もない者たちだ。本人がそう名乗るのなら、それで良かろう」

 

同じ服装に身を包んだ高年の男性、こちらは高年期の体には思えないほど鍛えられていることが服の上からも分る。

階級はこの中で最も高い大将の階級章。

 

「しかし、こんな名前をよく長野の女帝が許されましたな?」

 

こちらはひょろりとした体躯に眼鏡。爬虫類のような雰囲気を醸し出す男である。階級は中将。

 

「あの婆さんも耄碌したのではないか。こちらとしてはとっとと、くたばってほしいのだがねぇ」

 

顎の肉を弛ませながら皮肉めいた言葉を発する。

 

「獅子飼中将からの報告では観測世界での長野家所縁の者ではないか、との事ですが…」

 

一人だけスーツ姿の男は無表情に会話を進める。

 

「なら、なおさら使えんだろう。平和な世界のボンボン…。これを見る限り体はそこそこ鍛えてるようだが頭の出来も平凡。血筋だけが取り柄のプライドの高い小僧であろう。今回もまたハズレだな」

 

「しかしまぁ駆逐艦を何匹か指揮して近海の船団護衛ぐらいできるのではないですかな」

 

二人の中将コンビの口元は厭らしく歪んでいる。

そんな二人を冷めた目で見た後、大将は口を開く。内心、報告書を最後まで読まない無能どもと罵りながら。

 

「この報告書によれば軽空母鳳翔、軽巡夕張がこの者の指揮下に入ったと記されているが、本当かね?」

 

「事実のようです。この者が卒業するまでに教員役の艦娘の補充をと獅子飼中将が申請しております」

 

「そうか、その辺りは私が手配しよう。それで、実際どうなのかね? 私見でかまわない。君の目から見て、この者はどう映った?」

 

実はこのスーツ姿の男は士官学校で教鞭をとる立場にある。

 

「…机上演習においては現在の所、負け知らずです」

 

「ハッ、入学早々の軍事のぐの字も知らん者たち相手に勝っていたとしても話にはならんな」

 

「……」

 

スーツ姿の男は またか、このデブ! と思いつつも無表情を貫く。

大体、血筋云々というならテメェもコネで海軍に入ってるようなもんだろうが! と内心で激しく罵りながらも完璧な無表情である。

 

「君のいう事にも一理あるが、三元(みもと)中将、君には今は意見を求めておらん、少し口を慎んでいたまえ」

 

「はっ、失礼しました」

 

三元と呼ばれた男は忌々しいと思いながらも口を噤む。

内心は早く引退してその座を俺によこせクソジジィである。

 

「それで直江君、何か気になることがあるのかね?」

 

「旧海軍の長野少将の戦術をよく研究していると思います。獅子飼中将の言っていたことに信憑性を持たせているかと愚考いたします」

 

「平和な世界の長野所縁の者か…。本人はなんと?」

 

「一般的家庭の会社員だったと言っておりますが」

 

「それが嘘だとして、長野所縁の者というのを隠す意図が見えんな」

 

大将は腕を組み唸る。

 

「かの世界では、彼は英雄の扱いを受けているそうですから、彼を研究していた軍事マニアという線では?」

 

そこに言葉を投げかけたのはひょろりとした眼鏡中将である。

 

「はい、その可能性も否定できません」

 

…だがアレは目の前にいる大将と同じような凄みを感じさせる。という続きの言葉を飲み込んだ。

それを言ったところで、コイツもあの豚と同じように皮肉しか返ってこないだろうから、スーツの男、直江は無表情を一貫する。

 

「全く、忌々しい存在ですな。あの欠陥兵器共の一部は長野長野と喚いて煩くて仕方ない」

 

「…細倉君は長野少将否定派か」

 

「いえ、彼の政界への根回しや技術知識など称賛することも多いですよ? ただ上への反抗心などは褒められるべきことではないかと。

組織を運営するにあたっては彼のような者は厄介者でしかありませんな。色んな分野に息が掛かっているから尚、質が悪い」

 

