提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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文月教徒のワイ歓喜。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在名称等ありますが、実在のものとは関係ありません。

いつも感想、評価、誤字修正、報告をくれる方々、本当にありがとうございます。


提督(笑)と残したもの

 

LEDランタンが修繕された食堂の天井にいくつか吊るされている。

 

その明かりの下、ワイワイガヤガヤとお食事に勤しむ皆さん。

 

それを眺める俺と龍田さんとお艦。

まぁ周りにも高速戦艦姉妹とかいるんだけども。

 

今晩の献立は魚の竜田揚げとピーマンの魚肉詰めとご飯とみそ汁とサラダ。

ユーリエちゃん率いる救援部隊は物資も色々と持ってきてくれた。

その中にお野菜なんかもあったりしたので、ピーマンの魚肉詰めを作ってみた。

 

「龍田さんありがとうございます。提督もすいません」

 

そういってお艦が頭を下げている。

お艦には昼間に働いてもらっていたから、今晩の料理担当は龍田さんと俺。

といっても俺は一品作っただけだけど。

 

「いいのよぉ」

 

「気にするな」

 

しかし、一気に華やかになったというか人数増えたよなぁ。

 

「ちょっとピーマンだけ私の皿に入れるの止めなさいよ」

 

「気のせい、気のせい」

 

「きょ、今日はピーマンの気分じゃないのよ」

 

「初風さん、雪風のもあげます」

 

「いらないわよ! って、入れるなっ!」

 

第16駆逐隊は常識枠は初風(ツチノコ)のみ。

他の面々は後で注意だな。

 

「こら、ちゃんと食べんといけんよ」

 

「そうですよ」

 

「一緒に食べればどーってことないよ」

 

「「…ぐぬぬ」」

 

親の仇でも見るような眼で皿の上に転がる緑色の野菜を睨みつけている娘さんが二人。

第17駆逐隊からは磯風を後で注意だな。あと島風。

 

「いいか。コイツがいなくても世界は回る。分かったなコマ」

 

面倒見のいい天龍ちゃんがコマちゃんに対して御託を並べている。

コマちゃんは言っている意味わかっているのだろうか?

 

「天龍さん、駆逐艦の子達みたいに駄々こねないで食べましょうよ」

 

「そうですね。示しがつかないですよ」

 

「…ヤダ」

 

天龍ちゃんの皿の上に残されているのは緑色の苦い奴。

 

「オマエ、サバンナでも同じコト言えンノ?」

 

「は? …誰だ変な言葉教えたの!?」

 

「「……」」

 

その言葉に視線を逸らす鹿島と夕張。

そしてお互いに指を差し合っている。

 

こいつらは全員、説教だな。

 

「Le Japonais est difficile.(日本語、難しい)」

 

コマちゃんは除く。

そうだ、この娘さんの今後の処遇についても考えなきゃな。

あとでユーリエちゃんに相談しよう。

 

「天龍ちゃんには私から言っときますねぇ~」

 

「…頼んだ」

 

龍田さんとってもニコニコしているんだけど、何故か一瞬ゾクッとしてしまいました。

 

「ほら蒼龍。このちっちゃい森あげるね」

 

ちっちゃい森? あぁ、ブロッコリーの事なのね。

 

「もーしょうがないなぁ」

 

こら、蒼龍さん甘やかすんじゃない。多聞丸はなんでも食ったぞ、人の倍は。

よし、あとで飛龍に…やっぱり怖いからやめた。

 

何なのあの娘さん。

金剛を宥めた後に空挺隊の隊長さん達と今後の予定なんか話し合った。

いや、その前にも色々あった。本当に今日は色々あったな…。

 

人間不信というか軍人嫌いになってしまった金剛を宥めるにあたってユーリエちゃんが、空挺隊の隊長さんのお話をしたんだ。

陸軍は長野派が多いからとか、艦娘に好意的だとか、隊長の佐々木さんはあと何年か軍勤めしたらうちのグループ企業に就職するとか。

その企業名が大和警備機構だとか、実は特殊部隊があるだとか…。

 

はい、色々ツッコミたいです。

 

まず、長野派って何さ? 一企業体が軍内部に派閥とか形成してるってどういうことなの。

隊長さんが長野グループの大和警備機構ってところに再就職。これは別にいいよ。新たな環境でも頑張ってください、だよ。

実は特殊部隊がある…何言ってんの? 一般には知られてないけど私設軍隊保有してます。って絶対おかしいだろ!

