提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は実在名称等ありますが、実在のものとは関係ありません。

わかったね?


提督(笑)と御前会議

 

そこは宮内庁の管轄区画。日本の国家元首のお膝元。

古くは江戸城の名を持ち江戸幕府の歴代将軍の住まう場所と知られる。

 

絢爛豪華というよりは質実剛健。しかし、一つ一つの調度品は匠による伝統の技が光る一室。

公賓の接遇や、陪食に使用される小食堂、連翠と呼ばれる場所である。

 

今は、十数名が卓を囲む。

 

現在の内閣から内閣総理大臣と内閣官房長官、そして副総理と防衛大臣を兼務する者の三人。

 

防衛省下から統合参謀本部の長と副長に陸・海・空軍からはそれぞれの長の計五人。

名称はそれぞれ統合参謀本部議長、副長、陸軍の長は陸軍参謀総長、海軍の長は海軍司令部長官、空軍の長が空軍参謀総長となる。

そして諜報機関である国防情報部から一人と政府直轄の陸・海・空を見張る監察局から一人。

最後の監察局は平成の憲兵隊と呼ばれて陸海空それぞれの軍隊からは嫌われていたりする。

 

日本に君臨する大企業の現社長と前社長。

 

そしてその企業の名誉会長が入室して席に着いたところであった。

 

家主にあたる国家元首はこの場におらず。

この世界では、まがりなりにも国体の維持に成功しているので、天皇は明確に国家元首と定められている。

ただ、君臨すれども統治せずなのは変わらず、国家安寧を願う日々をおくっている。

 

それぞれが軽く挨拶を交わし、

 

「では、全員揃った事ですので、このような場に我々がいる事を説明していただけますか? 柳本大将」

 

首相が口火を切った。

 

「今回、皆様に集まって頂いたのは南鳥島解放の件です」

 

海軍司令長官である柳本は、老女の鋭い視線を感じながら口を開いた。

 

「なら、その件について一つ宜しいか?」

 

と陸軍参謀総長が鋭い眼差しを統合参謀本部(大本営)と柳本に向ける。

 

「なんだい?」

 

防衛大臣が話を促す。その時、老女が意味ありげな視線を送ったがそれには気付かなかった。

この後、彼は別の意味で死を覚悟する事になるがその事を彼はまだ知らない。

 

「今回の件、綿密に計画された軍事作戦との事ですが、我が陸軍としては全く説明を受けていなかった。特にその辺のあたり、こちらが納得できるようご説明頂けるのかな? 我々は空挺部隊の精鋭をその綿密な軍事作戦とやらの最中に援軍として出しているのですから」

 

「空軍としても同意見です。そもそも主上のおわす御所にてコソコソする内容なのか甚だ疑問を感じております」

 

ここに集まっている面々は秘密裏に集合をかけられていた。

 

「場所に関しては情報部からご説明させていただきますと、市ヶ谷(防衛省)は先の政府会見でマスコミが押しかけておりますので不向き、官邸も同じ理由です。また、未だに盗聴器や隠しカメラなど取りきれていないと判断しております」

 

この世界では戦後より最近まで一党政権が続いていた。名を立憲民友党という。略して立民党。

何処かの誰かが残した『五十年列島改造の計』という壮大な計画書があった。

書いた本人は全くもって表に出す気のない代物であった。当時ソ連が第一次五か年計画していた折である。

世界恐慌もあり、なんか使えるものないかと色々書いていくうちに、謎のテンションに冒され、アレやったらこれの対策もしなきゃと頭の中に寄生している情報集積体と共に『ぼくのかんがえたさいきょうのにほん』が出来上がっていたのである。

実現できるかは別として。

内容は経済やインフラ網、発展と共に起こる弊害や環境に関する取り組みと多岐にわたる。

それは元々は走り書きで昭和初期に書かれたもので、一頁開いてみればあちらこちらに話が飛ぶ。

それを体系別に整理したものが『五十年列島改造の計』である。

所謂、歴史的な流れを書いた『長野文書』と合わせれば国の大きな指標になりえるものであった。

(長野文書は1999年までの歴史の流れをノストラダムスの大予言風に大まかに書かれている。)

その指標をもって国の舵取りをしていれば、まず大きな失敗は起こらなかった。

100点の政治と言えなくとも各分野、スケジュールを前倒しできるほどに順調だったと言える。

だが、計画完了をもってその指標がなくなったらどうなるか、緩やかな停滞と腐敗である。

平成がはじまり数年、『政治家は居なくなり政治屋だけになった』とどこかの新聞社の社説の一文が一世を風靡した。

腐敗は計画遂行時でもあったとは言えど、政治的閉塞感が漂う程ではなかった。

 

