提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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E4はもう丙にするっ! ヘーイ提督と呼ぶがいいさ!


提督(笑)とお見合い

海上に立ちうつろな瞳で此方に手を伸ばす人々。

 

どうしてお前だけ

 

何故助けてくれない

 

人殺し

 

熱い…手が…足が…燃える…

 

苦しい…助けてくれ…

 

長野…艦長…提督…

 

 

 

 

 

「…はぁ…はぁ…ふぅ…ふぅ…」

 

掛かっていた掛布団を蹴り飛ばし、不快な汗を無視して荒い息を落ち着かせる。

周りを見渡せばようやく見慣れはじめた自分に与えられた部屋。卓袱台で突っ伏している妖精さん。

あーくそっ! やっぱり体動かす時間を削るのは良くないな。

残ってた酒、無理して飲むんじゃなかったぜ。

 

カーテンの隙間からは朝の光が漏れてきている。時計を見れば起床時間には早いが、何かするには中途半端な時間。

とりあえずシャワーでも浴びよう。

 

頼むぜミック先生。最近、結構きついんだよ。

 

──システムアップデート中……96%……

 

あと二日か三日ってところか。もともと進行遅かったけどここ最近はさらに遅くなってきた。

99%で止まったりとか勘弁してくれよ…。

最悪、父島赴任までには…ほんと頼むぜ。

 

大体なんでいきなり最前線に送られにゃならんのだ。

俺が一体何したっていうんだよ…。異例の早さで艦娘達を指揮下に置いたって?

知らねぇよ…。いつの間にか勝手に繋がりが出来てるんだから…。俺にどうしろっていうんだよ。

なんで皆、そんなに俺に対して好意的なんだよ…意味わからねぇよ…。

ゲームじゃないんだぞ? 鳳翔や鹿島、あと比叡は…まだいいとしよう。

夕張、お前はなんでそんなに俺に対して…、散々扱き使って、無理もさせて…、どうして好意的でいられる…。

無能だとか屑だとか罵ってくれた方がまだ楽だ。

 

ああ嫌になるなぁ。俺に関わって沈んでいった艦がどれほどあると思ってるんだ…。

 

ほんとは関わりの薄い艦とテキトーに過ごせてりゃよかったんだ…。

何でこうなっちゃうんだよ…。そんなに俺に期待を寄せないでくれ…。俺はそんな大した人間じゃないんだよぉぉぉ!

 

「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」

 

シャワー室で水を被り、徐々に水がお湯に変わっていく感覚を感じながら、何度も深呼吸を繰り返す。

バラバラに飛んでいた思考がいつものように戻ってくる。

鏡を覗けばヒドイ顔をしている事もなく、いつも通りの不機嫌そうなマイフェイス。

大丈夫。いつも通り、いつも通り。絶対、大丈夫。そう自分に言い聞かせて体を拭く。

 

ウホッいい体。

 

ほら調子戻ってきた。よしっ大丈夫、大丈夫、俺は前向きでちょっと無口なナイスガイ。

 

今日もまた頑張れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっは。それで秘蔵の酒を盗まれてしまった訳か」

 

「…笑い事ではないぞ。酒の事はいいが戦艦はどうするつもりだ」

 

眼光鋭い中将が目の前の大将を睨みつける。

二人の壮年男性が向かい合う雰囲気は気心知れた仲に思え、剣呑さはあまりない。

もっとも会話の内容はそれほど穏やかではないのだが…。

 

「…代えは今いないからな…。比叡は何と言ってるんだ?」

 

「絶対に付いて行くそうだ」

 

どこか少し抜けている所があった彼女が、悲壮感のある決意の籠った瞳でそう伝えて来た記憶は中将にとって新しい。

 

「ならば、戦艦クラスを交替で送るしかないだろう。…艦娘達が提督という存在にある程度、依存する傾向はあったが…彼に対しては執着とも言えるほどだな。その辺りはどうだ?」

 

「奴の指揮下の艦娘達は皆、指揮下に入りたいと思ったの一点張りだ」

 

「ほぅ。何か言い含められているのか…。相当な信頼関係を築いていないと出来まい。それを一ヶ月という短期間で築くか…」

 

「何かある事は間違いあるまい。それが何かが分からん。尤も一般人ではない事は確かだがな」

 

「直江君も言っていたがそこまでか?」

 

「…アレは鉄火場を踏んできた者特有の空気だ。前線でもある程度何とかなるだろう」

 

この二人、深海棲艦出現当初に艦隊の指揮を執っていた者たちである。

最初の侵攻を防げなかった事から後方に回され、若い者たちを置いて生き残ってしまった経緯がある。

 

