提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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提督(笑)と曙と漣

白と紺のセーラー服を靡かせて少女たちは海の上を駆けていた。

一方は桃色の髪を両サイドにくくり、もう一方は紺紫の長髪をサイドで一つにまとめている少女。

見た目こそ年頃の娘と変わらず可憐な様子を見せるが艤装という武器を身に纏い深海棲艦と日夜戦う戦士たち。

 

「ぼのたん、前方イ級っ! 徹底的にやっちまうのねっ!」

 

「ぼのたん言うなっ! 主砲いっけぇー」

 

二人の放った主砲はイ級に見事命中。当たり所が悪かったのか撃沈させるには至らず。彼女たちの間を抜けてイ級は護衛する船に突っ込んだ。

 

「やっべ! 抜けちまったのねっ」

 

「冗談じゃないわっ」

 

慌てて二人は回頭するが、今撃てば護衛していた船に当たる可能性もあるため発砲すること叶わず、舵を切って避けてくれるのを祈る事のみだった。

 

そのとき、二人は信じられないものを見る。

 

舵を切った船上から飛び出した人間がイ級に跨り何かを突き刺している。

 

金属が擦り合わさるような悲鳴をあげ、のたうち回るイ級。

 

 

「う、うわぁ」

 

「え、えぇー!?」

 

恐らくはこの時、船上の人間も海を駆ける彼女たちも思ったことは一つであろう。

 

 

 

 

 

…何してんだコイツ。

 

 

 

 

 

と、しばらく唖然とした後、男は大きく弧を描いて飛ばされていった。

 

あとに残るは満身創痍のイ級。桃色の髪の少女は無言でイ級を撃ち抜いた。

 

そしてもう一人の少女は元気に泳いで船にしがみ付いた男の背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は馬鹿なのか?」

 

甲板の上で水浸しでゼェハァ言っとる俺に罵声、いや皮肉か、まぁどっちでもいい。を投げかけてきたのは、俺の尻を狙う徳田君である。

 

俺だってやりたくてやったんじゃないんだよっ!

 

あの後、刀とともに振り落とされた、そらぁもう豪快にね。

 

「それに…それは兼光じゃないかっ! その刀にどれほどの価値があるかわかっているのかっ!」

 

何、君は噂の刀剣男子なのか? 見ただけで銘が分かるとか…超すごいんですけど!

ミック先生! 俺にも鑑定みたいなスキルつきませんかね?

 

──システムアップデート中……8%……

 

うん。知ってた。

 

「聞いているのか!」

 

「……ああ」

 

聞いてる。聞いてる。だから近づかないで、身の危険を感じるわ。

 

「いいかっ! その刀はな貴様の命より重いと知れっ!」

 

ええ、そんなに!? ああ、まぁでも重要文化財とかになっても可笑しくはないんだっけか。

あとでちゃんとお手入れしてあげような、潮かぶったし念入りにな。

 

「なんでこんな奴にっ長野は刀を預けたんだっ! いや、お前じゃない! ああ、くそっ…百合恵の事だ!」

 

長野違いですね。てかユーリエちゃんの名前言うとき何で少し躊躇ったん?

ねぇ、なんで?

 

「……」

 

「くっ! とにかくその刀はな、本来はお前のような奴が持っていいものではない!

お前も軍艦好きなら知ってるだろ? 帝国海軍の最強の指揮官の名前くらい。

その方が軍刀として愛用した歴史的価値だけではなく、旧海軍の英雄の象徴であり誇りで俺の憧れなんだよっ!」

 

やめて襟首掴まないでっ! 謝るから離して!

 

「…すまん」

 

「っちっ! どうしてお前がそれを預けられたかは知らんし、お前が馬鹿な真似をして死のうが一向にかまわん。だがその刀を巻き込むんじゃない。わかったな」

 

「……ああ」

 

超、怒られました。

 

まぁ悪いのはマヌケだった俺だ、お叱りは甘んじて受けよう。

しかし、この刀、何故そこまで重いものになってるの?

確かに家の家宝だし歴史的価値はあると思うよ。海軍うんたらが意味わからん。

 

「何故、そこまで拘る?」

 

所詮は人の家の刀だろうに…。

 

「……」

 

「……」

 

頭を掻き毟る徳田君。

 

「…はぁ、仕方ない。…かつての大戦、坊の岬沖で帝国海軍は勝利した。出撃した艦はほとんどが沈むという犠牲を払ってな」

 

まぁ、当事者だから知ってますよ。味方の艦が次々と沈んでいくの横目にひたすら敵艦隊に突っ込み撃ちまくっていた。

 

文字通り、決死隊だ。

 

「その後、ソ連が不可侵条約を破棄し、オホーツク海沖で衝突したが、これも待ち構えていた帝国艦隊により撃滅。帝国海軍の被害は少なく大勝利といえる…。そして12月24日に講和となった。ここまでは歴史の教科書にも載ってるから知っているだろう?」

 

