提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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大ホッケ海…。
個人的には北方ツナ海だと予想していた。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在名称等ありますが、実在のものとは関係ありません。

いつも感想、評価、誤字修正、報告をくれる方々、本当にありがとうございます。


提督(笑)の影響

 しんしんと降り続く雪を踏み締めながら金沢の街を歩く。

凍てつく空気を肌に感じながら浅野川沿いを歩き、主計町緑水苑を横目に中の橋を渡る。

桜の季節に訪れれば風情と加賀百万石の歴史を感じる事が出来るだろう。

生憎と、この時期は私の歩みを阻害する雪と寒さが身に染み、時代のロマンを感じる余裕を私から奪う。

さらに普段の運動不足がたたり、浄西寺角を曲がる頃には息が上がって、永明寺前に辿り着いたころには足を動かすのも億劫となり、取材をする時期を間違えたと後悔する。

それでももうすぐだと自分に言い聞かせ細道に入り込めば、暫く目的地に至り、安堵のため息をつくことが出来た。

 

もうすぐ20世紀も終わる時代の節目に私は一人の男の足跡を追う事にした。

 

石油ストーブの上の薬缶から湯気が立ち上る。

あいかわらず窓の外は街を白く染め続ける雪。それを眺める私の正面のご老人はこの家の家主であり昭和の終わり頃から平成の初めにかけて三期に渡り、総理大臣を歴任した人物である。

 

「どうぞ」

 

家主の奥方が淹れてくれた熱いお茶が冷え切った体を芯から温めるようであった。

ほぅっと一息吐いた所で老人 詠 進一(ながみ しんいち)氏へと視線を移した。

 

「政界に復帰してほしいとの要望が上がっているそうですが」

 

それまでずっと雪を見ていた詠氏が私の言葉で、ようやくこちらを向いた。

 

「馬鹿な事だ。今更、この老体に何を求めるというのか」

 

事前に取材の内容を電話で伝えてはいたものの、詠氏の視線はとても鋭い。

奥方が退室され、空気が重くなったのを感じる。

「鋼鉄の詠」「戦神の右腕」との渾名を持つ人物は政界を引退したとて未だに力強い意志をその目に宿している。

 

「そんな事を聞きに来たのではないのだろう?」

 

「…はい。時代の節目、あの戦争を題材に何か書こうと思い立ちまして。そして調べれば必ず一人の人物が目に留まります。その人物を一番近くで見ていた貴方にお話しを聞かせていただきたいのです」

 

「…時代の節目か。司令は今のこの国を見て何を想うのだろうか」

 

詠氏は再び、雪の舞う窓を眺めた。

 

「自分の開発した兵器を使いたかったが故に戦争を引き起こした男。日本に屈辱を飲ませた無能。戦争狂い。命令に従わない狂犬。そんな言葉を聞く度に、私には司令のあの時の言葉が重く感じられるようになったよ」

 

そう言って立ち上がった詠氏は本棚から一冊の古惚けた日記を取り出して私へと差し出した。

私はそれを受け取り、ゆっくりと開いた。

中には政治家の名前から軍人の名前、見覚えのない名前の横には記者などと補足が書かれている。

 

「これは?」

 

「私が政界に進んだ時、米国との講和を成した政権の関係者から贈られた物だ。

彼も司令から渡されたそうだよ。中身は米国、ソ連などの外国と通じているであろう人物たちの名簿だ」

 

「…え?」

 

それは衝撃だった。一人や二人の話ではない。

ここで詳しく述べることが出来ないのが悔やまれる。誰もが名を知る大人物の名前まであったとだけ。

 

「君はそれが真実なら一体、何の為に誰を信じて戦えばいいんだと思うか」

 

「それは…」

 

「この国は守る価値があるのか…嘗て長野司令は一度だけそう仰った。それでも戦った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん。これ読んだら駄目な奴だ。

ちょっと誰よ、こんなもの置いといたの…。

ブックカバーを外して題名見れば、水平線のダイヤ・上 

やっぱり映画にされとった奴やないかーい!

 

無人島サバイバル生活三日目いや四日目の夜?