「確かに。まだまだ日本は戦えたはずだ。それをあんな条件での講和など…あれも奴の息のかかった政治家共が民意を無視して

結んだものだろう。売国奴といってもよかろう」

 

「……」

 

「……」

 

二人の言葉に押し黙る直江と大将である。

 

たしかに彼らの言っていることも一理あるのだ。この者たちは真実を知らないとはいえ…。と、すこし悲しい気分になる大将である。

海軍の上層部でも賛否分かれる彼の実績。むしろ陸軍からのほうが英雄的な扱いをされている変わった男である。

観測者たちの世界では日米の秘密会談が暴露され、陸軍数十万の命と引き換えに彼を戦犯とすることで講和がなったという話が公然の秘密扱いで存在している。

それは正しいが…、真実ではない。

観測者の世界は、時の政権からギリギリ漏れてもいい機密が漏れたにすぎないのだ。

 

実際は日本を…、人を人とは思わぬ実験場にしようとしていた計画があった。

生物兵器や新型爆弾による大量破壊と日本降伏後は愚民化政策による連合国の分割統治、日本人を地球上から根絶やしにしようとする計画などなど。

それが大衆に知られたら、あの時代本当に日本は最後の一人まで戦うことを余儀なくされていただろう。

 

それを一人の男が阻止するべくあの戦争を戦い抜いたのだ。時の政権に後の事を全て託して。

日本も新型爆弾を保有していて、講和にならなければ必ずアメリカ本土に落としてやると不退転の構え。

 

実際に特に空母戦力を温存して、新型の長距離爆撃機まで生産していたのだから本気が伺える。

後年、アメリカ軍関係者がその新型爆撃機と爆弾の威力を見てあそこで止めといて良かったと語ったそうだ。

 

それらすべてに、彼が何らかの形で関わっている。彼がこの国にいたことを幸運に思う。

 

だが、その真実を語ることは五年後までは出来ないのだ。

 

しかも、彼の講和に対する根回しは、政治家と陸軍の上層部の一部に対するものだったというのだからとんだ皮肉である。

 

 

 

 

 

「まぁ、とりあえずだ。もうしばらく様子を見てくれ」

 

中将コンビがまだまだ盛り上がっているのを尻目に、大将は直江に言葉をかける。

 

「……わかりました」

 

「閣下、その者、卒業後は父島に回しましょう。既に二匹も指揮下に置いたのであればあそこでも通用するでしょう」

 

細倉と呼ばれた中将は目を細め、厭らしく嗤った。

 

「おお! それが良かろう。私も賛成ですな」

 

三元と呼ばれた男もそれに賛同する。

 

「…父島か。仕方なかろう。許可する」

 

前回、あそこに送った観測者は1カ月で大怪我を負って戻ってきた。

全く意地の悪い事を考える中将どもだと思いながらも、適当な者がいないのも事実、

もし駄目でも優秀そうなら自分の所に引っ張ってこようと誓う大将であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな会話をされているとは露とも知らず、その件の男は「何だかムラムラする。これは過ちを犯す前に走って発散させねば」

と息巻いて、士官学校の敷地内を走り回っていたりする。

 

 

 

 

 




恐らく、本文で語られることのない感想にあったものへの回答

映画の「水平線のダイヤ」って提督と最後を共にしたのが金剛だからか?

─そうです。 金剛は山の名前からだろ! 石じゃないだろ! ってご指摘は大目に見てください。



ただ一点だけ気になったのですが、漱石の「月が綺麗ですね」は、真偽はともかく戦後に広まった逸話ですので戦中の軍人が話題にするには不自然なものだと思います。

─もしかしたら突っ込まれるかなぁと思いましたが、本当に突っ込まれた…。大きい心で見てくれると嬉しいです。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。