そして突如始まる学園ラブコメ
夏休み。それは一定の年齢に達した学生達にとって大いなる意義を持つ。海水浴、キャンプ、祭、花火、胸踊るイベントの数々、そして男女の甘き恋が実るアオハルの季節(ただしリア充に限る)。
しかし、既に夏休みの過半が過ぎ、次学期到来が目の前まで迫っている頃。課題が終わっていないものは机に齧り付き始める段階である。
そんな時分に学校の廊下を歩く男子生徒の姿があった。
彼の名は長野業貴(ながのなりたか)明和工科大学附属高校に通う高校三年生である。
亜麻色の髪に片耳にはピアス。目付きが少しだけキツメに見えるが概ね整った顔をしている。
そんな彼はどんよりとした空気を醸し出していた。
「命を対価に受験をしなくて良いと捉えるべきか…」
とブツブツと唱えながら。
「せ~んぱいっ」
語尾にハートマークでも付きそうな媚びた声が彼の後ろからかかったことで落としていた肩をもう一段階落とした。肩にかけたショルダーバッグが床につきそうなくらいに。だが、
「こ~はいっ」
とヤケクソ気味に業貴はハイテンションで振り返る。
振り返れば、案の定で彼の見知った後輩女子の姿がそこにあった。
「…気持ち悪いです」
赤いアンダーリムの眼鏡越しから見る後輩の瞳は冷たい。
「……」
意味もなくハイタッチでもしてやろうかというパーティーピーポーもかくや状態の身に、がら空きのボディを抉るような鋭く辛辣な言葉で、しかも真顔で返されれば、無言で踵を返すというものである。
「ちょっ、冗談ですって! 無言で立ち去ろうとしないでくださいよー」
後輩女子は追い縋る。
端から見れば「けっ! アオハルかよ!」とツッコミを入れたくなるような雰囲気であるが、得てして本人達には自覚がないことが間々あり、非リア充達は壁を殴り、己を律するのである。
「俺は人生に絶望しているところなんだ。用があるなら五文字でまとめろ」
「部室行こ?」
「断る」
業貴は不覚にも少しドキッとしてしまったが、瞬時に切り返した。
「えー何でですかー!? 行きましょうよ部室」
「おい後輩。俺は軽音部に入っている。なので百歩譲って軽音部の部室兼活動場所に足を向けるのなら吝かではないが、お前は楽器を奏でることに興味を持ったのか?」
余談ながら、高校三年であれば夏を終えれば引退であるが、軽音部は発足以降、秋に行われる文化祭を引退日と定めている。
「は? そんな退廃的なセックスとドラッグにしか興味持ってなさそうな部活に微塵も興味ないんでっ! 崇高なる歴研の部室に決まってるじゃないですかぁ~」
そして、それは歴研──歴史研究部とて変わりはない。
「お前の軽音部に対する偏見に物申したいところだ。あと女子が普通にセックスって口にするんじゃない」
「はぁ~。これだから童貞は…」
「うるせーぞ拗らせ処女がっ!」
「なんですかセクハラですか!? 訴えますよっ!」
「上等だっ! かかってこいや! 全力で勝訴してやんよ!」
「ハア!? ご実家に頼るんですか? 金と権力に物言わせていたいけな私を凌辱する気ですね。最低です」
「使えるもんは親でも使えって言葉知らんのか? あとそこまで言ってない」
とはいえ、こんなことで裁判沙汰になれば両親というよりも一族からの折檻は免れないので、九割は冗談である。いわゆる売り言葉に買い言葉というものだ。
「フウフゲンカ ハ イヌ モクワネー ショーカンハネコハナノダ」
「えっ、何ですかソレ?」
鞄から顔だけ出すソレを見た後輩が目を見開いた。
と同時に業貴はガシッと後輩の両肩を掴んだ。
「お前、これが見えるのか! いや、見えてるな! そうかそうか、歴研の部室な。俺とお前の仲だ付き合ってやろうじゃないか。さぁ、逝こうゼ後輩!」
先程とはうってかわって、機嫌良く口元には笑みを浮かべている。それは爽やかなものではなくニチャアと擬音が付きそうな粘着質な笑みであった。
