ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!
理由は違えど向き合う二人の心の叫びは同じであった。
一方は白い海軍服に身を包む男。
もう一方は女子高の制服かとも思えるものを身に着けた眼帯女。
二人の再会はお互いが最悪な心理状況で幕を上げた。
いきなり刀を突き付けられたでござる。
マジヤベェよ。視線だけ左に移せば扉に刺さる天龍ちゃんの艤装の刀のようなモノ。
視線を戻せばカチカチとその刀を震わすご本人。
ねぇ、ちょっと待って! さっきよりカチカチ具合が大きくなってるんだけど待って。話せばわかる。
「わ…わ…」
わってなんぞ?
いきなりバッサリやらないって事は話し合う余地があるんだよね!? そうだよね!?
今まで会った艦娘さん達から推測するに天龍ちゃん確実に気づいてる。
そして気づいて壁ドン…ならぬドスドンである。
こりゃかなり恨まれてるのか憎まれてるか、ご立腹されている様子である。
思い当たる節は…ある。
あ、天龍ちゃんの斜め後ろに龍田さんがいる。プルプル震えながらこちらに敬礼されていますが、
それは俺に対して逝ってらっしゃいと笑いを堪えてる奴ですかね…。
それよりカチカチ音がさらに大きくなってきた。そろそろヤバイマジでヤバイ。バッサリ逝かれてしまう。
まずは、挨拶からだよね。コミュニケーションに必須だと思うの。
なるべく刺激しないように下手にね、やぁ天龍ちゃん久しぶりだね。
「…久しいな。天龍」
…知ってたし! 下手になんて出れるわけがない事知ってたしっ! それでもわずかな期待にかけて試してみたいお年頃。
「お、お、お、おお、おう」
…こ、これはビビらせるはずが、全然ビビらなくて動揺しているな?
ハッハッハ、残念だったな。内心ビビりまくっても顔には出ないのだ。
「…龍田も壮健か」
天龍ちゃんが気を取られてるうちに話題を色々逸らしてこの刀のようなモノを仕舞ってもらおう。
最悪ちょっとお預かりさせてもらって落ち着いたら返す方向で。
「はい! お久しぶりです。またお会いできて光栄です!」
姿勢はすごくいいのだけど小刻みに震えている。あれ、もしかして具合が悪いのだろうか?
あ、よく見れば天龍ちゃんもだな。
「顔色が悪いようだが?」
大丈夫かい?
「…あ…あ…あ」
おいおいもうシャレにならないぐらい震えてるけど大丈夫なのか?
でも、とりあえず刀の様なものから手を放して欲しいの。扉までガタガタ言い出してますがな…。
まずいぞ。全然気を逸らすことができてないじゃないか。
や、やむをえん。
そっとそおぉっと天龍ちゃんの刀に手を伸ばす。
今だっ!
獲ったどぉ! て重っ!? うっそーん!
抜いた刀が予想していたよりも重くて、勢いよく廊下の床にぶっ刺さってしまった。
そして何故か天龍型姉妹が二人して目の前で土下座している。さらにぶっ刺さった刀は天龍ちゃんの頭数センチ手前。
なんだコレ? えっと、なんだコレ?
「どうした?」
「……」
「……」
二人して全く動かない。
「聞いているのか?」
「て、提督! 天龍ちゃんもう気を失ってますから許してあげてください! どうかどうか」
あるぇぇ!? コレどういう状態なの!? 龍田さんのキャラってこんな感じだっけあれ? あれえええ?
もう一度言う。なんだコレ?
