提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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ネタをウエハースしないと死ぬ



主計の政治についての下り一部修正。


提督(笑)と幸

 

 グラスが布団の上を転がる。

幸い、中身はほぼ飲み干していたので点々とシーツに染みをつける程度であった。

 

 

 

詠の心に在りし日の鳳翔飛行甲板での夜が甦る。

そんな、まさかと色々な感情が胸のうちに渦巻く。

 

詠は、ぼやけた視界がもどかしくて愛用の老眼鏡を探そうと視線を移そうとしたところで止めた。少しでも視界から切ってしまうと夢まぼろしのごとく消え失せてしまうのではないかという思いが沸き上がった。

 

 

「主計、君とサチとの結婚、実に目出度い事だ。君とサチは幸せであったか?」

 

 

詠はその言葉を聞いて、止めどなく涙が溢れ落ちた。

終戦を迎え、正月を目前に控えた冬の日、遺品を届けに長野の故郷に赴いた。

 

「こちらが長野壱業司令のご実家で間違いないでしょうか?」

 

布に包んだ刀、背負う鞄の中には御守りや遺書や書物などを携えて、玄関を叩いた。

 

上り框から勢いよく飛び出してきたのだろう。開いた引き戸から現れたその女性は裸足であった。

 

詠は美しいと思った。

 

「サチさん、居間にお通しして」

 

そして、とても強いと思った。

 

女中らしき女性に連れられて居間に通される。

詠と女中の二人だけ、振り子時計の音だけがその場の音だった。

 

詠がふと女中を見やると彼女は泣いていた。

声を出さずにただただ、涙を流していた。

 

詠は女中にそっと手拭いを渡した。手拭いには「かぶら寿し」と入れられている。詠の故郷金沢の郷土料理だ。司令から頂いた一品だった。詠は司令は常人にはない感性の持ち主だと思っている。

 

深々と頭を下げる女中。だが、声を発することはなかった。きっと声を出そうとしたら嗚咽が漏れてしまうからだろうと思った。

 

「司令のことをお慕いされていたのか?」

 

口を開いてから迂闊だと思った。今度こそ、女中は嗚咽を漏らしながら泣き出してしまった。

 

啜り泣く声を止める術はなく時間が過ぎていく。

 

「お待たせしました」

 

と対面に座る美しい女性が妹君なのだろうという推測は確証へとかわる。

 

「長野壱業の妹、文乃と申します」

 

そう名乗った文乃の目元は赤く、腫れていた。

 

「詠進一と申します。長野司令の下、主計を勤めさせていただいておりました」

 

頭を下げ、再び上げて見つめ合う形になるのもつかの間、文乃の瞳は女中、サチに向けられていた。

 

「サチさん、下がりますか?」

 

「いえ」

 

と首を何度も横にふる。

 

「詠様、構いませんか?」

 

詠は頷くことでそれに答えた。

 

「いつもはもっとしっかりしているのです。私よりずっと……」

 

本当に強い女性だと思った。同時にやはり司令の妹なのだなとも。そして、詠はこれから気の重たい報告をしなければならない事に胃の辺りがむかむかしたが、腹に力を込めて口を開いた。

 

「長野壱業少将は沖縄沖にて戦死されました。本来ならば死亡告知書が出される筈でありますが、諸事情により報告する事が叶いませんでした。申し訳ございません」

 

と頭を下げる詠。

今もまだ連合国、特にアメリカは戦死を疑っている。

 

「詠様、頭を上げてください。何か退っ引きならぬ事情がおありなのでしょう。それを話して頂けるのですよね?」

 

そう、話さねばならない。これから連合国による軍事裁判が開かれる。どんな罪かは知らないがそこに長野の名前が連なる。今もまだ交渉は続けられているというが、旗色はよくないということを…。

 

全て話した。

 

自分の知りうる長野壱業という偉大な提督のことを。

 

それ故に連合国から最も危険視されていたことも。

 

そして軍事裁判が開かれるであろうことも。

 

