「プロデューサーさん。今日は、クッキーを焼いたんですよ!」
「四葉のクローバーをたくさん作りました。みんながたくさん幸せになれるように」
「おいしいよ」
仕事の話をするためにシンデレラ・プロジェクトの待機場所に来た。用があるのは、三村かな子、緒方智絵里、双葉杏の3人だ。
「ありがとうございます。ただ、今日はキャンディアイランドの皆さんに仕事の話を持ってきました」
「お仕事ですか? 嬉しいです!」
「その、どんなお仕事ですか?」
「杏は楽なのがいいな」
「仕事は、2つです。一つは、料理番組になります。三村さんをメインに緒方さんには助手として番組を行って頂きます。ジャンルに関しては、基本的にはお菓子になりますが内容を見ながら他のも考えていく形になります」
「お菓子作りの番組ですか!? ……でも、私なんかがメインでいいんですか?」
「かな子ちゃんなら似合ってると思うよ。私も一緒に頑張るからね」
「そうそう。かな子ちゃんなら適任だよ。それで、杏はないの?」
「双葉さんには、番組のマスコットキャラクターを兼ねて料理の仕方などを教える役になります。衣装などもそうですが、そちらの方のデザインも現在考えて頂いています」
「作るよりは楽そうだね」
杏には言っていないが、マスコットキャラクターとしての宣伝などのイベント活動がある。番組だけで見れば楽かもしれないがそれ以外も含めると大変だと思う。
「それで、プロデューサーさん。もう一つのお仕事は何ですか?」
「『幽体離脱フルボッコちゃん』にキャンディアイランドとしてゲスト出演して頂きます。詳しくは、こちらをご覧ください」
武内は、3人に企画書を渡す。ちなみに幽体離脱フルボッコちゃんとは、アイドル小関麗奈がマスコットであるアイドル太田優の飼い犬であるアッキーと出演している子供向け番組である。実写、アニメの両方があり、今回はアニメの方だ。
「枠として見れば僅かですが、キャンディアイランドとして出演する形になります」
「この番組って、けっこう視聴率いいよね? よく取れたね、こんなの?」
「ついこの間、外回りをしている特に撮影現場の近くに行く事になりまして、その時に小関麗奈さんの担当の方と食事をする事になりました。それで、話をしてみたところ出演が決まりました」
「コネってやつ? 随分と簡単に決まるんだね」
「話のネタを考えるのも大変だそうです。番組自体も長いですからね」
人気があり長期化している番組なので、現場としてもネタ切れに悩まされていると話を受けた。それで、試しに言ってみたらすんなりと通った形だ。
「3人には、少しですがセリフも用意されていますので今度収録に行きます。歌に関しては、音源を使用しますのでそれほど難しい仕事ではないと思います」
「本人役だしね」
「でも、アニメの世界に自分が居ると思うと凄いですね!」
「うん、楽しみだね!」
どうやら喜んでもらえたようだ。詳しい事は、企画書を見ながら説明して行く。
♢♢♢♢♢
「――お疲れー」
神谷奈緒がシンデレラ・プロジェクトの待機場所に顔を出す。
「あれ? プロデューサー?」
「お疲れ様です。神谷さん」
奈緒は、荷物を置いて空いている席へと座る。
「なんで、こっちに居るんだ?」
「お仕事のお話を持ってきてくれたんです!」
「仕事?」
「料理番組とフルボッコちゃんのゲスト出演だってさー」
「マジで? 本当にフルボッコちゃんに出るの?」
「読んでみる?」
杏は、奈緒に企画書を渡す。
「……本当だ。本当に出るのか」
奈緒は、武内の方を見る。
「なあ、プロデューサー。私達もこういうのってないのか?」
「こういうのですか?」
「いや、その、なんだ。アニメとかそういう仕事」
「……そう言えば、神谷さんはアニメや漫画がお好きでしたね」
「うん、だからさ。やってみたい、かな? 無理にとは言わないけど」
「わかりました。検討してみます」
「本当か!? 本当に取ってくれるのか!? 期待してもいいんだな? 約束だからな!」
普段と違い勢いがある。
「オタクにとっては、最高の仕事だもんね」
「オ、オタクじゃねーしっ! 好きなだけだし……」
「はいはい、奈緒は可愛いよ」
「なんで、凛たちと同じようにからかうんだよー!」
奈緒の言葉は、既にだらけモードに入っている杏には届かない。
♢♢♢♢♢
仕事が終わったので武内がオフィスに戻ろうとしたところ、奈緒も一緒に付いてきた。どうやらプロジェクト・クローネの方には誰も居ないので暇なんだそうだ。同じトライアドプリムの渋谷凛は、ニュージェネレーションの仕事で居ない。北条加蓮も用事があり今日は居ない。シンデレラ・プロジェクトの待機場所には、キャンディアイランドの3人が居るが仕事の話を聞くと羨ましくなるので居辛いらしい。