そして閉塞感を打ち破らんと深海棲艦が現れる少し前に戦後初の政権交代が起こった。

国民目線での政治と謳い、国民の生活が苦しくなる。

そもそも国民の生活への配慮は大前提であるが政治に国民目線は必要ない。

政権の多くの政治家がリベラル派と自称していたがリベラルとは何ぞ? と意味を調べると首を傾げてしまう政権だった。

 

「おいおい話が違うじゃないか!?」「国民目線言うて首相官邸のリフォームって阿呆か」「立民党のがマシじゃないか!」「最近外国人多くね?」 となるまでそこまで時間はかからなかった。

そしてその頃から諜報機関である国防情報部は今までにない忙しい日々を送る事になる。

止めとばかりに深海棲艦の登場であれよあれよと政権の不手際が目立ち、二年半で再び政権交代。

前政権の関係者からたくさんの逮捕者を出す結果となった。諸行無常である。

 

話を戻すと前政権が何故か官邸を改修したおりに置き土産をたくさん残していったのである。

 

「高い勉強代でしたね」

 

と首相が遠い目をする。

他の面々も多かれ少なかれその心境を理解できた。

前政権下で国防費を削られるという割を食った過去がある。

深海棲艦登場でも、なかなか政府が決断を下せないのに歯痒い思いをした。

 

「まぁ、そういう理由だ。長野さんのところにこの面子で行くわけにも行くまいよ」

 

政治家が一人二人訪ねるというのは間々ある事ではあるが、首相他、政権幹部と軍高官がぞろぞろと一企業を訪れるわけにはいかなかった。

 

「理解いたしました。では、綿密な作戦計画のお話をお願いいたします」

 

陸軍参謀総長は少し皮肉めいた目を海軍司令に向けた。

 

「…今回の一連の流れですが」

 

と柳本は胃を痛めながら説明を始める。

 

実は偶発的に南鳥島が解放された事とそうなった一連の経緯。

簡略すれば艦娘である金剛の暴発、新人提督がたまたま居合わせて共闘して奪還したという。

その新人の乗っていた船が損傷で動けない事で海軍の一部将官が陸軍に空挺部隊を応援要請した事。

身内(海軍)で今回の件の手柄を巡って派閥争いするわ、一部が勝手に情報をマスコミにリークしていたことが分かるわで、もっと段階を踏んで行いたかった発表を統合参謀本部と防衛省と認識のすり合わせを計り、政府の緊急会見へ至った。

 

「では、大本営…失礼、統合参謀本部は与り知ら無かったわけですな?」

 

「寝耳に水であった」

 

統合参謀本部議長は重々しくその言葉を肯定した。

 

「また海軍さんの暴走ですか」

 

何処の国の軍であれ、陸海空の仲は良好とは言えない。

限られた国防費をめぐって予算の奪い合いをしなくてはならないのだから当然ともいえる。

しかし、この国において陸と海との溝は他国と比べると深かった。

 

「またとはなんだ!? 深海棲艦発生時の事を言っているのであれば今でもあれが正しい判断だと海軍は認識しておる!」

 

深海棲艦が発生して日本に対して敵対行動をとった時、時の政府がガバガバに対応したので、海軍は命令のないまま緊急出撃をした。

柳本はその責任で一度解任されるが、現政権が発足して再び海軍に返り咲いた過去があった。

あと色々と胃を痛めてるストレスから普段では聞き流す事であったが噛み付いてしまった。

 

「無駄に艦艇と人員をすり減らしただけではないか!」

 

その言葉に柳本は込み上げる怒りを押さえて黙るしかなかった。

それは結果であって当時、深海棲艦の生態が全く未知であった為で柳本が一方的に悪い訳では無い。

 

「やめたまえ。当時の状況を考えれば司令長官の判断は間違ってはいないと参謀本部は理解している。それよりも問題なのは、今回の一件でその新人の扱いだ」

 

参謀本部議長が二人の言い争いを止める。

 

そもそも、柳本海軍司令長官がこれほど胃を痛めてる原因がその新人のせいである。

こっちは関係各所に根回ししてて参謀本部でお偉方に自分と同じ胃の痛みを味合わせてたところ「ちょっと哨戒してくる」で何故に海域開放につながるっ!? とか、

身内が好き勝手に動き出して金剛を暴発させていたようだし、その後「金剛達の奮闘により海域開放できた」に含まれてる「おぉぅ? 俺と最期を共にした艦達になんて事してくれてんだ、ああん?」というプレッシャーをヒシヒシ感じ、それらしい理由つけて昇進を捻じ込んだは良いけど、今度は女帝に睨まれる羽目になっている。