「……そうですか。兄様は軍でのことをほとんどお話しにならなかったのです。たまの帰郷も手紙も、どこどこの海や島にはこんな生き物がいたとか、こんな植物がきれいだったとか、何々を使ってこんな料理を作ったというものばかり。だから少し心配してました。兄様は誤解されてしまいやすい性格だと妹ながら思っておりましたの。兄様を慕ってくれていた方々が沢山いることが聞けて……嬉しく……て……ごめんなさい」

 

と席を立ってしまった妹君にかける言葉が見つからなかった。

 

サチと呼ばれた女中は別の女中に連れられていった。

取り残される形となった詠だが、また別の女中にごゆるりとお寛ぎくださいと客間に案内された。何度か増築が施されたのであろう、詠の泊まる客間は母屋の端に付けられた洋風建物であった。なんとなく司令の趣味なのではないかと本降りになった雪を見ながら思った。

 

窓の外にサチと呼ばれた女中が立っていた。

金沢の冬よりは雪が少ない。だが、この地方の冬は風が窓を割るのではないかと思うほど吹き続ける。

嫌な予感がした詠は慌てて外へ出た。

 

女中の手には貧相な竹槍が握られていた。

 

「……どこへ行こうと言うのかね?」

 

五十鈴の艦長だった頃の司令の口癖が出た。

ある時期、あまりにもギンバエする兵が増えたことがあった。司令が艦政本部の職と艦長の職を兼任した頃だ。

詠が司令に報告すると司令は直ぐ手を打った。自らの張り込みだ。何故か楽しそうに見えた。そして兵が食糧庫から何か盗み出したら後ろから決まってこの台詞だった。

 

「この身は旦那様に大恩を受けた身。もはや恩返し叶わぬなればせめて、鬼畜と刺し違えて報いるしかありません。そして黄泉で再び旦那様にお仕えいたします」

 

「私の話を聞いてなかったのか? 司令はヴァルハラにいくとおっしゃっていた。そこは一握りの勇士だけが行くことを許される。弾幕知らぬ小娘一人が竹槍一つでどうなるものか。それは勇ではなく蛮だ」

 

「なら、どうしろというのですか!? あの日、花屋の軒先で差し出された温もりはもう二度と戻らないのにっ!」

 

女中の言ってることはわからなかった。彼女にも何か事情があったのだろうということくらいは理解した。だが、

 

「お前の気持ちなど知らん! 知りはせぬがなっ! 命を賭してこの国を、お前たちを護ろうと司令が奮戦して今がある。ようやく戦争が終わった。それをわきまえろ!」

 

「旦那様を見捨て自分だけおめおめと生きて帰ってきたくせに何を偉そうに!」

 

「お前っ!  お前ええぇ!」

 

思わず掴みかかったが左脇腹に鈍い痛みが走った。

竹槍だった。刺した本人が竹槍から手を離して恐怖で震えている。それを見て怒りが消えていった。

そこまで深く刺さっていない。それでも痛いことは痛いが。ただ司令は鉄材が刺さり、身動きがとれない状況でも指揮を執り続けていたのだから、こんな浅い傷で喚くなんてみっともないことできないと思った。

 

「ほら、そんな細腕では私一人も殺せないだろう。私とて司令が亡くなり悔しい悲しい侘しい。でもな、私は司令から最期の命令を受けた。生きろとな」

 

実際は退艦しろだったが、意味は変わるまい。

 

「……生きろ」

 

「私はお前と司令の間に何があったのかは知らない。だがな、司令はこの国の国民を一人でも多く救いたい、幸福になってほしいと願っていたのではないか? 商会のことはあまり知らないが、戦後を見越して基金を作っていたとも聞いた」

 

「……そうです」

 

「未来を願ったのではないか?」

 

「……」

 

「その未来にお前の幸福も願っていたのではないのか?」

 

 

「……そうだと思います」

 

長い沈黙のあと絞り出すような声が耳に届いた。

 

 

