提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

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今日から3月。



提督(笑)と戦力

 

「国家存亡の危機において、唯一の対抗手段たる艦娘を孕ませるとは何を考えておるのか」

 

主計さんの呟きで荒ぶるパッションが沈静化した。

うん、ど正論です。

でもね、見目麗しく自分を慕ってくれる娘さんがいたら十分に有り得る可能性だと思うの。

 

まぁ、しかしだ。

ライバック氏の推しメンなだけはある。

 

「いやぁ仰るとおりですわ! ハッハッハ! おかげで減俸処分を受けましたからな! それと大本営から使え切れんほどのゴムが送りつけられましたわ! あ、おひとつ…とは言わず、何個か持っていかれますか?」

 

笑てる場合か!

多分、貴方に提督適性無かったら減俸だけじゃ済まなかったと思うよ?

 

「提督声が大きいったら。でもしょうがないじゃない。沸き上がった情熱が私を、私達を突き動かしたんだから」

 

といって足柄さんは腕に抱いた我が子を慈しむ。

その表情はとても美しい。

 

おそらくは艦娘は深海棲艦がいなくなった後でも、艤装を持ち続けるかどうかは分からないが存在し続けるのだろう。消えるのなら子供ができるなど無用の長物の機能だ。しかし、それを実戦(誤字にあらず)したというならば日村提督は間違いなく信頼できる人物である。

 

彼が重要なポストに就いているうちは、艦娘の扱いに関しての問題がある程度解消できるのではないだろうか?

自分の奥さんだもの。無体なことはせんだろう。

それに子供ができるということは、艦娘はちょっと変わった能力を持った人間ってことだし、兵器か兵士かの議論にもある程度の決着がつけられるわけか。

 

足柄さんと我が子を見つめるその目が演技ではなければという疑いもあるのだが、そこまで疑ってしまえば切りがない。もし、そうならば俺はなにも信用しないぞ。

 

それに艦娘のみの国外派遣など論外だな。

しかし問題は足柄さんに抱かれている赤子だ。

 

「司令官も気を付けてください」

 

ため息をついておっしゃいますがね主計さん。

 

……それは俺ではなくて、うちの娘さん達に言ってほしいのだ。

こっちはもうほんと自家発電にも勤しめないくらいに毎夜毎夜と逃げ回り、そのうちまた暴発してしまうんじゃないかとヒヤヒヤしてるんだぞ?

 

まぁ、我が艦隊の風紀は厳しく取り締まるとして、

 

「……あぁ。それより赤子の事は何処まで知られている?」

 

「何処までってどういうことかしら?」

 

首を傾げる足柄さん。人間ってのはさ、物凄く汚く醜い一面を持ち合わせているのだ。分からんかな?

 

「あぁ、確かに危惧せねばなりませんな」

 

流石に伏魔殿と化した政治の舞台にいた主計さんは話が早そうである。

 

「この鎮守府内では私の側近が知っとりますが、末端には殉職した同僚の子ということにしとります。大本営のほうはどこまでが知っておるのか私には正直、把握できておりませんわ」

 

と頭を掻く日村提督。

 

「危険分子は排除されているが、その前にどこまで情報が拡散していたやら…。司令、申し訳ありません」

 

主計さんが頭を下げるが、政治の舞台から引退して長いのだから仕方ないじゃない。気にするな。

 

「謝るな主計。先のための対策が肝要だ」

 

だから対策を立てないとね。

まずは天龍ちゃんと龍田さんを保母さんにして艦娘幼稚園いや、保育園の設立か?  園長先生は鳳翔さんを据えれば完璧な布陣になるのではないか? うむ、考えただけで父性本能がキュンキュンするな!

