プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第22話

武内が担当し、ライブに参加するプロジェクト・クローネのアイドル達に現状の説明をする。

 

「……つまり、アタシ達は知らない間に成長してたってことなの?」

 

「なんだか実感がないな? レッスン後は、いつもクタクタな記憶しかないんだけど?」

 

北条加蓮と神谷奈緒は武内の言葉に疑問を浮かべる。

 

「基本的にプログラムは、皆さんに疲れが見え始めた頃から開始されます。そのため、実感が湧きにくいのだと思います。トレーナーの方から指示が多く出始めた時がその開始になります」

 

「……んー、よくわかんなーい。なんかそんな感じもするような? しないような?」

 

「……私も疲れていてその辺りはわかりません」

 

「私も記憶があいまいで」

 

塩見周子、鷺沢文香、橘ありすもレッスン中の記憶がはっきりしない。疲れにより判断が難しくなっている頃に行われるため記憶が曖昧なのだろう。

 

「その辺りが皆さんの限界近くだという事です。その辺りからこちらの判断でプラグラムに基づき行っています。本日は、本番と同じ形式で行おうと思います。その方がわかって頂けると思いますので」

 

これから予定しているプログラム通りに疑似ライブを行ってもらう。今の彼女達なら多少の変更などもできるので、これから撮る彼女達の一部始終は美城常務などが参加する会議に提出することになる。場合によっては、更なる内容の追加も考えられる。より素晴らしいライブを行うために。

 

「一ついい? 本番と同じようにすると出番がない時があるんだけど?」

 

渋谷凛から質問が出る。

 

「今日は、皆さんに現状を知ってもらいたいと思います。出番の無い方は、他の方が行っているのを見ていて下さい。その方がわかりますので。他に質問がないのでしたら始めて行きます」

 

ライブでの予定は以下の通りだ。初めに渋谷凛、北条加蓮、神谷奈緒、鷺沢文香、橘ありす、アナスタシア、塩見周子の7人でライブが始まる。予定では、2曲行われる予定だが時間的な余裕はあるので追加もいいかもしれない。それからは、既存のユニットで行う。最後には、要望があった文香のソロ。既存以外でのユニットやソロを行う予定だ。もちろんライブの締めで7人全員でのステージが行われる。

 

基本的に渋谷凛が最も多く出番がある。彼女には、文香、加蓮、ありすの体力調整としての役割がある。全員とユニットを組んでもらい、尚且つソロも用意されている。奈緒、周子も凛と同じように出番が多めになる。ソロはないが、全員とのユニットがある。アナスタシアは、バランスよくユニット、ソロが配置されている。凛の次に全体の調整役を担ってもらうことになる。文香に関しては、出番はできるだけ減らしソロに備えてもらう事になる。彼女の要望を叶える為にも余裕を残す形で送り出したい。加蓮に関しては、美城常務の方からの指示でソロを追加されている。本人が望む質の向上の一環との事だ。本人も了承しているので問題はない。あるとするなら体力面だが、今の加蓮なら特に心配はしていない。ありすに関しては、年齢的に体力が多くはないので出番は少ない。その代わり、立ち位置は中央になるので丁寧な動きが求められる。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

本番さながらの内容で通しを行った。服装は、レッスンの為に動きやすい服装だ。観客も居ないので精神的負担も少ないだろう。ただ、息は切れ、肩を揺らしてはいるものの表情には余裕が見える。

 

「……本当に成長してるんだ……アタシ……」

 

加蓮は、自分の胸に手をあてる。心臓が激しく動くのを感じる、息も激しい。でも、ふらつく事などはない。

 

「……不思議なもんだな? いつもならもうダメって感じなのに」

 

奈緒も不思議そうに身体を動かして確認している。彼女は、凛に続き体力がある方なので加蓮以上に不思議に思っているはずだ。

 

「手を抜いたわけじゃないんだよねー? ふっしぎだなー?」

 

周子も奈緒と同じように身体を伸ばしながら確認している。どうやら不完全燃焼のようで欲求不満に思える。

 

