提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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ギリギリセーフ


提督(笑)と風物詩

薄暗い部屋に蝋燭の光が一つ。

 

それを囲う四人の少女の影がゆらりと揺れる。

 

窓の外は雷鳴を伴う雨。

 

一人の少女が語りだす。

 

 

 

とある海辺にあるその村では昔から豊漁と漁の安全を祈願して、浜辺にある祠へ供物を捧げる祭りを行っています。

その日もいつもと同じように祭りが滞りなく行われていました。

ですが、ひとつだけその日は違った事が起こりました。

祭りも盛り上がりを見せ、飲めや歌えやの騒ぎの中に、村に住む若者二人がおりました。

若者二人も大いに酒を飲み、騒いでおりましたが、お酒のつまみが無くなった事に気付きました。

 

「つまみがなくなったなぁ」

 

「どれ、ちょっと取ってくるか」

 

若者一人が立ち上がり、歩き出します。

 

「おい、何処へ行くんじゃ」

 

もう一人の若者が声を掛けます。

 

「今日捧げた供物にええ魚がおったろ」

 

「あぁ、あれはうまそうやったな」

 

元々、信仰心の薄い二人は特に気にする事も無く、祠へ赴きます。

祠は波で削られてできた洞窟の中にあります。

それほど深い洞窟ではありませんが、お酒に酔っている二人はフラフラしており、足元の悪い祠に悪態をつきながら進みます。

 

「いつ来ても気味悪いとこや」

 

「さっさと戻ろうや」

 

若者二人は程なく祠に着き、供物である魚を持ち、出口へと向かい歩き出しました。

 

 

──ピチャリ、ピチャリ。ズルッ、ズルッ。

 

 

歩いていると後ろから何かを引きずっているような音。

 

二人は振り返りました。

 

しかしそこには何もありません。

 

「気のせいか?」

 

「おい、早くいこう」

 

一人は何だか気味が悪くなり、足場の悪さに気を付けながら、なるべく早くそこを出て行こうと足を進めます。

 

 

──ピチャリ、ピチャリ。ズルッ、ズルッ。

 

 

また背後から音がして、振り返ります。

 

一瞬、もう一人の若者がこちらに手を伸ばしている姿が見えました。

 

ですが、瞬きをした次の瞬間にはいなくなっていました。

 

「おい!? どこ行った!」

 

若者は叫びますが、何も返って来ません。

 

 

──ピチャリ、ピチャリ。ズルッ、ズルッ。

 

 

洞窟の奥から音が近づいてきます。

 

 

若者は怖くなり、出口へ走り出しました。

 

 

──ピチャリ、ピチャリ。ズルッ、ズルッ。

 

 

音もすぐ後ろから響いてきます。

若者はそれ程、深くない洞窟なのに出口が遠く感じました。

 

ようやく出口に出られそうなその時…

 

 

──ピチャリッ

 

 

首に生暖かく磯臭いナニカがかかります。

 

 

恐る恐る振り返る若者…

 

 

 

 

「イヤァァァァーーっ!」

 

「ギャァァァァーーー!」

 

「フォォォォーーー!?」

 

「………………」

 

 

少女の一人が耳を抑え叫び、それに連鎖してもう一人の少女が叫ぶ。

その二人の叫び声にビビり、語り手の少女も叫び、残りの少女は白目をむいて失神した。

 

 

 

 

 

 

前日の雨の影響で、その日は朝靄が島を包んでいた。

 

第七駆逐隊の面々は霧の中で農作業に勤しむ。

 

「いやぁー、昨日はひどい目にあいましたなー」

 

おどけた調子で漣がもぎたてキュウリを噛りながら同僚の曙に話しかける。

 

「……」

 

曙は半目で漣を睨む。

深夜に目を覚ました曙は明るくなるまでお手洗いを我慢していた。というわけで、おこなのだ。

 

「ヒィ」

 

そして普段から内気な潮はいつも以上におどおどしている。布団を被り出てこようとしない彼女をなだめ、ここまで連れてくるのに難儀した。

 

そんな様子の潮に対して

 

「ギョウザカントハオモエマセンナ」

 

「オカルトテキ ソンザイガオカルトニ ビビルー?」

 

「ソノムネハ カザリカー」

 

「カザリカー」

 

妖精さんは辛辣だった。

 

「む、胸は関係ないと思うなー。たぶん」

 

朧は苦笑いを浮かべながらフォローしたが、自分のと潮のを比べてなんとも言えない気分になった。

 

「アンタたち餃子餃子うるさいのよ! 意味分かんない!」

 

「オチツケ ボノタン」

 

「モチツケ ボノタン」

 

「ギョウザ ボーノ ボノタン」

 

「ぼのたんってよぶなぁーー!」

 

─ピチャリ、ピチャリ。ズルッ、ズルッ。

 

「ふぇ?」

 

それは誰から漏れた言葉だったか。

 

「漣っ! 本気で怒るわよっ!」

 

「違う。私じゃない」

 

曙はいつものおちゃらけた漣の表情ではないことに気付いて周りを見回す。潮のはずはない。今にも泣きそうなくらいに怯えているし、朧もこんな悪ふざけするような娘ではない。なら、いたずら好きの妖精さんの仕業と…。