内心、もう辞めたい。おうち帰りたい。孫と遊びたい。あとお宅の曾孫さんアグレッシブ過ぎるよ。と泣きたい気持ちでいっぱいだった。

 

「まぁ、海軍さんの手柄の横取りはお家芸ですからな。何ならうちでその新人お引き受け致しましょうか?」

 

陸軍参謀長の皮肉の混じった冗談に柳本海軍司令と参謀議長と副長が真剣な眼差しを向ける。

 

「…なんですかな?」

 

「…いや」

 

それだけ言って参謀議長は押し黙った。

 

「えー、申し訳ないが今回長野さんがいらっしゃってる件はどういった意図があるのでしょうか?」

 

首相が話題を一端変えようとした発言が実は全く話題を変えれていなかった。

そして聞かされる内容にしばらく連翠の間には重い沈黙が訪れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どういうことでしょうか、ライバック氏のとこのシーワックス内会議室で上座。いわゆるお誕生日席に座らされている俺です。

いや、何故よ? ちょっと「俺氏起きたヨー」って挨拶に来ただけじゃん?

今度、俺も大佐になるんだけど先任はライバック氏じゃないの? 何で俺が上座?

あと、なんでこんなに空気がピリピリしてるんでしょうか?

雰囲気に合わせてゲンドースタイルしちゃってるよ。ついでにうちの指揮下の娘さん達が入り込んでちょっと狭い。

さぁライバック氏、この空気をぶち破る為に突っ込んでくれ!

 

「青葉、青葉! 俺、めっちゃタメ口利いてたけど!?」

 

「知らないって幸せでしたね司令官。…青葉、新しい司令官を探します。司令官と過ごした日々は忘れませんから」

 

と俺の願いは通じず青葉と小声で話している。

 

「ちょっとぉぉぉぉぉ!?」

 

うおっ!? ライバック氏が立ち上がり青葉のポニーテールを掴んでいる。どうしたんだろうか?

 

「離してください司令官っ!」

 

二人は深夜の謎のハイテンションなのかな? なんかいいな二人の雰囲気。

俺の知ってる艦これっぽい。

このまま二人のハイテンションを見てても良いのだけれども、埒が明かないから周りを見渡す。

 

「……」

 

「……」

 

で、空挺部隊の隊長さんと曹長さんの巌流島コンビは心なしか目がギラギラしてるような気がする。

…もしかして二人はそういう関係なのか…。早く二人きりになりたいのか? そうなのか!?

 

良し、見なかった事にしよう。

 

「……」

 

「あらあら」

 

ユーリエちゃんとムッツォは愛想笑いをこちらに向けている。

なんだろうか? 言いたいことあるなら言ってくれていいのだけれど…。

 

「提督、体調は本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

この位置からだとスカートの中が見えそうで見えない絶妙なアングルの大淀さん。

 

「……」

 

…もう少しで、見えそう。

 

「提督?」

 

はっ!?

 

「大丈夫だ」

 

「…そうですか」

 

大淀さんからそっと目を逸らすと、ながもんと目が合う。

何ですかその複雑な表情? 見てませんよ、見てませんから!

 

「…長野提督」

 

「…なんだ?」

 

ずっと立ちっぱなしのながもん。背後の壁が凹んでおりますが、また艤装ぶつけたのだろうか?

 

「……」

 

「……」

 

で、周りの皆さんは固唾を飲んで見守る的な雰囲気は何?

 

「私は…私は…」

 

俯きプルプル震えているながもん。

 

「……」

 

「ナガトはどうしたノ? お腹痛いデス?」

 

そうなのか? なら、お花摘みに行った方がいいじゃないの?

 

「…なぁ金剛。…提督に逢えて嬉しいか?」

 

「とってもhappyダヨ」

 

「…そうか」

 

「榛名も幸せですっ!」

 

何と張り合ってんだこの娘?

 

「「しれぇー」」

 

なんだよ? 呼んだだけかよ。かまってちゃんか!

 

「提督さんに逢えて夕立も嬉しい!」

 

尻尾ブンブン振ってるように見える不思議。

そういえばこの娘さん狂犬なんて言われる事あるけど、史実補正がもし本当にあるなら、俺の知ってる以上にヤバい性能になってる可能性が…?

 

「っぽい?」

 

小首傾げるぽいぬ。愛い奴め。

よぉしよぉし、わしゃわしゃしてやろう。

 

「っぽい!」

 

「司令、この磯風の髪も撫でるがいい」

 

「べ、別に羨ましくなんてないんだから! でも、どうしてもって言うなら触ってもいいわよ? 吹き流しには気を付けて触ってよね」

 

何故上から目線なの君達は?

