提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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おにゃのこ同士の絡みを期待して開いあなた。

心が汚れています。

写経しましょう。

ひえい せんせいの じゅぎょう. の じかんです.._〆(゜▽゜*)


提督(笑)と百合の話

 

沖縄鎮守府

 

沖縄県の豊見城市にある県内最大の海軍基地。

那覇空港のすぐ南に存在する。平時であれば旅客機が何本も行き交うが、今では一日一便あれば良い方でターミナルは閑散としている。

 

鎮守府も以前は日米の艦艇が肩を並べ、賑わいを見せていたが、今は日本海軍の艦艇のみでそれも数が少ない。

そのうちの一隻が長野百合恵提督下のシーワックス『檜』である。由来は家紋の檜扇からだ。本当は『壱業』とつけようしたのだが却下され、妥協したのだが。ほとんどの人間が預かり知らぬところである。

 

そんな経緯をもつ艦艇が何故ここにいるのか、長野業和が借り受けて横須賀から乗り着けたからである。当の百合恵提督は横須賀で事務処理に追われている。

 

現在、長野は鎮守府所属の提督と話し合いをしており、その間、彼の指揮下の艦娘達は鎮守府でそれぞれが思い思いに過ごしている。

 

そんな中、談話室で万葉集(現代語訳付き)と向き合っている金剛型四姉妹の三女の榛名の姿があった。

 

こてんと首を傾げる仕草はとても絵になる光景であった。

そこに所属する軍人達の目を奪うのには十分なほどに。

 

その視線に本人は気付くことはなくテーブルに置かれた本から何かを読み取ろうと考え込んでいる。

 

 

 

 

「う~ん…(金剛お姉様が詠んだ歌の意味は分かりましたが、提督の仰っていた言葉はどういった意味をもっていたのでしょうか?)」

 

もう一度、最初から考えてみましょう。

 

 

 

 

あの夜から提督が少しだけ変わったような気がする。そんな風に感じた艦娘は多い。本当に些細な変化で何がどう変化したのかうまく言葉に出来ないのだが、とにかく変わった気がするのだ。それが良い方向なのか悪い方向なのかすら判断できないのだから彼の指揮下の娘達は個人差あれど胸に何かつっかえたようなモヤモヤ。

それと二人だけの空気を醸し出していた事に「ぐぬぬ…」とか「自分達は感傷に浸っているのに…なんか許せん」という乙女心がブレンドされていた。

 

「鱒責め鮭受けでイクラが…ぐふふ…」

 

一名ほど違うベクトルに我が道を行く娘もいる。

気色の悪い言葉の羅列が半開きの口から漏れていた。

 

「いたっ!」

 

スパーンという小気味の良い音が炸裂して、そのトリッパー…秋雲が頭を押さえ、現実に引き戻された。

 

「秋雲さん、提督からの次の指示です。土を掘って埋めるを繰り返すか、写経、どちらか選ばせていただけるそうですよ?」

 

ハリセンを持った大淀は腕を組み笑顔だ。

 

「…写経します」

 

「そうですか。ではこちらをどうぞ」

 

墨と硯(すずり)と文鎮が秋雲の目の前に置かれ、横にはコピー用紙で綴じられた華厳経、正式には大方広仏華厳経(だいほうこうぶつけごんきょう梵:Buddhāvataṃsaka-nāma-mahāvaipulya-sūtra, ブッダーヴァタンサカ・ナーマ・マハーヴァイプリヤ・スートラ)が置かれた。

 

周りにいた軍人達はそれを見て若干引いたが、見目麗しい乙女達なので細かいことは気にしないことにした。

 

「アホの子よ。生粋のアホの子がいるわ」

 

「夕張さん…」

 

鹿島は夕張がテーブルの上に積んだ少女漫画を見て「お前が言うのか」という視線を向けるが言葉には出さなかった。なぜなら自分も後で読みたいから。

 

「良いのよコレは! 純愛なの! あれが描いたのと全然違うの!」

 