後日、後輩は語る。まるで地獄への道連れを得たかのような邪悪な笑みだったと。
場所は歴史研究部の部室に移り、後輩はorzで項垂れている。
「良かったな後輩。護国の礎…いや、お前の好きな英雄になれるチャンスだ」
「英雄は紙面で眺めるから良いんです! 自分がその立場なんてまっぴら御免なんです!」
ガバリと立ち上がった後輩は吠える。
「あぁ…さようなら玉の輿。一生養ってくれる人生。好きなことを好きなだけして過ごせる私の夢。ぶっちゃけ先輩は押せばいける気がしてただけにトンビに油揚げ月夜にオネェです」
「…お、おう。ほんとにぶっちゃけてんな。あと月夜に釜な。なんだよその恐怖映像は」
「……うん? ハッ! 閃いた。ここで押し倒して既成事実を作ってしまえばいいじゃない」
「どうしてそうなった後輩っ!?」
彼らが混乱しているのはズバリ妖精さんが見えてしまったからである。事の発端は先日、業貴が朝起きると布団の上になんかいた。何を言ってるのか以下略の状態で母親に事のあらましを説明。ちなみに彼は寮生活であるが夏休み中であり実家に帰省していた。母親は彼を落ち着かせたあとどこかに電話をかけた。どこと言っても彼の姉になのだが、電話を代わり姉からの説明を受けて「海軍にて君を待つ!」との言葉を頂き、実家から学生寮に戻り今日に至る。廊下を歩いていたのはエレキをかき鳴らして現実逃避しようと思っていたからだ。
「よく考えてくださいよ先輩。先輩は従業員300万人超の変態企業の経営者一族の御曹司ですよ? 未来にその頂点に立つんですよ? 徴兵免除されること必定。それはもう妻たる私にも適用される筈です。これは素晴らしい策ですよ! 玉の輿に自分の夢も叶えられる一石三鳥の文句無しっ! 天才か私っ!」
「話し聞いていたか後輩。それによく考えてみろ。その企業どころか国そのものの危機だぞ今は…」
免除なんてないとは完全に言いきれなかった。
それは彼の曾祖母の顔が浮かんだからか。それでも今回は可能性は低い。後輩が言うように彼は世間からみれば金持ちのボンボンであり、現代の上流階級の集うパーティーなどに出席することもある。だが、使いきれない程のお小遣いをもらえるわけでもなく、額はそこらの高校生たちと変わらない。基本、長野の家は「金は自分で稼ぐもの」である。本当に必要なものは買い与えて貰えるが、高校生の大半が欲しがるものとは娯楽品であるため、お小遣いと相談しながらの遣り繰りである。世間のイメージで言われるほど贅沢はしていなかった。その一方で、イメージ通り義務や責務に関してはとても厳しい。たとえ、海軍が嫌いな曾祖母でもそこに義務が生じたのならそれを果たせと言われるのではないかと業貴は思った。
実際は文乃に泣き付けば「百合恵がいるんだからその弟まで取るんじゃない!」と突っぱねてくれたのだろう。
「おのれ大本営!」
再び後輩が吠えたことによって業貴の貞操の危機?は去ったのであった。
「もういいです! 私の卒業まで一年半、海軍でも教育期間があるでしょうから三年くらいは大丈夫。後方なら危険は少ない筈ですし、今はなんか快進撃しそうな感じですし、前線なんて出ずにお役目御免を祈るとしましょう」
なんとも切り替えが早い後輩である。
もっと引きずると思っていたのに予想外の後輩の態度に、コイツは前線にいても何だかんだで生き残りそうだと思った業貴だった。自分と比べるとその変わり身の早さにモヤモヤしたものがあったが、「まぁ、いいけどさ」と心の中で呟いたあと口を開く。
「それで、後輩は歴研になんの用があったんだ?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、部室のパソコンを立ち上げ、それからコピー機から紙が吐き出された。
「文化祭に出す論文か」
歴史研究部における毎年恒例のものである。各部員、またはグループがそれぞれテーマを決めて研究内容をまとめた論文を作成し展示するというもの。
