提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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朝潮が大人になってしまった…。


提督(笑)とめろんタイム

深く息を吸い込んで、これで何度目かになる深呼吸を一つ。

 

目の前にある扉。この先に今回妖精さんに呼ばれた、提督になるかも知れない人物がいる。

 

そう思うと気が重い。憂鬱という人の身になって何度か味わったこの気分。

 

今回もまた漣のように「メロンちゃんキタコレ」とでも言われるのかしら。

 

そういえばさっき廊下を歩いていた時に、窓から彼女が見えた。

何故か「ピャアー」と叫んだ曙に両手を掴まれ振り回されていたけど。

あれは駆逐艦の間で流行っている新しい遊びなのかしら?

 

改めてドアに向き合い…もう一度深呼吸。

 

「よしっ」

 

ドアをノックして入室する。

 

「軽巡夕張入ります…ってあら?」

 

部屋の中央に置かれたソファーには誰もおらず…暫く視線を彷徨わせれば…窓の下、壁に背を預け胡坐を組み刀を抱える青年。

 

「寝てる…何ともまぁ剛毅な性格してるわね…え?」

 

彼に一歩近づく、ドクン。

 

高まる胸の鼓動。

 

さらに一歩、

 

震える足。

 

さらにもう一歩。

 

ああ、ああ。嘘、本当に、まさか、嬉しい、まさか、でも、違ったら落胆、ガッカリ、でも、嘘じゃない、目の前に、

本当に? ああ、ああ頭の中がぐちゃぐちゃだ。

心臓がうるさい位に脈打って、まるで自分の意思と関係なくガクガク震える足。

 

…落ち着け私。

 

長野提督が愛した艦だもの。大丈夫、大丈夫。兵装実験軽巡夕張は伊達じゃないっ…。

 

「あぁ…あぁ」

 

ダメ、落ち着いてなんていられない。だってだってこんなの、こんな気持ちデータにないもの…!

 

「提督っ!」

 

なんで、どうして、理由なんてどうだっていい。そこにいるんだもん。

 

飛び付いて彼の温もり匂い息遣い全てを感じる、ああ、何もかもが愛しい。

 

温かい…。

 

ずっとずっとこうしていたい。でも、ねぇ、起きて提督? 声を聴かせて?

 

不愛想な言葉数の少ない声を聞かせて?

 

頑張ったなって、帰還した時いつもかけてくれたあの言葉を聞かせて?

 

ねぇ? 聞いてる? あ、まつ毛長い 寝てる時でも眉間に皺寄ってる。

 

そう、起きないんだ、じゃあ私も提督の寝顔のデータいっぱい取っちゃいますからね。

 

ほら提督、頭はここ。これでバッチリ寝顔が見れちゃいます。

 

なんだろう、今とっても幸せ。

 

起きたらどんな話しましょうか、あ、アニメって面白いんですよ? あとゲームも、でも提督興味なさそう。

やっぱり武装の話? 想像するだけでうれしい気持ちが溢れてくる。

あっ、提督、今度は置いてかないでね? 絶対に付いていきますからね。

 

「にへへ」

 

やだ、どうしよう? 顔が締まらないよぅ…。でもいいか、私と提督しかいないんだもんね。

あれ、なんだかさらに提督の眉間に皺が…

 

「赤城も蒼龍も助けてやりたかったな」

 

…ああ、せっかく声が聞けたと思ったのに…どんな夢見てたんですか?