 

「はいっ! それにはやはり強力なリーダーシップを発揮できる誰かが必要ということですね!」

 

お、やる気満々じゃん主計さん。めっちゃ力強い眼差しである。皆を引っ張って頑張ってほしいものだ。ついでに日村提督にも艦娘待遇関連では軍での先導者になってもらいましょうね。

 

まあ、艦娘保育園は冗談としても、一般の保育園、幼稚園に通園するようなことはできないだろう。少なくとも深海棲艦を撲滅するその日まで。軍事施設内にそういう物を作るしかない。なるべく全国の提督達にはそれまで自重していただきたいところだ。……って、ちょっと待てよ?

 

「赤子は他にもいるのか?」

 

そんなうらやま…けしからん事が全国津々浦々で行われているなんて許さん! ではなく、許されないのではないかっ! て言うか面倒事過ぎるんだよ。

 

「そういう情報は入ってきておりませんが……」

 

ああ、良かった。ならば当面はこの子の事だけが懸念事項ということか。

でもなぁ、頭の中に色々な艦娘達の顔が浮かぶ。

全国の男性提督諸君、鋼の心を持てよ。と心の中で敬礼する。せめて避妊具つけてくださいと祈るばかりだ。

 

「あぁ情報と言えば先日、終戦交渉の情報開示が一部されましたな。閣下が手を打ったので?」

 

「いや、柳本君が骨を折ってくれたようだ。これからの事を考えれば良い手だな。私も肩の荷が降りてホッとしている」

 

なんか柳本大将に色々ご迷惑おかけしていたようだ。

お土産にちんすこう買っていこう。

 

「……司令」

 

と真剣な眼差しで膝をつく主計さん。

 

「どうした?」

 

「今まで長い間、汚名を着せるなどという蛮行に及びました事を深くお詫び申し上げます」

 

土下座である。やめてくれよそういうの。

 

「主計、頭を上げてくれ。あれは誰かが責任を取らねば終えられなかった。その誰かが私であっただけだ」

 

「それでも屈辱的な形で相手と手を取り合って今日まで我々は…」

 

戦後の事をいうならば、日本が生き残るにはそれしかなかっただろう。日本の資源的にも地政学的にも大国と手を組むしか生き残れない。相手はアメリカしかいなかったじゃないか。ソ連と組んで赤化するのか? 当時の中国の内紛に再び手を突っ込んで共産化するのか? 共産化を免れたとして中華思想の腐敗が日本の比じゃない政治体系になるのか? アメリカが良いのではなく、どこが一番マシだったかと言う話である。

 

「このような時世であるにも関わらず、多くの国民が笑顔であった」

 

そういう国を作ってきたんだから誇りなよ。

コミケ会場でね、すごく逞しい国民の一部を見たのよ俺は。スッゲー複雑な気分になったけどな!

 

「……あぁ…司令…」

 

また泣くのか!? 歳を取ると涙腺が緩むと言うが本当なんだな。

 

「そう、そうよ! 勝利してもっと笑顔を増やすのよ! やってやるわ!」

 

「そうだな! その通りだ!」

 

「そんな時こそ勝利のカツカレーよね! よーし、作るわ!」

 

ねえ、足柄さん。さんざん旦那のことうるさい言うてましたけど、貴女の声も相当大きいですよ? しかし赤ちゃんはスヤスヤ眠っておる。この子は将来きっと大物になるのではなかろうか。で、赤子を見ていると再び思うのだ、全国の男性提督諸君、ヤればできる。気を付けろよと。部屋から出ていく足柄さんの背中を見送りながらそう思った。

 

万感の思いよ全国各地の提督諸兄に届けと願い、一呼吸置いたあと、次の話に移ることにする。というか、そもそもの本題はこっちなのだ。

 

「日村提督、日米合同作戦については?」

 

「聞いとりますけど、政府間交渉段階ということですから中身はなんも決まっておらんのでしょう」

 

政府間でどんな話し合いが行われているのかは知らんけど軍事作戦になったときの大まかな予想はできる。とりあえず、懐から世界地図を取り出してテーブルに広げる。

 