「良いですか先輩。一口に歴史といってもそのなかには様々な派閥があるのです。土器作りから発展してなぜか今は九谷焼を作ろうとしている縄文派、何でも『おじゃる』をつければ許されると思ってる平安狂(誤字にあらず)、最大勢力その実にわかばかりの戦国ふーん(´<_` )児、春画制作に余念がない桜田門漢(漢と書いてガイとよむ)、BL好きの多い幕末維新土方×沖田大正義組、世界史?知らない子ですね。そして私のはぐれ純情近代派」
『ツッコミどころしかねーなっ!』
「そうなんですよ! 近代派は私しかいないんですよ! 絶対こんなの間違ってる!」
そこじゃないと業貴は思った。だが、めんどくさいので流した。
「そうはいっても日本の近代史は主権国家誕生からってのが一般的だから維新に被ってるとこあるじゃん」
「そんな言葉遊びは要らないんですよ! 普通はWW1とかWW2を思い浮かべるんです!」
先輩、わざと言ってるでしょ?という目で見られて視線を反らす。
「…それはわかるが、さ」
さんざん今までその辺りの話で付きまとわれたのだから承知している業貴なのだが、その辺りの、特にWW2辺りの話を日本は禁忌する傾向がある。
それは戦後も軍部の一部がオラついていたことで日本政府と米国の方針が一致した反戦教育によるものが大きい。
「戦争は悪いことです。皆そんなことわかっていますよ。だから学ぶんじゃないですか? 今の平和が…今は平和じゃないですけど…平和の成り立ちはそれがあったからこそで、どんな争いがあって何故そこに至ったのか、どうそこから今に至るかを知るって大切なことじゃないですか~」
「…お前の言ってることは正しいと思うよ」
後輩は一度、業貴に何故この高校に入学したのかを語ったことがある。彼女の育った町は反戦教育が強い地域だった。中学校の教師との巡り合わせも悪かったのだろう。本来は多感な時期にある子供たちに教師はそういった思想を押し付ける、誘導することはあってはならない。しかし人間は感情の生き物である。つまりは彼女と反りが全くあわなかったということである。そこで彼女はこの学校に入学を希望し、見事合格を果たした。そして今では歴研で最大派閥を作るべく派閥闘争を繰り広げているのである。ちなみに部員同士決して仲は悪くない。この学校の創設者に当たる人物からして軍人であったのだから、その辺りの話題も他の生徒たちの多くが禁忌感が薄いのも一因である。
件の人物は神通と絶賛闘争中であるが二人は知るよしもない。
「…正しいと思うなら手伝ってくださいよ」
業貴は頭をかきながら「しょうがねぇなぁ」とため息をついた。そんな彼を見て後輩は「やっぱり押せばいける気がする」と再認識したのである。
「で、今回はなに? 言っとくがお前の方が詳しいことが多いからな」
曾祖母の兄である長野壱業のことである。
「今回はこれです。ご本人のことではなくて…」
そういってコピー機から再び紙が吐き出された。
「マリアナ沖海戦?」
手に取った用紙にはその戦いの概要が書かれている。
マリアナ沖海戦(マリアナおきかいせん)は、太平洋戦争中の1944年8月26日から8月27日にかけてマリアナ諸島沖とパラオ諸島沖で行われた日本海軍とアメリカ海軍の海戦。アメリカ軍側の呼称はフィリピン海海戦(Battle of the Philippine Sea)である。日本側の作戦名はあ号作戦、アメリカ側の作戦名は、海上作戦を含むサイパン島攻略作戦全体についてフォレージャー作戦(「掠奪者作戦」の意味)と命名されていた。