「……でも、これなら安心できます」

 

文香は、自分の体力面に対しての不安が消えたからか安心感がある。これで、ソロに臨めると。

 

「これならもう少し出番があっても大丈夫そうですね」

 

ありすは、出番が少なかったことに少し不満があるようだ。実際にやってみて余裕があるからこそそう思えるのだろう。

 

「……こうしてみるとわかるもんだね。本当に成長してる」

 

この中でも最も成長している凛からすれば、おそらく実感は一番強く出ているだろう。今の彼女の目には、更なる向上心の色が見える。

 

「……Он выдвинул перед тем。前に進んでいるんですね」

 

アナスタシアは、実感を受け止めるように自身の身体を抱きしめる。彼女は、自分の可能性を信じてプロジェクト・クローネに参加した。だからこそ他の人よりも多くのものを感じているのかもしれない。

 

「今回の件を踏まえ、もう一度検討が行われます。時間も無くなっては来ましたが、今の皆さんなら十分に対応できると思います。なにか意見などがありましたら私の方で受けますので言って下さい」

 

武内の言葉をそれぞれが受け入れ、考え込む。彼女達の顔を見る限り、内容の変更を考えていく事になるだろう。成長したからこそ現状への不満があるからだ。

 

「――それでは、残りはトレーナーの方に任せるとします」

 

通しでやるためにデータを取りながら見ていたマスタートレーナーが前に出る。

 

「今撮った物を見ながら問題点を説明して行く。それが終わり次第、レッスンを開始する」

 

武内が話している間に準備をしていたモニターに先ほどの映像が映し出される。

 

「これからは、細かい部分を調整していく事になる。大雑把なものよりも難しいと思っておいた方がいいぞ」

 

マストレの言葉からモニターへと意識を移す。そこに映る自分達の動きを確認していく。より良く、高みへと昇るために。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

プロジェクト・クローネの方は、マストレに任せて自分は別のレッスン場へと向かう。既に準備はできている頃だろう。

 

「――お疲れ様です」

 

レッスン場に入ると、新田美波、諸星きらり、前川みくの3人が既にレッスンを行っている。それも汗の量から考えて相当身体を酷使させられたのだろう。

 

「準備はしておいた。後は、好きにするといい」

 

ベテラントレーナーが武内に言葉を掛け部屋の外へと出て行く。ベテトレには、彼女達を限界まで疲れさせるように頼んでおいた。ただ、今回行う事には賛成ではない。そのため、途中で席を外す。

 

「……大丈夫ですか?」

 

これから行うのは、レッスンではなく実験だ。不足している経験を補うためだけの。

 

「……大丈夫です……」

 

「……きらりんは……まだまだだいじょーぶだよぉ……」

 

「……みくも……」

 

シンデレラ・プロジェクトの中でも体力がある3人でも現在のプロジェクト・クローネが行っている基礎強化ですら負担が大きい。予想以上にシンデレラ・プロジェクトとプロジェクト・クローネの差は大きいのかもしれない。

 

(私の指導力不足ですか……)

 

シンデレラ・プロジェクトのレッスン内容は、主に自分で考えている。ベテトレに意見を貰いながらではあるが自分で決めている以上この差はプロデューサーである自分の責任だ。

 

「……始める前に一つだけお願いがあります。僅かでも体調の変化や違和感を覚えた場合はすぐに言って下さい。これは、レッスンではありません。皆さんの協力を得た上で行う実験になります。そのため、皆さんの協力が必要になります」

 

「……わかっています。何度も話は聞きましたから」

 

「……きらりんは、じょーぶだから平気だよぉ。だから、安心してほしいにぃ」

 

「……みくもこの程度じゃへこたれない」

 

事前に危険性は何度も説明した。それでも3人は、協力してくれる。

 

「……わかました。では、始めたいと思います」

 

まだ草案の段階ではあるが考えていたプログラムを実施する。内容もそうだが、彼女達の変化を見逃さないようにする。重要なのは、成長ではない。彼女達が安全に前に進める道を見極めることだ。

 


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