アメリカは海域解放を日本に越されたことを、世界一のプライドから許せないし、ホワイトハウス…現政権の支持率下がっているのはミック先生に教えてもらわなくても明らか。そこで一気に世界にその存在感を今一度知らしめるべく日米合同作戦を実施するように動いた。米国単独で行わないのは、艦娘運用は日本に一日の長があるからと思ったのか、日本からの軍の引き上げに後ろめたい気持ちがあったのか、両方か。そんなところであろう。

 

米国の内情は一先ずそれで置いておくとして、攻略目標はマーシャル諸島&ギルバート諸島及びにマリアナ諸島。北太平洋の制海権奪還ならびにアメリカ西海岸は安全圏の確立といったところか。

あとはアリューシャン方面もだが、ベーリング海はロシアも絡むのでロシアに声がけしていないというなら、アメリカ的にはロシア封じ込めの意味もあり優先順位が少し下がるのだろう。日本としてはアンカレッジからの石油輸送ラインを考えれば抑えておきたいだろう。

やるなら短い夏の間、つまりは今の季節で、それ以降は霧と天候不良と荒波があの辺一帯の海域を覆う。

お徳用瑞雲氏が輸送作戦やると言っていたが、それに輸送作戦だけではなく攻略作戦も組まれるのか、その辺りで政府間の隔たりがあるのだろう。

また、マリアナ、マーシャル&ギルバートにおいても、地理的には日本がマリアナ諸島攻略、アメリカがマーシャル諸島&ギルバート諸島を攻略するのが筋だろうが、アメリカとしてはグアム、サイパン等の自領土は己の手でといったところがあり、日米で交渉が長引く事が予想される。

マーシャルとギルバートを取ったとするとフィリピン海とソロモン方面からの圧力に曝されることにもなるか。

 

軍人としては「足並み揃えて平和な海を取り戻しましょう」と言いたいが、政治というのは人類存亡の危機であろうとなかなか難儀なものである。

 

「「……」」

 

主計さんと日村提督に長々と自身の内情を込めて説明したわけではなく、簡潔に述べたわけであるが、地図を見ながら二人とも唸っている。

 

「うぅむ。閣下、どうして日本は負けたのでしょうか?」

 

と日村提督が唸りながら口を開いたが、いきなりなんの話だ?

 

「君の言わんとすることもわかるがね、軍人として学んできたのであれば君自身も分かるだろう」

 

俺の話聞いてたよね二人とも。だから、なんの話しているんだい?

 

「技術力は決して負けていなかった。それを量産できるか否かの国力差。しかし、聯合艦隊司令官の座にいたらと考えずにはいられませんな!」

 

キリッとした顔で日村提督も主計さんもこっち見てくるけど、なんだ架空戦記か? 嫌いじゃないけど話がほんとに見えないから、話をぶった切りたいと思います。

 

「日村提督、ここにいる艦娘についてお教え願いたい」

 

「…そうですな。まずは私の指揮下にいますのは…」

 

日村提督の指揮下には、

重巡洋艦 足柄

軽巡洋艦 神通

駆逐艦 第八駆逐隊(朝潮、大潮、荒潮、満潮)

揚陸艦 あきつ丸

潜水艦 まるゆ

 

とのことだ。

なんというか艦娘個人の性格はともかくとして突撃力が高そうな編成だと思いました。まるゆさんが浮く感じだけど、まるゆさんもこの歴史軸では激戦中の硫黄島への物資運搬を成功させたり、フィリピンに物資運んだりと陸軍の潜水艦として一定の活躍を見せているんだ。島風みたいに「パパ」と呼ばれたらと若干の不安が残るけど。

しかし神通に八駆か……。前者はともかく朝潮にどんな顔して会えばいいのやら、まぁ、内心はともかくとして仏頂面晒すのですけどね。

せっかくだったら霞ママも連れて来れば良かったかなぁ。

 

