「――ふにゃあー! もうクタクタにゃー!」
「――きらりんもお疲れさんだにぃ~」
レッスンが終わり、アイドル達は疲れ果てまともに話す事が出来なくなった。それからは、武内が献身的に介助を行い話せる所まで回復した。その第一声が前川みくの声であり、それに続くように諸星きらりも声を上げる。
「……予想よりも大変ですね」
アナスタシアがプロジェクト・クローネの方に参加してから新田美波は努力を続けた。その美波でも他の二人よりはマシではあるが負担に身体が悲鳴を上げている。
「――今日は、ここまでにしておきましょう」
彼女達の頑張りは予想以上だった。ただ、それがどうなのかがわからない。自分の予想が低かったからか? それとも無理をさせ過ぎたのかがわからない。
「ねー、Pちゃん。それで、みく達はどうなの?」
みくの言葉で他の二人もこちらを見る。
「私の予想以上にはできていました。日頃から行われているレッスンを真面目に受けている結果だと思います」
武内の言葉に一瞬喜びそうになるが、すぐにそれは影を潜める。
「……でも、まだまだ足りないんですよね?」
「……凛ちゃんもアーニャちゃんも、他のみんなもすっごぉーい……きらりんもガンバガンバしないといけないにぃ」
「――みくは、負けたくない! みくは、もっとがんばりたい! ……そうじゃないと、嫌だ……」
心を隠す余裕もない。心の声が表に現れる。
「今回の件を踏まえて再検討します。今から体調などに変化がありましたらすぐにお願いします」
レッスンが終わったと言っても安心はできない。むしろ、ここからが本番と言っていい。酷使した身体には、必ず何かしらの形で表れるはずだからだ。
「わかりました。二人とも、私も相談に乗るから何かあったら言ってね」
美波が武内のフォローに回る。おそらく、武内ではできない相談もあると考えての事だろう。男と女では悩みの種類も変わってくる。
「この後は、どうされますか? 予定もありませんので帰る事もできますが?」
「うーん。みんなはーどうすゆ?」
「皆の所に寄っていくのもいいけど、今はベッドで休みたいかも。Pちゃんが送ってくれるの?」
「そうですね。新田さんと前川さんは寮になりますので、帰られるのでしたら諸星さんとどちらが先に帰られますか?」
「私は、どっちでもいいけど?」
「みくもどっちでもいいにゃ」
「きらりんもどっちでもいいよぉー」
譲り合いは素晴らしいが決まらないのは困る。
「……もし、時間があるのでしたら今日のお礼を兼ねて何か食べに行きませんか?」
「食事ですか? プロデューサーさんと?」
「――お肉が食べたい! Pちゃんのオススメのハンバーグを要求するにゃ!」
「うっきゃー、きらりんも一緒に行きたぁーい! みんなで一緒に食べればハピハピだにぃー☆」
「わかりました。それでは――」
「――ちょっと待てーい!」
レッスン場の扉が開き、本田未央をはじめシンデレラ・プロジェクトのアイドル達が中に入ってくる。
「――本田さん!? それに皆さんも……」
レッスンに夢中になって気づかなかったが、どうやら気になって見に来たのだろう。今回の件に関しては、シンデレラ・プロジェクトのアイドル達に正式に公表して行っている。
「心配で来ちゃいました! お疲れ会をするなら私達も参加したいです!」
「そうそう。頑張ったのはみんなだけど、アタシ達も一緒にいたいからね。ヨロシクね、Pくん☆」
島村卯月と城ヶ崎莉嘉の言葉に他のアイドル達も賛同する。
「……大丈夫ですか?」
渋谷凛とアナスタシアの二人は、プロジェクト・クローネの方のレッスンで居ないが、それでもシンデレラ・プロジェクトのアイドル達は大勢居る。美波の心配もわかる。
「……この人数ですと車では無理ですので、下のカフェになりますがよろしいですか?」
不満の声もなくはないが、全員一緒の方が良いらしくすぐに収まる。とはいえ、全員分となると少し困る。
(経費で落ちるでしょうか?)