「会うのが楽しみになったな…」

 

「ふん。いきなりの査察。わざわざここまで出張ってきた理由はそれか」

 

「貴様が早々に卒業させようとするからだ。気になって当然だろう、色々と理由付けで苦労したわ」

 

「監査局がうろちょろしてるのはお前の査察に合わせてか?」

 

自衛隊がある世界線で監査局と言えば海上幕僚監部を指すことがある。

内容的には海軍省と軍令部に相当する訳であるが、この世界の海軍監査局という組織は警察で言うところの内部監査室に当たる組織である。

海軍内部で不正や不祥事が無いか取り締まり、海軍内で事件があった場合は捜査する機関である。

 

「そちらは与り知らぬよ。儂とお前が会って悪巧みでもしてるんじゃないかと疑ってるのではないか」

 

「…奴を襲撃したのが我々と? 馬鹿馬鹿しい」

 

「確かにな。だが全てを疑ってかかるそういう組織だ。仕方あるまい」

 

「気に入らん…」

 

と思うと同時に派閥争いが激しい海軍内でまともに機能している組織ともいえる、と考える獅子飼中将であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は何かあるのか…? なんかドタバタしているような気がするな。

校舎に入る前に「おはようございまっ!」と最後まで言い切らないままかけていく白露の君を見送り、自分も続いていく。

せめてこちらにも挨拶させてほしいのだけど…。

で、今日はしばらく個人授業の時間が続く。

 

「おはようございます司令」

 

教室に入り、暫く一人でぼーっとしていれば比叡教官がやって来る。

 

「おはようございます」

 

こちらも挨拶をする。

 

「……」

 

そして固まる比叡。

 

「なんだ?」

 

「司令…。お願いですから偉そうにしていて下さい」

 

「は?」

 

「もっとこう、ああ、おはよう。とか、苦しゅうない。とかあるじゃないですか」

 

なんか俺の声真似してふわっと説明するヒェーだが、イマイチ要領を得ないのですけど。

あと、苦しゅうない。なんて言ったこと一度もないからな。

 

「……」

 

「司令に普通に挨拶されるとこの辺がキュッとなって…苦しいですっ!」

 

胸の少し下辺りを抑えるヒェー。恋煩い…の訳はないか…。

 

「え、エェ…」

 

もう困惑の声しか出ないよ。

 

「そういう事でお願いします」

 

「今は教官と生徒なんだが…」

 

「司令の指揮下に入っていますから問題ありません。うん? 司令相手なら講義もしなくていいんじゃ…」

 

むむむと腕を組んで考え出すヒェー。こう見るとやっぱり美人なんだよなぁ…、ブラウンのショートヘアにキリリとした眉、

シアン系の透明感のある瞳。紛うことなき美人である。若干アホの娘だけど。

違う、見惚れている場合じゃない。講義はしろよ。

 

「どう思います司令?」

 

「…講義はしろ」

 

ちなみにメロンちゃんと二人になる授業は、彼女がひたすら武装の説明をしてくるわけなのだが、

ドリルとかロマンですよねぇ。とか、パイルバンカーってどう思います? 最後はやっぱりロケットパンチですよね!

などなど、物凄く話が脱線する。兵装についての授業だから脱線ってほど脱線でもないのか…?

 

「…そうですか。じゃあ今日の連絡事項です。今日は大将閣下が査察で来るそうなので問題起こしちゃだめですよ? 午後は駆逐艦と顔合わせしてもらう講義があります。それでは本日も気合い入れていきましょう!」

 

「……」

 

えぇ? さらりと通達する事じゃないのでは? まぁ、査察ってことだから学校内の色々な場所巡るんだろう…。

わざわざ、ボッチでいる俺の所になんか…来るわけ…。いやぁ転移者って訳だからどんなもんか顔くらい見に来るかも…。

海軍大将か…。井上さんには大変な役回りを押し付けてしまったかな。いや、あの時はまだ兵学校の校長してたか。

まぁでも政治家の方には根回ししておいたし、あの後の終戦工作には、海軍では井上大将っていう人選しかないだろう。

一応、坊の岬…成功してるから沖縄近海戦とでも名が付いているのか…いや、いつか見たニヤニヤ大百科では坊の岬だったか。

まぁ名称はいいか、あれの成功のせいで主戦派が勢いづいていたかもしれないから相当大変な思いだったんじゃないかなぁ。

一度、線香くらい上げにいこう。

 

「あの、司令。…金剛お姉さまの事なんですけど…」

 

