提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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あ、あけましておめでとう?




提督(笑)の裏側で

 とある会議室では議論が行われていた。

メンバーは以前、皇居の一室で顔を付き合わせた軍属のものたちと信頼のおける部下。そして飛龍、蒼龍。

 

「彼の様子は?」

 

と柳本海軍司令長官が蒼龍、飛龍に問う。

 

「塞ぎ込んで、誰も近付かせないみたい」

 

蒼龍が困ったような表情で答えるのに対して、

 

「多聞丸が見たら情けないって叱り飛ばしてるよ」

 

と少し怒った様子の飛龍。

 

「酷なことを言われますな。彼とて人間であったと言うことでしょう」

 

「しかし、その話が本当なら第二、第三の旧帝国軍人が召喚されるという事態も視野に入れておかねばなりますまい」

 

「海軍だけなのか、陸軍軍人でも起こりうるなら対応を考えなければ。はっきりと申せば来てほしくない御仁もいますからな」

 

「それは海軍とて同じですよ」

 

海軍属の高官の一人からでた言葉に陸軍の高官が反応する。以前、海軍内では旧帝国海軍の軍人が召喚された場合の対応を真面目に議論されていた。

 

「その話はまたの機会にしたまえ。それよりも海軍さんは大丈夫なのか?」

 

先の会議場での出来事を別室で伺っていた陸軍の高官たち。そして少し前に明るみになった離島の大麻栽培と物資の横流し。

 

「目下、人材育成及び信頼のおけるものの洗い出しを進めています。同時に憲兵た…失礼、監査局が不穏分子の捜査に動いております」

 

「もういっそう海軍の全権を彼に与えてはどうか?」

 

多少の皮肉の入った陸軍からの言葉に海軍の者たちから鋭い視線が飛ぶ。

確かに海軍史、世界史を見ても類い希なる戦歴を持ち後世でも語り継がれるであろう英雄なれど、戦後から現在まで海軍を担っていたのは我々だという自負がある。末期の大本営のように混迷する海軍だが、それでもここにいるのは命令とあれば国を守る為に命をも厭わない軍人達。話もしたことのない者に対して譲れない一線というものが存在する。司令長官は「わしはそれでもいいけど」と思ったが、周りの空気を読んでポーカーフェイスのまま防衛大臣に問う。

 

「大臣、米国との機密解除の話し合いはどうなりましたか?」

 

「日本を実験場にしようとした計画なんかは今後も伏せる条件で認めた。同盟が事実上の有名無実になったからな。向こうも多少の罪悪感を感じているんだろう。8月19日に発表する。ただな、死んだ人間が黄泉返りなんてことを公表するのは宗教が絡んでくる。政府としてはその辺りは慎重にならざるを得ない。本人に直接お伺いをたてたかったんだがね…」

 

腹でも切られたら、女帝になにをされるか。と背筋に寒いものが走る大臣。只でさえ、すでにイエローカードを一枚出されているのだ。まぁそれは長野グループの現代表と前代表もだが。「妻が口を聞いてくれなくて辛い。祖母がめっちゃ怖かった」と現代表が意気消沈していたのを思い出した。

 

「とにかく、会見で出す名前は一先ずは今の名前で行わせてもらう」

 

それでも、関係者のなかに長野の名前が二つも入っていたら質問で追求されるのは目に見えている。波乱は避けられなそうだと大臣は吸っていたタバコを灰皿に押し当てた。

 

「失礼しますっ!!」

 

と慌てた様子で入ってきたものの報告で一同が騒然となるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うだるような暑さの中で、男女合わせて四人の若者が公園の木陰から少年達が野球をしている姿を眺める。

 

「あちぃーなぁ」

 

空挺隊に所属する鳥羽が呟けば 、

 

「そうだな」

 

と同じ部隊の馬場が返す。

 

「…喉が渇いた」

 

そう呟いた汗だくな丹波を見た鳥羽と馬場は、炎天下で暑苦しいほど筋トレしてれば「そらそうなるだろう」と思った。

 

「水道はあっち」

 

