「それは、どういうことですか?」
「言った通りだが?」
「――ですがそれでは……それでは、シンデレラ・プロジェクトは……」
「別に辞めろと言っているわけではない。これからも『プロジェクト・クローネ』と共にプロデュースすればいい」
美城常務に呼び出され、部屋に来た武内に会社から命令が下された。内容は、プロジェクト・クローネのプロデューサーをすると言う内容だ。
「優秀な者達を君の下につけよう。君は、今まで通り彼女達をプロデュースすればいい。細かな雑務などは他に任せれば時間もできるだろう」
「今、プロジェクトは、新たな道を踏み出そうとしています。今は、彼女達にとって大事な――」
「――君の意見など聞いていない。これは、既に決まったことだ。君も組織の人間ならばそれに従いたまえ」
「――ッ――」
「……それに君の言葉を借りるのなら……クローネのアイドル達もシンデレラなのではないのかな? 私は、君を評価している。是非、君の力でクローネのアイドル達を舞踏会に相応しい物に変えてもらいたい」
♢♢♢♢♢
足取りが重い。
『君に担当してもらう者は後で会わせよう』
どう彼女達に言えば。
『その前に彼女達に話をするといい』
この扉の向こうに彼女達はいる。
「――あっ! プロデューサーさん!」
シンデレラ・プロジェクトのアイドル達が待機室として使用している扉を開けると、武内が来た事に気づいた島村卯月が手を振って出迎える。
「――見て下さい! 未央ちゃんと一緒に買って来たんです!」
「すごいでしょー! 此処に来るまでにあったお店で買って来たんだよ!」
待機室の中央にあるテーブルには山盛りのお菓子が置かれている。それを、本田未央が両手を大きく広げてアピールしている。
「詰め放題をやってたんです! 頑張ってたくさん詰めてきちゃいました!」
「しまむーは、頑張り過ぎて最初に貰った袋を破いたけどねー」
「未央ちゃん! それは言わないでくださいよー」
お菓子の山は、どうやらこの二人によってもたらされた物らしい。
「こんなに食べきれないよね。それにアイドルは、いろいろと気を付けないといけないし」
口では厳しい事を言ってはいるが、渋谷凛は二人を微笑ましく見ている。
「そんなことを言っちゃう、しぶりんには、あげないよーだ」
「いいよ、卯月から貰うから」
「えっ? 私ですか?」
「アメが欲しいかな?」
凛は、卯月の傍に近寄る。
「――ええと……どれがいいですかね?」
「卯月の好きなのでいいよ」
「――じゃあ、これですね! 味はわかりませんけど、包装が可愛いですから!」
卯月は選んだ物を凛に渡し、それを凛は包装を解いて口に運ぶ。
「……悪くないかな」
「しまむーの優しさにつけこむとは……ええい! こうしてやる!」
未央は、凛をくすぐるために追いかけ始める。それから凛は逃げるが楽しそうだ。
「――プロデューサー。プロデューサーはどっちがいいと思う? やっぱり、こっちのロックな方がいいよね?」
「――なに言ってるにゃ! Pちゃんは、こっちの猫ちゃんを選ぶに決まってるにゃ! この可愛さがわからないりーなちゃんはおかしいにゃ!」
多田李衣菜と前川みくが絵が描かれた物を見せて来る。紙に描かれた内容は、ライブで使う衣装だろうか?