 

「そうですね。…でも提督頑張ってましたよ。データもバッチリ」

 

皆を救おうとして、でも零れ落ちてしまって、それでも折れずにずっとずっと頑張ってたの知ってます。

だから今度はね、私も話すことできます。こうやって触れ合うことも出来ます。

提督の想いを私にも一緒に背負わせてください、なんせ、私は長野提督の愛した艦(自称)なんですから。

 

「…夕張か」

 

うわああぁ…あぁ…、名前を呼んでもらえるだけでこんなに嬉しいなんて、ダメ、顔がにやけちゃう…。

ごめんね赤城さん蒼龍ちゃん、でも嬉しくて…、今だけは許して…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと訳が分からない。

 

 

 

ちょっと微睡んで、気がついたら夕ば…メロンちゃんの膝の上に頭乗せてる俺氏。

 

ニッコニッコですね夕b…メロンちゃん。

 

えーと、どうしよう? 太もも柔らか、すべすべ、あとなんかいい匂い。でもさ、徳田君は言った。

艦娘にセクハラするとアボーンされるって…。

 

……下手に動くと不味くね? 

 

後はそう、目を離しちゃだめだ、山で熊に遭遇したら目を見ながら少しづつ後退していけって、誰か言ってた。

しかし、後退できない。体は床の上、頭はメロンちゃんの膝の上、床をすり抜けられる特殊技能がない限りは…。

もちろん俺にそんな能力は備わっていない。

くっ、何という事だ。目を離さずにメロンちゃんの太ももの感触を頭部の神経を集中させ堪能しつつ、違う退却方法を考えなくてはならんとは…。

 

駄目だ…。何も思い浮かばない。しばらく動けそうにないぞ。ミック先生!

 

──システムアップデート中……10%……

 

ほらミック先生のご助力も願えない。

なら、仕方あるまい今しばらく動かないでいよう。

身の安全のために、そう仕方ない。これは仕方ない事なんだ。

 

あと視線の端にチラチラ見え隠れする肌色、俺、超気になります。

 

大体、君セーラー服の裾、短過ぎませんかね。おなか冷えちゃうよ?

 

まぁメロンちゃんだけじゃなくて艦娘の皆さん一部を除き、肌色面積多いんだけどさ。

そのうち俺の単装砲が暴発しちゃわないか心配だ。

 

「あ、あの、提督?」

 

「…ああ」

 

なんだいメロンちゃん? おっちゃんの単装砲の試し撃ちご所望だろうか? それならぜひやってくれ!

 

「私の顔に…なにかついてます? そもそも驚かないんですか?」

 

え、めっちゃ驚いてるよ? なんで膝枕されてんの? とか疑問もいっぱいあるけどちょっと今は頭部に神経集中させてるから後回しにしてるだけ。

 

「……」

 

「あ、驚いてはいるんですね? 顔に出ないだけで」

 

え、なに? 君も読心術の使い手なの!?

 

「普段は多分わからないと思いますよ。今はこうやって触れ合ってるから何となく提督の感情が私の中に入ってくるみたいな? あ、これが提督とつながってるってことなんだ…」

 

え!? それ不味いってさっきの単装砲のくだりは撤回させてください。

やっべっよ! やっべっよ! 無我の境地ってどうやったら至れるんだ? 教えてミック先生!

 

──システムアップデート中……10%……

 

「…ぬぅ」

 

「ここ皺寄ってますよ」

 

メロンちゃんの指が俺の眉間を叩く。秘孔か! 秘孔を突くつもりなのか!?

頭パッカーンとか嫌だよぉ! 熊野神拳じゃなくてメロン神拳伝承者だったのか!

君の「さぁ!色々試してみても、いいかしら?」ってア○バ的な実験の事だったのか!

 

「提督、混乱してます?」

 

「…ああ」

 

おっちゃん超混乱してるよ。戦々恐々としてるんだよ。もういっその事罵っておくれよ。

そのニコニコ顔の裏に隠された「うわっコイツ、キモッ」とか思っちゃってる真実を口に出してくれよ。

でも頭パッカーンはやめて。

 

「困った顔も…いえ何でも…そうですよね。提督、こっちについたばかりですものね。でも大丈夫です、私が全部教えちゃいますぅ。さっきも言いましたけど提督の感情がなんとなくわかるのであって思考そのものはわかりませんから、分からないことはなんでも聞いちゃってください」

 

あ、うん。思考が読まれてるわけではないのか…、ちょっと安心。

それでもエッロイ感情…むしろそんな煩悩しかない俺なので名残惜しいが、そろそろ起きようか。

本当に幻滅される前に…。

 

だからメロンちゃんさん僕の額に置いたお手手をどけてくれませんかね?