四人の中で生物学的な分類では女性にあたる南が片手でケータイを操作しながら空いていた手で指差す。

指差す方には公園によくある水飲み場。

しかし丹波の視線はそれより先にある自動販売機に固定された。

 

「なぁ」

 

と丹波が声を出せば、

 

「36円」

 

「41円」

 

「……」

 

とそれぞれが所持する全額を提示する。南に至ってはポケットを漁り、手のひらに置かれていたのは五円玉一枚だった。当の本人もポケットの中を確認すると出てきたのは十円玉が二枚。合計102 円。彼らの現在における全財産である。

「…俺は今、コーラが飲みたい」

 

自動販売機で売られている清涼飲料水は280円前後する。缶コーヒーに至ってはラインナップから姿を消した。三人は丹波の言葉に「水道水飲んでろタコォ」の視線を送った。その反応を見てトボトボと水飲み場に向かう丹波だった。

 

彼らとて世界的に先進国と呼ばれる国の軍人である。平時であったときもGDPの3%が国防費に充てられていた。このご時世でさらに国防費は増した。国防費が増える=軍人の給与も上がる。という公式が必ずしも当てはまる訳ではないが、彼らも給与は普通に生活する分には不自由なく貰っている。

南鳥島艦娘空中輸送作戦中は私物は御守り程度の所持しか認められなかった。その後も予想とは裏腹に南の島でバカンスのような日々、とある男と艦娘達のイチャコラ風景を見せつけられたのが拷問と感じるのならその限りではないが、それ以外は特に困るような事は起こらない。本土に帰還後、隊長や曹長はともかくとして彼らは所属する習志野に戻る事になると思っていたが、隊長達と共に何故か大本営にそのまま連れていかれて小一時間ほどの報告をさせられ、「後は隊長達と話すからお前ら休息にしていいよ。あと今回の事を誰かに話したりするんじゃねぇぞ(意訳)」と言われた。その際に一人千円と物販用のTシャツとハーフパンツが支給された。

売れ残りの処分もとい売れ筋が良くない在庫品の有効活用である。

 

「一人千円って子供の小遣いかよ」

 

丹波の背中を眺めながら鳥羽が言葉を漏らす。

「誰かさんが食堂を使わずに外食しようと言い出さなければな、ここまでひもじくはならなかっただろうよ」と馬場は思ったが、言葉には出さなかった。

大本営の食堂を使えば確かに無料であった。だが、陸・海・空の高級士官や背広組がわんさかいるところで食ってられるかという鳥羽の意見に賛同したのも事実。

 

「レディースデーってのも悪しき風習だと思わねぇ? 店員の顔が引きつってたろ」

 

昼食をいただいた料理店のでの事を思い出したのか、南の方をちらっと見やる鳥羽。

 

「俺の彼女はあんなに食わない。アイツがおかしい」

 

「あんたら聞こえてんよ!」

 

二人は同時にため息をついて南から視線を外した。

 

「…俺も彼女が欲しい。お淑やかで美人で包容力があるそんな彼女が俺は欲しい」

 

鳥羽の脳裏では、ビーチバレーを格闘技に昇華させた長門やそれに揚々と挑む南の顔にバッテンをつけた後に儚げに笑う榛名の顔が浮かぶのだった。

 

「あんた、どの面下げて言ってんの? 現実みな! 大体、そんな女がいるならあんたより先にアタシが貰ってるわ」

 

「諦めたらそこで試合終了でしょうが! ってかお前の恋愛対象ってそっちなの?」

 

「…違うけど。最低アタシより強い男で金持ちでイケメンで優しいなら股開くのも吝かじゃない」

 

「もうちょっと女の子らしい言葉遣いできませんかねぇ! そもそもお前も高望みしてんじゃねーかっ!」

 

「はんっ! 女ってのはね笑顔で握手しながらもう片方の手にはナイフを隠しもって相手が油断したらブスッ!っていつでもやる気満々なんだよっ!」

 

鳥羽と南の掛け合いを聞きながら、南の言ったそれは、果たして女同士の事なのか、男に対しての事なのか馬場にはわからなかった。だが、聞こうとは思わなかった。

 