詠とサチの出会いは最悪だったかもしれない。

しかしケガの療養でしばらく長野邸に滞在することになった。ケガといっても臓器は傷つくことなく消毒し何針か縫う程度ですんだ。二日もしないうちに日常生活を送れるようになった。なったのだが文乃により詠の介助はサチがするように厳命されていた。自然と二人は顔を合わせる機会が増えることとなった。そして年が明け1946年(昭和21年)がはじまり幾日か経った。

 

詠から見てもサチは優秀であった。基本的な学術は詠に軍配が上がるが一部専門的な知識などはサチが上であった。太刀川職業学校(現、明和工科大学)という場所で学んだという。十八歳以下の子供で家庭が困窮している者が対象だったが、衣食住と年齢に合わせた教育を受けられるが卒業後は長野重工他、関連企業に教育期間と同程度の勤続をしなければならなかった。またその期間の給与も1割から2割、学校支援金として天引きされる。

現代では大問題になりそうなシステムであり、一部から社畜を作り出す悪魔の所業と言われることになったが、1960年代前半までは大きな問題にはならなかった。

 

とにかく、サチという女性は学のある女性だということだ。現在頻繁に訪ねてくる商会の関係者と専門的な会話が不足なくこなせる程度には。自分のケガのせいで本来の彼女の主から引き離すことになってしまった事に若干の罪悪感があるので彼女の本来の仕事に戻ってもらって構わないのだが、文乃がよしというまで続くと言われてしまい、閉口するしかなかった。それに話をしようとも文乃は忙しそうに生活を送っていたので声をかけ辛い。

 

「お暇でしたら旦那様の書斎に案内しますよ? お嬢様に許可はいただいておりますし」

 

と言われて、特にする事も無かったためお願いした。

 

そこは知識の宝庫だった。半分は世界各国から取り寄せた専門書、ほんの少しだけの小説。残り半分は、論文というには乱雑で見覚えのある筆跡の束を纏めて綴じましたといった感じの冊子。

 

「近いうちにここのものは一度移動させます。読むなら今のうちです」

 

詠が理由を問うとサチはこう答えた。

 

「連合国のハゲ鷹どもに旦那様の遺品、埃一つ渡すものですか」

 

詠はなるほど、彼女の気質は本来こういうものかと納得した。そして文乃の言った言葉にも納得し、好ましいと感じた。

 

「長野に手を出したこと後悔させてやります」

 

そういって彼女は嗤った。

 

ちょっと引いた。

 

そして詠は商会の一員として働いていた。

なし崩しとは怖いものである。

2月、前内閣の関係者が訪れ、床に頭をつけて謝罪をしていた。

 

「全てが遅きに失するでしょうが。その中で取り得る最良だったのでしょう」

 

そういった文乃の口の端に血が滲んでいるのを詠は見逃さなかった。本当に強い女性だと思った。

 

「暴言の一つでも浴びせてやればよろしかったでしょうに……」

 

サチの胸で泣く文乃を見るまでは……。

無力だと感じた。誰かに導いてほしいと虫のいいことだと分かっていたが願ってしまう。足は書斎に向かっていた。

そこには井上成美がいた。独自の人脈と嗅覚で長野派閥が進める終戦工作を嗅ぎ付けて国務大臣になった海軍大将。数名が泊まっていくことになっていると聞いていた、反射的に敬礼をする詠。

 

「君は……」

 

「詠進一主計少佐……?であります」

 

最後の出撃、中佐以下の乗員は生前二階級特進しているが、どうにも言いなれなかった。それに終戦と共に予備役の身となっている。

 

二人は訥々と会話を始める。

 

大半は些細な思い出話だった。井上は大分愚痴が混ざっていたが、誰がなんと言おうと些細な思い出話であった。

 

「彼はどこまで先が見えていたのだろうな」

 

ふと文学作品に置き換わっている本棚を見ながら井上は口を開いた。

 

「私には及ばない程先でしょう」

 

「そうだな。彼が描いた未来か」

 

その呟きに何か心に火が灯った気がした。

 

 

