提督(笑)、頑張ります。   作:ピロシキィ

9 / 87
みんな大好きお姫様抱っこ


提督(笑)震えて眠る

1945年(昭和20年)8月

 

 

三日月の元、飛行甲板の端、その男は酒を呷っていた。

 

 

 

 

 

 

「~~~♪(ドヤァ)」

 

 

 

──80点

 

 

 

嘘だろ!? 今のめっちゃ会心の出来だっただろ!?

 

──ビブラート、抑揚、リズムを改善すると良いでしょう。

 

ざっけんな! この一曲に何年費やしたと思ってるんだ!

 

──30年8カ月です。

 

お、おう。もうそんなに経つのか…。

本当はこういうバラード的なやつじゃなくてアップテンポなハードロックとかが歌いたいねん。

 

──現状、詩の朗読にしか聞こえませんので練習が必要です。

 

知ってます! その練習に費やす時間がちょっと多過ぎやしませんかね!? なんて不便な体なのさ!

 

──ざまぁ

 

おい待てミック先生! なんでいきなり煽ってきやがった!

 

──以前、掛け合いを楽しまれたいと仰られてましたので、命令を実行しているにすぎません。

 

今の掛け合いじゃないから! ただ俺をディスってるだけだから!

 

──情報を収集し、さらなる改善を行います。

 

お、おう。あ、やっぱりいいや、もうすぐ……な。

 

「…良い歌ですね」

 

「…主計か」

 

ビックリするから音も立てずに近づいてくるのやめてくんないかな!?

 

「はい、聞いたことのない曲ですが…」

 

おいおい、いたんならもっと早く声かけろよ。一人で熱唱してる痛いおっさんの図じゃないか!

 

「忘れろ」

 

見なかった事にしてくださいお願いします。

 

「…わかりました。ところで…いや、…気のせいか、何でもありません」

 

やめろよその言いかけてやめるの、超気になるじゃん。

 

「どうした?」

 

「その、長野提督に寄り添う二人のご婦人の姿が見えたような気が…いえ、気のせいですね。大体、ここまで来れるわけがない」

 

おいばかやめろ! 夏だからってそんな涼しさ求めてないんだよ、そんなのいらん気遣いだよ。

これ以上なんか言ったら甲板から突き落とすからな! マジやぞ! 

べ、別にビビってないし! 決して両サイド見るのが怖いから月をガン見してるわけじゃない…しし…。

 

「…月が綺麗ですね」

 

「おい、馬鹿やめろ」

 

何で今そのセリフ言った言え! あ、やっぱり言わなくていい。

というか、咄嗟に振り返ったが、君は何で目が潤んでるんだい?

マジで俺ノンケなんで勘弁してくれ。いま、違う意味でゾクッとしてるんだけど!

 

「し、失礼しました。…あっ! いやそういう意味ではありません! …提督も漱石を読まれたりするのですね」

 

「…ああ」

 

まぁこの時代で読める書籍って多くないからな。やたらお堅い文字が並んで何書いてあんのかよくわからん。

ミック先生に聞きながらって手もあるんだけどそこまでして読むほど読書家って訳じゃないし、伊豆の踊子なんて、開始2ページで諦めたくらいだ。その点、漱石は読みやすい。

現代に比べて娯楽の少ない時代だからな。それくらいしか趣味を持てなかった。といっても趣味に費やす時間なんてほとんどなかったけどな。

我ながら体を壊さなかったのが不思議なほど生き急いでいたもんな。

 

 

 

「…いよいよですね」

 

俺も主計も月明かりに浮かぶ大和を見つめていた。

 

「そうだな」

 

全く、イカレた世界だ。もう、残された時間は少ない。

 

…天一号作戦が実施される。

 

そもそも、大本営の戦略がもう破たんしている。

特攻による遅延作戦だと? 遅延させてどうなる? 辛うじて本土の空襲は防いでいるものの、いつまでも持たない。

被害だって少ないながらもでているんだ。もう詰んでる。それを分かっているのか? いや分かっているが認めたくないのか…。

大体、暗号漏れてるって何度も言ってんのに無視しやがって、なんでそんなに絶対の自信持ってんだよ。

ようやく地点暗号の更新がなったと思ったら、ブーゲンビルでやっぱり長官が戦死するし…、なんで古い暗号使うんだよ!

