提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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ほのぼの回



提督(笑)と妖精の支配する島

 

 

父島警備府の朝は早い。

 

とある部屋に眠る四人の艦娘たち。

 

一人は枯草色のショートボブに、琥珀色の瞳。右頬にある絆創膏が特徴的な艦娘。

綾波型もしくは特Ⅱ型7番艦(吹雪型17番艦) の朧(おぼろ)。

 

二人目は普段、紺紫の長髪をサイドテールにし、同色のつり目がちの瞳の艦娘。

髪留めにはピンク色のミヤコワスレと大きな鈴が付いている綾波型8番艦(吹雪型駆逐艦18番艦)の曙。

 

三人目は桃色の髪を昼間は両サイドに結び、所謂ツインテールにし、ネットスラングを駆使する艦娘。

綾波型9番艦(吹雪型駆逐艦19番艦)の漣(さざなみ)。

 

四人目は、黒髪のロングに琥珀色の瞳と駆逐艦のものとは思えぬ胸部装甲を持つ艦娘。

綾波型10番艦(吹雪型駆逐艦20番艦)の潮(うしお)

 

 

彼女達の一日は日の出と共に、

 

「オキロ コムスメ、ジカンダ」

 

「ふひやあぁ!?」

 

「ジカンダー ジカンダー」

 

潮の悲鳴ではじまる。

 

これがここ最近の日常である。

可愛らしいパジャマに身を包む潮の豊かな胸の上を妖精さんが飛び跳ねる。

 

「…マジつらたん」

 

僚艦の漣は二人の妖精さんに無理やり瞼を開かれている。

 

「ふおおは!? ちょ起きるってば! 触んなっ!」

 

自身の髪を妖精さんに弄ばれ鼻の辺りでコショコショされる曙。

 

「がんばる! …たぶん」

 

一度体を起こした朧は再び布団に沈み、妖精さんが下敷きとなり叫んでいる。

こうして、父島警備府の朝は明ける。

 

彼女らはいつもの如く青に近い紺色と白のセーラー服に身を包む…事無く、オーバーオールとTシャツに着替えて身支度を整える。

そして装備に身を固め外へと向かう。

 

頭には麦わら帽子、足は長靴、手は軍手、背には籠を背負って…。

 

 

 

「ぎゃああああーー」

 

「イモムシ イモムシ」

 

漣は妖精さんに渡された芋虫に対して叫び声をあげ、

 

「なんで私がこんな事しなくちゃならないのよ。まったく」

 

「ギョウザバタケ マモル メイレイ」

 

「テイネイニ テイネイニ」

 

「あーもうっ! うっさい! 大体、餃子畑って何よ」

 

曙は悪態をつきながら乱暴に雑草をむしる。

 

「二人とも元気だね」

 

「そーだね朧ちゃん」

 

朧と潮は麦わら帽子に妖精さんを乗せ、頭の上から指図する妖精さんに従い、雑草取りや水やり、間引きをこなす。

 

「オクラ ソロソロ?」

 

「モウチョイ モウチョイ」

 

頭上で妖精さん達が野菜の様子を見て話し合っている。

 

「でも、これ私達食べられるの?」

 

「えーと、どうだろう? 提督がいつ本土に戻るかによるんじゃないかな」

 

収穫時期がもうすぐの物があるとは言えど、自分たちはこの島の所属では無いし、当初は1日か2日の滞在だけの予定だったのだ。

だが、ゴタゴタに巻き込まれてこうして今日までこの島で過ごしている。

 

「これだけ扱き使っておいてキュウリの一本も寄越さないとか、ありえないから」

 

潮の言葉に、毟った雑草を乱暴に籠にぶち込みながら曙が吼える。

 

「なんだかんだでキュウリ一本で許そうとする、ぼのたんチョロインすぐる」

 

「ぼのたん言うな!」

 

わいわいと騒ぐ、四人は朝一で畑仕事をするのが父島に来てからの日課となっている。

 

「おーやっとるな」

 

四人と同じ服装に身を包む駆逐艦のような軽空母と、正真正銘の駆逐艦の艦娘二人が畑の奥からやってくる。

一時的にこの島に留まる事になった龍驤と霞と清霜である。

彼女達もまた妖精さんに起こされて仕事をさせられていた。

龍驤に至っては海まで出て、朝日と共に哨戒の為に艦載機を送り出している。

 