しかし、その妖精さんたちはいつの間にか消えていた。

 

「悪ふざけにもほど…が…」

 

 

─ピチャリ、ピチャリ。ズルッ、ズルッ。

 

壊れたブリキのような音がしそうな動きで曙は振り返る。

 

(もや)のなかに何かが浮かぶ。

 

徐々に近づいてくるソレは、異様に髪の長い女のようなシルエットだった。

 

一歩、後退りする曙。

 

蠢くソレ。

 

──ズシャリ

 

身体が、落ちた。

 

「「「「ぎゃあああああ」」」」

 

第七駆逐隊は逃げ出した。

 

脱兎のごとく警備府の建物に逃げ込むと自分たちの提督のもとへ。

 

 

 

 

 

 

 

徳田提督はここ数日、癒されていた。

隣で一緒に朝餉の準備をする美少女の姿に。

 

跳ねっ毛とアホ毛のあるセミロング髪。

日の丸を意識した鉢巻きを前髪の上に巻いている。

紅い瞳は垂れてほんわかとした雰囲気。

 

服装は紅色のセーラー服と赤地に白のラインが入ったネクタイ。その上から振り袖のついた和服風の上着を着用し、普段は胸には胸当てが付いているが、今はフリルのついた白色のエプロン姿だ。

胸元に描かれた鯨が、窮屈そうに伸びている。

 

「今日のお昼はポークカレーにしたいとおもいます」

 

耳に残る甘い声色の持ち主の名前は軽空母の艦娘、龍鳳。

 

「あぁ、いいな」

 

朝餉の準備をしながらも頬が緩む徳田提督。

ここに長野がいたら間違いなく「おい、そこ代われ」と言っているだろう。心のなかで。

 

「知ってますか? ポークカレーを広めたのは長野提督なんですよ」

 

「そうなのか」

 

一般的には知られていないが、事実である。

史実では戦中に海軍カレーで食されるようになるが、1920年代後半からこの世界では海軍カレーのレシピに登場し始める。

日本で養豚がいち早く行われるようになったのは群馬県といわれている。だが当初は投機目的であった。育てば売れると考えていたものが多くいたが、見慣れない肉、調理法がわからない、さらに寄生虫がいて食べると腹を壊すという風評被害が広まり身を持ち崩す者が多く出た。それでも徐々に普及して一般にも食べられるようになりカレー、とんかつ、コロッケまたはオムレツが、大正三大洋食といわれるようになった。だが、洋食が食べられるのは一般といっても懐事情に余裕がある家庭だ。まだまだ大部分の家庭には遠き存在。しかも関東大震災が発生し、懐事情に余裕があった家庭も激減。倒産寸前に追い込まれた業者のひとつが、当時急成長し始めた長野商会に泣きついた。

父からそんな報告と共に豚一頭を譲り受けた長野が

「そういや、ポークカレー海軍で食った覚えないな。牛より安価に生産できるし卸したろ」といった安請け合いしたのが始まりだ。

 

ついでに現在、日本三大豚ブランドのひとつ上州豚は

「どんぐり食わせてブランド豚作れんじゃね?」と宣ったのが始まりだったりする。

 

そんな業者との癒着ともとれるようなうんちくを聞いても徳田提督はご機嫌だった。

彼は長野壱業リスペクト系男子。その事に関しては若干目が曇る。

 

さて、そんな和気あいあいとした雰囲気を醸し出す二人を、必死こいて逃げてきた彼の指揮下の艦娘たちが見たら何を思うのか。

 

「ご主人様の浮気ものォォォォ!!」

 

漣は噛ったキュウリを徳田提督にフルスイングした。

 

「いたっ!?」

 

キュウリは徳田提督の頭に当たり、目の前のまな板に着地した。

 

「食べ物を粗末にしちゃ メッ ですよ」

 

頬をぷくっと膨らませた龍鳳にイラッとする漣。

 

「クソッ」

 

時に正論は人を苛立たせる。あぁ諸行無常。

そんな朝のひとコマである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父島よ!私は帰ってきた!

 

白露に全力で投げてもらい一回転宙返り。捻りを加えて上手に埠頭に着地した。未だに海上にいる彼女に向けサムズアップして「ありがとう」の気持ちを伝える。

なぜか目が死んでいるが、今はそれよりも畑が心配である。

 

というわけで畑まで小走り。バナナボートになっていたからか海藻が身体中にへばりついているし救命胴衣は固結びになってなかなか脱げない。

 

えっちらおっちらと悪戦苦闘しながら畑までたどり着いたが霧が濃い。

 

目を細めて周りを見れば、靄の中からわらわらと小人が現れる。なかなかにホラーだ。

ビクッとしてしまった。

 

「ボスウゥゥ!」

 

あぁ姿が見えないと思ったら荒ぶる飲ん兵衛妖精さんはお留守番組だったのか。

 

「ただいま」

 

と挨拶かわせば身体によじ登ってくる妖精さんたち。

一番最初に肩に乗った荒ぶる飲ん兵衛妖精さんは他の妖精さんたちを叩き落とす。

 

身体にくっついている海藻を巻き混んで落ちていく、何してるの君たち?