アホかアホなんだろうな…。おかげでアメさんのぶっ殺したい奴ランキング一位だよチクショウ。

軍のプライドだけで戦争してんじゃねぇよ! クソが。その先にあるのは一般人を巻き込んだ泥沼の戦いだぞ。

とっとと負けを認めちまえばいいんだ。今ならまだ間に合う…いや、もう間に合わないか。アメさんも焦ってはいるんだ。

厭戦気分が国内で高まってきている。何としても新型爆弾落として日本に止めさして払拭したいのだ。

 

それだけは絶対に阻止しなきゃならん。巻き込まれるのは軍人じゃなくて一般人だ。

 

くそ、くそ! もっとうまく立ち回れたんじゃないのか?

軍人じゃなくて政治家として活躍すれば…、いや、それも無理か。軍の影響力が強すぎる。

何をやっても結局無駄だったんじゃないのか。俺の独り善がりで…、そもそもだ、戦後苦しい時期はあったとしても日本は世界のATMだとか腰抜けだとか言われても平和を謳歌していたではないか。

それを考えたら…俺のやってきた事ってなんだったんだろうか? ただ、戦争を長引かせて国を疲弊させた?

 

「…この国は守る価値があるのか」

 

いっそすべてを破壊した方が今後の為なんじゃないのか…。

 

考えれば考えるほど思考があちこちに飛び、纏まらない。

なんで、こんなに、こんな事に…。

 

「…提督」

 

「すまん忘れてくれ」

 

こんな弱気な態度では士気にかかわる。弱気になるな。もう最後にかけるしかない。

絶対にあの爆弾だけは落とさせちゃならん、あとは野となれ、山となれだ。

 

「…何か仰られたのですか?」

 

出来る男だね。いや本当に。この主計さん、本来は海軍学校に行きたかったらしい。成績は問題ないが少しだけ色弱みたいで落とされ、それでも海軍への憧れから経理学校へ行くという経歴を持つ。で、卒業後は色んな軍艦に乗ってたらしいがあんまり馴染めなかったらしい。

彼曰く、どいつもこいつも幼稚に見えるらしい。で、開戦前に五十鈴の艦長していた俺の所に来て今に至ると。

 

「それで、主計。何しに来た?」

 

「はっ、大佐の計らいで浦風、時津風はこちらに回していただけるとの事です」

 

「…そうか、あとで礼を言っておこう」

 

まぁ、大和の方には史実と違い瑞鶴いるしな。

しかも設計監修がミック先生で後は堀越さんに丸投げの烈風ガン積みですぞ。

これお願いと頼んだ時の堀越さんの達観した目はプライスレスだ。

うまくいけばたどり着くことが出来るんじゃないか。他に稼働できる空母はあるが北にも回さにゃならんし油と搭乗員がいないというね…。

本当にもういっぱいいっぱいなんだよな。

アメさんの物量がほんまにチート過ぎる。

 

ああ、主計をずっと立たせておくのもあれだな。

 

「一杯やるか?」

 

「では、いただきます」

 

俺の隣に腰掛け、懐からお猪口を取り出す主計。マイお猪口!? 用意がいいなヲイ。

 

「…美しい艦だな」

 

酒を一杯煽り、大和を眺める。

上が箱入り娘にしたがるのも分る。この時代に来て海軍に入ってよかった事一位は大和を見れたことだろうな。

戦艦の究極形態、そこにいるだけで圧倒的な存在感。つまり何が言いたいのかというと超かっこいい!

 

「…そうですね。ですが、戦艦の時代は終りました」

 

このリアリストめ。確かに航空機主体の戦に移り変わったけども。

 

「…なら、最期に派手にやってやるさ。君は降りてもいいんだぞ?」

 

「御冗談を」

 

いや、冗談じゃないんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月光を浴びて静かに海を見つめるその人の哀愁を帯びた背中。

 

「あぁ…鳳翔か、久しぶり…になるのか?」

 

こちらを振り向くこともせず、ただただ海を眺めるその人。

見間違えるはずも無い。近くにいるだけで感じるその存在が改めて本物だと告げる。

 

ああ…人の体というのはこんなにも胸を焦がすものなのか…こんなにも制御の利かないものなのか。

 

最期に会った時は愁いていた貴方、今もまた何かに愁いているのでしょうか?