「やっばり現実の女って糞だわ! もう二次元で…はっ!? これは俺に提督になれという思し召しっ!?」

 

「提督適性あるのか?」

 

冷静な馬場のツッコミに鳥羽は改めて現実って糞だわと涙した。

 

「もう一度、村雨嬢の匂いを嗅ぎたかっ…ぐばっ!?」

 

「きもっ」

 

水を飲み終え戻ってきた丹波が膝をつく。

南の渾身のストレートが腹に決まったからだ。

 

それから無言でしばらく各自が思い思いに過ごす。

先ほどからケータイをいじっている南を見て馬場は「そのスマホどうした?」と切り出す。

 

「赤レンガにいる仲の良い娘に貸してもらった」

 

大本営を出る時、それぞれが通話機能のみの携帯端末を

手渡されていたが、南の持つ物は一般に普及している通常のもの。

 

「アタシも新機種に買い換えようかな」

 

などと何気なく言っている姿を見ながら、「仲の良い…?」少し前の会話を思い出して女性社会の闇を見た気がした馬場。だが、口にはださない。伊達に彼女がいるわけではないのである。

 

「で、なにか面白いもんでもあったのか?」

 

「あの嵐のなかにいた軍艦。これだよね。他の駆逐艦と巡洋艦?は正直どれがどれだかわかんないわ」

 

スマホの液晶に写された画像は戦艦榛名である。

 

「戦艦榛名か…。空母は龍驤だろう。甲板上に艦橋がないフルフラット構造だったからな」

 

「…あぁ、それで」

 

馬場の言葉に何故か納得といった表情の鳥羽。

この場に本人がいたら「おう、なに納得の表情うかべてんや!」とツッコミが入っていただろう。

それを無視して鳥羽は続ける。

 

「…あの指揮官、一体何者なんだろうか」

 

「長野って言うんだから普通に考えたら、百合恵ちゃんの弟あたりだね。でもそんな感じではなかったから戦神様の隠し子の子孫とかじゃないの?」

 

相変わらずスマホをいじりながら南が自身の見解を述べる。

 

「いやいや、お前らあの艦隊の方が気になるでしょ!」

 

と鳥羽はツッコミをいれるが、「艦娘って存在がいるんだし、お盆だし里帰りでもしに来たんじゃないの?」

という南の言葉に反論の言葉を失う。

 

「しかし嵐の海に飛び込んだのがな…」

 

そこが解せないという表情を浮かべる馬場。

 

「有酸素運動は大事だ」

 

と力こぶを作る丹波。

 

「丹波は黙ってな!」

 

南が鋭い一撃を丹波の腹部に再び叩き込んだところで、それぞれが渡されたケータイが鳴り響いた。

そして彼らに任務が告げられた。

 

mission:長野を探せっ! 飛び出した艦娘を連れ戻せ!

 

短い休息が終わりを告げた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽巡洋艦の艦娘、矢矧は目の前の光景に頭を痛めていた。「夏だし、やっぱりお参りに行くべきだと思うのよ」と自身の知名度とメディア露出度をあまりにも自覚なしの言葉であった。彼女の名前は大和。しかし矢矧も思うところがあって最終的には大和の提案を了承した。

そして二人は靖国神社へと赴く。

結果、目の前の光景、すなわち老若男女に囲まれて手を合わせられるという現状が広がる事になった。

矢矧の脳裏にとある航空戦艦が腕を組んで何かポツリと呟いている情景が浮かんだが些細な事である。

 

そんな中、大和を囲む群衆を掻き分けて老人が杖を落として彼女の前で膝をついた。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

大和も膝をつき老人に問いかける。

 

「…司令。人は月に行きました」

 

嗚咽混じりに語る老人に大和は困惑するも、息を切らしながら老人は続ける。

 

「日本人が…協力して…人は月に行きました」

 