「ソーデスネ」

 

少女漫画の山の一番下にある薄い本から目を反らした大人の対応の鹿島だった。

 

和気あいあいのいつもの艦娘達を横に榛名は未だに万葉集を見つめたまま。

 

 

 

 

──燈火(ともしび)の光に見ゆるさ百合花 ゆりも逢はむと 思ひそめてき

 

燈火、灯籠流しを見てお姉様はご自分の心境を重ねたのでしょう。

恋歌において「ゆりも逢はむ」は「今は会えなくてもきっと逢える、逢いたい」となってお姉様が艦娘となってからの提督への想いへと繋がります。

 

それで提督は……。

やっぱりわかりません。

 

お姉様は「フフ、内緒デース」と言って教えてくれませんでしたし。

 

「はぁ」

 

 

 

 

とため息をつく愁い帯びた表情に榛名の様子を窺っていた周りの軍人達が息を呑んだ。

 

「んぐっ!」

 

そんな雰囲気などお構いなしに頬をパンパンに膨らませた比叡が榛名のテーブルに置かれていたお茶を飲み干していく。

 

「ぷはぁー! 死ぬかと思った」

 

そう口を開いた比叡は腕に紙袋を抱え、そこからサーターアンダギーの頭がはみ出ていた。

 

「比叡お姉様…」

 

それは私のお茶ですよ。と咎めるような瞳を榛名から向けられるも比叡は動じることなく口を開く。

 

「何しているの榛名?  せっかくのお休みなんだから出かければいいのに。榛名ならサービスたくさんしてくれるわよ?」

 

と言いながら榛名が読んでいたものを覗きこんだ。

 

慰霊祭の次の日にこことは違う町だったが、出かけて正体がバレて囲まれ老人には拝まれ、若者には握手をねだられて対応に苦慮したのだ。それを思い出す榛名は買い物に出かけるというその行為は避けたいところである。

 

バレた原因は、事前に詠元主計から沖縄の関係者に向け長野艦隊の艦娘達も向かうと連絡がされており、それが広がっていったという下地があった。そんなことを知らずに地元の子供にちょっとしたきっかけで「艦娘で榛名って名前なんですよ」なんて言ってしまったものだからあれよあれよといった感じで囲まれるまでに到った。

 

一緒にいた仲間達は知らん顔して遠巻き(それはもう物陰に潜むレベル)に見るだけで、最後の望みで助けを求めた提督は囲んでいた人達に紛れて一緒に拝んでいた。提督はコミケで金剛に買ってもらったティーシャツを着ていた。ちょっと裏切られた気分だった。

 

あとで「ひどいですよー! 提督」とちょっと責めたものの、「許せ」と頭を撫でられ、満更でもなさそうであった。

 

現在、鎮守府の入り口には艦娘に会わせて欲しいと詰め掛けている団体と平和市民団体が陣取っている状況。前者に会うのは問題はない。拝まれるのは困惑してしまうが許容できる。だが、それをすれば後者の面倒な団体にも会わなければ騒ぎ出すこと必定である。大体○やら□やらを組み合わせたような文字を横断幕の隅に書いてる連中なのだから、どこの市民なんだと首を傾げるしかない。何故か一部の右派にも左派にもプロパガンダにされている提督はこの状況を見て頭痛を堪えるような仕草だった。

 

「万葉集? 自分の名前の歌でも探してたの?」

 

「えっ? ああ、そういえば榛名の歌は無かったような気がします」

 

パラパラと流し読み程度であったので定かではないが、榛名はそう答えた。

 

「え? あるじゃない。ほら、これとか」

 

──上毛野 伊香保の沼に 植ゑ小水葱(うえこなぎ)  かく恋ひむとや 種求めけむ

 

「え、これが、ですか?」

 

「昔は榛名山周辺をまとめて伊香保って呼んでたんだって。伊香保の沼は今の榛名湖の事ね。…それにしてもこれが恋歌なんて変わってると思わない? 私には植えた葱を早く食べたい。にしか読めないもの」