 

駆け寄りその背に寄り添うことを貴方は許してくださいますか?

 

「提督!?」

 

かくりと提督の頭が下がりそのまま海へと落ちそうになるのを走り寄って抱き止める。

 

「ネテル」

 

「はぁ。もう驚かせないでください」

 

「ホウショウ、ウレシソウ」

 

「妖精さん!?」

 

言われて状況を確かめてみれば顔に熱がこもる。

 

「コマッタコマッタ」

 

「怒りますよ?」

 

「サーセン」

 

「でも本当に困りましたね」

 

「ワタシハ ナニモ ミテイマセン イマナラ…ゴクリ」

 

「妖精さん!」

 

このいたずら好きの性格はどうにかならないのかといつも思う。しかし…ゴクリ。

人の身になってとても言葉では言い表わすことのできないこの感情…。

 

「…はっ! いけないわ。と、とりあえずお部屋まで運びましょうね」

 

「オモチカエリ」

 

「妖精さん!?」

 

 

 

 

 

眉間に皺を寄せて眠る懐かしい人を抱き抱えながら考える。

 

どうしてこの人が…、最期に会った時、少しだけ漏らした本音。

ずっと苦悩の中で生きてきた彼が、それでも何かを誰かを守るために命を散らした。

そんな人がまた目の前に現れたのだ、勿論嬉しいという気持ちはあるけどそれと同時にこの世界の不条理さに嘆きたい。

この世界は、また彼にこの国を守らせようとしているのか。

 

「あぁ…」

 

自分の腕の中で恐怖で震える彼。

 

戦後、復員輸送艦として働いていたからこそ分かる。

戦地から帰って来る者たちの多くは心に傷を抱え、発狂していた者も多くいた。

この人もまた彼らと同じように心に傷を負っているのは当然。

 

そんな彼にまた茨の道を歩ませるというなら…

 

「…今度は私もお力になります…貴方をお守りいたします」

 

 

 

 

 

 

普段、穏やかな彼女の瞳は決意の籠った強いものだった、その腕の中プルプル震える男を抱いて彼女は誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うぅ、頭が痛いナリ…。

 

二日酔いか…? 昨日、桟橋で一口、二口煽っただけだよな?

あれ、記憶が飛んでるな…。

布団の中に入った覚えないんだけど…なんだかすごい心地がいいな。

 

この顔をうずめてる柔らかな枕…。トクン…トクンって。

 

「んっあっ…あっ…」

 

この枕、心音と悩ましい声出すのだね、おっちゃんビックリ。

 

 

んな馬鹿な事あるわけない…。

目を開けるの怖いな。でも確認しないわけにはいかないよなぁ…。

 

よしっ! 開けちゃうぞ開けちゃうからな!

 

「……」

 

まず目の前に広がった肌色。

 

少し視線を上げて色っぽい鎖骨。

 

さらに視線を上げると困ったような顔で頬を染める…お艦。

 

結果、ちょっと着崩れた着物姿のお艦をがっつり抱き枕にしておりました。

 

終った…。アボーンされる。せめて苦しまないようにお願いします。

 

え? ていうか何で!? なんで一緒にお布団入っているのかな…。

 

待て待て、よく思い出せ最後の記憶は…表桟橋で酒煽ってお艦が来て…それで…?

 

そっから先の記憶がないのですが…。

 

え、知らないうちに甘い言葉でお艦を口説き落として今に至るとか……無いな。

 

やっぱり終ってる。後生や後生やから、きりんぐみーそふとりーてオナシャス。

 

「…大丈夫。大丈夫ですから」

 

そんな言葉とともに優しく頭を撫でられる…。

 

アレェェェェ!? アレェェェェ!? アレェェェェ!?

 

なんで!? なんで!?

 

絶賛、大混乱中だよ? うおおお頭も痛い! 物理的に…酷い二日酔いのような頭痛だ。

これ、二日酔いなのか? 

そんな事よりどうするんだよこの状態!?