マリアナ諸島に侵攻するアメリカ軍を日本軍が迎撃した本作戦では、日本はアウトレンジ戦法による航空攻撃を全面的に行う予定であったが、この作戦の指揮官である小沢治三郎中将が急遽、艦隊参謀に長野壱業少将を引き入れたことによって一部実施の形となった。アメリカから「マリアナの七面鳥撃ち(Great Marianas Turkey Shoot)」と揶揄される壊滅的敗北(空母4隻と搭載機、総数612機の約7割に加えて出撃潜水艦の多くも失う)を喫し、空母部隊による戦闘能力を著しく喪失した。マリアナ諸島の大半はアメリカ軍が占領することとなり、西太平洋の制海権と制空権は完全にアメリカが掌握した。
「機密情報解除されたじゃないですかー? そしたら魔術師らしい戦いを取り上げるのも良いかと思いまして」
「機密情報?」
「先輩、マジで言ってます?」
「何が?」
「嘘だろお前」
後輩のガチトーンの信じられないといった顔であった。
そこからこと細かく小一時間の説明を受けて業貴は辟易とした気分となった。それは業貴自身はあまり長野壱業のことは好きではなかったからだ。偉大すぎる人物を身近に持つと何かにつけて『長野の家』というものが付きまとう。「流石、長野さんちの」だとか「長野の家の子なのに」といったものだ。本人ではなく誰かを透されての評価はこの先もきっと付きまとうのだと考えたときに達観と怒りがごちゃ混ぜになるのだ。だから好きではないし姉から垂れ流された武勇伝以外自分から何か調べ知ろうとはしなかったのだ。
「はぁ。もうほんとに先輩は先輩なんですから。良いですか! 世が世ならお札になってもおかしくないんですからね?」
もし壱業本人が聞いたなら全力で拒否しているであろう。そして業貴もゲンナリとした表情を浮かべる。壱業ではなくて苺ちゃんだったなら彼ももっと受け入れられていたかもしれない。皇国ファクトリーの罪は深い。
「もういいって! ほら、なんか質問あれば答えてやるから」
「期待出来なそうなんですけど…まぁ、いいです。先輩はこの戦いどう思います?」
「そりゃ概要からもわかる通り日本の大敗北だろ」
事実、日本の受けた損害は
航空母艦4沈没
油槽船1沈没
航空母艦1中破
航空母艦3小破
重巡洋艦1小破
艦載機419機
水上機22機
基地航空50機
対してアメリカ軍の損害
航空母艦1中破
航空母艦1小破
戦艦1大破
戦艦2小破
重巡洋艦2小破
駆逐艦8沈没
潜水艦1沈没
艦載機210機
のようになっている。
「そうですね。でも私は先輩のご先祖様がいなかったらもっと損害が増えてたのではないかと思うんですよね」
「それは俺にはわからんけど」
「アウトレンジ戦法を机上の空論と司令官に面と向かって言い放ち、空母の集中運用もミッドウェーでなにも学ばなかったのかと説き伏せる。間違いありませんよ」
マリアナ沖海戦において日本海軍は艦隊を3つに分けた。艦隊司令である小沢がサイパン輸送から戻った長野を参謀に迎え、その言を受け入れたことによる。
「この人ももっと言い方を学べば良かったのにな」
二つの艦隊はそこまで距離が離れておらず、不徹底であったことは否めない。その二つの艦隊とは全く離れた位置にあった艦隊こそ長野がいた艦隊であった。
「この時はそれが却って良かったのかもしれませんよ?」
小沢はこのマリアナの頃は空母戦における知識不足は否めなかった。また小沢に物言える参謀が長野以外にいなかった。まぁ、それでもその歯に衣着せぬ物言いに不満を覚えたのも事実であった。それゆえに微妙な三分艦隊。
「それと! 空母を戦艦に改装して敵の目を欺くとか凄くないですか? 実際他の艦隊が襲撃を受けまくってたなかでこの部隊は途中までは被害らしいものなかったんですよ」
「ああ…あれな」
憐れ加賀、再び戦艦にされる憂き目にあう。