T-ウィルスでも研究してるんですかね!? あと秘密なら俺のいないところで言ってよ!

 

──長野製薬は極めて健全な製薬会社。今、一番の売れ筋は育毛剤のようです。前身は長野商会の医療・医薬部門です。

 

微妙な補足説明ありがとよ!

思えば、妹と赤城の山に出かけた時、周りを取り囲む鉄砲もった黒服たちもおかしかったわ!

 

「はい、もう一個あげる」

 

「はいはい」

 

それと貴女だよ飛龍さん。

話が終わった後に見計らったようにやって来て、ちょっと表出ろやって砂浜連れていかれた。

 

で、相対したらいきなり掴みかかって来る訳。

 

こちとら衝撃な発言を聞いたあとで頭の中で整理できてない状態よ。

気が付いた時にはAI・KI・DOーでぶん投げてしまっていたわ。

艦これでおなじみの着物に袴スカートに衣装チェンジを果たしていたから、白くて古風なアンダーウェアががっつり見えました。

 

ご馳走様です。

 

対多聞丸用に習得した技をこんな所で使う日が来るとは思わなかったな。

 

あれは70余年ほど前の話。

オペレーションタートルが当初の目的から大分逸脱したものになってしまったが、それを終えて帰路に。

艦隊はシンガポールで整備と補給の寄港。損傷した艦艇は応急修理もする。

龍驤と天津風と時津風は整備と補給を終えたらトラック寄ってから本土に。

俺もそれでトラックに戻る予定であった。

だがしかし、司令部からではなくて、長官と井上さんから帰って来るなというお達しを頂く。

ムッツォを損傷させたことにご立腹の方々が多数だそうな。

ほとぼり冷めるまでしばらくは五十鈴で大人しくしてろって事らしい。

 

この時期は神通が第二次ソロモン海戦で損傷して修理中。五十鈴が二水戦の旗艦になるんですけど…。

二水戦の司令さん迎えに行かないでいいのかなぁ。

行った方が良いよなぁ。ソロモン諸島を経由していくのが良いと思う。

 

そんな考えをしながらシンガポールで補給と整備の間で暇だったんだ。

陸軍の方で兵に格闘術を教える指南役のAI・KI・DOーマスターが出稽古に来ているっていうから、同期達と見学に行った。

で、俺は思ったね。これは対多聞丸用に使える! と。

そこで教えを乞い、AI・KI・DOーを習得したのだ。

半日ぶっ続けで教えて貰ってたからマスターの予定が狂って顔が引き攣っていたわ。

正直すまんかったと思った。

 

その後、多聞丸に使うことが無かったけどな…。

 

「いつかビーフシチューを作ってもらおう」

 

「ビーフシチュー?」

 

「あ、かず…ではなく業和さんの得意料理のようで…」

 

ユーリエちゃんとむっちゃん。

なんかむっちゃんが若干引いて話を聞いている。

ビーフシチューなんて、お嬢様なんだから美味しいのいっぱい食べたことあるだろうに…。

作れと言われたら作るけどもさぁ。

 

「…提督がおかしい」

 

そんなユーリエちゃんを見ていっちばーん艦の白露が微妙な顔をしている。

 

「白露も十分変だと僕は思うよ」

 

「…妹が姉を敬わない」

 

「元気だすっぽい!」

 

「…妹のキャラが変わってる」

 

いや、そのままだと思うけど…。ゲーム内の性格と微妙に違うのだろうか?

