美城常務に言われ、プロジェクト・クローネのアイドルと346プロダクション内にあるカフェで会う事になっている。直接ではないが、シンデレラ・プロジェクトの渋谷凛から話を聞いているアイドル達だ。
「初めまして、武内と言います」
「私は、神谷奈緒です」
「アタシは、北条加蓮だよー」
簡単な自己紹介をしておく。二人は、凛と共にトライアドプリムスと呼ばれるユニットを組んでいる。こちらと同じで、凛から話を聞いているからかそこまで緊張はしていないように思える。
「なんだか大変な事になったね。さっき、凛とlineしてたらいろいろと言ってたよ?」
「こういうのって……どう言えばいいかわからないけど、大人って大変なんだな」
どうやら心配してくれているようだ。こうして話すのは初めてだが、凛が言っていたように良い子達のようだ。
「担当するアイドルやユニットを掛け持ちすること自体は珍しい事ではありません。……今回は、少し疑問の余地はありますが……」
「そうだよね。凛から聞いてるけど、常務といろいろあるみたいだもんね」
「でも、なんでなんだろうな? ……言いにくいけど、常務とあんまり仲が良いようには見えないんだけど?」
「それに関しては、今までの事を評価してのものだと聞いています。実際のところはわかりませんが、私がお二人の担当をさせて頂く事には変わりありません。これからは、よろしくお願いします」
「こっちこそよろしく……今更だけど、アタシ普通に話してるけど……まずかったりする?」
加蓮は、こちらの様子を見ている。どことなくこちらを試しているようにも思える。
「別にかまいません。渋谷さんからは、お二人は真面目な性格だと聞いています。場所や相手を見て、敬語などは問題なく行えると。ですので、私と居る時ぐらいは普段と変わらずに自然体で居てもらってかまいません」
「……ふーん、凛から聞いてたけど話が分かる人なんだね」
どうやら加蓮は、こちらのことを試していたようだ。
「私は、止めたんだけど……どうしてもって……」
「――だってさ、これから一緒にやるんだよ? もし気が合わなかったら嫌じゃない」
「でも、相手を試すようなのは……」
奈緒の言葉に加蓮も言葉に力が無くなって来る。
「……アタシだって嫌だけど、急に担当が代わったんだよ? 疑うのは仕方ないじゃない」
どうやら急な担当の変更で不安があったようだ。話を友人から聞いているとはいえ初代面には変わりない。
「北条さんの気持ちもわかります。急に担当が代われば不安にもなると思います。……これからは、もし何かあれば言って下さい。私は……あまりそう言った事には気づきにくい所がありますので、言って頂けると助かります」
二人は、考えるようにしてこちらの様子を見ている。
「……うん。そうする。アタシは、北条加蓮。改めてよろしくね、プロデューサー」
「……ごめん、試すようなことしちゃって。私も改めてよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
三人は、改めて挨拶を行う。
「それで、具体的には何か変わるの?」
「……そうですね」
美城常務の方から彼女達に関する資料を渡されている。内容は、個人のプロデュースとトライアドプリムスに関する物だ。
「基本的な方針は、常務の物をそのままで行います。私は、それの補助を行う形になると思います」
「補助?」
「それって、どんな感じになるんだ?」
「……内容を見た限りだと――」
美城常務の考えるアイドルは、過去に居たスターのような絶対的なアイドルだ。唯一つの輝き。歴史ある346に相応しいアイドルを創りだすことが目的と言える。ただ――それならばなぜ自分が呼ばれたのかがわからない。
「――基本的には、私に任せるとなっています」
渡された資料には、美城常務の手掛けた物もある。しかし、それ以上の物はない。あくまでも自分にプロデュースをさせるのが目的だ。だから、渡された資料からわかるのはこれまでのものでしかない。これからに関しては、方針以外は白紙だ。
「……プロデューサーが決めるの?」
「……そうなりますね」
「……なんだろう。当たり前の事なんだけど、なんだか違和感があるような気がするのは、私だけか?」
奈緒の意見に二人も同意する。武内と美城常務は考え方が違う。それこそ真逆か別物と言ってもいい。
「常務とプロデューサーって、仲良くないよね?」
はっきりと言われるが、良いとは言えないだろう。
「私には、常務の考えまではわかりません。しかし、お二人のプロデュース。そして、トライアドプリムスのプロデュースを任されました。私にできる事は、皆さんの要望を聞きながらプロデュースをしていく事だけです」
「私達の要望?」
「いきなり言われても困るな」
「すぐに決める必要はありません。今はまだ、常務の方で決めた物があります。それを共にこなしていく上で決めて行けばいいと思います」
「なんだか難しそうな話だね。今までは、常務の方で全部決めてたからあんまり考えなかったけど、これからは自分で考えないとダメってことだよね?」
「難しいけど……悪くはないのか?」
二人は、今後の事について考えているのだろう。今までの事を含めて考えているようだが、上手く考えがまとまらないようだ。
「わからないことがあれば、その時は言って下さい。お二人の考えを形にするお手伝いをするのが私の仕事ですから」
他に方法がない。美城常務が自分に何をさせたいのかがわからない以上は、できる事に目を向けて行かなければならない。
「――難しいことは今度にしよう! お腹も空いたし、何か食べに行こうよ!」
「別に此処でよくないか? ……わかった、どうせまたハンバーガーとかだろう?」
「いいじゃん、おいしいよ?」
「この前、食べたばかりだろう?」
「食べたいものは食べたいの! ねぇ、プロデューサーも食べたいよね? ハンバーガー」
「――私は、別にどちらでもかまいませんが……その……私も一緒にですか?」
「当然でしょ? 親睦会も兼ねてなんだから。プロデューサーの事も知りたいし、シンデレラ・プロジェクトの事も教えてほしいしね。後は、そっちでの凛の事も教えてほしいな」
「渋谷さんですか?」
「そうそう。だって、そっちってだいぶ好きにできるって聞いたよ? ……凛がそっちの話をしている時……すっごく楽しそうなんだよね」
「……確かにそうだな。私も聞かせてほしいな」
普段、凛とどのような話をしているのだろうか? ただ、凛がシンデレラ・プロジェクトの事を良く思っていてくれているようで安心する。
「……そうですか。では、御一緒させて頂きます」
「やったね! じゃあ、早く行こうよ!」
「なあ、凛はどうする?」
「今回はいいよ! だって、凛が居たら聞けない事もあるかもしれないじゃん」
「――そうだな。たまには、私がいじる側に回るのもわるくないか」
「たぶん、奈緒には――無理な気が……」
「――なんだと!」
加蓮は、奈緒から逃げるように走り出す。そんな彼女を奈緒が追いかけている。これからは、凛を加えてこの三人とやって行く事になる。それが上手く行けば、他にも担当するアイドルが増えるかもしれない。