提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

16 / 87
イベント前はSILAYにお祈りを捧げています。


提督(笑)と響く悲鳴

「この短期間に三人を指揮下。しかも全員教員役か…」

 

重厚な執務机で受け取った書類に目を通しながら、鍛えられた肉体の壮年男性は口を開いた。

 

「はい。香取型2番艦に代わる者の補充を、と中将が…」

 

「以前、同じような台詞を聞いた気がするな…。どうにか手配しよう」

 

苦笑を浮かべる海軍のトップ。と、それに申し訳なさそうに少し頭を下げるスーツ姿の男、名は直江。

 

ここは赤煉瓦と呼ばれる建物の一室。

 

「教官役艦娘達の様子は?」

 

「夕張は彼にべったりです。鳳翔も似たような感じでしょう。比叡の様子が少し可笑しいですね。香取は彼を恐れている感じがあります。鹿島は以前、かなり恐れていた様子ですが、彼が外出時に襲撃を受けた後から、態度が全く異なり、夕張と似たような状態になりました」

 

「……」

 

「……」

 

二人の間に沈黙が訪れる。それは何を思っての沈黙か…。

 

「少なくとも軽巡と空母の適性はあるのだな…」

 

気を取り直して咳払いを一つ入れ、大将が口を開く。

 

「比叡からの報告では、戦艦も指揮下に置けるとの事です」

 

統計からみるに軽巡の適性持ちは駆逐艦の適性も大抵有していたりする。

ならば戦艦、空母、軽巡(練巡)、あと駆逐の適性もあるだろうと二人は同時に考えていた。

 

「…重巡の誰かを引き合わせてみるか」

 

「協力的な重巡は大方どこかに配属されているのでは?」

 

「適性を見極めるだけならしばらく出向という形で送れる。佐伯の鈴谷型ならどうか?」

 

比較的安定している海域かつ有事の際に他からの増援を送りやすい地にいる重巡を思い浮かべ、口にする。

 

「はっ、問い合わせてみます」

 

「頼んだ。しかし、獅子飼も随分早急だな。観測者組とは言え、あとひと月で卒業させるつもりか」

 

観測者たちの事をあまり良く思っていないが、それでも日本を守る貴重な戦力になりうる存在というのは理解し、彼らが指揮官として一人前になることを望んでいる奴だと、大将は士官学校の校長の顔を思い浮かべていた、

だからこそ、何故こんなにも早く前線に送り出そうとしているのかが不思議だと大将は考える。

 

「以前にお送りした報告書は目を通して頂けましたか?」

 

「彼が襲撃された件かね」

 

「はい。あれから監査局の方では、海軍関係者が関わっているのではないかと疑いが浮上しているそうです。

もし事実なら内部に彼を狙う何者かが存在し、ならば海軍関係者が極端に少ない前線…、父島の方が危険が少ないのでは、との中将のお考えです」

 

「…それは表向きだろう? 実際の所は何だ?」

 

「もし監査局のいう事が真実で、彼に万が一があれば海軍の面子が傷つく恐れが…」

 

もう陸も海も空も日本軍全体で傷だらけではないかとも思えるが…。という言葉を飲み込む。

軍に対する世間の目は厳しい。どうにか戦線を維持している状態で、それでも国内は他国に比べれば平和である。

大衆にとって他国の事など所詮は対岸の火事。どれだけ他国が悲惨な状態にあるか説いても、いざ自分の身にならないと分らないものだ。

故に大衆は批判する。この閉塞感は軍が無能だからだと、国が無能だからだと。

なにかスキャンダルがあれば軍を攻撃するマスコミの恰好のエサとなることは明らか。

それを危惧しての事だというのは分かる。

 

「…それは仕方ない事なのか」

 

艦娘達に好かれる、それだけで才能と言える。手渡された資料によれば講義を受ける態度は褒められた物ではない。

だが、毎日のように体を苛め抜いているともある。入学一カ月の他の候補生達とは体力面では圧倒的な差。

その点を見れば今年卒業して提督になった者達にも勝るかも知れない。学べばまだまだ伸びるかもしれない。そんな彼を中途半端に追い出すように前線に送っていいものなのか…。

 

「…もう一つ。長野グループが公安や政治家に色々と手を回しているようです。

動き出した時期から見て、恐らく彼に何か関係があると思われます」

 

「…長野か。彼が観測世界の長野所縁の者だとして、こちら側の長野が動く動機は何か?」

 

「あくまで推測の域ですが、向こうの世界にあって此方には無い技術提供。それと引き換えに支援を求めたのではないでしょうか」

 

「ふむ。あり得るな…。だが少し弱いな、…探れるか?」

 

「…難しいかと」

 

そうであろうなと考えながら大将は目を瞑る。

 

かの女帝の海軍嫌いは有名である。万が一があれば長野も動く可能性がある。獅子飼も苦渋の決断かと考え直す。

 