「なあ、プロデューサー」
奈緒は、ソファーで横になりながらマンガを読んでいる。
「なんでしょうか?」
「今更だけどさ、私ってプロデューサーを呼び捨てにしてるよね? やっぱり敬語とかの方が良いのかな? プロデューサーさんとか」
「別にどちらでもかまいませんけど?」
「そうかー。いやさ、本当に今更なんだけど、プロデューサーって結構偉いんじゃないのかなって思ったんだよね? 美城常務と話せるし、こんな部屋も持ってるし、仕事とかもできるからさ。凛たちが呼んでるから普通にプロデューサーって呼んでるけど、立場的にまずい気がして」
マンガから視線を離して、こちらの様子をチラチラと窺っている。
「私としては、仕事の無い時ぐらいはゆっくりしてほしいと思っています。何処でもいいので、気が抜ける場所がある方がいいですから」
「私としても今の方がいいからいいんだけど、もしダメだったら教えてくれよな? 担当アイドルがちゃんとしてないからって迷惑掛けたくないから」
「ありがとうございます。気を使って頂きまして」
「いつもお世話になってるからな。プロデューサーが担当になってからいろいろと楽してる気がする。この仕事ってそんなに楽なもんじゃないんだろうけどさ、何かあってもプロデューサーが居れば何とかなる気がするから」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
「そっか。じゃあ、このままでいっか」
奈緒は、再びマンガを読み始める。
「――あっ!? そういえば、宿題があるんだった!」
マンガを閉じると急いで鞄から宿題を取り出す。
「……プロデューサー少しいいか? わかんない所を教えてくれ」
「別に構いませんよ。必要な時に呼んでください」
「じゃあ、今から頼む!」
「今からですか?」
「それがさー、最近レッスンばっかりで勉強する時間がないからかちょっとなー、あはは……」
奈緒の近くには、先ほどまで横になりながら読んでいたマンガの山がある。
「わかりました」
奈緒に教える為に作業を止めて、ソファーの方へと移動する。
「本当に助かるな。プロデューサー教えるの上手いから助かるよ」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。この前も三人で教わったしな。やっぱり、慣れてたりするのか?」
「そうですね。親御さんから勉学との両立は言われていますので。ただ、必要な場合はプロに頼むこともあります。必要でしたらこちらの方で手配しますので言って下さい」
「便利なもんがあるんだな。でも、今はいいや。プロデューサーに教えてもらえればいいし」
奈緒から宿題を見せてもらい教えていく。奈緒もまったくわからない訳ではないようで、そこまで教えるのは難しくない。
「なんだかさ、プロデューサーって兄貴みたいだよな? 私は、一人っ子だからわかんないけど頼りになって勉強とか見てもらうのってそんな感じがしないか?」
「どうなんでしょう? 私も一人ですのでわからないですね」
「じゃあ、今だけは兄ってことでよろしく! 頼むぜ、兄貴!」
「……わかりました。兄らしく頑張ってみたいと思います」
それから宿題を教えている間、奈緒から兄貴と呼ばれることになる。ただ、こちらは特にこれといって変わることなく普段通り宿題を教えていく。
♢♢♢♢♢
「ふーん。プロデューサーが兄ね。まあ、悪くないかな? 私にも教えてね、兄さん」
「可愛い妹にべんきょー教えてー! 今度、テストがあるんだよ、お兄ちゃん!」
次の日。トライアドプリムのレッスンが終わった後に渋谷凛と北条加蓮がやって来たのだが、なぜかこんな感じになっている。理由に関しては、後ろで顔を赤くしている奈緒を見れば想像はつく。
「やめてくれよ……」
奈緒の必死の抵抗も、二人にとっては原動力にしかならない。
「それで、教えてくれるんでしょう? 可愛い、奈緒にだけ教えるってことはないよね?」
「アタシは、奈緒関係なくヤバいから教えてー」
「……そうですね。少し待っていてください」
切りの良い所まで終わらしてから二人に教える為にソファーへと向かう。
「じゃあ、兄さん。奈緒に教えたようにお願いね」
「プロデューサーでも、お兄ちゃんでもいいからお願い!」
「もう、やめてくれ……」
いったい此処に来るまでにどれだけ弄られたのかわからないが、今日はこのままだろう。
本当は、奈緒編をやろうと思ったけど延期で。
まだ、文香編と周子編しか終わってない。