「違うね! プロデューサーならこっちを選ぶね!」
「そんなわけないにゃ! こっちにゃ!」
二人は、武内の事を忘れ、にらみ合う。今にもケンカが始まりそうな空気を醸し出しているが普段と変わらなかったりする。少ししたら落ち着いていつも通りになるだろう。
「Pくん! Pくん! これなんてどう? ――セクシーでしょう?」
今度は、城ヶ崎莉嘉がこちらへと来る。何かの影響を受けたのか、グラビアなどで見るポーズをとっている。
「この前、お姉ちゃんがしてたポーズだよ? どう? 莉嘉の魅力にメロメロになった?」
まるで誘うように身体を揺らしているが、まだ子供である莉嘉がやると微笑ましい光景に思える。ちなみに彼女の姉は、城ヶ崎美嘉と言い同じ346プロダクションでアイドルをしている。
「莉嘉ちゃん、可愛いよねー」
「莉嘉ちゃんは、すっごくカワイイにぃー」
莉嘉の後から赤城みりあと諸星きらりの二人が来る。この三人は、ユニットを組んでからシンデレラ・プロジェクト内でもよく一緒に行動を共にしている。
「カワイイじゃないよ! セクシーなの!」
莉嘉が二人に抗議するが報われることはないだろう。
「……今いる方だけでも聞いてもらえますか?」
まだ他にもシンデレラ・プロジェクトにはメンバーが居る。しかし、この後にプロジェクト・クローネのアイドルに会うことになっている。その前にどうしても話しておきたい。
「――もしかして、大事な話?」
凛が武内の言葉を聞いて、何かを感じたのか真剣な顔つきになる。それに伴い他のアイドル達も武内の方を見る。
「……実は、先ほど美城常務の方から話がありました。――内容は、プロジェクト・クローネのプロデューサーをするようにと言われました」
「――ちょっと、待ってよ!? それってどういうこと?」
「……辞めちゃうんですか? プロデューサーさん……」
「ダメだよ! ……それだけは絶対に……」
反応は様々だが、一様に自分がプロデューサーを辞める事に反対してくれる。不謹慎かもしれないが、嬉しいと思う。
「……そうではありません。あくまでも兼任となります。こちらとプロジェクト・クローネのプロデューサーの両方をすることになります」
辞めないと知ったからかアイドル達の表情に安心の色が見える。
「……詳しく聞かせて」
凛が一歩前に出る。
「美城常務から言われたのは、プロジェクト・クローネの一部をプロデューサーとして担当するようにと。その際に私に部下を付け、送迎などの雑務を他の方に担当してもらうと言う内容です。それ以上に関しては、今の所は聞かされていません」
「……内容にもよるけど、時間は減るけど今とあまり変わらない? ……どうなの?」
凛をはじめ、アイドル達はこちらの意見を聞きたけだ。
「プロデュースに関しては、これまで通り私が担当します。ですが、今までと違い皆さんと関わる時間は減ると思います。……これまで、関わりが上手く取れない事による問題もありました。正直なところを申しますと、不安があります。……また、皆さんの事をよく理解せずに動いてしまう事に……」
シンデレラ・プロジェクトの前にも似たようなプロジェクトを任された事がある。その時の経験からアイドルと距離を取るようになってしまった。そのせいで、彼女達を苦しませることに繋がってしまった。
「――どうにもならないの?」
「……これは、会社としての命令になります。もし逆らえば、シンデレラ・プロジェクトのプロデューサーですらいられなくなる可能性もあります」
「……そんなの……ずるいよ……」
未央の口から言葉が零れる。
「そんなのどうしようもないじゃん! プロデューサーに……辞めてほしくない……」
「私も嫌です! プロデューサーさんとの時間が少なくなるのは嫌ですけど……それでも一緒に頑張っていきたいです」
他からも似たような言葉が出る。これだけ自分を思ってくれているのは嬉しい。しかし、だからと言って何もできない。
「皆の意見はわかったでしょ? 皆、プロデューサーには辞めてほしくない。……だったら、プロデューサーがやる事は一つでしょ?」
「……そうですね。私は、プロジェクト・クローネのプロデューサーをやります。――ですが、シンデレラ・プロジェクトのプロデューサーでもあります。……何かあれば、言って下さい。私は、皆さんのプロデューサーなのですから」
そう、前と違い今は共に歩む事が出来る。自分を信じてくれるアイドル達と共に。
♢♢♢♢♢
「……どういうつもりかな?」
「不思議な事を聞かれるのですね」
今西部長は、美城常務の下を訪れていた。
「なぜ、彼を君の下へと招くのかな?」
「――決まっています。優秀な人材を適切な場所に配置するのが私の仕事です。彼は、私の前でその力を見せた。ならば、私はそれに答えるだけ。より、346に相応しいアイドルを育てる為に彼の力を使う……それだけの話です」
「……確かにそうかもしれないが――」
「彼が優秀な人材だと教えてくれたのは、誰なのかをお忘れなく。私とは違う形で、どうやって彼女達を磨き上げ、輝かせるか見せてもらうとしましょう」