3月になり連合国の中隊(200人規模)が長野邸を包囲した。対してどこからか現れた謎の武装集団(三個中隊規模)がそれに対峙した。どこから持ってきたのか四式中戦車 チトの姿が五両もあった。三日後、日本政府と日本軍と連合国軍と武装集団との間で話し合いが持たれた……長野邸で。一個人の家に中隊を送り込むのは連合国としてもやり過ぎと非は認めつつも、邸宅の長野壱業が持つ軍事資料を日本が立ち会いのもと押収することになった。ただ目ぼしいものは何もなく数点の書類が押収されただけだった。

 

「旦那様が描いた狼の絵が押収されました。不覚です」

 

誰が見ても狼にも犬にも見えないエキセントリックな落書きであったが、連合国(特にアメリカ)が新兵器の設計図の一部だと真面目に研究したのは後年の笑い話だ。

 

激動と言える3ヶ月が過ぎ、いつの間にか桜が散り、夏が来て秋になり冬となっていた。そしてまた春が来る頃、詠とサチは夫婦となった。

 

より良い未来をと政治家を志したのも、この頃だった。

政治の道は雁字搦めの糸を一つずつ解いていくがごとく投げだしたくなることは何度もあったが、結婚生活はたまに軽口を言い合う気の置けない生活だった。

 

「あなたとこうして結ばれて幸せでした」

 

と死に際に笑う妻の額にキスをして手を握り見送った。

 

 

「主計、君とサチとの結婚、実に目出度い事だ。君とサチは幸せであったか?」

 

 

心の奥底に秘めた自分たちだけ幸せになって良いのかという思いは霧散した。ただただ「幸せだった」と答えようとしても漏れるのは嗚咽だけだった。

 

 

「刀と御守りを文乃に届けてくれた礼を言ってなかったな。苦労をかけた」

 

それを届けたからこそ妻に出会い、あなたの妹君に出会い、今の私があります。そう答えたいのに口が回らず嗚咽のみ。涙でなにも見えなくなった。

 

 

「……昨日、帝都を歩いた。五箇条の御誓文は遂に成ったか、と。……想像以上の発展を遂げていた」

 

 

ようやく政治の中心部に手が届き、見えてきたのは欲と派閥と議席の数の綱引きだった。政策一つとっても妥協に妥協を重ねた玉虫色の虫食いと成り果てる。いつの間にか侵食する赤と増えすぎた左派。そのバランス調整に膨大な時間が取られ、公共事業、道を一つ通すにしても必ず国益になるものだとしても猫の額の大きさの先祖代々の土地に縛られ延々と進まぬ土地買収。それでもより良い未来を願い信念を貫いた。敵も多く作った。人の心のない鋼鉄なんて揶揄もされた。

 

 

それがたった一人の言葉でこんなに救われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今夜は月は出ていないな主計」

 

お水欲しがってそうだから差し上げて、一息ついたところで現実だと認識しただろうの判断のもと、文乃のときと同じように死神扱いされてはたまらんと思い、あと俺が若返ってるから二人の共通話題で俺やで!と分かるように配慮しつつ和やかな空気を作り出すべく、軽快かつウイットに飛んだ小粋なジョークを渾身のシャフ度を決めてかましてみたが、主計さんがフリーズした。

 

これは完全に滑りましたね。

 

……そうか、俺的には「月が綺麗ですね」事件は数ヶ月前の話だが、主計さん的には七十年前だもんな。いつまで根に持ってるんだよ。と思ってしまっているか、または覚えてないということもあり得るな。

 

よし、当初の予定通り、幸薄少女サチ(なお終戦時は三十路)との結婚の祝辞を述べよう。しかし、そうなると俺が俺であると認識されているか些か不安が残る。そこは主計さんの記憶力を信じるしかないな。たぶん大丈夫だろう、主計科の人たちって皆、引くほど頭良かったもん。

ちなみにシャフ度は保ったままだ。

 

「主計、君とサチとの結婚、実に目出度い事だ。君とサチは幸せであったか?」

 

