「――プロデューサー!」
オフィスの扉が勢いよく開き、渋谷凛が部屋へと入って来る。
「――どうかしましたか?」
凛の勢いを受けて、思わず席から立ち上がる。ちなみにオフィスは、シンデレラ・プロジェクトのアイドル達の待機場所の隣にある。プロジェクト・クローネのプロデューサーになった際に元の場所へと戻る事になった。
「――どうかしたじゃ――ッ――」
理由はわからないが、凛に睨まれる。急いでいたからか頬が紅潮している。
「申し訳ありません。何があったのか話して頂けませんか? 正直な所、心当たりがありません」
また何かしてしまったのか? 最近の出来事を思い出す。
「プロデューサー」
「はい」
「……加蓮と奈緒と……話をしたよね?」
「……はい。それがどうかしましたか?」
聞き返すが、凛から言葉が返ってこない。代わりに凛の顔が赤く染まる。
(北条さんと神谷さんと話した事……)
初めて彼女達と話したのは昨日の事だ。加蓮の提案で、ハンバーガーショップで食事をした。話した内容は、シンデレラ・プロジェクトの事や凛に関する事。
「……なにか、渋谷さんに対して失礼な事を言ってしまいましたか?」
自分の記憶にはない。しかし、人によっては違う事もある。
「そ、それは……」
なぜか凛の反応が悪い。先ほどの勢いも今は見る影もない。
「話して頂けませんか?」
聞いておかなければいけない。今後、彼女達と関わっていくために。
「……やっぱり、なんでもない」
凛は、そう言うとその場から立ち去ろうとする。
「――待ってください!」
思わず凛を追いかけ、その手を掴む。
「私は、もう後悔したくはありません! ですから、教えてください! なにが渋谷さんを此処に来させたのか?」
「――ちょ、ちょっと……」
「――すみません!」
掴んでいた手を離す。
「……今思えば、大した事じゃないから……別に……」
「渋谷さん……」
「……そんな目で見ないでよ……本当に大したことじゃないから……」
凛がしおらしくなる。
「……ねぇ、プロデューサー。昨日の話の内容は憶えてる?」
「正確かどうかまではわかりませんが、シンデレラ・プロジェクトと渋谷さんのお話をさせて頂きました。そこで、渋谷さんに対して何か失礼な事を言ってしまいましたか?」
「……違う……言ってない……」
凛の口から小さな言葉が零れる。
「加蓮と奈緒に……いじられた……その、いろいろと」
「いじられた?」
「プロデューサーが……褒めてたって……感謝してるって……それで……」
静かに凛の言葉を待つが、それ以上は出てこない。
「……一つだけ聞かせて下さい。渋谷さんにとって、これから私と共にやる上で問題になる事ですか?」
なにがあったかはわからない。この様子だと、おそらくだが話してはくれないだろう。
「……問題にはならないよ……嬉しかったし。でも――もうダメ! これ以上は、無理ッ!」
凛は、勢いよく部屋から飛び出していく。
「……何かしてしまったのでしょうか?」
一人残され、自分が話した事を思い出す。
♢♢♢♢♢
「――おっ! おかえり、しぶりん」
「……ただいま」
隣にある待機場所に戻って来た凛は、空いている未央の隣に座る。
「急にどうしたの? なんだか、すごい勢いだったけど?」
「……なんでもない」
凛は、未央から顔を背ける。その顔は、赤い。
「――凛ちゃん! 私が相談に乗りますよ!」
様子を見ていた卯月が凛の所に来る。
「これでもお姉さんですから頼ってください!」
「……そういえば、そうだったね」
「そういえばって、なんなんですか!」
「いやーしまむーは、可愛いから年上だってこと忘れちゃうからね」
「だよね」
一応、凛や未央よりも卯月の方が年上だ。
「もう、二人ともー!」
「怒っても可愛いよ、しまむーは。それで、どうしたの?」
「……別に大したことじゃないよ」
「でも、プロデューサーに関係する事だよね?」
「そうですね。『プロデューサー』って言ってましたから」
先ほど、この部屋でスマホをいじっていた凛が、いきなりプロデューサーの名前を叫んで出て行った。
「……もしかして、この前の話?」
未央の言葉に卯月だけではなく、他のメンバー達の視線も集まる。
「……凛ちゃん、話してくれませんか?」
内容によっては、これからの事にも繋がる。
「……だから、本当に大した――」
部屋にいるアイドル達からの視線を感じる。
「しぶりん。私もそうだけど、みんな気にしてるんだよ? これからどうなるのかなって。だから話してくれない?」
未央の声はとても優しい。
「凛ちゃん」
反対側からは、卯月が。
「――からかわれたの……」
「……からかわれた?」
「プロデューサーが私を褒めてたってからかわれただけ! ……だから、この前のとは関係ない……」
声と共に凛の姿が小さくなる。ついでに顔は真っ赤だ。
「なんだそんなこと? しぶりんがプロデューサーに褒められて照れただけ?」
「――わ、悪い! ……恥ずかしかったんだから」
主に加蓮からだが、昨日の武内との会話の内容で凛をからかっていた。
「いやー恥ずかしいのはわかるけど、あんなに勢いよくプロデューサーの所に行かなくても……」
「でも、安心しました。何かあると思いましたから」
卯月だけではない。他のメンバーもホッとしている。
「――それで、しぶりん。どんな内容だったの?」
「――えっ?」
「――私、気になります!」
凛は、未央と卯月に詰め寄られる。
「どんな感じに褒められたの?」
「教えてください、凛ちゃん」
それから、他のメンバーも加わり一部始終を話すことになった。その後、プロデューサーの誤解も解けたが、しばらくの間、凛と武内が顔を合わせる事はなかった。
短くてすみません。
試しで書いているので少し短いのが続くかもしれません。
言葉遣いなどおかしな点があれば言って下さい。お願いします。