提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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どうでもいい事ですが私はアニメ版艦これは見ていませんのでアニメの事はわかりません。



提督(笑)と動き出す周り

砲撃が奏でる轟音と水柱が幾重にも上がる世界で、可憐な乙女達が海上を駆る。

死と隣り合わせの円舞曲は空から来る死神の口笛により彩を添え、さらに幾重にも上る水柱が乙女達に降り注ぐ。

だが、乙女達の瞳には怯える様子もなく、ただただ強い闘志が揺らめいている。

 

「姉さん! 幾らなんでも出過ぎじゃ!」

 

「そうですよお姉さま! 少し下がりましょう!」

 

空色の髪に水兵帽、半袖のセーラー服の袖をまくったフレンチクルーラースタイルの少女は艤装から魚雷を発射しながら、水柱に向かって突っ込んでいく女性の背中に対して大きく声を上げた。

そしてそれに同調するように、突っ込んでいった女性と同じような恰好、長く棚引く黒髪には金に輝く電探を模したカチューシャ、

肩が露出している巫女服と振り袖を混ぜたような服装の上に千早を羽織り、袴を模したと思われる赤いミニスカートに身を包む女性も声を上げる。

三人は艦娘である。そして共通点がある。前者は巻き編みにした髪型が、分りやすく言えばドーナツのフレンチクルーラーが髪で作られていると言えばいいだろう。

後者は服装が、差異があるとすればスカートの色彩が異なる事くらいだろうか。

 

しかし、そんな二人のいう事などお構いなく、声を掛けられた人物は水柱の間を掻い潜り、

飛来する艦載機を機銃で牽制、あるいは撃ち落としつつも止まる事無く突き進む。

 

敵、深海棲艦の艦隊に向かって突き進む。

 

「あーもう! おどりゃあーそこ退けやぁ!」

 

「全力で参ります!」

 

その様子を見た二人は、後に続き全力で支援に入る。

 

三人が突出して敵艦隊に突っ込む。他の随伴艦は堪ったものじゃない。

 

「いっちゃった…どうしよう」

 

「吹雪ちゃんしっかり!」

 

「…帰りたい」

 

「ぃよーし! 行っくぞぉー!」

 

「だ、駄目! 深雪ちゃん、私達の練度じゃ危ないよ! …とにかく私たちは回避優先」

 

標準的なセーラー服に身を包む特I型駆逐艦の面々は日本の南方を哨戒する艦娘達である。

今回、深海棲艦の比較的大きな規模の艦隊が侵攻中であると上に報告したところ、

彼女たち第十一駆逐隊に増援として駆けつけて来たのが、今しがた突っ込んでいった三人ともう一人である。

たった4人の増援では少なすぎるという思いもあったが、ここまでの戦いを見て自分たち(十一駆)とは別次元の強さと言うのはハッキリしていた。

 

ちなみに余談ではあるが、突っ込もうとして吹雪に窘められた深雪は、史実では太平洋戦争開戦前に演習中、電に頭突きを食らい真っ二つにされるが、どこかの海軍士官に衝突注意と散々言われていたのでギリギリで舵を切り、左舷同士を抉り合いの痛み分けして仲良く入渠したという過去に変わっている。

 

「ええ判断やね。あいつらの真似したらあかん」

 

特徴的なサンバイザーをしたツインテールの駆逐艦娘…ではなく軽空母の艦娘である。

紅い水干のような服装に黒のミニスカート。そして安定性の悪そうな厚底のブーツで背の高さを水増ししている。

 

「龍驤ちゃ…さん」

 

「まぁ…ちゃんでもええけどな」

 

艦で言えば吹雪の方が年上である。見た目でいっても吹雪の方が少し年上か同じくらいかの容姿である。

これが陽炎型や夕雲型の駆逐艦なら一言位言っていたかもしれないが、それ以上の事をいう事もなく…、

 

「さてとウチも本気でやらなぁ…。艦載機のみんなぁー、お仕事お仕事ー!」

 