HIMADA! というわけでマグロとの死闘を演じたり、初めて見る艦娘さんをミック先生が拾ってきたり、夜警から帰って来たメロンちゃんが奇声を上げながら徹夜で手回し発電機作って造水機使えるようにしたり、廃墟だった建物が妖精さん達の手によってみるみる直って行ったりして色々あったが、やはり俺は暇だ。

食料調達の素潜り以外にする事がほんとにない。

死闘を演じたメバチマグロは皆で美味しく頂きました。

頭を落とす際、兼光使ったらお艦に呆れられたけど…。

そんな訳で自分のワーカーホリック具合に呆れながら、することを模索していた。

 

…暇つぶしともいう。

 

時刻は2100を回った。

俺氏、サバイバル生活中の居場所になりつつある司令部施設カッコカリの中。

部屋の中央で胡坐をかいて座っている。

個人的に一人になりたい気持ちを全面的にオーラとして醸し出しているのだけれど、

どうやら精進が足りぬらしく艦娘の皆様方は夜警組(龍田、鹿島、大淀、比叡)を除いて皆この空間に…。

 

「紅茶が飲みたいネー」

 

耳元から吐息交じりの声。

 

「…昆布茶でも飲んでろ」

 

「ブゥー」

 

金剛、榛名、浦風、時雨、夕立は見張り番から除外しているので、基本的に周りに居座っている。

俺だってコーヒー飲みたいんだよ文句言うな。

一時は近づいて来なかったのに、造水機が復活してからちょっと皆さんスキンシップ過剰ではないでしょうか。

 

背中に抱き着いて肩に顔を乗せてる金剛。もうね、ちょっとそっち向いたらチュウしちゃうくらい近いの。

 

「お姉さま。あまり提督のお邪魔をしては駄目ですよ」

 

「ハルナー。そう言うなら提督の手を離しなヨー?」

 

我がレフトハンドはどういうわけか榛名の両手の中で包み込まれている。

 

「……」

 

プイッと明後日の方向を向く三女さん。

長女の言う事は聞かなかったことにするらしい。この娘ってこういうキャラだっけか?

 

「がるるー」

 

「がるるー」

 

ぽいぬ夕立と、わんこトッキーが膝の前で取っ組み合っている。

 

「夕立が座るのっ! 譲るっぽい!」

 

「いーやーだー」

 

「「ああああああああああああ!?」」

 

え?

 

「二人は続けていなよ。それまでは僕が座っておくから。いいよね提督?」

 

「時雨ズルいっ!」

 

「よくない! よくないよー!?」

 

嘘だろおい。時津風はギリ耐えられるけど君は駄目だろ! …なんで膝の上に座るの?

ちょっと座るポジションを整えないで!? 色々、当たってるから!

いかん! 3.14159265…

 

「司令。この磯風も構え」

 

最近、君そればっかだね。

金剛や浦風のようにフレンチクルーラースタイルの髪をかき上げて、胸を張る磯さん。

 

「……」

 

浜さんと谷さんツチノコはトランプしていて、浜さんは時折、潤んだ瞳で此方を見てくる。

でも視線を向けるとそっぽ向かれる。

 

「くわっ」

 

「…ふっ」

 

谷さんはジョーカーでも引いたのだろうか、ツチノコがドヤァ顔だ。

 

「提督さん大変そうじゃね」

 

寝転びながらこちらを楽しそうに見やるカープ女子浦風。いや、カープ女子なのかは知らんけど…。

ってか、貴女胸元緩んでますよ。谷間が…いかん! 3.14159265…

 

「提督これなんですか?」

 

ネタで書いた設計図をメロンちゃんが見つけた様だ。

 

「…暇つぶしだ。大したものでは無い」

 

ラーカ〇ラムをベースに二分の一スケールにして現代で可能な兵器を乗っけてみた。

粒子砲は無理だから単装速射砲に置き換え、両舷に一基ずつの艦娘射出のリニアカタバルトデッキ。

あとは対空機銃砲座が10。

完全にネタだ。主砲は深海棲艦に効かないし、艦娘を射出するメリットがまずないだろ。

仮に射出したとしてもエビ反りで頭から着水の未来しか見えないよ。

 

「イイですねーロマンですねー」

 

ところでメロンちゃん、目を輝かせて眺めてるのはいいけれども、その違和感バリバリの胸部装甲は何? …ツッコんだ方がいいの? それともそっとしておいた方がいいの?