金剛かぁ…。眉間に皺が寄る。やっぱり俺の事…だろうか。

 

「何でもない…です」

 

言い淀んで止める比叡。

 

「それより駆逐艦と顔合わせとは?」

 

なんか気まずい空気が流れたから話題を変える。

 

「通称、初期艦選びって言ってですね…2、3年になると行われる講義で、提督になる生徒の最初の部下になる艦娘とのお見合いみたいなものですか? 年々、来る娘が減っていてこの先どうするんでしょうね」

 

艦これユーザーなら初期艦選びって言葉だけで察するな。ただこの世界、どちらかというと艦娘達による提督選びなんじゃないかと思う。

艦娘側が気に入らなければ拒否できるみたいなこと言ってたし…。

でも毎年、十人前後…もっと少ないか。他の学科の生徒たちと比べて温いとは言え、そこはやはり軍隊。

なんの気概もなくいきなり軍に入れられて、耐えられなくてドロップアウトする者が一定数居るって言ってたから。

半分の五人が卒業して提督になるとする。一人に一人の艦娘が着くとしても…、香椎の件もあるから俺がやってた時の未実装艦も艦娘になってる可能性あるな…。

なら今は大丈夫そうか。でも、そう遠くないうちに宙ぶらりんの娘はいなくなるか…。

 

確かにどうするんだろうな…。

 

まぁ、その辺は俺が考える事じゃないな。駆逐艦は誰だろう…、極力は関わりない娘がいいなぁ。

何なら今からドロップアウトして…どっかの鎮守府で雑用でも…。

途中でリタイアした生徒はもっと温い環境で海軍関係の仕事に必ず回されるらしい。

といってもやっぱり海軍なんだけど…。

俺の場合は指揮下に4人も置いてるんだから今更やめたいなんて言えない…ていうか多分却下されるだろうから頑張るしかないんだろうけどさぁ。

 

気が重たいよね…。いかんいかん。ネガティブ思考なんてポイッ。

ちょっと気を抜くとすぐ弱気が顔出してきやがる。

 

「司令?」

 

「何でもない」

 

さてと気合い入れていきましょう!

 

 

 

 

という訳で何事もなく、あっという間に午後になったわけです。

駆逐艦とのお見合いは一人じゃないんだね…。もう他の学年とのお見合いは終了して、

教官が比叡からお艦へと変わり、今日の授業はもうすぐ終わりという時に彼女たちはやってきた。

ついでに良いお年に見えるが、背筋は伸びて体も引き締まっている事が軍服の上からも分かる大将閣下と校長先生&その他。

入って来たときお艦がこちらにアイコンタクトした。

事前にお艦は彼女達に言い含めてくれていたらしい。流石、お艦出来る女や。

目の前に並ぶ3人の乙女。

 

「…初めてお目にかかる。長野業和だ」

 

艦娘として会うのは初めてだから間違ってないハズ。

 

「た、たたた谷風だよ…これからお世話になる…ます」

 

握手を求められて応じる。はて、お世話になる…?

大阪生まれなのに江戸っ子口調。陽炎型14番艦。中、大破画がとてつもなく犯罪臭漂う、黒髪のおかっぱに白いカチューシャ。

セーラー服の黄色いスカーフが特徴的で他の陽炎型に比べると何故か小柄な娘さんである。

俺的には駆逐艦(軽空母)のRJさんの口調と並んでナゼナゼ?だ。

さて、そんな彼女とは…、というか陽炎型10番艦以降はある程度関わりがある。

マル4計画で陽炎型の改良型の夕雲型が次期主力駆逐艦に設定されるのだが、陽炎型も4隻追加で建造されることになる。

アイツ航空機の設計や発動機開発に関わってたんだから艦の方もある程度いけるんじゃね? という命令で俺氏艦政本部に出向です。

計画の追加の四隻の陽炎型の担当になった、だったら未だ建造始まってない陽炎型と施工が間もないのもやっちまおうということで、

手を加えたのが10番艦の時津風からである。

 

たまにご機嫌斜めになる機関が安定するようにしたのと機関室と缶室の浸水対策、燃費と速度がちょっと良くなった。

速度の方の上昇はミック先生でも想定外だったらしい。まぁ一艦一艦造船所違うし手作りだからね、多少の誤差って奴だろう。

武装は12.7cm連装砲を一基減らして高角砲一基装備。ほんとはもう一基高角砲か連装機銃装備させたかったんだけどなぁ。

まぁとにかくそんなわけで陽炎型と夕雲型の間の改陽炎型として書類上分類されたり、されなかったりすることになるのだ。

 