そんな事を考えなくもないが、普段からお世話になっている彼女達に恩返しができるなら安いものだろう。
♢♢♢♢♢
「今度、何処に行こうか?」
「アタシは、ハンバーガーでも良いけどせっかくだからオシャレな所かなー」
「私は、何処でもいいぞ。奢ってもらえるなら」
シンデレラ・プロジェクトのアイドル達との食事が終わる頃に連絡があり、プロジェクト・クローネのアイドル達を送る事になった。その時に食事の件が知られ、クローネの方でもお疲れ会をする事になった。寮の方から先に送り、疲れていた鷺沢文香を次に送り届け、今は渋谷凛、北条加蓮、神谷奈緒を送っている所だ。
「ねー、プロデューサー。何処かオシャレな所とか知らない?」
加蓮が身を乗り出しそうな勢いで聞いて来る。少し前までは、レッスン後にここまで元気が残っているとは思わなかった。
「取材などで行った所なら知ってはいますが?」
「ふーん。意外と詳しいんだ」
「だったら、プロデューサーに決めてもらえばいいじゃん。私は、特に好き嫌いとかないから皆で決めてくれていいよ」
「プロデューサーのオススメはあるの?」
「やめといたほうがいいよ。どうせ、ハンバーグになるから」
「ハンバーグ? プロデューサーは、ハンバーグが好きなの?」
「はい」
「そうなんだー。ねぇ、そのハンバーグ屋さんにハンバーガーとか置いてない? たまには、ジャンクフード以外のも食べてみたいかなー」
「ある所もありますが、そこにしますか?」
「なあ、文香や橘さんは肉よりも他の方がよくないか? 文香とか肉を食べるイメージがないんだけど」
「周子とアーニャもないよね?」
「そっか……じゃあ、そっちは今度二人だけで行こうか。ねぇ、プロデューサー?」
「機会があれば」
「約束だからね!」
喜ぶ加蓮を凛は、無言で見ている。
「それなら私も何処かお願いしたいな。あんまり詳しくないから良い所があったら教えてほしいかな」
「何かリクエストがあるなら聞いておきますが?」
「んー、あんまりないんだよな。ああ、そうだ。変わった物がいいな、珍しくて美味しいの。そんなのってある?」
「探しておきます」
「……プロデューサー。私も何処か行きたいんだけど?」
鏡越しに見る凛は、こちらをジッと見ている。
「前の所にしますか?」
「ふーん。まあ、そこでもいいよ。プロデューサーが好きなお店だしね。それに美味しかったし」
「気に入ってもらえて何よりです」
「……アタシもそこにする。そこって、ハンバーグ屋なんでしょう?」
「はい。シンデレラ・プロジェクトの方達も気に入ってもらえていますので味は保証します」
「じゃあ、いつ行こうか?」
「おいおい、プロジェクト・クローネのお疲れ会はどうするんだよ?」
奈緒の言葉で目的を思い出したからか話は戻る、ただ、結局他の人達の意見も聞いて決めることになるだろう。
♢♢♢♢♢
《おまけパート》本編とは関係ないです。
「ふーん、アイドルの女の子達と食事にねー。ビールお代わりで!」
「武内君も大変ね。私は、ワインでお願い」
「武Pも大変だねー。ゴクゴク、ぷっはー! やっぱり、仕事の後のビールは最高だねっ!」
アイドル達と何処に食事に行くかを前に担当していたアイドル達に相談する。と言っても、川島瑞樹以外はまともに聞いていないだろう。片桐早苗と姫川友紀は、ハイペースでジョッキを空けて行く。
「武内さんも飲みましょう! 酔ったらいけないからって、お酒を避けちゃダメですよー!」
隣に座る高垣楓にグラスになみなみと日本酒を注がれる。ストレートで。
「でも、どうかしらね? あまり気取ったお店だと若い子達には居心地が悪いんじゃないかしら?」
「そっかもねー。騒げないと困るかもねー」
「早苗さん、焼き鳥取って!」
「私は、お酒が飲めれば大丈夫ですよ、ふふっ」
早苗はともかく、残りの二人は人選ミスかもしれない。
「……人数も居ますので」
「……そうね。でも、忙しいから分ける事もできるんじゃないの?」
「皆さんお忙しいのでできれば一緒の方が。最近、全員で会う機会もないので」
「だったら、いっそのこと頼んじゃえば? お酒がなければいけるんじゃないの?」
「お酒が飲めないのはヤダなー」
「どうにかして持ち込めないでしょうか?」
「あなた達は、参加しないでしょう?」
久しぶりに飲むことになった訳だが相も変わらずのようで安心する。
「でもさー! あたしもかまってほしいんだけどなー? 早苗さんも最近遊んでないんだぞー? どっか連れてけ!」
「あたしは、キャッツの試合でいいよ! 今、スポーツ番組のおかげでチケットが取れるからね! 行きたくなったらいつでも言ってよ!」
「私は、こうして飲みに行ければいいです。でも、温泉も行けたらいいですね! この前、ロケで行った所が良かったんですよ!」
「皆、無理は言わないの。今は、担当じゃないんだから。……でもそうね。私もオシャレなお店で男性にエスコートされたいわ。お願いね、武内君」
瑞樹にウインクされるが困る。
それからも不毛な話し合いが夜通し続くことになり、お店選びは自分でする事になる。
大人組が書きたかっただけです。
それは置いといて少しだけ本作についてお話を。
この作品は、アニメ本編の島村卯月のソロライブの後になります。
あの時、美城常務は卯月のライブを見て、更にそれまでの武内Pの動きを見て行動に移す形になっています。
一体なにを考えているかは前編の最後の方でわかります。
ただ、ライブまでが前編の半分なんやで。