 

「おう。戻ったぜ」

 

そんな判断に迷っている所で肩にタオルかけた天龍ちゃん筆頭に、お風呂入っていた娘さん達が戻って来た。

ますます女子の密度が…が…が…匂いが…いかん! 3.14159265…。

 

「Le sentiment était bon」

 

──気持ちよかった。と言っています。

 

それくらいは分かるわ。

ミック先生が拾って来たおフランスの言葉を話すこの艦娘さんはCommandant Teste (コマンダン・テスト)さん。

金色の髪に一部青・白・赤のメッシュが入るゆるふわ巻きのトリコロールヘアー。綺麗な碧眼。

今は湯上りで、天龍ちゃんの貸した紺色ジャージ姿だが、この島にミック先生の誘導でたどり着いた時は、頭にフランス海軍伝統の赤いボンボンのついた水兵帽をかぶり、首にはトリコロールカラーのスカーフ。

四つボタンの白色ナポレオンジャケット、夢のいっぱい詰まった燃料タンクがジャケットを押し上げて胸元はナイス谷間。

そのジャケットの下は黒いフレアスカートワンピースという出で立ちだった。

 

…ボロボロだったケド。

 

なんでも、目が覚めたら大海原に一人ぼっち。

体の動かし方、艤装の使い方、なにもかもに戸惑いながら途方に暮れていたところに、イ級に遭遇。

右も左もわからない様な状態でいきなり戦闘。まぁパニックになりますわね。

パニックになりながらも、水上機を射出して、自身も被弾を重ねながら、どうにか追い払ったと思ったら今度は空から葱付きが現れたもんだから、またしてもパニックに陥り、戦闘状態に突入。

自身の繰り出した12機の水上機が翻弄されまくり、良くわからないうちに諦めかけた時に通信が入る。

葱付きが話が通じる相手であることに安堵して、どうにかこうにか会話してこの南鳥島を目指す事に。

平波の頭失くした辺りの海域から七難八苦を乗り越えてようやくこの島に辿り着いたそうだ。

そこで最初に出会ったのが天龍ちゃん。

天龍ちゃんも異変を感じて艤装展開して海に飛び出したらボロボロの見知らぬ艦娘。

それみて固まった様だ。逆に相手はようやく助かったという安堵感から泣きながら抱き着いたそうな。

 

初見で眼帯して刀持った中二病見て安堵できるかどうか俺なら少し…いや、多分後ずさる自信があるけど、

コマンダン・テストさん略してコマちゃんにはそんな余裕も無かった様だ。

 

それとも天龍ちゃんは、そこはかとなく人を安心させる空気を醸し出しているのか、はたまたコイツなら大丈夫だろうというポンコツ臭がするのか。

どうなんだろうか?

 

「…なんだよ?」

 

「…別に」

 

何でもないです。

 

『助けてくれて本当にありがとうございます』

 

コマちゃんは日本語まだ話せない。ミック先生の同時通訳を聞いている俺は別だけど、

他の艦娘さん達とのコミュニケーションはボディランゲージが多い。

金剛お姉さまとか仏語もいけそうな気もしないでもないんだが…。

 

『君の様な美しき女性を助けることが出来た幸運を、私は神に感謝するよ』

 

どうにも仏語は不得意の俺。ゆっくり喋ってくれれば所々の単語は分かるんだ。

だけど普通のスピードの会話となるとミック先生のお力をもってして会話せざるを得ない。

お礼を述べられても現状、それほど安全という訳でもない。万全の状態という訳でもない。だからそんなに改まらなくていいんだよ。

 

てか、ミック先生。これ本当に俺の思った通りに翻訳してくれてるの?

なんかコマちゃん心なしか困った顔してるように見えるけど…。

 

──ニュアンスの違いから多少の語弊が生まれる事は仕方ない事だと思います。

 

それはそうなんだけどさ…。

 

──貴方がイタリア人に思われる程度の語弊は許容するべきです。

 

え、何でイタリア人? ちょっと意味が解らないんだけど…。

あぁ、女性をこんだけ囲ってるから女好きだと思われるって事か…。

って、いや待て。それだと語弊という言い方はおかしくないか?

 

──我が名はGod of Romance 崇め、讃えよ。

 

急に何言ってんだお前…。

 

『いつもそのような事を仰るのですか』

 

え、別に謙遜とかしてるわけじゃなくて、正直な気持ちを述べているのだけど…。

 

『私は正直に生きているだけだ。美しいものを美しいという。それは罪なのか?』

 

ちょっとちょっと、今、罪とかって単語言ったよね!? 