当時、小沢から作戦を聞かされ、どうにか艦隊分離は叶った。しかし、この当時は既に暗号は完全に筒抜け状態。史実を知り、おおよその展開を知る長野にとっては悪夢である。艦隊決戦は望むところだが、レーダー関係にしても、ピケット駆逐艦、潜水艦を艦隊周囲に張り巡らされ万全の状態で待ち構えられることが必定。悩める長野は加賀の艦橋から甲板を見ながら、八つ当りでサタデーゴシップ発動。「ハルゼー提督はブルって呼ばれてるらしい。母親か父親が犬の可能性大。メリケン人は犬と交配可能かもしれないから調べた方がいい」と。本当は牛だけど知ったこたない。数週間後になるがハルゼーからの圧倒的なヘイトを稼いだ。そんな時に作戦に参加する同期が長野を訪ね、「お前、敵から魔術師とか呼ばれてるらしいじゃん」といわれたことによって閃いた。
「なるほど…ジャスパー・マスケリンか」
ジャスパー氏は英国の軍人で本当の魔術師である。
部下には脚本家とか大工とか個性豊かな面々がいた。
有名な話をひとつ。ドイツが今度あそこを爆撃するらしいとの情報をつかみ、なんとか爆撃を防げないかと考える。そして彼は閃いた。「せや、爆撃防げんのやったら本物そっくりのジオラマつくって、そこを爆撃させたらええんや」と。
そして長野は彼を真似ることにした。
「空母がいるから狙われるんや。空母以外の艦種で揃えとったら、敵は囮か突撃部隊って判断するやろ。そしたらこちらへの攻撃は後回しにされる筈やん! いける!いけるぞ!」と意気揚々と彼は大工を大勢手配した。
そして加賀は戦艦となった。
木枠とトタンと布張りで出来た張りぼて戦艦に。
飛行甲板は陰影をつけたトリックアートで化粧直しを施して。
結果、うまくいった。敵の偵察機は見事に騙されてくれたのだ。
そしてギリギリまで近づいて甲板構造物をパージして加賀の艦載機隊は飛び立った。攻撃目標は大物ではなく巡洋艦以下を狙うように下命もした。戦果も他艦隊よりもあげられたが上手くいったのはここまでで、他の艦隊から飛び立った部隊は状況が宜しくなく、一撃与えたら本隊と合流すべく逃げに入ったものの、加賀の艦生はここで潰えることとなった。
「俺は読んでないけど姉が手記を読んだところ、そんな感じだったようだ」
「ほへぇ。とても興味深いお話でした。期待してなかったから尚更ですかね」
「お前は一言多いんだよ!」
部室にはいつの間にか夕陽が差し込んでいた。
子供の時に大人に言われた何気ない言葉が、その人にとって、その後の人生を左右する。それが将来の指標になるのか、はたまた子供の頃のトラウマになるのかは、かけられた言葉や育ってきた環境次第だろう。しかしそれ自体はよくある話ではある。
自分も第二の人生において親父殿から言われた言葉を今でも鮮明に覚えているのだ。
なんという言葉をかけられたのか? それは、
「壱業お前、巷で豆腐小僧と呼ばれているぞ」
である。
第二の人生において小学生の時に言われたその言葉。
自宅から集落にお小遣い稼ぎに豆腐を売りに行っていた。はじめは豆腐屋の倅だし、間違ってないだろうと何で親父殿がそんなこと言うのかが分からなかった。
しかし、俺の頭のなかには情報集積体という異物が寄生していたので、すぐに真意を知ることになった。まさかの妖怪扱いである。河童や天狗、はたまたゲゲゲのレギュラー妖怪ならば察しもつくという話であるが、そんなマイナーで無害な…時々ストーカーするらしいが、特に悪さをするよう奴でもなく、妖怪界のモブの中のモブ。いや、ゆるキャラと言っても良いかも知んないのが豆腐小僧である。
そんなんに認定された俺の気持ちが分かるかね?
船橋の非公認ゆるキャラの梨の妖精と同じ扱いだぞ!
町歩いてたら「あ、ふなっ○ーだ」みたいに「あっ、豆腐小僧だ」って後ろ指指されているのではなかろうかというギシアンッ鬼になるってものよ?
何が言いたいかと言えば、この世に生を受けて数年ばかしの女子に、しかもハートブレイクな傷心を抱えている彼女に、その傷口を塩とハバネロを塗りたくったナイフで抉ってしまいました。
そんなことをしてしまいました……故に!
おでこ痛い、腕も痛い、足も痛いし、あちこち痛い。口の端から血も出てる。
もうやめて! 提督さんのライフは残り1よ!
周りのみんなも固まってないで止めてくれてもええねんで!?