それとも姉妹だからこそ気付ける微妙な変化的なものがあったのか。

 

「暑いわねぇ」

 

胸元をパタパタしている村雨嬢。

何だ君のその色気。本当に駆逐艦娘なのか。

 

「五月雨ちゃん大丈夫?」

 

「う、うん」

 

五月雨…五月雨かぁ…あっ、とんでもないことに気づいてしまった…。

食事中じゃなかったら気づかなかったかもしれない。

 

「五月雨」

 

「はい!」

 

立ち上がって直立不動なんだけど…。

まぁいい、

 

「厨房に一人で入る事を禁ズ」

 

「な、なんでぇ!?」

 

君はヒェーと磯風と同じ属性を持っている。

ドジっ子的にも艦歴的にも間違いない。

 

「お料理を作りたくなったら私に声をかけてくださいね」

 

「は、はぃ」

 

良し、これで大丈夫。

 

「司令っ! そろそろ厨房解禁してください! 私の愛情こもった料理をお姉さまに」

 

そんな事を宣うヒェー。

お艦を見やる。お艦は首を振った。

 

結論。

 

「駄目だ」

 

「な、なんでぇ!?」

 

「Oh…テートクゥLove youネ」

 

俺にだけ聞こえる小声でそういう金剛。

どうやら被害にあった事があるようだ。声に切実さが籠っている。

 

「榛名も食べたいでしょ? お姉ちゃんのカレー」

 

「…提督、竜田揚げとても美味しいですねっ」

 

露骨に比叡の言葉が聞こえなかったことにしている…。

それ作ったの俺じゃないし。確かに美味しいけど。

 

「そうだな」

 

「……」

 

それで、皆がワイワイやってる中で長波様が、ぶすぅ! っていう擬音が付きそうなほどむくれてる。

仕方ないな。残していたこのブロッコリーをあげよう。

け、決して嫌いな訳じゃないし…。好きなものは最後まで取っておくタイプなだけだし…。

 

「ん(おいこら、好き嫌いしてるんじゃない)」

 

何だもっと寄越せってか? 仕方ないなぁ。

 

「…ん(ほら、たんと食いなはれ)」

 

「だぁーっ! おら口開けろ提督っ!」

 

ちょっ、止めてください。

そんな緑色の口の中でブツブツが残る青臭いものを突き付けないでっ!

 

…誰か助けてください。

 

「テイトクゥ」

 

こちらに向けてその物体を差し出す金剛。

 

「どうぞ」

 

「はい、あ~ん」

 

「榛名の分もどうぞ」

 

とお艦と龍田さんと榛名。

 

「放置された屈辱、今こそ晴らしてやる」

 

ちょっと待ちなさい。確かに放置しましたよ。

それ以前に俺以外の面々に言うことあるんじゃないか!?

 

なんで俺だけなんだぁーー! 誰かせめてマヨネーズをぉぉぉ!

 

 

その様子を終始、無言で眺めていた空挺隊の面々である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──1945年(昭和20年)8月 呉

 

 

「長野司令」

 

「…艦長。何か問題か?」

 

天津風の艦首から乗り込んでくる海兵たちを見つめていた戦神と謳われている男に年若い艦長が話しかける。

乗り込む海兵は皆一様に年若い。中には幼さが残る10代の者の姿もある。

表向き、年若い艦長の方が若い者らはやりやすかろうという事で、人事を関係各所に手回しして行った結果の光景である。

 

「司令。御馳走させていただく約束を果たしておりません。必ずお戻りになってください」

 

「…善処しよう」

 

異動に関して不満の声も上がっていたが、強く命令を出して従わせた。

本当は若い者を死地に連れていくのを嫌ったゆえの異動。

 

「…お待ちしております」

 

それを知っているのは艦長とほんの一部。

 

「あとは頼むよ」

 

嫌よ、連れてって。おいていかないでよ。

 

 

 

 

 

ボロボロの瑞鶴と霞と雪風だけが戻って来た。あなたは戻らない。

 

9月になって横須賀に移される。

形振り構わない連合国の呉と東京を狙った大空襲。

 

雲龍と天城を守って、でもあの時の比じゃなくて…守り切れなくて…。

 

 

 

 

10月になった。座礁した八丈島で空を睨む日々。

 

 

 

 

 

11月になった。良い風は吹かない。

 

 

 

 

 

12月になった。 終戦を迎えた…。

 

 

 

 

 

「うぅ…やめろピーマン…」

 

「…しれぇが…ピーマンに…」

 

寝苦しさを感じ目を覚ます天津風。

雪風と時津風が自身に足を乗っけて眠っていた。

 

「もう、寝相が悪いんだから」

 

喉の渇きを覚えてフラフラと立ち上げる。

大分環境が改善されてきた、寝床となった一室を抜け出し、食堂に向かう。

 

