1942年(昭和17年)8月末
ドゥーリトル空襲、ミッドウェー海戦、第一次ソロモン海戦で史実を捻じ曲げたことによって、第二次ソロモン海戦の日にちがずれ込んだ。
史実ではこの時期にアナベル・ガ島に上陸したアメリカ海兵隊が日本軍の残した機材を使ってヘンダーソン飛行場を完成させて、飛行機輸送を行う。それを阻止、またはガ島奪還と米機動艦隊の撃滅を目指すのが第二次ソロモン海戦の大まかな流れだ。
だが、今回はそういう流れと細かいところが違う。ガ島にいたアメリカ海兵隊の戦力が半減している。
第八艦隊と一緒にガ島に砲弾ぶち込みまくった事で出血を強いている。また輸送船団も壊滅させている。
飛行場設営地もボロボロになった。
完全に島の陣取り合戦だ。
それでも米のガ島戦力は2000名くらい、日本の陸軍一木支隊が1000名ほど、
どうにか上陸を果たしたようだが、お互いに多くの血が流れているようだし、一木支隊の劣勢に変わりはない。
全滅しなかっただけ良しとするべきか…。
アメさんはガ島の海兵隊を救うためと兵力増強に、日本はそれを阻止と今度こそ敵機動部隊を壊滅させるため、というのが今回の流れだ。
ここでもうひと押しガ島へ陸軍戦力を投入できれば、ワンチャンある。
その辺り井上さんに具申して理解も得られたようで動いてもらってるんだけど、なかなかうまくいかない。
ラビ投入の戦力をこっち持ってこられれば良いのに…。
ツラギ取られたのが痛いのは分かるが、既に1万を超す人員が張り付いている。
もう放棄でいいんじゃねぇかと思うんだけど。
海軍の輸送能力大幅に超えているし、これからどんどんきつくなっていくんだ。
無駄な消耗を避けたいのだけれど、どうにも戦意旺盛な帝国海軍。
開戦からミッドウェー海戦までは負けらしい負けは無かった。珊瑚海は…、ありゃまぁ…うん。としか言えないけど…。
ミッドウェーに関しても痛み分けって上は判断していて、まだまだイケイケドンドンって感じなんだよなぁ。
あと井上さんと長官の仲が悪いのも問題だよなぁ。どうにか仲を取り持たないとこっちが動きづらくてかなわんわ。
長官も「やって見せ」とか言ってる割には結構人の好き嫌い多いし、井上さんとか南雲さんとか東條さんの事とか…。
人間だから仕方ないと言えば仕方ないんだけど…立場的にそれはどうかと思う部分もある。
真珠湾奇襲成功でその辺り諫める人があんまいないんだよなぁ…。
まぁ、その風潮のおかげと先のミッドウェー、第一次ソロモンの功績をもって、オペレーション・タートル(亀作戦)を実施できるわけだけど。
内容は壱業と行く豪州艦砲射撃の旅。
ほんとはエミュー作戦て名前が良かったんだけど却下されたし…。
短時間で承認得られたんだ良しとしよう。
さて、その作戦の為には目前の第二次ソロモン海戦で参加艦艇の損失を抑えねばならんわけだ。
というわけで、うしえも~ん。ちょっと豪州まで付き合ってぇ。
トラックに遊びに来ていた長門型2番艦ムッツォに乗って龍驤と合流。
しかし、気前良くムッツォ貸してくれるなんて思わなかったな。
夕張は今回はお留守番。補給と整備、乗員使い詰めだったから仕方なし。
第二次ソロモン乗り切ってトラックに戻ったら合流だな。そんでもってそれが終わったら多分お別れになるだろう。
編成はムッツォ、龍驤、夕張、あと第二南遣艦隊から五十鈴を貸してもらえるらしい。
護衛駆逐艦隊はムッツォの護衛をつとめてる第二駆逐隊(村雨、五月雨、春雨)と、違う任務に就いている第十六駆逐隊(時津風、天津風)。
十六駆は夕張と同じようにトラックで合流予定。という陣容で行う予定。
ミッドウェーの余波で六水戦が解体され、役職不明の俺氏が来ましたよっと。
「…おんし」
もう、杉本君たら人の顔見て嫌な顔しちゃって、失礼しちゃうね。
「次の作戦書だ。受け取れ」
さぁ一緒にこの戦い乗り切ってコアラとカンガルーとエミューを見に行こうぜ?
「……」
嬉しくて声も出ないか。なぁに僕と君との仲じゃないか楽しくやろうよ。
「あ、あの長野少将」
なんだい? 名も知らぬ若手士官君。君も楽しみか、そうかそうか。
「山口司令が呼んでおりますが」
…はっ!? えっ? 何で飛龍がおんの!?
う、うしえも~ん!! ど、どうしよう?