そういって持っていた巻物を片手で広げる。もう片方の手には勅令の火の玉が出現。

飛行甲板が描かれた巻物から式神が飛んでいき、途中で艦載機へと姿が変わる。

 

その姿を横目で見ながら第十一駆逐隊の面々は飛んでくる砲弾と魚雷の回避に勤しむのであった。

 

そうして時間が過ぎていくと飛んでくる砲弾、飛来する敵艦載機、魚雷の数が徐々に減り、一際大きな轟音のあとに金属そのものが悲鳴を上げたような音が響き、

海上には静寂が訪れる。

 

海上に立っているのは艦娘と呼ばれる者だけである。

 

「…勝ったの?」

 

「すごいですねぇ」

 

「痺れるぜぇ!」

 

「…終った。帰ろう」

 

前方から戻ってくる三人には被弾した形跡は見られず、悠々とこちらに滑ってくる。

その様子をキラキラとした目で見つめる第十一駆の吹雪、白雪、深雪、と常時眠そうな初雪。

 

「お疲れさん。ほな帰ろか」

 

その三人に労いの言葉をかける龍驤。三人はそれぞれに応える形で合流する。

さらに特I型の駆逐艦娘達もやってきて、皆でわぁわぁとやっている中、少しだけ集団から離れたところで空を見上げる一人。

 

「提督ぅ…また生き残っちゃったヨ」

 

その呟きは誰に聞かれることもなく海の風によって運ばれていった。

 

「お姉さま行きますよー」

 

妹に曖昧な笑顔で返し、今日も彼女はどこかの戦場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一月後、父島赴任を命じる」

 

眼光鋭い校長先生の巣食う一室から出て、その言葉が頭でリフレインした。

いやぁ、放課後に急に呼び出されてそんなこと言われたわけですよ。一緒に渡された書類は旅のしおり的な物だろう。

おかしい…。通常は半年から一年くらいかかって卒業じゃないのか? 最短で3カ月は掛かるんじゃないの?

まだ俺氏、一カ月も経ってないのですがねぇ…。実質2カ月程度で卒業? こんな短い間で俺の何が分かるっていうんだい?

もっと腹割って話した方がいいんじゃないのですかい…。大体、卒業試験のようなものだって受けないのはどうなんだい?

いや、これから受けるのか…? 頭の中が疑問でいっぱいですわ。

 

そんな事を考えながら、自分に割り当てられた部屋に帰る。普通の士官学校なら同室で共同部屋になるんだけど、

ここの提督候補の皆さん、一学年に10人居るかどうかな訳だ。学生宿舎があり余ってる。

本当は共同生活を通して仲間意識と協調性を鍛えるとかあるんだろうけど。

人の住まない部屋っていうのは何故か劣化が早いのだよ。メンテナンス面で空き部屋をなるべく出さないようにと一人部屋。

違う科の生徒諸君は違う宿舎で共同生活を送っているらしい…、そういや他の科の生徒とあまり会わないよなぁ。

何か意図があるんだろうか…。

まぁ自分から志願して入ってきた者と強制的に連れてこられた者ではやる気とか考え方とかで摩擦が起きるだろうけど、果たしてそれだけなのか…。

 

「お疲れ様です。お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも・・・」

 

「…鳳翔」

 

「えぇ!? あの、その、不束者ですが宜しくお願いしますっ」

 

部屋に入ったらお艦がいた。あの、どこから侵入されたのでしょうか?

鍵かけていったと思うんだけど…。

 

「おい待て」

 

なんで布団を敷きはじめる。まだ寝ないよっ! 夕ご飯も食べてないよ! 日課の走り込み&牙突もまだしてないし。

 

「は、はいっ。あ、あの私…初めてなので…」

 

「落ち着け鳳翔」

 

何となくお艦が慌てている姿は新鮮なんだけど、状況を整理しようじゃないか。

 

「どうやって入った?」

 

「夕張さんが合鍵をくれましたよ?」

 

おいメロン! 何してくれてんだ!?

 

「…そうか」

 

という事はだよ、有明の女帝やメロンも合鍵を持っているという事でまず間違いなしだろう。

俺のプライバシーは一切無視なのか…。というか、学校の風紀的にどうなんでしょうか?