長野グループは昔からそうだ。徹底した情報管理と、技術を秘匿することに長けている。

創設者の壱業氏の写真ですら海軍学校時代の集合写真と最期の作戦前に撮られたものと思われる物しか出てこない。

国民の生活、政治家、軍部、あらゆる分野にコネクションがある企業だ。

下手に藪を突くと色んな所から圧力がかかってくるだろう。

 

「…直江君、当の本人の様子はどうなんだね?」

 

「これといって。…焦る様子も、こちら側に何か言ってくる様子もありません」

 

「襲撃時も冷静だったそうだね…。よほど肝が据わっているのか…ただの馬鹿か…」

 

手元の資料の中に何点か普段の様子を撮った写真があり、それはどれも不機嫌そうな顔である。

報告書の通りなら普段の睡眠時間的には3時間かそこらで、常軌を逸した自主訓練を己に課している。

ただの馬鹿にしては度が過ぎている。

 

「…あれは異常です。とても平和な時代を謳歌した人間には、私には思えないのです」

 

「…うぅむ。一度、本人に会ってみるか」

 

この部下の観察眼はとても優れている。能力も申し分ない。その者にここまで言わせるのなら何かがあるのであろう。

実際に会ってみて前線でやれるかどうかを判断しようと思う大将であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時の教室で一組の男女が向かい合っていた。

 

一人は俺氏、もう一人は香取型の礼服系士官服とでも呼べばいいのか、上はそれに身を包んでいる。

会った時は新鮮味があったが、今は慣れた。金剛型スタイルではない飛影…ヒェー…比叡。

そういえば、彼女は金剛型スタイルの今も太い帯はしてないけど、下は緑色のタータンチェックのスカートなのだが、これは英国の伝統的なスカートの柄なんだけど…、英国生まれの長女を差し置いて日本生まれの妹がお株を奪うこれいかに…。

まぁ英国産の部品も多く使われてたし、そういう事考えたらキリがないのだけれどねぇ。

大体、御召艦と言えばこの娘っていう感じにも関わらず、若干アホの子だ。

それは講義を受けてみて、その片鱗が見受けられるから間違いない。

まぁ、その辺が愛され要素なのかもしれないけど。そういや井上さんも好きだったよね。

ところで艦時代の影響が趣味や嗜好、性格に出ることが多いといった妖精さんは出てこい。

さてさて、そんな毒殺カレー製造娘と向かい合っているのは、個人授業も終わり、一人で起立、礼を行った時だ。

俺が、礼をするとビシッと敬礼で返すのが個人授業の時のいつものヒェーなのだが、今日はそこで呼び止められた。

 

「あの長野君。何で私はいつもあなたに敬礼するのでしょう?」

 

と言われたんだけどさ…。知らねぇよ! こっちが聞きたいわい。

「司令?嫁・姑問題って、何ですか?」って時報聞いたときと同じくらいの脱力感を味わったわ。

真剣な顔でこっちを見つめてさ…、ちょっとシチュエーション的にドキドキしちゃった俺の純情どうしてくれるん?

 

「…知らん」

 

比叡に実際に乗ったのは1940年の観艦式で御召艦になるっていうんで小改装した時くらいかな。

観艦式自体は五十鈴に乗ってたし。

その頃の俺は艦政本部に出向扱いで、担当の駆逐艦の設計開発に目処がついてた時だった。

世間に開戦止む無しムードが大分高まってきていて、何とかせねばと動き回ってた時に、暇そうだからという理由と、

名誉な仕事だけど何かあったら首がヤバイって事で俺に押し付けた本部長にイラッとした覚えがある。

そういえば開戦前って一部からは技術将校だと思われてたんだよなぁ。

 

「…そうですか」

 

ショボーンってするなよ。俺が悪いみたいじゃないか…、俺が悪いのか?

でも、壱業って事は秘密だしねぇ。父島行きには是非ともお供してもらいたいのだけど、戦艦は人数居ないから引き抜きは難しいもんな。

いや、それ以前に俺は戦艦を指揮下に置ける適性が有るのかも分らんし、ヒェーが指揮下に入りたくないって可能性だってあった…。

キャパもどんだけあるんだろうか? 4人指揮下に置ければ優秀みたいだけど、転移組はキャパ大きいらしいからもう少しあるよな。あるよね?

不安だ。俺の指揮下のお嬢さん方はお世辞にも火力が高いと言える娘さんたちじゃないし…。

あぁやっぱり戦艦クラス欲しいです。駄目なら重巡でもいい。適性あるか知らんけど…。

南鳥島の深海棲艦の情報が不足してる。いったい何がいらっしゃるんでしょうね…。

孫さんも言ってただろ、彼を知り、己を知ればオラ、ワクワクすんぞって。敵を知らなきゃワクワク出来ない。

相手がどんな存在か分らないんじゃこちらとてお手上げなのです。

それでも自分の戦力が多い事に越したことはない。何度も言うけどやっぱり欲しいな戦艦クラス。

 

…一応聞いてみようか。

 

聞くだけなら無料やし。

 

戦艦比叡のお力をお借りしたいのです!

