「…という感じなんですが、大丈夫ですか」
「ああ。大丈夫だ」
場所を書斎に移して、現状説明を受けております。
妹の文乃は席を外してもらっております。軍機に抵触するかもとの事です。
アレェ、俺はいいのかな?
まぁ長々と説明してくれたが、深海棲艦に関して要約すればゲームと同じことしか言われてないからな。
突如現れて、世界中のシーレーンが破壊されてやばいって事だ。
現在、近海の防衛だけで手一杯との事です。
「それで、壱業さんがこの時代に来た現象についてなんですが…」
ああ、それね。リーゼントのせいだわ絶対!
「数年前、深海棲艦が現れ始めて少し経ってから日本の各地でこの国の戸籍を持たない者が突然現れるという現象が起こるようになりました。頻度は年に多くて三回ほど。今回はそれの変則という形で壱業さんが選ばれたのだと推測出来ます」
え、俺のほかに転移組が!? というか…
「変則?」
とはなんぞや。
「はい。通常は彼ら曰く、この私たちの世界を観測していた別の世界から来たということなので…」
ってことは一緒に駆逐艦を愛でる会を作れる可能性が!? 待て俺はロリコンじゃない! ただの紳士だ!
そんな目で見てくれるなユーリエちゃん。
「…あの」
どこか探るような緑色の瞳が俺に突き刺さっている。
「…なんだい?」
憲兵さんは呼ばないでね!
「こちらの世界に来た人には特徴がありまして…」
紳士という名の変態ですね! わかります。
「……」
無言で力強く頷く。
「…肉体的にピークを迎える十代後半から20代前半の姿になるのと…ある…素質が…あって…ですね…」
え、俺若返ってるの!? 思わず刀抜いて刀身で確認しちゃった。
「…若い」
二十歳そこそこくらいかな。
道理で体調がすこぶるいいわけだ。ここのところ不摂生と煙草と睡眠不足で慢性疲労と肩こりが酷かったもんな…それがない。
「ええ、もう一つは特殊な艦隊の指揮能力です」
仮にも最後は海軍少将。二階級特進は少将じゃしないんだっけか? 一階級特進で中将とかに…なってないだろうな。
上からは嫌われてたからなぁ。悲しいわぁ。まぁとにかく、ミック先生が居れば凡人に毛が生えた程度の指揮する自信あるよ?
「あの、恐らく今、通常の艦隊指揮の事を想像されていると思うのですが、ここでいう艦隊指揮能力とはある…兵器を取り扱う資格…、いえ能力であって、後天的にこの能力が身につくという事案は確認されていません。
そんな能力を持ってこの世界にやってくるのですが…、恐らく壱業さんにも備わっていると思うんです」
「…そうなのか」
ISに乗れたりとかそういう事なの? あれ艦娘は?
「それでですね、特例海軍人事法に基づき、士官教育課程を受けていただき、問題なければ任官という形になるんですが…」
ふむふむ。なるほど。特例海軍人事法ってのは恐らく深海棲艦が暴れてやべぇから超兵器使える奴はとりあえず海軍なっ!
ってな具合なんだろう。最初の頃は全国で一斉に行ったんだろうけど、今は多分一定の年齢で適性試験受けさせられてんだろうな。
そして、その超兵器が艦娘に当たるんだろう。もしかしたら機密扱いなのかもしれないな。
あれ、ミック先生いなくても結構いい線で予測できてんじゃね?
「…また海軍の所属になってしまいます……」
何故かそう言って俯く彼女。
「何か問題かい?」
もしかして能力がなかったりして海軍追い出されたら実家でニートさせてくれないだろうか。
「だって! 散々、作戦や戦略を提案しても軍令部に無視されてきたじゃないですか!
しかも、苛烈を極める前線には何時も駆り出されて、どうにか被害を減らしながら戦って、局地的勝利を得ながらも上は全く評価しなかった、むしろ非難することまであったそうじゃないですか! 最期はあんなにも無謀な作戦で命と引き換えに大戦果を挙げたのに…、
戦犯として…裁かれて、全然報われてない! …そんな貴方にまた海軍に入れなんて…」
お、おう。一気に捲し立てられた。この娘、急にスイッチ入るよね。
ちなみに俺のやる気スイッチは下半身にある14cm単装砲です。
一応、親戚だけど、それにしても随分と詳しく知ってるようだね。もしかしてウィッキーさんに載ってたりするんだろうか。
…もしあったら絶対見ないぞ!