 

「あ、あのご迷惑でしたか?」

 

メロンちゃんにはあとで厳しく言うとして、いやぁ迷惑ではないのだけど…、

いきなりは困るというか…、あまり広くない密室に二人きりの状態は良くないというか…。

共同部屋であったであろうが、部屋の大きさ自体は6畳一間に簡易なキッチンとトイレとシャワー室。

それほど広い訳ではなく、意識してしまうと俺の単装砲がね…。

 

「そうではない…が…急になんだ?」

 

「この間、鹿島さんとお出かけされましたよね?」

 

そこで襲撃を受けたから、これは学校内でも提督の安全を確保しなくちゃならんという事になって、

俺の指揮下のお嬢さん方が、放課後ローテで護衛しに来るとの事。

 

ねぇ、それ寝るときとかどうするのよ…?

 

「と、とりあえずお茶淹れますね」

 

「…ああ」

 

簡易キッチンで作業するお艦を横目にしつつ、敷かれた布団は畳んでおこう。

壁に立てかけられていた卓袱台を置いて、旅のしおりでも見るか。

 

「提督、どうぞ」

 

「…ああ」

 

向かいではなく…横に腰掛けるお艦。冷静さを取り戻しているようで何より。

だが、なんで隣に座るんですかねぇ…。

 

「辞令ですか」

 

あ、これ旅のしおりじゃなかったのね。

 

「…佐官任命か」

 

取り出した書類の一番上は人事辞令。

 

父島赴任と少佐任官が書かれている。

 

一か月後には父島に任官という事で正式に尉官すっ飛ばして少佐スタートする。

これは俺に限らず提督候補の皆さん 特殊兵器指揮運用科 の生徒は一律卒業後少佐からだそうだ。

この辺りはゲームでも同じだけど、実際に大戦過ごしていた人間としては違和感が凄いね。

海軍人事に関していえば、艦娘達を指揮する提督と呼ばれる者と普通の海軍軍人では昇級の仕方が異なるようだ。

海軍だけど海軍じゃない矛盾した存在が提督や司令と艦娘達に呼ばれる者。

まぁ他の海軍属の人たちからすると、あくまで艦娘を操れる、一般人に毛が生えた程度みたいな感じのようだ。

彼らも色々と思う事はあるだろうな。本来ならば自分たちの力だけでとか、なんでこんな奴らを頼らないといけないとかあるだろうと理解できる。

それはいいのだが、艦娘達に少佐で提督とか司令とか呼ばれる方が内心、馬鹿にされてるのか? とか思うわ。

 

「ご不満ですか?」

 

そんな顔してないよ。常時、仏頂面なのは仕様です。

 

「…不満は無いが、随分と早く任官になった」

 

これが一番分らない。授業態度はお世辞にも良いとは言えないし、試験なんか今まで受けたのって入学時の学力試験だけだよ?

 

「それは私達のせいですね」

 

「なに?」

 

「夕張さんや鹿島さんたちと、提督なら問題なく前線で指揮をとれると推薦させて頂きました」

 

「……」

 

あ、そうですか…。その過剰な期待が俺には辛いのだけど…。

 

「本来は人間側の教官達からも推薦頂かないとこんなに早く卒業とはならないのですが…、赴任先が父島ですか…」

 

辞令を見て難しい顔をする鳳翔。

確か父島は前線の一つであると授業で習った気はするけど。普通は後方で少し過ごしてから前線という流れだと思う。

まぁ太平洋戦争末期はそんな暇もなく陸軍、海軍共に若い者がどんどん前線に送られていったのだが。

とくに菊水作戦はなんとしても止めようと思ったのに…八号作戦まで実施されてしまった。

最低限の…敵艦に体当たりするだけの訓練をした若者たちがどんどん命を散らしていく様は何とも言い難い。

効率の面で言えば、戦果を見てもとても理には適っていた。だが、そんなもの俺は許容できない。

沖縄に迫るアメさんに対して日本側もまだもう一戦位なら艦隊決戦を挑むことが出来たはずなのに、その進言は受付られることなく敢行され、己の無力さに憤った覚えがある。

結局、空母はあるのに搭乗員と機体の不足で、稼働できないものが港で置物になってたんだよなぁ。

 