そうか…、やはりソ連は南下してきたのか。ユーリエちゃんからは講和がなったって話しか聞いてないからな。…そうか勝てたか。

 

知らなかったけど頷いておく。ちょっと空気が読めてます。

 

「そしてここからが、教科書には載っていない講和がなるまでの話だ」

 

そういって徳田君は胸ポケットから煙草を取り出して火をつけた。

 

講和の条件を詰めるため、水面下でずっとやり取りがあった。

坊の岬、オホーツクと勝ったとは言え日本はもう余力がない状態でソ連はともかく米国側はまだまだ息切れを起こす様子はない。

時の政権はできる限り譲歩して国の体面だけでも保てればと考えていた。大方は条件を呑んだ。

だが、一つだけ意見が紛糾したのが連合国による軍事裁判だ。事前に裁かれる予定のリストを提示された茶番だったが、その中に長野壱業の名前があり、意見が割れた。というより政界にも彼に世話になった人間は多く、これだけは突っぱねるべきというのが多数派で、連合国側との交渉は難航した。彼は勝ちすぎてしまったんだ、米国も相手を持ち上げ自分をさらに持ち上げるという方法をとるには犠牲を払いすぎたし、作戦、戦略をずっと読まれていたことで政府、軍高官に内通者がいるのではないか疑うほどだったそうだ。

ソ連もたった一回の海戦で壊滅させられ苦汁を舐めさせられた。

米ソともに格下の黄色人種にいいようにやられたままでは収まりが付かない。そこで生贄にされたわけだ。

しかも大陸、南の島々、頑強に抗戦する陸軍将兵は半包囲されている状態の所が多く、奴らはそのカードまで切ってきた。

 

「陸軍将兵数十万の命と英雄の名誉どちらを取れば正しいのか」

 

そういって吸い込んだ煙を空に吐き出した徳田君。

 

「…犠牲は少ないほうがいい」

 

そんなの決まってるじゃないか。

 

「…どうだろうな、時の内閣は非公式に全員で長野の家に頭下げに行ったそうだ」

 

「そうなのか…ですか」

 

「ああ、壱業氏の家族は受け入れてくれたそうだ」

 

「…詳しいんだな…です…ね」

 

「俺の爺さん、その時の政界関係者さ。死ぬ間際まで彼には済まない事をしたと嘆いていたさ」

 

そんな理由があったなら仕方ないだろう。

 

「きっと…壱業氏も許しているさ」

 

最初から戦犯うんぬんなんて気にしてなかったし。

 

「どうだかな。…ちなみにこの話は5年後まで機密扱いだから、他に喋ると面倒なことになる」

 

「…おい」

 

聞いてないよそんな事! とんだ爆弾落としてくれちゃうね。

でも裏の事情を知らない民衆と一部の軍人は酷かっただろうな。

その時の政権が弱腰だの国賊だの言われて批判浴びてる姿が目に浮かぶ。

あの頃の民衆は良くも悪くも熱狂する。

そっちの方が汚名をかぶってでも日本を救ったといえるんじゃないのか。

 

「徳田君…さん。君の祖父の名は?」

 

「あぁ…山咲岩男だ」

 

ザキさんか。渋めの俳優さんみたいな、いい漢だったよな。

 

「墓所は福岡か?…ですか」

 

「お前、まだ軍属になってないから変な敬語使わなくていいぞ。なんか気持ち悪いし」

 

ああ、そうすごく助かります。

 

「そうか」

 

「それを聞いてどうするつもりだ?」

 

「線香をあげてもいいだろうか」

 

「…変わった奴だな。墓は静岡だ」

 

誰かが言っていた戦争は始めるのは簡単だが終らすのは困難だと。俺もそう思うんだ。

だから、当時の政権はすごい決断をしたと思うよ? 線香くらい上げさせてもらいたい。

 

「ありがとう」

 

「…お前、ほんと変な奴だな。まぁいい、分かったか…その刀の重み」

 

「いや、全く」

 

戦犯うんぬんは分ったけど、それとこの刀が海軍の象徴とか言われてもねぇ、全く別なのでは?

 

「連合国が死んでも恐れた英雄の刀だ。そんな人物になりたいと思わないのか…」

 

「あぁそういうことか」

 

海水で光る刀身、甲板に転がる兼光を拾い上げて、空に翳してみる。

 

 

お前、いろんな思いくっつけられちまったな。

 

「へっくしょん」

 

まずは着替えるか。

 

 

 

 

 

船上から陸へと降り立ち、やってきました江田島の海軍兵学校。

今は海軍士官学校と名を変えるが建物自体は外見は当時の面影のまま。

 

懐かしさより、なんか胃がキリキリしてきた。入学して最初の頃は同期の連中との拳での語り合い。

それから徐々に仲良くなって牟田口君って人がいてお前陸軍じゃねぇのか! と思ったけど苗字が一緒なだけの別人だったり。

あとは雪風で有名な第十六駆逐隊司令になった人とか鳥海の艦長さんとか大淀の艦長さんなんかが同期だ。

俺はドイツに生きると独駐武官になった人とか結構、個性豊かな面々だった。

ある意味有名な主席参謀殿も同期である。奴とは分かり合えなかった。

ドゥーリトルまでは表面上は問題なかった。ミッドウェーに関して俺が長官に噛み付いてからおかしくなったんだよな。

ついでに軍令部も批判したし…。

 