他にも指揮下というわけではないが、

空母は祥鳳、瑞鳳

それに西村艦隊だった娘さん方に第九(朝雲、山雲、夏雲、峯雲)に第十九駆逐隊(磯波、浦波、綾波、敷波)

といった面々がいるとのことだ。

この世界だと西村艦隊の編成は

戦艦 山城、扶桑 

重巡 最上、三隈 

駆逐 時雨、夕立、山雲、満潮、朝雲

 

で、沖縄鎮守府の戦力の総評としてはやはり突撃力高そうだなとなる。鬼と忠犬に鬼神(黒豹)&たべりゅうときたもんだ。最後のはなんか違うか? まぁ、とにかく日米合同作戦時には戦力の抽出は少し難しいかもしれないな。ということと彼女たちに面会するには心の準備が必要そうである。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、横須賀鎮守府では、夕雲型3番艦の風雲が一室で荷造りをしていた。自分の分だけではなく、今は沖縄にいるであろう同室の秋雲の分まで。

 

「着替え良し」

 

当面の着替えは秋雲が自分で詰めていたから、残りを纏めてバッグに詰め込んだ。

それから雑然と紙やら本やらペンやらが置かれた机を見る。

 

「ペンタブ……これいるの?」

 

もしもこれが違う提督のところに着任するのであれば、風雲も「仕方ない持っていってやるか」という気持ちにもなるのだが、脳裏に浮かぶのは、やばいブツを描いた薄い本を丸めてそれで秋雲を吹っ飛ばした提督の姿暗黒卿のテーマ曲を添えて、である。

 

「そいつを寄越せ」

 

と鋭い視線で問われる自分の未来を幻視した風雲は、持っていたそれをそっと雑然とした机に戻した。

 

「うん。ないわね」

 

「か・ざ・ぐ・も・さん」

 

と呟いたあと、背後からの声で風雲はビクッとした。

振り返れば、膝くらいまである緑髪の少女が妖艶な微笑みをたたえていた。

長い三つ編みに前髪パッツンとアホ毛。唇の左下にあるほくろ。髪色と同じ瞳。夕雲型20姉妹の長女、一部の提督たちからはダメ提督製造機と呼ばれた夕雲であった。

 

「あ、風雲~。アホの秋雲はどこにいったんですか~?」

 

さらにその後ろからひょっこりと顔を出したのは巻雲。ピンク色の髪にメガネと多少舌っ足らずなしゃべり方、何よりいつもシャツのサイズが合っていない。いわゆる、萌え袖や甘えん坊袖と呼ばれる状態の次女であり、お姉ちゃん大好きっ子である。

 

「えー、えーと、そのー」

 

言葉に窮する風雲。目が泳いでいる。

脳裏には、大淀が俯き加減で念押ししてきた姿が浮かぶ。

 

「くれぐれも他の艦娘には内密に」

 

何とも言えぬ威圧感を受けながらそう言われたのだ。

提督の指揮下枠が既に逼迫している状態であること。大淀自身も知らせられないことに心苦しくはあるが、提督に会いたいと誰彼構わず来られては現場に混乱が生じること。一度、逼迫していた状態で新たに艦娘を指揮下に受け入れたことで提督が負荷により倒れたことをそれはもう懇切丁寧に説かれた。

その間、秋雲は提督に抱きついて「イラスト描きたい」と懇願し、提督に頭を何度もハリセンで叩かれていたが、全く堪えているようには見えなかった。

 

「風雲さん」

 

「風雲~?」

 

ニコニコとした夕雲の顔と首を傾げる巻雲。

 

「あ、赤レンガに呼ばれて?」

 

何故か疑問系になってしまった風雲。

 

「はい、ダウト」

 

頬に手を当てておっとりとそう言う夕雲。

風雲の頭の中で第二次世界大戦終戦直後のマフィアの抗争劇の映画ゴッドなファーザーのテーマ曲が鳴り響いていた。

 

私にどうしろって言うのよ~~~っ!

 

風雲はその場で崩れ落ちるしかなかった。


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