「あぁ……あぁ……」

 

それは幸せだったで良いのよね? この角度よく見えないんだ。今更ながらこれ結構、腰に負担かかりますね。

太股に兼光が当たる。あぁ……そうだった。

 

「刀と御守りを文乃に届けてくれた礼を言ってなかったな。苦労をかけた」

 

あんがとね。とそろそろ腰が限界なんで普通に向き直る。

 

「あぁ……あぁ……あぁ」

 

え、えぇ…めっちゃ泣いてんじゃん。点滴分全部流れていってしまうんじゃないかと思うほどの勢いでガン泣きしてんじゃん。どうすんの? これ。

俺の想定では、「貴様、生きていたのか!?」と主計さんにちょっくら驚かれたりはするものの、「かくかくしかじかで、なんかこうなってる」と説明して「最近、どうよ?」って世間話しようと思ってたんだが、これは予想外だ。

 

「私は……私はああああ……ああ……」

 

主計さんが「誰がねえ!誰に投票しても!おんなじやおんなじや思て!」みたいなどっかの議員のようになってしまった。いや、主計さん自体が議員だったわ。しかも首相も務めてたわ。

 

とりあえず宥める方向で話を進めよう。しかし、何て宥めたら良いんだろうか?

 

……そうだ戦後復興の話だ。

 

史実でも日本全国焼け野原になったところから世界二位の経済大国にのしあがって世界を驚愕させた話は有名だ。まあ、様々な幸運があったことも否めないけど。

朝鮮戦争の特需を起爆剤に、米軍が日本防衛機能を補完するから軍に準じる組織は最小限で国内復興に多くのリソースを割けた。米ソの対立が浮き彫りになり太平洋の安全保障上、米国は日本のブルーチーム離脱をなんとしても阻止せねばならなかったし、早急に力をつけさせる必要性があったのだ。そして日本は発展を遂げた。ブラック企業爆誕等の弊害はさておき、アジアの強国として返り咲いた日本。ただ、米国の誤算だったのは日本の徹底的なまでの非戦主義だ。おそらく戦後三十年位を目処にというか、ベトナムの泥沼から日本の軍保有を認めるつもりがあったのだろう。しかし日本は世界に戦争で迷惑をかけた悪という教育を施した。これがびっくりする程に効きすぎた。まさかの超重度の戦争・軍隊アレルギーである。というわけで国防は米国に任せてほぼノーガードで経済発展にひた走る。その原動力の一つが航空機開発を禁止されてた各メーカーである。自動車開発に全力疾走、世界ブランドの確立という流れだ。

 

これが超大雑把な戦後日本の歩み。

 

ただ、こっちの世界だと航空機開発禁止されていないし、軍隊も保有。朝鮮戦争では釜山包囲網を一部押し返す精強ぶりだ。史実以上の難易度があった筈だが、こういうご時世だけに走ってる車は少ないものの、見かけるのはほぼ国産車。東京の街並みも変わってないように思える。

それどころかリニアが開通とか一部、俺の知ってる平成より発展していると思う。

 

その辺を褒めたら政治家やってたんだから悪い気はしないと思うんだ。「えへへ」と頬をかきながら泣き止み照れるに違いない。

 

「……昨日、帝都を歩いた。五箇条の御誓文は遂に成ったか、と。……想像以上の発展を遂げていた」

 

どうだ! 五箇条の御誓文まで持ち出したんだ嬉しくない訳なかろうて?