 

実際の歌意は現代風にすれば「こんなに苦しいなら、好きになんてなるんじゃなかった」と失恋ソングにありがちなフレーズになるだろう。

ちなみに子水葱 (コナギ)は食べられるが、農家にとっては水田に生える厄介な雑草扱いである。

 

「比叡お姉様凄いですっ!」

 

榛名は純粋に尊敬の眼差しを向けた。

 

「そうでしょう! なんせ私は御召艦を勤めましたからっ。えっへん!」

 

御召艦なら金剛型姉妹全員が経験しているのだが、言わぬが花であろう。

 

「お姉様、金剛お姉様が慰霊祭の日に口にした歌を覚えてますか?」

 

「え? う~ん…。霧島と芋タルト食べてた記憶しかない」

 

と残念な返しだった。

榛名の姉に対する尊敬値が少し下がった。

 

彼女の名誉の為に言っておくと、厳かな態度で最初は灯籠流しを見ていたのだが、愛する金剛お姉様が提督とイチャついて(比叡主観)たので「やってられっか!」となり、やけ食いしていたのだ。二人の間に割って入ることも一瞬頭を過ったのだが、南鳥島でサバイバルした頃から彼女は色々と学んだのだ。

 

「で、金剛お姉様がどうかしたの?」

 

表情を改めて比叡は問うた。何せ大好きなお姉様のことである。

 

「お姉様があの日、この歌を詠んで、提督が『百合の花の美しさは百年経とうとも美しいままだ』と返されたのですが、それがどういう意味なのか榛名にはわかりません」

 

「…気障かっ!」

 

そういって比叡は紙袋からサーターアンダギーを取って口いっぱいに囓りついた。甘いものを食べている筈なのに苦いものを食べたような顔で。

 

「え、比叡お姉様には提督の言った意味が分かるのですか?」

 

「んぐっ!んぐっ!」

 

顔を真っ赤にし口元を押さえて呻く。

口の中の水分を全部持っていかれて苦しんでいるのだ。

 

あいにく、榛名のお茶は飲み干している。この場に救いはなかった。

比叡は紙袋を乱暴にテーブルの上に置き、走っていく。

 

「提督は女の子同士が好きって事でしょ? いたっ!」

 

と呟いた駆逐艦に大淀のハリセンが再び炸裂した。

 

「秋雲さん手が止まってます」

 

と言った大淀だが、実は秋雲の言った事と同じことが脳裏を掠めた。だが、同じ思考をした自分が許せなかった。ちょっと強めにハリセンでしばいたが、断じて八つ当たりではない。そう自分に言い聞かせている。

 

「はぁー! 死ぬかと思った。これは危険な食べ物です! ハイッ!」

 

カップを握りしめながら紙袋を睨み付ける比叡。

 

「なんや赤城なら水無しでそれ全部完食しとるで?」

 

その様子を眺めながら談話室に入ってきたのは龍驤である。

 

なんという味方撃ち。

遠く離れた佐世保の地でちゃんぽんを食らっていた赤城は辺りを見回して「気のせいかしら?」と呟いていた。が、この場では関係ない事だ。

 

「大人組が集まるんやったらウチも呼ばんかい」

 

意図して集まった訳ではないのだが、その場にいた全員が龍驤を見て「大人…?」と言う疑問を浮かべたのは言うまでもない。

ここにいない霧島は金剛と町に出かけて親睦を深めている。少し前の百貨店で金剛は水着を買うのを忘れていたのだが青い海を見て思い出したのだ。

 

「比叡お姉様。先ほど仰った気障とはどういう意味ですか?」

 

「え、司令が気障なセリフを言ったって事だけど?」

 

「ですから、何故そのように思ったのですか?」

 

ぐいぐいくる榛名に戸惑いながら比叡は口を開く

 

「あれ、漱石の『夢十夜』、それの第一夜からの引用でしょ?」

 