 

「夕張、起きたいのだが…」

 

「え? このままでいいですよ?」

 

「…え?」

 

徳田君どういう事だい? 艦娘にセクハラするとアボーンじゃなかったのか?

 

…そうか! 

 

自分の艦娘が俺に触られて嫉妬したんだ。なんだ男好きじゃなかったのか…安心した。

けど、奴もまた紳士という事か…、なんと罪深い。

 

「このままがいいです」

 

「お、おう」

 

という事は太もも堪能してていいのだね? ひゃっほーい!

 

「あれ、提督今うれしい?」

 

「…そんなコト…ナイ」

 

「ほんとですか?」

 

やっべ思考がピンクに染まるところだった…気をつけねば。

秘技、ワダイソラーシ発動!

 

「それより、これからどうするのか?」

 

「むぅまぁいいです。そういえば、私、施設の案内をしに来たんでした。でも提督に必要ですか? ここの卒業生ですよね?」

 

「…100年以上前のな」

 

俺の感覚だと25年前とかだけど…。全く同じというわけではないだろう。

そういえば、俺も学校作ったんだよな。工業高校みたいなの。

英語、独語が必修で男女共学の奴。戦争末期に備えて女性工員を育てるって厭な創設理由だったけど…。

卒業後の就職先は長野重工で採用するよって条件で募集したら田舎から口減らし目的で結構な人数が集まったんだよな。

 

まぁ、実際に戦争末期の頃、彼女達の存在にうちの会社はとても助けられていたと思う。

 

「ああ。言われてみれば…。う~ん、じゃあ後で案内します」

 

「今じゃないのか…」

 

「だって私、いろいろ聞きたいことありますし、提督もあるでしょう?」

 

聞きたい事かぁ…なんぞある? ああ、そういや…

 

「俺は誰だ?」

 

あ、此れなんか違う。そうじゃなくてなんで俺と認識できたか聞こうとしたのに…。

 

「は? 私を愛した長野提督ですよね?」

 

「エェ…愛し…た?」

 

「ひどい! あんなに尽くしたのに…」

 

いやいや、ちょっと待って! そういう認識なの!?  確かに色々無茶させた記憶はあるけど…。

なんか誤解される言い方なんですけど…。

 

「…す、すまん」

 

「もぅ冗談ですよ。姿が変わっても提督は提督です。だから皆わかっちゃうと思いますよ? 特に提督と深く関わりがあった娘たちには…」

 

「そういうものなのか」

 

「はい、そういうものなんです。あの提督はどうして…その…金剛さんと一緒に…」

 

「ああ、沈んだはずさ…。…人使いの荒い神がいるようだ」

 

今度は深海棲艦から日本を救わな、いかんらしいな。

 

「ふふ、提督が居れば何も心配いりませんね」

 

何その過度な期待? ミック先生が不在な今、俺はただの凡人なのです。

学校卒業できるかもわからんのだよ…。ああ、今になって心配になってきた。

 

「…だといいがな」

 

試験って何やるんだろうね…。

 

「提督? 提督だって私の事…一目で夕張だって気づきましたよね?」

 

運動能力に関しては結構な高性能ボディだから問題ないハズ。だが、ペーパーテストがまずい。

兵学校の試験は数学、英語、歴史、物理、化学と国語(漢文も含む)地理だったっけ?

もう覚えてないよ…。ていうか試験日いつよ? せめて教科書とか読む時間を一日くらいほしいんだが…。

まさか今日ってことはないよな?