人類初の月への有人宇宙飛行計画であるアポロ・ツクヨミ計画。冷戦下における米ソの宇宙開発競争である。

アメリカは戦後も莫大な軍事予算を組んでいたために単独での計画は予算捻出が難航。あくまでもアメリカが主導的立場であったが計画に日本を参加させる運びとなった。日本は明治以降、国際的に見ても世界に通じる専門家達が多くいたのである。そして戦後驚くほどの早さで立て直している日本を警戒したアメリカが、金を出させて多少の疲弊を狙っての事であった。

 

「あの、えっと、その…矢矧ぃ~」

 

急にそんなこと言われても大和は困惑しかできない訳であるが、老人は人目を憚ることなく泣きながら語り続ける。大和は矢矧に目を向けるがため息をつかれただけであった。

 

「矢矧ぃ~」

 

と情けなくもう一度目線を向けて呟くと周囲にいた老人達が矢矧も拝み出した。

 

「えっ私も!? あ、ありがとう?」

 

と矢矧の手には饅頭が老人の手によってお供えされていた。何故か矢矧の脳裏に長姉が自作で作った神棚を拝む姿が浮かんだ。そして姉は供えたバナナを美味しそうにいただいていた。

 

混乱している矢矧を他所に事態は動いていた。

大和の前で膝をついていた老人はお付きの屈強そうな男たちに囲まれている。

 

「貴女が司令を連れてきてくださった。ありがとう。本当にありがとう」

 

と大和に老人は頭を下げた後、晴れやかな顔で去っていく。去り際に「司令は貴女を見守ってくれている」という言葉を残して。

 

老人の言う司令は誰を指すのか大和にはわからなかったが、それならばなおのことお参りしなくてはと思い新たに本殿へ向けて足を進める大和。その後ろには老若男女を引き連れていた。

 

「矢矧、行きますよ」

 

「ちょっ、まっ、ありがとう?」

 

矢矧は両手で抱えきれない菓子を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は思いました。

 

真っ直ぐ大本営の正面入り口から入るのはとても気まずいと。

というわけで旧帝国軍時代に作られた地下道を辿って戻ることにした。

そんでしれっと与えられた部屋に戻ってきたんだけど誰もいないのだ。頭についた時津風は除く。

さらに大本営自体がなんか忙しない空気。

 

もしやこれは俺のせいで、かなりの大事になってる…?

 

──そのようです。

 

……謝罪のハードルがアルティメットからエクストリーム位になってませんかね。

 

「しれー、どうすんの?」

 

うん、ほんとにどうしようか? 

 

この騒ぎに乗じて細倉って野郎の首でも獲ってくるか。

いや、それを今すると更に謝罪の難易度がはね上がってしまうか? しかし、最悪軍籍剥奪されて細倉に近付く事すら出来なくなるかもしれない。

となると今しかチャンスがないという可能性も有るし…。

 

──物理的に獲るのですか?

 

え、ダメなの? このご時世に他国と通じて自分だけ高飛びしようって輩だぞ。いつ殺るの? 今でしょ!

 

──軍事法廷で極刑に処されるのは目に見えています。貴方が手を下すまでもありません。

 

そりゃわかるけど証拠集めとかしてる暇ないだろ。高飛びされたらたまんない。俺の嫁を悲しませた報いを必ず受けさせるんだ。

 

──では、拘束だけして下さい。オペレーション ナガノ・カノンの真髄、とくとお見せししましょう。

 

やだ、この葱もちカッコいいぞ。

 

「しれーっ、妖精が集まってきたよー?」

 

やだ、Gみたい!?

 

「時津風。皆に謝る前にしなければならないことが出来た。ゆくぞ」

 

「オーッ! って、しれー説明してー」

 

まぁ、拘束するときに相手が抵抗して2、30発殴る蹴るしてしまうかもしれないが仕方ないよね。




#大和ちゃん

大和ちゃんが靖国神社にいた!
めっちゃ拝まれてオロオロしててワロタ。







やぁ( *・ω・)ノみんな元気かい?
空港の税関でよく止められるピロシキィだよ。
メッセージで更新の催促が何通かきてましたが、出来ないときはほんとに出来ないんだ。だから気長に待ってね。

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