「すっと行けぇや」
そんな馬鹿な…。
…まったくひどい目にあった。うわぁ、まだこっち見てメンチ切ってるよ。
なんだあの人、いきなり掴みかかって来て投げようとしてきたんだけど…怖すぎだろ。
チョークで落としたこと絶対、根に持ってるよアレ。
第二艦隊旗艦の愛宕で辞令渡された。そのまま第二艦隊に編入されたムッツオ附ということらしい。
…普通に渡してくれよ。
司令の近藤さんの顔が引き攣ってたよ。
こんな男を指揮下に置かねばならんのかって感じですね。
胸中お察しします。
さてと、いざとなったらムッツォは艦隊行動に付いていけないだろうから先行しますかね。
随伴に第二駆逐隊は連れていこう。
それじゃあ艦長の山澄君(同期)行きましょうか。未だにこっち見てる方が怖いし…。
あ、その前に敵機動部隊この辺りだと思うので、航空隊の面々の皆様は宜しくお願いします。
…暑い。なんか鼻がむずむずする。
…寝ちまったか。
「…んん」
もう夜になっているのか、がっつり寝てしまったようだ。
ってなんだ!? 目の前にはつむじが見える。
あ、この香りヒェーだな。
全く人様の布団にマーキングして行きやがるから覚えてしまったではないか。
金剛と抱き合う形で俺に背を向けて寝ているようだ。うん、何だこの状況?
お艦と長波様に寝ろ言われて、金剛が寝ている部屋でどうすっかなぁって窓際に頬杖してぼーっとしてただろ?
そしたら金剛にベッドに引きずり込まれた。
決してR18な展開は無かった筈。
まぁそれでも苦しかったけどムニュムニュしてた…。うん、ムニュムニュ。
おっとっと、思い出したら俺の単装砲がヒェーの臀部だか腰回りだかくっ付いちゃいそうだ。
うぉぉい動くんじゃねぇヒェェッ!
息子よ、落ち着くのだ。今はその時ではないっ!
そもそもなんでお前が間に入ってんねん?
「おねぇさ…ムニャ」
こいつぅ、男として全く俺を意識してないよなぁ。
その点はありがたくもあるのだけれど、俺も大型犬を相手にしているような気持ちだし…。
でもさ、やっぱりこういう身体的な接触をですね…しているとですね…。
ドキドキしてしまう訳ですよ。それが何か負けた気になるというか、なんだろうねこの気持ち。
って、普通に離れればいいのでは?
がっちり金剛に掴まれていた筈だが今は姉妹で抱き合ってるわけだし…。
「……」
別に名残惜しい訳じゃないんだからねっ!
ゆっるゆりゆりな姉妹を横目に起き上がる…、何だこの女の園状態な空間は!?
あぁ妖精さんが突貫で仕上げたのが二部屋で、一部屋は司令部施設カッコカリだからそうなってしまうのは必然か。
激戦に次ぐ激戦でみんな疲れてるよなぁ。なんか先に休んでしまって申し訳ない気持ちでいっぱいです。
金剛を寝かせるためのベッドの他は、みんな寝袋とか毛布下敷きにして休んでるみたいでますます申し訳ない。
月明かりしかないから良く見えないけど、全員はいないようだ。多分、隣の部屋と外で警戒に当たってる娘さんがいる。
はぁ~休めとは言われたとはいえ、こんな状況でがっつり眠っちまうとは不覚。
「ごはっ」
ベッドから降り立ったら誰か踏んでしまった。
…ごめん天龍ちゃん悪気はなかったんだ…。
白目剥いてるけど息してるよな? 大丈夫? 胸が上下してる大丈夫そうだ。
しっかし結構なモノをお持ちですね。
──ゴクリ。
お前が言うのかよっ!
いかんいかん、この女の園は危険だ。ちょっと頭冷やそう。
皆を起こさないように窓から出るか。
よっこいしょっと。
──月が綺麗ですね。
ハイハイ愛してる愛してる。
なんとなく月を見上げながらちょっと歩いてみる。
しかし天龍ちゃんは何故、窓とベッドの間の一メートルにも満たない隙間で寝てたんだろうか?
…猫かな?
俺が壱業になってから犬には好かれるんだけど、猫には毛を逆立てて威嚇されまくってたよな。猫が嫌う匂いでも発しているのかねぇ。
──最近のあなたは私に対しておざなりだと思います。
そらぁミック先生がフリーダム過ぎるからだろ。そんで、深海棲艦が攻めてくる様子はない?
──現在の所、付近に敵性反応は見受けられません。
さようで、しかしどうしたものか。最低一週間くらいこの島から動けないだろ。
食料は魚介を獲って、水は雨が降ればそれを貯め込むことでどうにかするとしても、艦娘達の艤装の燃料と弾薬。
攻めてこられたらちょっと詰みそうだよな…。
──深海棲艦が貯め込んだ物資を加工することである程度、問題を解消できると思われます。
マジか。それはちょっと助かるね。
妖精さん達に父島帰ったら美味しいごはんくらいは振る舞ってお礼しなくちゃな。
それでも早いとこ援軍来てもらわないと、金剛をはじめ途中で合流した娘さん達、今は表面上の傷は消えてるけど、ダメージ残ってるらしいし艤装のほうは使い物にならない。
元々いたうちの艦隊の娘さん達も、戦闘行動に支障をきたすほどでもないけど、体と艤装にダメージもらってる。
ほとんど中破に近い小破状態だ。雪風と島風は全くと言っていいほど損傷無いけど…。
なので早めの救援を…って、その辺どうなったんだろう。
通信機器の設置は終ったのかな?