ちなみに、

 

「うちは農場にやって来たんか…」

 

「なんでこんなに広いのよっ!」

 

「見て見て、てんとう虫」

 

三人が最初、この警備府にやって来て畑を見た時に口から洩れた言葉である。

 

そして彼女達は乳牛二頭と鶏10羽の世話をして来たところで、霞が引く大八車には絞りたての牛乳が入った容器と卵と清霜が鎮座している。

徳田宗義提督とその指揮下の第七駆逐隊がこの島を訪れた時に輸送して来た物資の一部でもある。

正面に海を望む警備府の裏、些か家庭菜園というには大きすぎる畑のさらに奥、牛舎と養鶏場から彼女達はやって来たのだ。

それらの建物を一日で形にしたのは妖精さん達である。

 

「ちょっと清霜、そんなところで寝るんじゃないの」

 

「ふぁ~い」

 

霞が荷台でうつらうつらする清霜へと声をかけている。

ここ最近の父島の風景である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父島警備府の朝は早い。

 

「オキロ メシノ ジカンダ」

 

それは仮とは言え父島を預かる事になった徳田宗義提督も変わらない。

徳田提督の胸元から見下す独特なポーズな妖精さんの声で幕が開ける。まだ起床時間前であるが、そのような常識この島では通じない。

 

「…あぁ」

 

「…ヒョー」

 

荒ぶる鷹のポーズで毎朝、徳田提督を叩き起こしに来るこの妖精さんは、なぜかサングラスをかけていて、この島の妖精さん達のまとめ役のような存在となっている。

 

自身の胸元から優しく妖精さんをどけて徳田提督は布団から起きる。

軽く身支度を整え、向かう先は食堂…

 

の、中の厨房。

 

「ミナライ キタ」

 

「ナニツクルー?」

 

見習いとは徳田提督の事を指す。

毎朝、朝食を作るところから徳田提督の一日は始まるのである。

料理の腕は妖精さんに言わせると見習いレベルという事らしい。

決して徳田提督自身の腕は悪くない。であるが、料理をする機会はそう多いわけもなく、一般人の男が出来る程度の腕である。

故にこの島にいる妖精さん達から徳田提督への評価は、見習いレベルという辛口になるのである。

 

「センサイサ タリナイ」

 

「タリナイ タリナイ」

 

毎朝、昼、晩と妖精さんにお小言を言われながら料理に励む姿がそこにはあった。

彼の職業は料理人ではなく海軍軍人で、艦娘を指揮する提督である。

 

 

「今日のご主人様の朝ごはん…65点」

 

「みそ汁がちょい濃いんちゃうか。もう少し点数低くてもええね」

 

漣がどこからか取り出した札を上げ、龍驤がその評価に待ったをかけ、

 

「全体的に味が濃い。彩りが大雑把」

 

「卵焼きが中まで火が通ってないじゃない」

 

曙と霞の、口が決して良いとは言えないツンデレコンビが文句を言う。

だったら、自分で作れと言いたいが、彼女達も朝一から違う仕事をしているので眉間に皺を寄せる事にとどめる徳田提督。

 

「ぎゅ、牛乳が美味しいですね」

 

と潮がフォローするもフォローになっていなく、

 

「これが圧倒的な差…」

 

その様子を見た朧が自身の胸と潮の胸を見比べ呟くのである。

 

「…そっ」

 

清霜はそっとピーマンを霞の皿に入れる作業を続けるのであった。

 

 

 

その日はいつもと違う出来事が父島警備府に起こった。

 

「やぁやぁどもども」

 

無駄に広く豪華というよりカオスな執務室で、本当の主である提督が座る執務机の前に置かれた一畳畳と卓袱台で、書類仕事をこなす徳田提督。

そこへやって来たのは呉から南鳥島に向かう一行である。

 

「あぁ、お久しぶりです。今回はお疲れさまです」

 

「…なんだこの執務室」

 

「おぉー凄いですね。趣味全開ですね」

 

一行は、後上雷蔵(ライバック)提督と長門、青葉、名取、第5駆(朝風、春風、松風、旗風)と、

軽空母の艦娘である龍鳳と高速戦艦末妹、艦隊のアイドル、第六駆逐隊である。

 