 

「比叡、お前が欲しい」

 

なんかとんでもない事を口走ってしまった気がするのは気のせいか?

 

「へ? ななな、なにを急に!? ご、ご好意はありがたいです。で、でも…私の心は、お姉さまに……」

 

「金剛に対するお前の気持ちは関係ない。俺のモノになれ」

 

えぇと…、金剛LOVEで構わないから、ちょっと俺の指揮下でお力を貸してくれませんかねぇ。

うん? 伝えたかったニュアンスがちょっと違う気がする…。

 

「……」

 

「……」

 

顔を真っ赤に染めているヒェー。何かがおかしいぞ。

 

「…そ、その指揮下に入れという事でしょうか?」

 

か細い声でこちらに問いかけるヒェー。

 

「…そうだ」

 

「少し考えさせてください。失礼します!」

 

廊下に飛び出していった比叡。廊下は走っちゃ駄目だよ?

時折。ヒェーという声が響いてくるが、これは上手くいったのか…?

まぁ考えるって言ってくれたし、無下にされるよりはいいだろうから何事も前向きに考えよう。

 

さてと、ひとっ走りして飯食ったらまた走り込むか、今日は牙突 零式でもしてみようかな…。

んじゃ運動着に着替えに部屋に戻りますかね。ってか誰かが俺の部屋にいるのだろうか。…いるんだろうな。

だんだん、指揮下のお嬢さんたちの私物が俺の部屋に溢れてきた。お艦は簡易キッチン周りのモノ。

流石お艦はお艦である。

小悪魔鹿島ちゃんはペット雑誌とかファッション誌とか、あとぬいぐるみ。あざとさを感じてならない。

メロンちゃんの置き土産が一番俺の心を擽る。漫画やケータイゲーム機やらである。

だが、女子高生とラブロマンスする少女漫画は避けて欲しかったなぁ…。

少女漫画って意外と過激な描写があるんだね…、おっちゃん知らなかったよ。

見ちゃったその日はいつもより激しく牙突してたわ。もちろん零式。

 

 

 

 

 

「あ、おかえりなさい提督」

 

案の定、部屋に戻れば誰かいた。っていうか、メロンがいた。

小型のテレビに映し出されている国民的人気配管工のカートレース。

メロンちゃん、テレビまで俺の部屋に持ち込んできたん? 唯我独尊やねぇ。

 

「提督もやりましょ」

 

メロンちゃん君って奴はぁ…。

 

「……」

 

無言でメロンちゃんの隣に座る…勿論やるに決まってるじゃないですか。

実家は長野商会を創める前は、榛名山の麓で豆腐屋をやっておりました。

グンマーの豆腐屋の倅の血が騒ぐんだ仕方ない事だ。

走り込みはどうしたって? 偶にはいいんだよ! 夕食まではわずかな時間だ、問題ない問題ない。

ご飯食べ終わった後はちゃんと走りますから!

 

「提督これがブレーキボタンで…こっちが…」

 

「お、おう」

 

取説貸してくれればええんやで? てか大体わかるし…。だからそんなに密着しないで欲しいのですけど…。

 

コンコンと扉を叩くノック音。

 

「開いている」

 

「失礼します。提督さーんコーヒー豆手に入ったので淹れますよ…ってあっ、夕張さんずるいっ」

 

「ちっ」

 

鹿島ちゃん登場。その手にはコーヒー豆が入っている袋とコーヒメーカーであろうか。

国産コーヒーというのは沖縄の一部と小笠原諸島の一部でしか、日本では栽培されていない。

日本はコーヒー栽培に適した場所が少ない、故に輸入が滞っている現在、高級品である。

本州でも大型の温室みたいなところで栽培して何とかしようとしているが、需要に供給が追い付いていない。

父島に赴任したらコーヒー栽培でもしようか。自分で飲む分くらいは賄えるんじゃないかな。

 

てか今、メロンちゃんが舌打ちしたような気がするんだけど気のせいだよね。

 

「鹿島さんもコーヒーで提督釣ろうだなんてずるいんじゃないの?」

 

「そんなつもりじゃないですぅ」

 

この二人仲がいいんだか悪いんだか分らないなぁ。頼むから作戦中に喧嘩なんかしないでくれよと願う。

二人の掛け合いを眺めつつ、俺は一人ゲームでドリフトを決めているのであった。

 

 

 

余談ではあるがその夜、皆が寝静まった頃、学校内に「ヒェェェェー」という大きな奇声が響き渡った。

 




恐らく、本文で語られることのない感想にあったものへの回答

主計さんのモデルは大勲位閣下です。

香取型の3番艦の香椎は実在してました。
艦これにいつか登場するのかなぁ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。