「おい龍田。見ろよ新しい提督だぜ」
龍田と警備府の廊下を歩いていた天龍は提督執務室の扉の前で、そのプレートを見上げている白の海軍服を着た男を見つけた。
というよりは数時間前より提督が来る報を受けており、さきほどから港が騒がしかったのでいよいよかと思い、新しく着任して来た提督の面を拝んでやろうと探していたところだった。
最初からここで待っていればよかったものの、居ても立ってもいられなくなって行き違いになっていたのだが、
そこのところは忘れる事に、いや梃子摺らせた苛立ちをぶつける事にした。
「おぉし! ちょっくら挨拶してやるか」
もしこれが、もっと早く邂逅がなっていれば違う未来があったかもしれない。だが現実は非情である。
「ふふ、天龍ちゃん。ほどほどにね」
「おう」
そして未だに呆けっと扉の前に立っている男の背後に近づき、艤装の刀を掠めるように突き立てた。
さて、この天龍の持っている刀のようなモノ。ここでは天龍剣と呼称することにする。
深海棲艦に対して振るった事は無い。もっぱら遠征時に駆逐艦たちの引率をする時に、天龍組と書かれた旗をつけているものに成り下がっている。
それが今回は全うにドスを効かす本来の役目が叶った。それが天龍にとっていい事か悪い事かは置いておく。
「ヨウっ! アンタが新しい提督か。オレの名は天龍…。…フフ…怖わっ…わわわわ」
振り返る男の顔を見て一瞬で何者かを理解した。理解してしまった。
心の内は盛大なパニックである。
アレェ!? ナンデ、ナンデホンモノがいんの!? 聞いてねぇよ! と。
それと同時に蘇る艦時代の記憶。
ミッドウェーに乱入する前。
航行中、突如夕張が発砲。海上に水柱が上がる。
あの辺に潜水艦が潜んでるから沈めてこいと随伴の駆逐艦に命じる。
第29駆逐隊から3隻そこに向かい、爆雷を投下し始める。
実際に存在した事にも驚いたが、なかなか仕留める事が出来ず、業を煮やしたのか投下を止めさせて夕張が全速でその域に突入。
天龍、龍田と残った駆逐艦も後を追う。
何をトチ狂ったのか投錨。
大きく夕張の船体が揺れたあと碇を巻き上げ、敵潜水艦を釣り上げた。
艦隊が唖然とする中、とっとと砲撃して沈めろと命令を受け、一番近くにいた天龍が砲撃して無事仕留める。
艦隊に新しく来たばかりのその男に対してあった少なからずの不満がこの時消えた。
と同時に「あ、コイツ、ヤベェ奴だ」との認識が艦隊に生まれる。
ミッドウェー到着後も沈みそうな蒼龍から一人担いで出てきたり、飛龍に乗り込み二航戦司令官と物理的な話し合いの末に撤退を承認させたらしい。
その後も輸送任務や警備任務でお前の目と勘は正直おかしいと思うほど潜水艦を見つけては沈める事3度。
そして後に第一次ソロモン海戦と呼ばれる海戦。
もともと史実においても日本側が大勝利を収めた戦いではあるが、夕張、天龍、29駆の夕凪は強引に参加している。
連合国側は駆逐艦4隻を残し全て沈没と、史実よりも被害を広げる事になった。
壊滅状態の連合国側艦隊が深夜のスコールの中に逃げ込むも、逃がさず食いつく夕張と天龍により被害が拡大した。
追撃後サボ島北に再集結した艦隊での敵輸送船団に対して再突入を行うかの話し合いで、
敵の機動部隊は壊滅状態だ空母なんか出てこない。出てきたとしても商船改造の空母か軽空母が少数だから再突入をと鳥海の艦長と共に強く進言。
鳥海艦長は「司令部移せ。鳥海だけでもやる」と言うが参謀は首を縦に振らず。
「なら此方だけでも行う。沈んでも惜しくない旧式艦なら問題ないでしょう」と件の男。
結局、司令部を鳥海から移し再突入部隊は鳥海と夕張、天龍の三隻を含むもともとの艦隊の半分で行われることになった。
結果は大戦果と言って過言ではないものを上げた。
だが、そいつが艦隊に居た時期にあまりにも色々おかしいだろという命令を聞いている艦時代の天龍。
彼女の中ではすごい人だけどヤベェ奴筆頭となっている。
で、そんなヤベェ奴に天龍剣を掠めさせてしまったのだ。
ヤベェヤベェどうしよう!? とその言葉が頭の中で何度もリフレインしている。
「わ…わ…」
意味にならない言葉が漏れるも自覚は無い。
うわぁ超目つき鋭い、絶対キレてるよコレ怖えぇよマジで怖えぇよ。
「…久しいな。天龍」
何だよその獰猛な笑み。怖えぇってさっきから震えが止まらねぇ。
「お、お、お、おお、おう」
おう。じゃねーよ! ちゃんと挨拶しろ俺の口ぃぃ!
「…龍田も壮健か」
そ、そうだ龍田だ。た、龍田助けてくれ。と念を込めて見やる。
「はい! お久しぶりです。またお会いできて光栄です!」
俺はお前のそんなきちんとした敬礼初めて見るぞぉぉ!