でだ、この谷風さんはミッドウェー海戦の折、損傷した加賀と最上、飛龍(自力で航行可能だった)を引っ張りながら主力艦隊に向かい撤退している時、迎えに来てくれた艦だ。

三隈と最上は味方空母部隊全滅(誤報)という連絡を受けてはいたのだが、撤退命令は上手く伝わらずに戦場に向かってしまう。その時、最上が潜水艦にやられてしもうたのだ。

谷風さんは生存者救出の為にこちらに向かっていたようで、ミッドウェー島から飛んでくる敵機の攻撃を躱しまくって、結果的に敵を釘づけにしてこちらの撤退を支援してくれた形となる。

勝見君、まじ神懸かってる。

谷風が合流してからも空襲は2度ほど受けたが、全艦どうにか逃げ切ることが出来たのよね。

 

 

 

谷風からすると合流した後、艦隊の指揮を実質的に執り、見事な迎撃態勢を整えつつ、夕張に乗って自らは殿やってた人間である。

それも敵に真っ先に狙われるように艦隊から落伍したように見せかけて、敵の攻撃を集中させて無傷だったのも自分の艦長と同じくらいパネェよと思っていたりする。

主力艦隊と合流した時、谷風の所まで来て艦長はじめとした乗員たちにお礼を言い、最後は艦だった自分に対しても礼を言って去っていった男が今目の前に。

鳳翔から何があっても驚くな余計な事を言うなと事前に言われていたが、そんなもの無理である。

ただただ、名前を言うだけで精一杯であった。

 

 

 

「駆逐艦、浜風です。これより貴艦隊所属となります」

 

待て待て待てーい! いきなり!? ほら、後ろのお偉いさん方がみんなフリーズしているじゃん。

ちょっと落ち着こうな。両手でつかんだ俺の手をとりあえず放そうな? 潤んだ目で見つめるの止めような?

乳風…、じゃなくて浜風さんは銀の髪が肩口くらいまでのセミロングで右目が前髪で隠れ、

左の方は髪留めで止められ、綺麗な空色の瞳が覗いている。けしからんのは駆逐艦にあるまじき胸部装甲である。

セーラー服の上からわかる胸元を押し上げている二つのふくらみ。けしからん…とてもけしからん。

こねくり回し…嘘ですから…そんなに潤んだ瞳で見ないで、いけない事考えちゃいそうだから手もそろそろ放そうよ?

 

「陽炎型駆逐艦。磯風。貴方が私の司令(マスター)だ」

 

何、その腹ペコ王みたいな台詞。で、貴女も俺の手を掴むのですね。

やったね両手に花だよ…。ほら、後ろのお偉いさんたちが口あんぐりさせてるから君も手を放そうな?

三人ともセーラー服に黄色のスカーフ。グレーのプリーツスカートという出で立ちである。谷風と浜風が半袖に対して磯風は長袖だ。

黒髪ロングのストレート。一部、赤の髪結いで前に流している。特徴的なのは真紅の瞳か。え、涙が浮かんでるのは気のせいじゃないよね…、どしたん?

 

浜風と磯風は天一号の大和組だからなぁ、他にも色んなところで関わってるし、これはバレてるよなぁ。

谷風にもバレてるっぽいしなぁ。お艦は本当にナイスだ。

ところで体に負担は掛かってこないから、指揮下に置いたわけじゃないのか?

流石に3人一緒にとかだったらかなり負担あると思うんだけど、今のところない。そういや浦風がいないな。

まぁ俺としてはちょっとホッとするところであるけど。

 

さて、此方を見て固まっている後ろの方々をどうしたものかねぇ…。

 

 




前話の感想で、餃子(苺味)がちょっと他に対して無関心すぎるんジャマイカ。
とありましたが、まぁ色々あるわけです。
特に自分の指揮下で戦って沈んでしまった艦に対しては…思うところがあったりするんです。餃子のくせにね。

ちょっと補足的などうでもいい事。

改陽炎型 書類上、そのまま陽炎型だったり改陽炎型だったり曖昧。
以下、改陽炎型に該当する艦。
第26号艦(時津風)、第27号艦(浦風)、第29号艦(浜風)、第30号艦(谷風)、
第31号艦(野分)
第112号艦(嵐)、第113号艦(萩風)、第114号艦(舞風)、第115号艦(秋雲)

あと餃子(苺味)の若かりしき頃の写真は実家に何枚か存在してますが、長野家としては表に出さない。まぁ、探せば長野家以外のどっかから見つかるんでしょうけど。
その辺はこうご期待という事でオナシャス。

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