 

「じゃうちも髪を梳いてもらうんよ。浜風もどうじゃ」

 

「バッチコイです」

 

あれ、どうしたんだ浜さんは、キャラが崩れてんぞ?

 

「パパッ! 私もっ」

 

島風さんや、もう完全にパパ呼びになってますやん、直す気ゼロですやん。

 

「清霜もっ!」

 

戦艦になりたガールは皆に同調したいお年頃か。

 

「提督」

 

「如何した大淀?」

 

「最近、駆逐艦ばかりかまい過ぎではないでしょうか?」

 

いや、そんな事ないと思うけど…。

 

「「私もそう思います!!」」

 

お、おう。メロンちゃんも有明の女帝も食い気味で同調しおった。

 

「俺は別に羨ましいなんて思ってないぜ?」

 

「そうなの~? フフフ」

 

「テンリュー。ツンドラ?」

 

「コマ、ツンドラってなんだ?」

 

あ、天龍ちゃんの角ムギュッてするの忘れてた。

ちなみにツンドラとは地下に永久凍土が広がる降水量が少ない地域。日本語的には凍原の事だ。

ムギュ忘れたついでに、お艦と長波様とツチノコと谷風さんがいつの間にかいないな。

 

「比叡お姉様」

 

「なに霧島?」

 

「ここは司令に何かアピールする場面なのでしょうか?」

 

「んー? はっ!? ハイ司令!」

 

挙手をするヒェー。

 

「なんだ?」

 

「お腹空きました!」

 

子供かっ!

 

「子供かっ!」

 

俺の心の声とRJの言葉がシンクロしたのだった。

 

「はぁ~。何か大事な会議してたんじゃないの?」

 

え、そうだったの? あぁでもあの重い空気はそんな感じだったかもしんない。

 

「青葉、今猛烈に殺意の波動に目覚めそうなんだけど…なにこのラブコメ空間」

 

「司令官が返り討ちにあう未来しか見えないです。絶対変な事しちゃ駄目ですよ?」

 

「普段の青葉見てるとなぁ…おまいう?」

 

なんかいいなぁライバック氏と青葉の関係。友達感覚の付き合いみたいな。

俺もそういう関係が良かった。あ、ホモダチ関係は必要ないんでそこんところよろしくです空挺のお二方。

 

「おーい」

 

エプロンつけた長波様が入って来た。

 

「提督、皆さん。お夜食作りましたのでいったん休憩にいたしませんか?」

 

それに続いて割烹着姿のお艦と谷風さんとツチノコと。

 

「長波様特製のチャーハンだぞ」

「谷風さん特製のチャーハンだよ」

 

え、どっちが作ったんだよ…?

 

「鳳翔さん特製でしょ」

 

ツチノコがボソリと呟いた。なるほど。

 

「…なんだか私が一人で嘆いていたのが馬鹿みたいではないか」

 

ながもんがなんか俯いている、あ、そうか!

 

「長門、腹が痛いのなら厠に行ってこい」

 

「違うっ!」

 

あれ違ったのか? 

 

いや、オブラートに包んだ物言いの出来ない俺も悪いけどさ、そんなに怒んないでよ。

 

 

 

 

 

 

 




キャラが多くてね、あの娘の影が薄いとか言われてもね困るのね。

どうでもいい蛇足

防衛省があってその下に統合参謀本部いわゆる大本営があり、さらにその下に陸海空の司令部がある形です。

名称は軍が残ってるので本来は国防省なのでしょうが、この世界だと基本的には防衛戦争しかしないと憲法で定められてるので防衛省。
細かくやると何話使うんだってなるのでふわっとした感じで現実の自衛隊とちょっと名前が違うんやな。くらいな感覚で読んでね。
階級も将官は 大将 中将 少将 准将と自衛隊とは違う階級が存在してます。大将の階級は複数いるけど、階級+肩書で上か下か判断する感じ。
で、海軍の長の場合は軍令部総長じゃないんか、とか言われるかもしれないけど、軍令部って言う名前そのままだと世間体からどうなんだってなったんだよ。

ほんと感想に分析官(変態)がいいっぱいいる。やり辛いよっ!(笑)



おまけ

図鑑説明  長波(苺味)

マル4計画で建造されて戦時就航した夕雲型四番艦、長波だ。
栄光の第二水雷戦隊で縦横無尽の活躍したぞ。
ガダルカナル島では、田中頼三少将の名指揮で、
レイテ、坊の岬では長野壱業少将と共に敵を蹴散らしてやったぜ。
いいか、長波様だ。波平なんて呼ぶんじゃないぞ!

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