──現在、設置完了し「テェェドグゥゥゥーーッ! ドコさ行っちまっダァァーー!?」
ファッ!?
夜の静寂を切り裂く悲鳴? 奇声?
「ヒェェェェーーーーっ!!」
「うわぁああああ!?」
「お、お、お姉さま落ち着いてぇぇーー!」
「ううううちに任せと…ふべらっ!」
「ちくわ大明神」
「ぽいいいいいいいいいいっ!」
「夕立ぃぃぃ!?」
なんだ、何が起こってる!?
振り返りればなんか、…なんかすごい勢いで影が近づいて…
「テェェドグゥゥゥーーッ!」
「ふぐはっ!?」
まさか天龍ちゃんを踏んだ報いをもう受けることになるとは…。
と冗談言っている場合じゃない。一瞬息が止まった、
背中ズザザーッ! ってジンジンする。なんで俺、夜空を見上げているんだろう。
──月が綺麗ですね。
うるせぇよ。
「ワタシから目を離したらNOなんだからネ」
そんな一日中ずっと君だけ見ている訳にはいかないのだけれど。
「…無茶を言うな」
「うぅ…うぅ…」
これはアレだな。いつだったか駆逐艦ズが俺を抱き枕にしていた時と同じ状況。
寝てたから比叡に擦りつけて朝の畑仕事に赴いた時のやつ。
とっても腹部と背中は痛むが、金剛の頭をポンポンしながら改めて考える。
艦娘って存在の事を。
艦娘にとって俺ってどういう存在なんだろう?
金剛にとっての俺は?
例えばゲーム内では、飛龍にとっては多聞丸が思い入れのある提督だった。
長波は田中さん、夕立は吉川君。
明言されていないが、伊勢・日向にとっては松田君か。
霞や阿武隈は
平波の中で金剛救出までに聞いた話を思えば、金剛にとっては…俺になるんだろうな。
だけど思われる資格はあるんだろうか?
日本を焼野原にしない為とは言え、生き残れる見込みがほぼ無かった作戦。
しかも残された人間が努力して結果的に講和に持ち込んだのだ。
あの作戦時時点で確証はなかった。欧州と同じか、それより上回る出血をあの一戦でアメリカに強いれば、相手を話し合いのテーブルに付かせることが出来るのではないか、程度だ。
もちろん後の仕込みはしたさ。だがそれは結果論。
あの作戦に赴いた将兵達はそんな事知るはずも無く、危ない橋を渡らせたのだ俺は。
史実では沈まなかった大淀や榛名、…多くの者を死に追いやって。
あそこで死んでいればこんな思い…
「…テートク悲しいノ?」
あぁ、触れていると何となく感情が伝わるんだったな。
悲しいのではなく、苦しい。君達が俺に寄せてくる想いがな。
だが、その想いに応える事は出来ないけど、今度はどうにか皆を生き残らせてみせるよ。
「…背中が痛いだけだ」
「Oh、sorryデース」
あと、俺の嫁艦を追い込んだ輩にはきっちり落とし前をつけさせたいと思う。一艦これ提督としてな!
「……」
「……」
で、背中痛いと言ってるのに貴女は何故どかないのですか? めっちゃ顔近づけてくるやん!?
ちょっ!? 貴女、私の腕を抑えてなにする気なの!?
「ばぁぁにんぐぅぅ」
「…なにする気だ?」
「もうーテートクその言葉は私に言わせるんデスカー?」
「「お姉さまぁぁーーー!」」
「アレ、比叡と榛名デス…。テートクここはヴァルハラじゃないデスカ?」
「南鳥島だ」
「oh、ナンテコッタ」
なんのこっちゃ…。
金剛さんテートクをサーフボードにして丘を滑る。
ちょっとした補足。
第一航空戦隊 加賀 飛龍
第二航空戦隊 翔鶴 瑞鶴
史実では、第二次ソロモン時に鶴姉妹が一航戦継承してますが、加賀飛龍がミッドウェー生き残ったんで上記の内容。
加賀さんはまだ本土で修理中。飛龍の随伴で龍驤が当てられる事に。
やったね苺餃子さん、大好きな多聞丸ともう一度遊べるドンな展開です。
南雲中将が第三艦隊司令と第二航空戦隊司令。多聞丸が一航戦司令、こんときは飛龍、龍驤を指揮下という感じです。
あと苺餃子はまだこの辺りだと心に余裕あります。
おまけ
図鑑説明 雪風(苺味)
陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です。
私たち主力艦隊型駆逐艦の中で、十数回以上の主要海戦に参加しながらも、
唯一ほとんど無傷で終戦まで生き残りました。
奇跡の駆逐艦って?ううん、奇跡じゃないですっ!