(天龍は気付いていなかったが龍田も龍田で向けられた獰猛な笑みと言葉で体が硬直していた。)
そして龍田の目が物語っていた「天龍ちゃんそれは無理」と。
龍田ぁぁぁぁぁ!!
「顔色が悪いようだが?」
長野提督マジ怖い。
深海棲艦と殺り合っていた方がまだマシなほどの恐怖。
全身から変な汗が滲み出る。自分の意思とは関係なく震える体。
溢れそうになる涙を必死でこらえ、その場で勢いよく土下座した。
ごめんなさいアナタだとは思わなかったんです! という思いと共に…。
しかしどうやら許してはくれなかったらしい。
床に刺さる天龍剣。少しでも顔を上げれば斬られることは間違いない。
「どうした?」
もう終わりか? かかってこないのか? そんな覚悟で俺に剣を向けたのか?
そう問われているようであった。もともとアナタだと知っていればこんなバカなことしなかった。
はは。すまねぇ龍田どうやら俺はここまでのようだ…。
天龍は気を失った。
お徳用瑞雲さんが入室しました。
お徳用瑞雲:おいっす! だぁぁぁ超疲れた。
雷電☆命 :おかえり^^お土産はカニかな? サーモンかな? かな?
ライバック:北方輸送作戦お疲れさん
アァーー!:いいのかい? 俺は平気でノンケでも食っちまう男だぜ?
お徳用瑞雲:ガチホモ労いの言葉もなくいきなりそれか! マジで黙れ! ちなみに土産は無い。
雷電☆命 :使えねぇ奴。
ライバック:俺、超カニ好きだったのに。
アァーー!:私は君の体で構わんがね?
お徳用瑞雲:うっせぇ! んな暇なかったわ。あとガチホモ、マジで黙れ! 大事な事だから二回言っている。
ライバック:まぁ冗談はともかくどうだった? 結果知ってるけど。
アァーー!:メディアも大分取り上げていたからな。帰還後の取材会見での君の初々しい態度にキュンキュンした。
お徳用瑞雲:やめろ! マジやめろ! そしてクソホモお前は死ね!
雷電☆命 :え、何それ私知らない。ネットに動画上がってる? 超見たいんですけど(*´▽`*)
ライバック:上がってる。あとでURL送ってやろう
雷電☆命 :わーい。さんきゅ(^^♪
お徳用瑞雲:止めてください。死んでしまいます俺が! 羞恥で! まじやめて
アァーー!:悶えるのは勝手だが、もう手遅れだろうな。それより委細報告したまえ
お徳用瑞雲:はぁやってらんね…。てか委細つったって大体把握してんだろ?
ライバック:まぁそうなんだけど俺らが知ってるのは作戦概要と結果とかだから表向き。
お徳用瑞雲:お前、俺のPCハッキングしやがったな!?
ライバック:大丈夫大丈夫。見たのは上にあげた報告書だけだから、お徳用の性癖なんて俺は知らないから大丈夫。
お徳用瑞雲:それ全然大丈夫なように聞こえないからな!
雷電☆命 :どうせ駆逐艦prprしたいんでしょ。今更?('A`)人('A`)ナカーマ
お徳用瑞雲:お前と一緒にしないでくれますかね!?
アァーー!:ガチムチプロレスだと?('A`)人('A`)ナカーマ
お徳用瑞雲:お前と一緒にしないでくれますかね!? そしてお前は死ね!
ライバック:タンカー13隻からなる輸送作戦。北方航路を辿りアラスカへ。そこから石油満載で日本へ。
アァーー!:南方航路が壊滅しているからな。ロシアかアメリカからの北方航路しかないというのは分かるが…。
お徳用瑞雲:油の備蓄が枯渇寸前なんだから政府も無茶するだろ。あと話をぶった切って進めるお前らぐう鬼畜。
ライバック:それを成功させてくるお徳用も大概だよね。
お徳用瑞雲:まぁうちの師匠と伊勢が居ればな。と言いたいところだがうちの艦隊以外から提督お断り勢から何人か付いてたし。ちょっとあいつ等おかしい。
ライバック:二航戦と五航戦付いてたんだっけ? あとうちのながもん。
お徳用瑞雲:長門には礼言っといたけど。お前にも言っとくわマジ助かったわサンキュー。
ライバック:お、おう。お徳用がデレた。
雷電☆命 :ツンデレ乙
アァーー!:私にはツンしか見せないがどういうわけだ?