 

「んが、なああ、ぐ、ああ……ああ……あぁ……」

 

……駄目だ、ガン泣き止められず。

 

いいよもう。涙枯れるまで待つよもう。

 

「水を飲め」

 

脱水症状が出る前にこまめに水分補給しとけよもう。

 

俺はもう外眺めてるからさ……。

 

しばらく、ぼけーっと夜の町を眺めてたらがさごそと音が聞こえてきた。

主計さん自分の鞄をベッドの上でぶちまけたのか、いろんなものが散乱してる。

 

「こ、これを」

 

近づいて、震える手で渡されたのはずいぶんと色褪せた便箋だった。

 

見ろというのか? 俺、『七十年後の自分へ』とか書いてないよな? 書いたとしても「まだ生きてる?」って出だしだろう。間違いないな。

 

便箋から中の手紙を取り出す。

 

 

 

 

 

雨の日あの日、貴方に預けし私の心。

父の手握り花屋の軒先、雨に濡られて頭を下げる。

何度も何度も頭を下げる。

寒くて、ひもじくて、みじめだと、涙がぽろぽろ伝います。

雨が止んだと頭を上げる。そこに貴方がおりました。

差し出す手のひらあたたかく、涙がぽろぽろ伝います。

そうして貴方に拾われた、私の幸のはじまりでした。

 

貴方の父さま、やさしくて、お仕事帰りおみやげいっぱい買ってくる。

貴方の母さま、やさしくて、私をたくさん抱きしめる。

貴方の妹文乃さま、とことこ、とことこついてくる。私のあとをついてくる。

 

季節はめぐる。ぐるぐる巡る。

日本はまわる。ぐるぐる回る。

冬のある日にあなた様、いってくるよと軍靴鳴らす、

いもうと頼むと言うならば、おかえりなさいと言わせてほしい。

貴方の御無事を祈ります。

 

勝った勝ったと言うけれど、市井は鍋を差し出せと。

勝った勝ったと言うけれど、市井は夫を差し出せと。

勝った勝ったと言うけれど、市井は息子を差し出せと。

御国のためだと言うけれど、御国のためだと言うけれど……。

 

夏のある日にあなた様、戻らぬ人になりました。

冬までそれをしらぬまま、私は生きておりました。

貴方がおらぬというならば、貴方のもとに参ろうと、

竹槍持って飛び出せば、貴方の部下に止められる。

靖国いかぬと言うならば、私はどこで死ねばいい。

貴方をどこで偲べばいい。貴方に預けし私の心、今さらどこに置けばいい。

 

貴方に預けし私の心、不義理とわかっているけれど、返してもらうといたします。貴方の部下と夫婦となります。

いつか貴方に会えたとき、しあわせでしたと言えるよう。

 

ほーん

 

 

ほほーん。

 

 

ほほほーん。

 

 

ちょっと整理させてほしい。これはサチが書いたものだろう。で彼女は俺に気があった。中盤ポエム後半ラップでラストのサビで主計と結婚したからと俺、フラれる。

 

ええねん別にサチと主計が幸せな結婚生活だったのなら。悔しくなんて全然ないもん。

 

たださ、七十年振りにあった友人にいきなり惚気られたらどんな顔をすればいいの?まあ、俺の感覚だと数ヶ月ぶりじゃん、主計めっちゃ老けたな!って感覚だけれども。あと全然、悔しくないから。

 

そっちがその気ならこっちにも考えがある。

 

ミック先生、その辺に金剛いるから連れてきて。

 

──かしこまり。

 

手紙?ポエム?を便箋に戻して主計さんに御返しする。

 

「二人が幸せであったならいい」

 

祝ってやる!

 

「……はい」

 

また窓の辺りに移動して意味もなくシャフ度決めてみる。

 

「テートク呼んだデスカー?」

 

「金剛、主計だ。主計、金剛だ」

 

うちの嫁可愛いだろう? 画面の向こうの話だったけどな。

 

「シュケー? ohアナタはワタシに乗ってたシュケーさんデスカー?」

 

「金剛……艦娘の……貴女が、そうか……やはり大和ではなく……貴女が……」

 

なして大和が出てくるのだろうか?

 

「なんのことカナー」

 

「いえ、お気になさらず。司令、これからどうするのですか?」

 

お盆だし、ザキさん(徳田くんの祖父)とか何人か墓参りしたいところだ。あと、沖縄の慰霊祭も行かないとと考えている。だが、まぁ目下の行き先ならば

 

「コミケに行く」

 

「「コミケ?」」

 

 

主計と金剛の声が重なった。

 

 

 

 





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