「ご主人様っ」

 

「クソ提督」

 

生、艦娘やで! 二人が徳田君の前で敬礼した。あ、艤装って消せるの不思議だねぇ。

 

「御苦労だった。が、最後のイ級はいただけない。結果、無事であったが帰ったら覚悟しておけ」

 

徳田君、提督だったのか。

 

「うへぇ」

 

「フンだっ」

 

ボーノことぼのたんと、なんちゃってメイド漣やで。おっちゃん感動や。

徳田君と二人との関係を今見る限りでは良好に見える。ブラック提督ではなさそうなので安心だな。

いや、ブラック提督がいるのか知らんけど。もし、いたら全力で潰してやんよ! 

 

ミック先生がなっ!

 

「それで…ご主人さま、そちらのイ級に生身で飛びかかる、いっちゃった人が今回のアレですか」

 

漣さん、全部聞こえてますよ。

 

「ああ、今回のアレだ」

 

そうか俺はアレなんだ。うんアレだアレ。

 

アレってなんだよ!?

 

「……」

 

そして、ぼのたんがじーっという擬音がつきそうなほど俺を見上げてくる。しかも近い。

君、そんなキャラだっけ? 違うだろクソ提督製造機やろ? もっと罵ってくれてもええんやで?

 

「長野、彼女たちのことは知っていると思うが、こっちが漣、そっちが曙だ」

 

「長野業和だ」

 

そうか、触って罵るっていうフリですね!わかりました。

 

「ながの?」

 

「なりかず?」

 

そっと手を伸ばし彼女の両頬を優しく引っ張ってみる。

 

何で触るの? ありえないから。 とか言ってみ? いやむしろ言ってください。

 

「ふぇいふぉふ?」

 

あるぇぇ?

 

「ありえないから」

 

「なん…だと?」

 

漣と徳田君が驚いた顔でこちらを見ている。おれもびっくりです。

あと漣さんそれこの娘のセリフだよ。

 

艦娘とはなんぞや? と聞かれたとき、

かつて実在していた第二次世界大戦期の艦船をモチーフに擬人化した美少女キャラと答える。

そして彼女たちは艦時代の記憶を持っているとされている。

 

君と俺は…、第一次上海事変かぁ…。

でも俺、鳳翔に乗って新型エンジン搭載の艦載機のテストしてただけだからなぁ。

 

あぁドゥーリトルの時、君、エンタープライズに魚雷ぶち込んでたね。

 

俺はその時、上空で加賀の偵察機に乗ってたからよく見えたよ。

何で加賀っていうとその時期インド洋のイギリス東洋艦隊を連合艦隊で潰しに行くんだけど途中で座礁するからじゃあこっちでええやんって理由。

もしかしたら、座礁しないかもしれないけど赤城は旗艦で無理だし飛龍は多門丸めっちゃ怖いし、蒼龍は艦載機が足らないと思ったから。

そういえばあの時、本土に帰って曙の乗員たちへいい酒を振る舞ったな。俺も一緒になって飲んで。

もし敵機動部隊いなかったら腹切ってやんよっていってようやく長官がゴーサイン出してくれたんだよ。

ミック先生の情報でいることは確実に分かってたんだけど、やっぱり見つけるまでは気が気でなかったもんなぁ。

 

あぁ…、酔った勢いで曙の船体の至る所、撫でまくってたわ…。

 

あとは…レイテか…。

 

「おい、長野」

 

「ああ、すまん」

 

ずっと、ぼのたん頬っぺたムニュムニュしてたわ。

 

「曙もすまん」

 

さぁ、かまわん罵ってくれたまえ。

 

「あ…あ…」

 

「まずいっ! 漣っ!」

 

「ほいさっさ~♪」

 

漣が目にも止まらぬ速さでぼのたんを羽交い絞めにした。

緊張感ねぇなお前。

 

「あー、あんまり私たちに触らないでほしいのです…長野さん…n、んん──?」

 

「ああ、すまない」

 

漣さんや、チョークが決まってるんだけどぼのたんの顔真っ赤よ?

 

「あれ、うん、あれ、んん?」

 

「おい、長野行くぞ」

 

「…ああ」

 

徳田君に腕掴まれて建物に入る。

 

「いいか、滅多に彼女たちに触るな、彼女たちの機嫌を損ねると最悪死ぬぞ」

 

「なに?」

 

「彼女たちは見た目こそ少女の姿だが大戦中の兵器だった存在だ。信頼関係がなければ牙を剥くこともある」

 

セクハラが出来ないだと…!?

 

んなバカな。

 

この世界には絶望しかないというのか!!

 

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