 

──貴方がイタリア人に思われる程度の語弊は許容するべきです。

 

おいマジでお願いだから、余計な翻訳してんじゃないですよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あんみつ…ぜんざい…くずきり…アイスもいいなぁバニラアイス…うぅ…」

 

海の上を大型貨物船三隻が航行している。その周りを護衛の艦娘達が囲む。

比律賓より銅やニッケルをはじめとした鉱物。バナナをはじめとした南国果実を本土に運ぶ帰路である。

 

船団の先頭を行く乙女が二人。

長い黒髪を潮風に靡かせて普段は好奇心旺盛な大きな緑色の瞳を細めて口元からは唸り声を上げている。

肩出しのセーラー服に緋色のスカート。

白い長手袋、左足だけの片足ニーソックス、左靴の水上機用フライングデッキ。

艦時代の艦橋を模した艤装を背負い、電探にはバナナが吊り下がっている。

 

「ちょっと阿賀野ねぇ。真面目に哨戒」

 

同じ服装と艤装を身に纏う妹の能代は姉と同じ色の瞳を鋭くして呼びかける。

髪は赤みがかった茶髪で、太い三つ編みを左右に作っているおさげ髪。

姉妹共々、立派な胸部装甲を持っている。

 

さてそんな姉妹と船団は、先の北方航路より得られた石油を使い、日本より南西にあるフィリピンまで遠征を果たし物資を満載。

本土への帰路についている所である。

 

行きの比律賓近海に近づく過程で色々と思うところがあった護衛艦娘の面々。

 

「不幸だわ」

「嫌な予感がするの」

 

等のフラグ建てもあったが、ここまで何度かあった深海棲艦襲撃も跳ね返し、大した被害を出すことなく護衛を果たしている。

能代も思うところはあったが、口には出さなかった。

 

「能代。お姉ちゃんは思いました。食べたい物を全部食べたらいいじゃない。ね?」

 

「なにが、ね? なのよ。それより真面目に…」

 

能代が口を開いている途中、姉の阿賀野が気の抜けたフォームで明後日の方へと爆雷を投げた。

 

「きらりーん」

 

という言葉と共に水柱が上がり、鉄の擦れた様な悲鳴が上がる。

誰もが敵のその姿を見ることなく、ここに一匹のカ級が屠られたのであった。

 

「……」

 

「能代。バナナたべる?」

 

電探に吊るされたバナナを一房もいで妹へと差し出すやさしい姉である。

 

「え、なんで、これで何度目? おかしいわよ絶対…」

 

能代の瞳から光が消える。そして二人の会話が成り立っていない。

さらにバナナを受け取らない妹を訝しみながら、姉は妹の谷間へとバナナを突き入れた。

彼女に何か含む気持ちは一切ない。ただ、後で食べたいと言い出すであろう上の空の妹を思ってやったことなのだ。

それを卑猥だと思ってしまうのはきっと心が穢れている証拠であろう。

 

「もう能代。ちゃんと哨戒しないと駄目よ?」

 

と自分の事は棚に上げる阿賀野。

 

「絶対におかしいわ!」

 

その言葉にカチンときた能代。

普段、ふわふわしているのに、対空対潜になるとおかしい性能を発揮する姉に理不尽さを覚える。

阿賀野は脳天気でマイペースなアホの子。能代の思う姉のイメージは極端に言えばこうである。

 

だが、

 

「ぐんろーせんじゅつ? 美味しいわよねソレ!」と彼女に襲い掛かろうとした潜水艦は全て沈められた。

帝国海軍随一の潜水艦撃沈数を誇る武勲艦でもあるのだ。

 

艦娘という存在が史実の補正を受けるとしたら、阿賀野の性能は理にかなっているという事になる。

その理不尽を恨むのならば、彼女に乗艦したある男に対して物申すしかないのである。

 

能代はやるせない怒りをバナナと共に飲み込むのである。

 

 




水平線のダイヤ 初版2002年12月

映画2005年12月


おまけ


図鑑説明 磯風(苺味)

陽炎型駆逐艦十二番艦、磯風だ。
戦歴ならあの雪風にも遅れはとらぬ。
数々の海戦、決戦に参加し、戦い抜いたんだ。
あの決戦では金剛の最期もこの目に焼き付いている。
今度こそ…護り抜くさ。


平波丸(苺味)

武尊丸型油槽艦二番艦の平波丸です。
姉ちゃんと共に色んな輸送作戦に参加したよ。
そんでもってあの戦いが終わってからも日本に石油運んだんだ。
自分、マジ働き者ッスから!

次回予告
A man who killed Prime Minister Churchill's hair root by おぅるどれでぃ

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