執務室に訪れたのは提督と青葉。

その二人が驚いたのは訳がある。

長野が南鳥島へ遠征中に、妖精さん達によって劇的ビフォアフの魔改造が施されていた。

 

執務室の扉を開け、まず正面に見える暖炉、暖炉の上には刀置き。

島の気候上一年に一度使うかどうかという代物である。

更にその手前にはソファーとローテーブル。

左を見れば提督の執務用の机、秘書艦用の机、壁に『九条葱』と達筆で書かれた掛け軸。

どうして徳田提督が卓袱台で仕事しているのかはおいて置くとしても、ここまでは納得できる範囲。

 

入口を入って右を向けば暖炉の横にジュークボックスが置かれ、右側のスペース真ん中あたりにビリヤード台。

壁際は棚が並びカウンターもあり、さながらバーの様な装いをしている。

そしてカウンターの前のイスでサングラスをかけた妖精さんがくるくると回っている。

 

徳田提督も初めてここに入った時、同じような反応をした。案内してくれた妖精さんがドヤァ顔で『良い仕事したと自負しております』といっていたのを思い出した。

 

「言っときますが、私がやったのではないですから」

 

徳田提督はライバックに潔白を主張する。

 

「まぁそうだろうね。…さてと、んじゃ本題に入ろうか」

 

とライバックはソファに腰掛けて口を開く。

ちなみにライバックの方が階級は上に当る。徳田提督が少佐でライバックが中佐である。

 

ライバックは書類を取り出しながらこの島に訪れた目的を話し始める。

南鳥島に向かう道すがら色々と上の方からお使いを頼まれているのだ。

 

「不良軍人どもは預かってくから」

 

「南鳥島まで同行させるのですか?」

 

「いや、外見てみなよ」

 

言われる通り窓から外を眺める徳田提督。

見れば計三隻の船が確認できる。

一隻はこの島を訪れるために徳田提督が乗ってきた輸送船。

もう一隻はシーワックスと呼ばれる艦艇。これは目の前の男が乗って来たものと考えられる。

そして最後の一隻は沖に停泊する駆逐艦。

 

「村雨型ですか」

 

「そう『夕立』だね。あれに乗せて本土に、あぁ護衛の艦娘はちゃんといるから問題ないよ」

 

この世界においては海軍が残り、艦艇は引き続き、漢字で名前を受け継いでいる。

元の世界だと護衛艦「ゆうだち」に当たる艦になる。深海棲艦出現から沈まなかった数少ない艦の一隻である。

護衛艦娘は雷電☆命こと、星崎美琴提督の指揮下の艦娘たちである。

余談ではあるが艦隊のアイドルの初の地方営業となる。

 

「で、本題なんだけど。今回の件こんな感じのシナリオらしいから」

 

と言って、徳田提督に書類を渡す。

 

「…これは」

 

読むにつれて眉間に皺を寄せていく徳田提督。

 

内容は、今回の件は緻密に練られた計画のもとに行われた作戦だった。という事にするものである。

参加艦艇も艦娘のみならず海軍艦艇も参加したものとし、『夕立』も参加していたという事にするためにわざわざ寄越したのだ。

 

「言いたいこと分かるよ。長門なんか宥めるの苦労したから。青葉もくれぐれも」

 

「…何度も言われなくてもわかってますよ」

 

結果だけ見れば哨戒活動していたぽっと出の新人提督が人類初の海域開放しました。

これをそのまま発表するとなれば海軍の面子を潰し、政府が把握していなかった事になって、シビリアンコントロールの観点で…、と騒ぎ出す事請け合い。

 

そうして上は今回のシナリオを描いた。

徳田提督や百合恵提督、ライバック他は、昇進の代わりにそういう事にして口を噤めという事だ。

 

「あくまで海軍上層部が主導して作戦を行った事にしたいらしい」

 

「それでは武勲の横取り…」

 

「俺もそう思う」

 

「……」

 

「……」

 

沈黙が支配する執務室にドタドタという足音が響いてくる。

そして

 

「八代目! 龍鳳の代わりにウチが行くで! ええな!」

 

勢いよく扉を開ける、駆逐艦のような軽空母の艦娘である。

 

「は?」

 

一旦は南鳥島行きを止められたが、

 

「龍鳳をここに置いてけばウチが行ってもかまへんやろ!」

 

という事らしい。

 