「うわー、えげつないのう」
と浦風が言い、
「うん、詰め将棋みたいだね」
賛同するように時雨が答え、
「提督さん楽しそう」
と夕立からずれている感想が漏れる
「無刀取りって言うんだったか?」
感心したような長波様。
ならば、説明しよう! 無刀取りとは剣術における技の事である。真剣白刃取りの事だけを指すのではないので注意されたし。要は相手が刀もって襲ってきます。自分は得物を持ってませんな状態のとき、無手で相手を制圧する格闘術の事であ~る!
と逃避してみたが、貴女たち、そんなことを宣ってないで止めてくれてもええねんで!
見てよ! 神通さんの表情を! まさに鬼神通ですわ!
ぶおんっ! って腕を突き出してくるだけで、竹刀とかバットとかを思い切り振り回したような音が出てるんですぜ!
「はぁ…づっ! こっ…のっ!」
いやぁー! 掴まれたら洒落にならへん! そおーいっ!
「ガハッ…っ!」
やってて良かった多聞式っ! …じゃなくてAI・KI・DOー! と実家のごちゃ混ぜ剣術。
でもすぐ立ち上がって向かってくるぅぅ! 二水戦旗艦は化け物か!
ブオンブオンと風を切って俺の腕を掴もうと、又は殴ろうとしてくる神通さんの拳を捌けば、鈍い音が自身の体から発せられる。もうずっと顔が引き吊っているわ。
ちょっとミック先生! 俺のメディカルチェックしてー! これどっか絶対ヒビとか入ってるって。
──妖精体で直接接触しなければ不可能です。
つかえっ! いやでも、自分の状態を正確に把握するのは、却って痛みが増す可能性もあるから、そうとも言いきれんか?
体がだるいわーってときに体温計で計ってみたら熱があるときみたいな? ちょっとでも熱あるともう動きたくなくなるアレ。計らなきゃその日のうちにいつの間にか治ったりするんだけど、…あれ、スゲー今さらだけど、この体になってから風邪って引いたこと無くね?
「…貴方、人間ですか?」
うん、どうなんでしょう? 自分では人間のつもりなんだけど、もしかして俺は強化人間なのではないだろうか? と今、一抹の不安を抱えています。神通さんはどうなんだと思う?
「お前はどうなのだ?」
膝をついてこちらを睨む神通さん。だいぶ投げ飛ばしたから袴姿が乱れて晒が丸見えですよ? やだ、単装砲が熱くなっちゃう。
「……私は艦娘です」
そんなことは知っているのだけど。ちょっと前隠してくれないかな?
「艦娘は人か? 兵器か?」
「……」
揺れる神通さんの瞳。
「思惟する。それが答えであろう」
ということで話し合おう。ぼくはわるいていとくじゃないよ。てへぺろ。
ふふ、弱っている神通さんをペロペロしたい。
いや、したら死ねるからしないけども!
ヒムラー提督も足柄さんぺろっちまったなら、神通さんもぺろっちまえばこんなこともなかっただろうに。
たとえ修羅場になろうとも他人事ですしおすし。愉悦しかないわ。ただし朝潮型はダメです!
「人としての生き方なんて…分かりません」
それは俺自身にだってわからんもん。生き方は人それぞれというけれどさ。人は一人じゃ生きていけない。
「生きていけるわいっ!」というやつは全裸で無人島に行けばいいと思う。だからこそ、
「仲間がいるではないか」
とびきり可愛い朝潮さんたちとかね!
あ、やベェ、朝潮さんを見てたらなんか泣きそうになる。
朝潮さんちょっとダメです。
今はこちらに近づいて来ないで欲しい。
「約束は…約束は…果たされました」
「うぐぅ…」
きょとんとする神通さんを横目に朝潮さんのその言葉に膝が落ちてしまった。そして無意識に朝潮さんの両手を包みこんでいる俺がいる。涙が溢れんようにギュッと目を閉じて深く息を吸う。
違うっ! 朝潮さんをクンカクンカしようとしたんじゃないからっ! よしっ!
目を開いたら見えた。
口をあんぐりさせ固まる日村提督と主計の姿が…。
いや待って! 誤解だっ! 違う私はやってない!
私はエアリス派