 

「アズカリマス」

 

足元の妖精さんは両手を掲げ、元気を分けてくれポーズ

あぁ、ライフジャケット預かるってことね。

 

どうにかこうにか固結びが取れないのでTシャツを脱ぐように

 

べちゃっ!と脱ぎ捨てた。

 

「「「「ぎゃあああああ」」」」

 

何事!? 敵襲か!?

 

ミック先生!

 

──敵性反応はありません。

 

「ニゲタ」

 

「シューカクハー?」

 

逃げた? 収穫?

おお、そうだ。畑のお野菜さんたちは!?

 

「おぉ…」

 

いい感じに実ってるぅぅ!

近くのキュウリをもぎって噛る。

 

「ガンバリマシター」

 

「マシター」

 

ありがてぇありがてぇ。

なんか旨いもん食わせてやるからな妖精さんたち。

 

 

 

 

篭の中には野菜がいっぱい。

計4つのソレを背負い警備府の食堂を目指す。

お預けしたライフジャケットは妖精さんズリズリ引摺っているが俺が持った方が良いのだろうか?

いやしかし、篭4つも持ってるし。

というか、なんで収穫したのに畑に放置していたのか?

妖精さんに聞いても要領得ないし。

「餃子艦にあるまじき行為」ってなんやねん。

「おっぱいトランポリンの刑に処す」なんだその楽しそうな刑は。全くもってけしからんなっ!

ってことで本当にワケわからんわ。

 

いやまてよ? 留守中ヨロシクってホモに頼んだのだ。

ホモの指揮下でおっぱ…高雄か愛宕か!いや、ちとちよの可能性もあるのか! どちらが来ても見たいけど胃がいたい!

急に足取りが重くなったぜ。高雄型にはキレられそう…栗田さん関係で。

ちとちよはなぁ。まあ、どちらが来てもレイテ関係だからなぁ。

マジでテンション下がるしぃ…。

鈴谷の台詞で墓穴ほったわ。彼女もレイテだった。

なんだかなぁ…。

 

いかんなポジティブシンキングで行こう。

 

──では、面白いと思われる情報を。

 

おう?

 

──空母信濃は当初あなたが指揮官だと思われていたようですね。

 

へぇー戦艦ビスマルク的なノリで?

って結局、レイテがらみじゃん! しかも沈んでんじゃん!ミック先生のアホ!

もういい! 食堂に入るぞ俺は!

 

バッチコイやァァ!

 

「「「「イヤアァァァァァァーー!!」」」」

 

な、なにごと!?

 

食堂の中ほどで押しくらまんじゅうしている七駆。

 

そして、厨房で龍鳳に抱きつかれている…

 

「おいそこ代われ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テートクーどこいったデース?」

 

アホ毛を回転させながらライバックのシーワックス内を歩き回る金剛。

 

「どうしたんですかお姉様?」

 

そこにジャージ姿の比叡が目を擦りながら話しかける。

 

「ヒエー、テートク見てませんカー?」

 

「見てませんよ。お姉様と一緒じゃないなら榛名と一緒なんじゃないですか」

 

その言葉に回転していたアホ毛が固まる。

さらに目が据わったようにも見えなくもない金剛。

それに全く気づかない妹。

比叡をヒエーと言わしめる一幕を垣間見た瞬間である。

そこに通りかかった五月雨は涙目。

そして五月雨は提督の行方を知っていた。

白露と共に哨戒にあたっていたので当然と言えば当然なのだが。

 

「あ、あのっ!」

 

五月雨は勇気を振り絞って話しかけた。

 

「oh、サミィどーしましたカー?」

 

「サ、サミィ?」

 

「え、寒いですか!? お姉様っ風邪なら休みましょぅぅ!」

 

姉の手を包み、真剣な眼差しを向ける妹。

私、心の底から心配ですオーラが全開。

彼女に悪気は微塵もない。

だが、話が進まないので黙ってて欲しいと姉は思った。

五月雨は懸命に空気を読んで話を続けることにした。

 

「長野提督は白露ちゃんと手を繋いで寝ながらいっちゃいました」

 

間違っていないが微妙に言葉が足りない。

心の汚れた者が聞けば卑猥な想像力を働かせるかもしれない。

だが、五月雨を責めるのは酷だ。彼女も一部を見ていただけだ。白露に海上輸送される姿を見て端折的に正確な言葉など紡ぎ出せない。彼女は精一杯頑張った。

 

「寝ながら行く? どういうこと?」

 

端折的でありながら的確な質問。それがやればできる子ヒエー。

 

「えっと…」

 

身振り手振りを加えて五月雨なりに一生懸命に説明した。

 

「あぁ」

 

その説明を聞いた比叡は納得といった表情でポンッと手を叩く。

 

「テレビのドラマで観ました。駆け落ちってやつですね!」

 

とても優しい姉が壁ドンをした。

 

アパートの隣の部屋がうるさかったりするときにする方の…。




感動の再会

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