まぁ彼女の言ってることもあながち間違いではないけど全然報われてないとも言えない。一応は海軍少将だしな、最後は作戦の一部採用されたし。
それなりに出世もした、実家でやってた商売で大儲けして規模を大きくしていくのは楽しかった。
あ、今、長野商会は残ってるんだろうか、そもそも俺の死んだ後ってどんな歴史歩んだんだ?
ドゥーリトルを阻止から各海戦の日付も微妙にずれてたり、史実にない小規模な海戦もあったり、坊ノ岬沖海戦なんて4月だったのが8月になったからな。
いやぁ最期の作戦はもう二度とやりたくないね。大和たち第二艦隊より先に呉から出て南進して息を潜め、台風とともに北上。まさに神風アタック。
ほんとはあと何隻か連れていく予定だったけど補給が間に合わず置いてきた。彼らはあの高波(駆逐艦にあらず)のエンドレス強襲を受けずにすんだのは幸運だったのではないか。やっべ戦闘前に海兵が船酔いで全滅するかもっ! て思ったもの。
実際、駆逐艦一隻、航路見失って艦隊から迷子になったし、それくらい酷かった。
「俺が死んだ後、この国はどうなったんだい? 講和はなったかい?」
そうそう、戦犯で裁かれたって言ってたけど、まぁスケープゴートにされたんだろうな。
「…そ、それは、その一応は、はい」
「なら、報われたじゃないか」
「え」
「講和はどんな内容だい?」
「えぇ…っと…」
天皇制存続、ただし連合国側主体の民主化、元の世界の日本と同じ領土+北方領土以外の支配地域無償返還および即時撤退。
連合国軍の駐屯を認める事。日本軍の軍備制限。新兵器開発の際、その技術を連合軍側に公開すること。
連合国の指定する人物の連合国主導の軍事裁判。
大まかにいうとこんな感じらしい。
彼女が言い淀んでいたのは事実上敗北で何も残らなかったかららしい。
元の史実知らないんじゃ当たり前だけど、無条件降伏じゃないし、軍が残ったし、航空機開発許されてるし、北方の島と沖縄もある。史実よりマシだろ。
「…講和なったか」
一応、目標達成できた。得たものは戦争の悲惨さを知ることのみ。
史実よりはマシな終わり方だ。救えたとは言えたものじゃないけど。ミック先生! 俺、頑張ったよ!
──システムアップデート中……4%……
…ああ、そうっすか。
「戦犯として…その、怒りを覚えたりとか」
「? いや、最悪、無条件降伏まで考えていた」
「…そうですか」
「何かあるのか?」
引っかかる言い方するね。
「講和条件が不服ということで一部の将校が蜂起しようとしていた事件がありまして。彼らの派閥の中心だった貴方に報いるために」
「なに?」
あいつらェ…。
散々、俺が死んだ後は何もするなよ? 絶対だぞ! って言ったのに、振りじゃねぇのに!
「ひいばぁが説得して、どうにか収まったらしいですけど…。壱業さんはそれで良かったと?」
「当たり前だ。犠牲は少ないほうがいい」
言い訳すると俺は派閥なんて作るつもりは無かった。海軍学校の同期っていうのは非常に絆が強いのだけど、エリート意識も非常に強く、自分たちがいれば戦争勝つるみたいな思想だったから、それは視野が狭量じゃね?と。
ミック先生の隙のないお言葉を借りてぐうの音も出ないほど言い負かした。あと、お前らニューヨーク見てこいって自腹きって旅行させたりしたら、なんか懐かれた。
んで、いつの間にか同期の派閥っぽいのが出来てた。それが出来ると他の人も集まってくるわけで、どうせ無駄になる朝鮮半島の投機は最低限に留め国内に回し、併合を何とか独立へもっていけないかと右往左往してた時期にまさか自分が五・一五の首謀者として担ぎ出されそうになるとは思わなかった。
事件自体は起こらなかったのだが計画があったのを知ったときは超焦った。
朝鮮に流れる金が東北に回る事にもなって大規模な農地改革もうちの会社を通して始めたし、そもそもの世界恐慌の煽りで倒産しそうな会社には資本投資したりしていたので国内不況は史実ほどひどくはなかった点が諦めさせることができた要因だろう。
あれ、でもそのせいで上に情報が洩れて、睨まれて煙たがれてたんじゃね?