「提督、必ず私がお守りしますから」

 

置も…、お艦が俺の手を取って強い眼差しで見つめてくる。

ああ父島赴任から話が飛んでたな…。えぇと後方をすっ飛ばしていきなりの実戦投入。

この世界でも俺は軍の上の方に嫌われてんのかな? 何もした覚えないんだけどなぁ…。

 

「あの、提督?」

 

まぁあと一カ月は猶予があるんだ。ミック先生が復活すれば何とかなるだろうから…。

 

「俺の心配より自分の身を大切にしろ」

 

お艦は戦場より台所が似合うと思うの。赴任先の父島では一緒にご飯でも作ろうか。

あ、そういや父島ってどんな具合なんだろう?

書類の中に父島の状況が書かれたものとか無いかな? というわけで手を離してねお艦。

あった、これだな。

 

なん…だと!?

 

提督がいないだと…!?

普通は各鎮守府、泊地、警備府などには複数の提督が居て、それぞれ連携してその担当海域を守っているのだが、

赴任先の父島には提督が不在。艦娘達だけで何とかやっている状態みたいだ。

その状態が一年近く続いている。ちょくちょく誰かが行っては一月持たずに大怪我して戻ってくるような前線、ていうか最前線じゃないか!

父島より大体、東に1000kmの位置にある南鳥島。そこに深海棲艦が住み着いているらしい。

その詳細は不明との事だが…えぇと…。

 

いきなり泊地さんが相手になるんですかねぇ…。

 

戦艦娘居ないと無理じゃね? あぁ! 父島にいるんですね…っていねぇのかよっ!

よくこの戦力で前線維持できてるわ。逆に感心するわ!

 

赴任までにヒェーを引き込めないかなぁ…? でも戦艦クラスは人数が少ないから代わりの教官探すのも大変だろうし…。

どうしたものだろう?

 

「提督ぅ」

 

うおっ!? お艦近っ! 吐息が当る距離ですやん!  何いきなりどうした!?

今日のお艦はちょっと様子がおかしい。

 

「…どうした?」

 

「提督ー! 遊びに…護衛しに来ましたよー!」

 

ドアが勢いよく開けられメロンちゃんがやってきた。

 

今、完全に遊びにって言ったよこのメロン!

 

「イタタタタ! 痛い! 鳳翔さん痛いっ!」

 

そして何故かいい笑顔のお艦にアイアンクローされている。

俺は助けないよ? お艦には逆らわないと誓ったから、あと勝手に合鍵作った罰だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観察対象に関する報告書

 

監視対象に大きな動きがあり。

 

対象を以降、苺と表記。

 

苺、入学以降鬼気迫る鍛錬を行っている。

剣術に関しては長野家伝来の神道念陰流の型と我流と思われる突き。

どちらも長年の修練を積んでいると思われる。

 

4月○○日

 

苺、資金援助を求め、お嬢様に通信。

この件は既に把握していると思われるため割愛。

 

5月○日

 

苺、護衛(香取型2番艦)と共に施設外へ。

公安、公安が張っていた諜報員、自分に気づいた様子が見受けられる。

大陸系の諜報員に偽った海軍の紐付きの襲撃を受ける。

不測の事態の為、護衛に回るが襲撃時に動揺した様子は見られず。冷静に判断を下していた模様。

こちらを深く観察された。以降、顔が露見した為、違う者を観察員とする。

 

非常に注意深い為、監視には十分な配慮が必要。

 

以上。

 

 

 

 

 




恐らく、本文で語られることのない感想にあったものへの回答

大和が歌えるわけは寄り添う二人のご婦人の一人だったのです。ってか皆わかってたよね…。

牙突は男なら木刀持ったら一度はやりますよね?
あとは一応、昔々長野家に使えてた上泉さんって兵法家の影響です。

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