 

「夕張は夕張だ」

 

そりゃめろんちゃんはドラム缶ガン積みで東急か、北鼠のあぶぅと並ぶエースだもんよ。

いや、今はそんなことどうでもいいんだ、図書室みたいなところで教科書を見繕って…。

でも一夜漬けじゃなぁ…。

カンペ作るか…。でもバレたら怖い…。

 

「……っ」

 

試験落ちちゃいましたてへぺろって帰ったら妹はどんな顔するのか? 別れ際にお守り渡されたとき、最初に渡されたときの映像がフラッシュバックしたよ。守りたいこの笑顔…じゃなくて涙を必死にこらえていた顔だったけど。

失望されたらお兄ちゃんつらい。親子ほど離れた妹には常にかっこいいお兄ちゃんで通すように頑張ってたんだ。

今は祖母と孫ほどに容姿が逆転してしまいましたが、お兄ちゃんはお兄ちゃんなのです。小さなプライドがあるのです。

でも、もし落ちちゃったらダメな兄ちゃんを養ってください。実家追い出されたら戸籍のない…戸籍はあるか…死んでるけど…。

とにかく、実家を追い出されたら仕事も就けずに野たれ死んでしまいます。

 

あれ、どうしたの? メロンちゃん目が潤んで顔が赤いですが? 風邪ですか? 

そもそも艦娘って風邪ひくのだろうか?

 

あ、メロンちゃんに試験日と内容聞けばいいんだ。とにかく対応はそれからだな…。

 

「夕張?」

 

どうしたことでしょうか…小刻みに先ほどから震えているが寒いのか? やっぱり風邪か?

 

「うぅ…うぅ…」

 

「大丈夫か?」

 

もしや!? 俺氏、メロンちゃんの膝枕で極楽、プルプル震えるメロンちゃん、かつての上官? を叩き落とすわけにもいかず、かといって直接言うのは乙女心が恥ずかしい。

 

なるほど! お手洗いを我慢しているんだね!

 

もう、俺はその辺、紳士だから無言で頭どけちゃうくらいの出来る男よ?

 

さぁ行ってきなさい!

 

あれ、おかしいな違ったのかな? あ、足が痺れてるんじゃないだろうか。

 

そうか、なら立たせてあげようじゃないか。

 

うおう!? なんぞなんぞ!? これなんぞ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、提督が居れば何も心配いりませんね」

 

うん、本当に何も心配ない。提督に言われたとおりに動けば勝利は間違いない。

 

「…だといいがな」

 

また、そんなこと言って、確かに相手は深海棲艦っていう存在になったけど…、提督の指揮下であればどんな敵でも負ける事なんてない。今私、すごい力漲ってるんですから!

提督と繋がると、こんなにも違うだなんて知らなかった。

私たちは提督という存在と繋がらないと本来の力を発揮できないって妖精さんが言っていたけど…

本当にこんなに違うんだ…一部の例外はいるみたいだけどね。

 

「提督? 提督だって私の事…一目で夕張だって気づきましたよね?」

 

 

 

「夕張は夕張だ」

 

 

 

その瞬間、心が、体が沸騰した。

 

暴れだす感情。

 

「夕張?」

 

ゆっくり起き上がる提督。

 

「うぅ…うぅ…」

 

苦しいほどに胸は締め付けられて、なにも言葉にはならない。

 

「大丈夫か?」

 

抑えきれない感情が体を動かし提督の胸に飛び込んだ。

大丈夫じゃない! もう置いていかれたりしない、もう離れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めろんちゃん、ちょっとおおおおおおおおおお!!

 

痛いよぉ!? 骨がミシミシ言っとるから!! 抱き着かれるのは嬉しいけど限度がありますよおおおお!!?

 

 

 

 




感想は一通り目を通させていただいておりますが、私が目を通す前に消えているものもあるようで、いろんな意見あると思いますが、心穏やかにお願いいたします。

どうでもいいけど、最上はフォースに目覚めた。

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