おうっなんてこったい。いや、もうそんな事はどうでもいい、それより
「戦後は?」
「大体は壱業さんの書いた日記の予想通りです」
あれ見られたのか!? ミック先生がいるから本当は必要なかったのだが、自分の頭を整理するために未来の出来事を大雑把に書いておいた。
ノストラダムスの大予言風に…。
「…そうか」
黒歴史は触れないことにして目を瞑って考える。他にもアレ、ページ余ったからあとで妹にでも歌わせようと21世紀のラブソングをその当時の言葉風にして書いたりとかしてたんだけど…ご丁寧に楽譜まで書いて…。
ああ、目開けると泣いちゃいそうだ! そっちのことは考えるな。あと何か聞くことあるかなぁと。
あ、ちなみに満州事変と海軍軍縮条約はどうにもならなかった。
どうでもいいことだけど、まんしゅうって何だか響(駆逐艦にあらず)きが、やらしくない?
ああ、この人は自分の事なんてどうでもいいんだ。
私が声を荒げても、
「なら報われたじゃないか」
何でもないように、ただただ穏やかにそう言った。
「…講和なったか」
少しだけ緩んだ頬。
「当たり前だ。犠牲は少ないほうがいい」
国を想い、人を想い、たとえ自分が犠牲になっても、どんなに理不尽な扱いを受けても、十全を尽くし全うしてしまうのだろう。
多分、軍人としてなら正しいのだろう、
「…そうか」
静かにそう呟いて何かを考えるように目を瞑った彼。
きっと今の自分の立ち位置を理解して、またこの国の為にできることを考えてるに違いない。
でも、日記に書かれた悲恋の歌。私は知っている。知ってしまった。
ひぃばぁが、おばぁが、母がそして私。長野家の女は皆この歌を歌える。
母は嫁いで来たときに教えてもらい涙したという。
彼の若い頃を知る人からも話を聞いたことがある。女学生の憧れの的だったと。
当時はお見合い結婚が当たり前で、長野の家柄も商売で儲けた資産も合わせれば見合い話が多くあったらしいが、全て断っていたのだという。
とても愛した人がいたのだ。
壱業さんは生涯独身だった。死に別れたのか自分が軍人だから未亡人を作らないためにその人を諦めたのか知らない。
きっと大きな戦争になる事を昔から予想していたのだろう。彼は愛を捨て感情をすり減らして帝国海軍の軍人として駆けた。
それが悪いとは言わない、いや言えない。
今があるのは壱業さんをはじめ多くの先人たちが文字通り必死になって掴んでくれたおかげだから。
だけど、もういいではないか。貴方は十分国に尽くした。
自分が幸せになることを願ってもいい番です。
これはきっと頑張った貴方に神様が与えてくれたご褒美なんだ。
私はそう思います。
貴方はきっと進んで海軍に入るのでしょう。
だから私にできることは貴方の力になり、貴方が幸せになれるようお手伝いさせていただくことです。
しばらくして落ち着いて目を開けたら、なんかめっちゃ真剣な目で見られているんだけど?
ま、まぁ今後の予定でも聞いておくか。
「これからどうなる?」
恐る恐る、といっても全く表情変わって無いのだろうけど声をかける。
「明日、横須賀に行き、そこから船で江田島ですね。細かい手続きはこちらでしますから、安心してください」
「江田島…海軍学校か?」
江田島とは広島湾にある島である。
「そうです。そこで短期間士官教育を受けてもらい、適性があれば任官という形です」
「また…学校か」
ミック先生がアプデ中だからペーパーテストとかやべぇかも…。
「見た目は問題ないですけどね。あ、いろいろ準備しなくちゃいけませんね。壱業さん、買い物に行きましょう」
と言うとユーリエちゃんは俺の腕をつかんで立ち上がった。
まって! 俺金持ってないんだけど! ちょ、ちょ待ってください。