比叡以外の全員がぽかーんである。

夢十夜は『こんな夢を見た』から始まる夏目漱石の短編集で、漱石の作品では珍しくファンタジー要素の強い作風が特色である。

 

「え、知らない? ん~。簡単に説明すると、第一夜は死に際の女性に『百年待ってて下さい』と男が頼まれて、墓前で待ち続けると白百合が咲いていて、いつの間にか百年経ってました。ってお話」

 

ここポイントですよ。と更に続ける比叡。

 

「白百合の花言葉知ってる人ー?」

 

「ハイッ! 『純潔』『尊厳』です」

 

鹿島が手を上げて答える。

 

「正解です。正にお姉様に相応しい花ですね」

 

鹿島はとなりの夕張を見てどやって、その夕張は「ぐぬぬ」しているが些細な事である。

 

「そしたら提督は金剛に『綺麗やなおまえ』って言ったわけか?」

 

龍驤が腕を組みながら、そんなことかといった表情だ。

 

「それもあると思うんですけど…」

 

そこで一旦切り、比叡は苦い顔をする。

 

「お姉様の詠んだ歌と司令が言った言葉の共通点が百合なのは間違いありません。けど。お姉様が詠んだ歌の百合は再会を願う想いであって、それに対して司令が言った百合は百年経って再会が果たされた。また出会えたな。と言う意味ですね。しかも、…こんなまどろっこしい伝え方、気障過ぎてこの辺りがムズムズします」

 

といって比叡は胸の辺りを掻く仕草をする。

だが、比叡の反応とは違い、その講釈を聞いた他の乙女達は「ほぅ」っと甘い息を漏らしたのだった。

余談ではあるが夢十夜の二夜から十夜は読み手によって捉え方は異なるのだが概ね救いのない話である。

 

「大淀、これは絵にしたい。描きたい。秋雲さんのインスピレーションが溢れ出してるんだよー。冬コミに出したい。いいでしょ描かせてよ! お願いだよー!」

 

「だ、駄目ですよ?」

 

大淀の心は少しぐらついた。いや、大淀だけでなく他の娘たちも肩をピクリとさせていた。

 

しかし、それはそれとして乙女達は程度の違いはあれ、提督に対して今までと違うアプローチをしなくてはならないと心に決めていた。

 

恋も戦いも負けません! なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様これなんてどうでしょう?」

 

「霧島ー、機能性を求めるのも良いけどサー。もっとファッション性も求めるデース」

 

「ファッション性…ファッション性…ふむ」

 

青空と青い海が広がる沖縄の中心地である那覇。

国際通りで買い物をする二人の美女の姿があった。

 

平時であれば年間観光客が一千万人いたこの地だが、今は国内から、わずかばかりの観光客が訪れるだけである。それでもシーズンであることから、ここ最近の季節では一番多くの観光客が訪れている。それは海域解放のニュースが流れた影響も少なからずあった。

 

霧島はいろんなタイプの水着を手に取り自身の体に合わせている金剛を見ながら考える。

戦艦とよくわからない人型のシルエットの入ったダイヤモンドは砕けないという意味のアルファベットの入ったティーシャツ姿の姉の姿を見てファッションの奥深さを。

 

「ホルターネックビキニもイイデスネー。このクロスホルター? はちょっと狙いすぎネー」

 

「お姉様とても嬉しそうですね」

 

「ハイッ楽しいですヨー!霧島もショッピング楽しむネー」

 

姉が楽しそうでなんだか自分まで楽しい気分になる霧島だった。

 

 

一方その頃、長野は「テメェ! やりやがったなっ!」と絶叫していた。

 

心の中で…。

 




 
途中で魚へんの漢字でカップリング考え出した人は、廊下に立ってなさい。

いけね、百年のところ書き忘れてた。

補足
提督が少尉任官果たして最初に金剛に乗ったのが1917年なんで出会ってから大体百年って意味もあった。


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