穴の空いた壁から外を見れば、暗闇の中でフラフラ海へと向かう後ろ姿が目についた。

 

「…何処に行くのよ」

 

天津風の呟きは届かない。

 

『あとは頼むよ』

 

そう言って去っていく背中と重なる。

 

何かとても嫌な胸騒ぎがして、壁の穴から身を捩り追いかけようとするもひっかかる。

すぐ横にガラスを失くした窓があるにもかかわらず、その場所から出ようとしたのは、目を離したら消えてしまうのではないかと根拠のない焦燥感が起こったから。

 

ジタバタとしているうちにその背中は闇へと消えていく。

 

「待って!」

 

転げるように外に飛び出し、天津風は男の背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬱だ…。死にたい…。

 

 

ズボンごと腰まで海に浸かっていく。

 

 

空は煌く星々。時折吹く風が火照った体に気持ちいい。

 

 

なんかヌメヌメするぅ…。

 

 

はぁ…鬱だ…。死にたい…。

 

若返るって言うのも考えものだな。

 

俺の単装砲が高角砲になって熱暴走を起こして暴発した。

ズボンの中で、子だn…火薬が飛び散っている。

 

夜の冷たい海で砲身冷却を行っているのに、相変わらず最大仰角で空を睨んでいる。

 

全くこのきかん棒さんめ。

艦娘の皆様方もどうして一人で寝かせてくれないんだろうか。

毎日寝る場所を変え、眠りにつくときは一人なのに気が付けば誰かがくっ付いている。

 

そりゃあなたピンク色の夢も見てしまうというものでしょうよ。

 

──動物雄個体の持つ生理現象です。死にたいという感情が理解不能。

 

あぁ、最近ずいぶんとはっちゃけた性格になってきたと思ったけど、そういうところは分らんのか。

まぁ実際に本当に死にたい訳じゃないんだけど…。こう、なんていうか、わかんねぇかな。

駄目だこの感情は言葉にできないわ。

 

ん? 背後からバシャバシャと音が…振り返る前に

 

「いっちゃ駄目よっ!」

 

後ろから抱き着かれている。声からして

 

「天津風か」

 

なんだ、どうした?

 

「いっちゃ駄目なんだから」

 

え? そんな無茶を仰いますか…。

もうあと何十年かしたら枯れるかもしれないけど、今は無理だと思う。

 

「…善処しよう」

 

良い言葉だよねコレ。

 

「善処じゃダメよっ! お願いよ何でもするから…」

 

今、何でもするって言ったね!?

 

──憲兵さん。この人です。

 

「もう二度と私をおいて行かないでよ…」

 

「…嫌な夢でも見たか?」

 

いつぞやの朝みたいに情緒不安定か。

 

「…ん」

 

ギュッと回された腕に力がこもる。

 

小さい手だ。

 

彼女の場合は連装砲君という謎の生物?兵器を使って戦ってる訳だけど。

それでもこの小さな体を張って戦っている事は間違いない。

不安になる事だってあるだろうさ。

 

「…そうか」

 

守ってやるとか言えたら良いんだろうけど、深海棲艦相手に俺は無力だ。

それは昔もか。だから、軽々しく口に出して言えない。

 

回された手に自分の手を乗せて彼女が落ち着くのを待つことぐらいしかできない。

 

「天津風」

 

「…何?」

 

「先程、何でもするって言ったな?」

 

「…言ったわよ」

 

「ピーマン食べような」

 

「…それは嫌」

 

何でもするって言ったやないかーい! って思わず振り返ってしまったわけだけど、良い風着てるTシャツが透けている。

つまり、俺の単装高射砲が最大仰角のまま収まらないって事だろう。

 

もうしばらく砲身冷却の為、海に浸かる事になりそうです。

 





あまつんは提督の事、あなたと呼びますが、提督の前じゃないときはなんて言ってるんでしょうね?

おまけ

図鑑説明 榛名(苺味)

高速の巡洋戦艦、榛名です。
国産の四一式36センチ砲を装備しました。
太平洋を金剛お姉さまと共に縦横無尽に駆け回ったわ。
長野艦隊で戦い抜いた榛名のこと、覚えていてね。


どうでもいい蛇足。

長野商会の医療・医薬部門1930年代中頃にマラリアとか結核の対策として立ち上げました。

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