そんな龍驤に続き、

 

「提督よ! 出航はまだか!?」

 

ビッグセブンがライバックに催促して、

 

「そうです。早くお姉様の危機に駆けつけなくては!」

 

眼鏡を光らす金剛組の若頭もとい、金剛型四姉妹の末妹の霧島が追従。

この艦隊にくっ付いてくる過程で海軍学校の校長と海軍司令長官が頭を抱えていたが、彼女にとっては些細な事である。

 

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ~! 」

 

ライブ(出航)の準備が整っているとやって来る。

 

「あのさ君達、何度も言ったけど出航は明日の朝一ね?」

 

ライバックの言葉は彼女達には届いていなかったようである。

 

「…ボウヤダカラサ」

 

部屋の片隅の妖精さんはいつの間にかグラス片手に酒を煽っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏本番の空のもとキラキラ光る飛沫を見上げ太陽の眩しさを感じる今日この頃。

 

私は、バナナボートの気持ちを知った。

 

私の右手は我が娘こと、島風の左手に握られている。

そして彼女の右手は空挺部隊の女性隊員の左手を掴んでいる。

 

ここは南鳥島沖の海上である。

 

島風が二人の人間の手を取り、海の上を爆走中である。

二人の人間とは俺と、空挺女子である。

隣を見やれば何か叫ぼうとする度に海水が入って咽せている空挺女性。

色々とめくりあがって大変な事になっております。

俺は達観の境地に至りバナナボートの気持ちを知ったところだ。

変に力を入れては駄目だ。すべてを島風に委ねなさい。

そうすれば少しは楽になるぞ空挺女子よ。

島風は俺たちの状態に気づいていない。最高にハイって奴だ。状態になってしまっている。

楽しそうに笑い声をあげて連装砲ちゃんと共に海上爆走中。

まったくおっちょこちょいな困った娘である。

 

時折、海面に体を打ち付けられながら事の発端を思い出す。

 

 

 

「ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦」

 

そう口にしたら空気が凍っていた。

夏の昼間なのにちょっと背筋がゾクッてした。

 

「テートクのAFOOOOーー!!」

 

金剛が妹を腰にくっ付けたまま走り去り、

 

「おねえさっヒッ?! 司令のアホォォーー」

 

腰にくっ付いていた次女にちょっとイラッとしたからあとでデコピンする事を決意し、

 

「金剛姉さん!? 提督さんはアホじゃ!」

 

と罵倒を受け、金剛を追いかけて行くハレンチクルーザーを見送り、

 

「榛名は大丈夫デース…デース…」

 

と長女の口調が写った三女がフラフラと去っていったのに首を傾げ、

 

「提督には失望したよ…」

 

「…ぽぉい」

 

蔑んだ瞳をして去っていく僕っ子とわんこに興奮を覚えた。

 

「試合には負けたが勝負には勝った」

 

と、地面に転がりながらも、やたらいい笑顔で宣うマッチョメンに、

 

「小っちゃな男」

 

とマッチョメンを憐みの籠った瞳で見やる空挺女子が印象的だった。

そんでもって、

 

「パパッ! 駆けっこするの!?」

 

そこに走って現れたる、頭に連装砲ちゃんを乗せた島風。

疑問を呈しながらもスピードを緩めることなく我が腕を掴み、マッチョメンを踏みつけ、バランスを崩し、転びそうになるも近くの空挺女子に捕まり、そのまま手を握って爆走し始める。

 

 

そして冒頭に至るのである。

 

 

とばっちりを喰らったような形でバナナボートと化した空挺女子はそろそろ限界なんじゃないかと思い始めた。

だが、この体勢だと口を開くことが困難である。

口を開ければ飛び散る海水で噎せること必至。

 

「ちょ…あばっ! ごほっ」

 

と未だにもがく空挺女子。そろそろ限界そうなのでちょっと頑張る事にする。

 

ぬぉぉぉ!

 

──ファイトー

 

いっっぱーーーつ!

 

バナナボートから水上スキー形態へと移行。

 

波の力で小鹿の様に震える両足を何とか抑え込み、俺は島風に言葉を紡ぐ。

 

 

「…帰ろう。帰れば、また来られる」

 

もう勘弁してつかぁさい。実は俺も限界近いんですっ!

 




ほんのりぼのたんがでる回。

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