お徳用瑞雲:お前にデレる要素なんてねーよ! つーかデレてもいねぇし!
ライバック:ハイハイ。それより何度か戦闘はあったんでしょ?
お徳用瑞雲:あったよ生きた心地がしなかったぜ。映像データ編集して送ってやるよ。アメリカ艦娘の映像もあんぞ?
ライバック:あ、見つけた。こっちで編集しておくから上にあげる分だけでいいよ。ホモもいるでしょ? 一応みことにも送っとく。
アァーー!:あぁ頂こう。
雷電☆命 :うぇーい
お徳用瑞雲:おい待て!? 現在進行形で俺のPCが覗かれてる件について
アァーー!:そういえばライバック。餃子氏にコンタクト取れたのか?
ライバック:…まぁ一応。
お徳用瑞雲:無視か!? で、餃子がどうしたって?
雷電☆命 :餃子ちゃん父島だっけ? に着任したんだってさ。
ライバック:裏からコンタクト取ろうとしたらセキュリティ突破できなかった。
アァーー!:電子戦は少なくともライバックと同じ程度にできるという訳か。
お徳用瑞雲:それも凄いけど3カ月で卒業じゃ提督としてもけっこう優秀って事だろ?
アァーー!:君は輸送作戦で知らなかったか。実質2カ月と少しだ。ついでに言うと教官の艦娘を悉く連れ去る案件が発生。
お徳用瑞雲:え? 何それ。
ライバック:比叡、鳳翔、夕張、鹿島、谷風、磯風、浜風。と今現在で判ってる彼の指揮下。父島勢もどうなってる事やら。
雷電☆命 :駆逐艦は私の紹介だ(´-∀-)=3ドヤッ
お徳用瑞雲:え、何ソイツ?
ライバック:士官学校の成績は普通。運動能力は高い。上がこそこそ何やらきな臭い。一波乱ありそうな予感がするんだよね。
アァーー!:コンタクト取れたのであろう? それで彼は何と?
ライバック:今は業務と警備府の把握に忙しいから落ち着いたら連絡してくるそうだよ。
お徳用瑞雲:ちなみにどうやってコンタクト取ったんだ。
ライバック:普通に。向こうに詰めてる軍人通してメールした。色々勘繰られるからしたくなかったんだけどさ。
アァーー!:それにしても父島とは。上は何を考えているのやら。いや指揮下に置いた艦娘の数を考えれば妥当か。
お徳用瑞雲:輸送作戦完了でロシア相手には一息つけたと思ったが、そうでもないらしいな。
ライバック:だね。中華と半島はいつもの事だから無視するにしても今はロシアからの石油も貴重だからね。
アァーー!:政府もロシアからの艦娘派遣要請は完全無視は出来まい。何時まで持つやら。
ライバック:人類生存をかけて戦っているのに内部のゴタゴタと国家外交と考える事多くて嫌になるよねぇ。
お徳用瑞雲:なるほど。となると父島にいる餃子とは友好的な関係を築いておきたいわけか。
アァーー!:せめて軍の派閥争いが収束すれば遣り様が見えてこようというものだ。
雷電☆命 :おいお前ら。分かりやすく三行で説明汁。
アァーー!:石油欲しいなら艦娘寄越せという国がいっぱいある。
ライバック:日本は内部で喧嘩中。この中に艦娘なんか外国にあげちまえと言う奴もいる。
お徳用瑞雲:それは嫌だから俺たちで何とかしよう。お前の指揮下の駆逐艦を渡したくないだろ?
雷電☆命 :なるほど。なんとなく把握した。
ライバック:これだけ分りやすくして 何となく なのかよ!?
お徳用瑞雲:手遅れだ諦めろライバック。
アァーー!:餃子氏はいい男だろうか…。
お徳用瑞雲:ガチホモは黙ってろ!
今日も提督達は仲が良いのであった。
みんな天龍ちゃんが大好きな事は分かった。
あと、ぼのたんの事はもう少し待ってね。お兄さんとの約束だよ?
どうでもいい蛇足な話。
朝鮮戦争時に日本も艦隊派遣しております。
長門とか酒匂とか葛城とか…。
あと軍縮により艦艇を他国に売却していたりもします。
主に松型駆逐艦とか。
あわや長門の砲撃に売却された艦艇が…! なんてこともあったりなかったり