 

「ユウベハ オタノシミ デシタネ」

 

声の方へ視線を向ければ妖精さんが枕もとで二ヤついている。

 

「な…ん…だと!?」

 

全く記憶にないぞ! なんて勿体ない…。

 

「ちょ、妖精さん!? 違いますから! 提督っ! な、なにもありませんでしたから!」

 

そうか無かったのか…それは非常に…

 

「残念だ…」

 

「え?」

 

「え?」

 

やっべ! つい本音が…。

 

「…いや、なんでもない」

 

とにかくアボーンはされなくて済みそうなのだ。余計なことは言わない方がいい。

お艦マジ菩薩だし。ありがてぇありがてぇ…。

しっかし頭が痛い。こんなに酒弱かったっけか?

決して強いほうではなかったが一合も飲み干さないうちに潰れるなんてしなかったはずだが…。

 

「あの、提督どうかされましたか?」

 

「…二日酔いのようだ」

 

「それは大変です、お水お持ちしますね」

 

「チガウ タンジカンデ ツナガッタカラダ」

 

短時間で繋がった? なんのこっちゃい? そこ! いやらしい想像しない! あ、俺か。

 

「何の事でしょうか?」

 

「ツマリ」

 

そこから始まる妖精さんによる提督と艦娘の関係の講義。

 

艦娘という存在は本来は軍艦である。軍艦であるのならそれを運用し指揮するものが必要だ。

航行、砲撃、処々の判断は人の身になった事で艦娘本人と妖精さんの力で可能となった。

だが、提督という存在がいなければそれらの力が十分に発揮できない。なんて提督にとってご都合主義なことだ。

しかし、人の身になった事で艦娘本人の艦時代の影響が趣味や嗜好、性格に出ることが多い。

故に、反りが合わない提督とは繋がり…いわゆる指揮下に入ることを拒むことがある。

指揮下に入ることを了承しても、提督の能力、どれほど艦娘を従えることが出来るかのキャパシティの問題がある。

それを士官学校で時間をかけて鍛え、伸ばすのだそうだ。また、提督によって艦種の適性が異なり、

駆逐艦しか指揮できないもの。こいつは変態という名の紳士だ。とか、戦艦は運用できるが空母は無理とか、

オールラウンドで指揮できる奴が少ないのだそうだ。それで、一部を除き宙ぶらりんの艦娘が多いのだそうだ。

で、一部というのが非常に戦闘能力は優秀なのに誰の指揮下にも入りたくないという娘も存在するんだとか。

軍から要請があれば協力はするのだが、提督なんぞ要るかボケェの困ったちゃん達なんだとさ。

で、教員役の艦娘たちを通して提督の艦種の適性を見極め、または適性を広げるため訓練なども行うと。

 

おおよそ、こんな感じである。そんで俺氏含めた転移組もこの世界の人よりは断然大きいがキャパと適性という枷はついてくる。

指揮下に艦娘を置くとき提督との繋がりというものが出来るのだが、これが結構提督の体に負担をかけるらしい。

俺は一日でメロンちゃんとお艦をいつの間にか指揮下に置いていたのだが、その反動で頭が痛いのだそうだ。

 

 

 

なんか無料Wi-Fiスポットになった気分だわ。

 

 

 

 

 

ちなみにこの話を聞いていた時お艦に抱き着いたままである。

意識を妖精さんに集中してエッロイ感情が漏れ出さないように苦労したぜ。

 




恐らく、本文で語られることのない感想にあったものへの回答

──ラブソングについて

好きな曲を思い浮かべてくれてええんやで。
私のイメージでは小田さんの「たしかなこと」ですが、なんで分ったのかビックリです。

──主人公って第4艦隊司令長官?それとも第6水戦司令?

第6水戦の臨時司令(ミック先生命令ねつ造

当時の上官が あれ? 夕張は? 天龍は? 龍田は? 29駆はどこいった?
と途方に暮れていたとかいないとか。


──……これ、ちょっと経歴変わった松田千秋提督?

主人公の元ネタはこの方です。ほんとにこの方もチートだと思います。
だが、何故かあまり知られていない。
この辺りは日本が敗戦したからとか私は考えてます。

──お話とは関係ないけどこの世界線では松本零士さんの情熱はどうなったのかな?

や、大和型2番艦…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。