プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第33話

シンデレラ・プロジェクトの方で行われている実験は良くも悪くも順調だ。新田美波、諸星きらり、前川みくの頑張りによって結果は出ている。ただ、プロジェクト・クローネの方で行われたような物には遠く及ばず緩やかな物で個人差もある。

 

(新田さんの調子が良いですね)

 

実験内容を見ている訳だが美波の動きが一番良い。これに関しては、主にアナスタシアが原因だろう。彼女が美波にラブライカでの新曲があると話してしまったからだ。どうも二人でいる時に動揺してしまい美波に問われてバレたそうだ。アナスタシアが隠し事をできない性格なのもあるのだろうが、二人の仲はそれだけ深い物とも言える。予想外ではあったが良い方に働いているのなら良しとしておこう。

 

「今日は、ここまでにしておきましょう」

 

武内の声で実験が終わる。

 

「皆さんの動きは良くなりつつあります。これも皆さんの頑張りによるものだと思います」

 

三人は、汗を拭き、飲み物を飲みながら聞いている。前に比べると慣れたからか少しはマシになっただろう。

 

「ねえねえ、Pちゃん」

 

「なんでしょうか?」

 

「今度、みく達のLIVEはいつになるの?」

 

「ライブですか?」

 

「もうそろそろクローネのみんなのLIVEがあるでしょー? きらりん達もしたいなーって思うにぃー」

 

全員ではないがプロジェクト・クローネの方でライブがあるので意識しているのだろう。少し困ったがどうすべきか? 美波の方に視線を移す。

 

「他の皆も気にしています」

 

「そうですか」

 

美波には、少しだけ話をした。アナスタシアから新曲の話を聞いたこともあり改めて話す必要があったからだ。それでその時にもう一つの方の話もしてもある。

 

「実は、シンデレラ・プロジェクトの方でもライブは考えています。ただ、時機に関してはもう少しだけ待ってください」

 

これに関しては、主にアナスタシアと渋谷凛のプロジェクト・クローネの方での結果による。ラブライカで新曲を出す場合は、ライブで新曲の発表を行いたい。凛に関しては、アナスタシアにした話をライブ後に行う。凛に関していえば、トライアドプリムにニュージェネレーションの二つの選択肢があるからだ。もちろん、ソロでの道もある。そのため、最終的には凛の結果を待つ形でライブをと考えている。

 

「本当にあるの? みく達LIVEができるの?」

 

「うっきゃー! Pちゃん、すっごおーい! きらりんうれしくてハピハピだよぉー☆」

 

「おそらくですが、プロジェクト・クローネのライブが終わった後になります。その後に企画を正式に通しますのでその時に改めて皆さんにはお伝えします。ただ、あまり期待させてもどうかと思いますのでここだけの話にしておいてください」

 

「わかったにゃ! ……でも、李衣菜ちゃんには言っていい? 気になってるみたいだから?」

 

「きらりんも莉嘉ちゃんとみりあちゃんには教えてあげたいかなぁ?」

 

二人としては、普段から行動を共にする機会が多い相手に教えたいのだろうが……美波に助けを求めるように視線を送る。

 

「二人とも、プロデューサーさんから正式にあるまで待ちましょう。変に期待させてもよくないと思う」

 

「美波ちゃんが言うなら……」

 

「わがまま言ってごめんなさいだにぃ……」

 

「皆さんのお気持ちは良くわかります。ただ、先の事を気にしては足元が疎かになります。確かにシンデレラ・プロジェクトでのライブはありませんが、各ユニットではあります。できれば、その一つ一つに意識を集中してほしいと思います」

 

「でも、LIVEはあるんだよね?」

 

「はい。それに関しては、約束します」

 

「だったら、今を頑張るだけにゃ! もっともっと頑張ってLIVEにたくさん人が来てくれるようにみくは頑張るよ!」

 

「きらりんもみんなをハピハピさせていーっぱい人を集めちゃうよぉー。それで、もっとみんなでハピハピしたいなぁ☆」

 

「私も頑張ります。シンデレラ・プロジェクトのリーダーとして!」

 

新しい目標を知ったからかやる気が出たようだ。ただ、まだ秘密にしておかなければいけないので他の人達には申し訳ないと思う。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

今日も北条加蓮のレッスンはある。これからは、ライブが行われるまで毎日あるわけだが体調管理だけは気にしたい。

 

「もう大丈夫だよ」

 

レッスンが終わり、家に帰る途中に加蓮の要望で途中にあるファミレスに寄る。当分の間、レッスンが終わればそのまますぐに帰る事になっている。

 

「確かにアタシは、あんまり身体は丈夫じゃないけど、今はそんなことないのに」

 

「レッスンで体力面の心配がなくなっているのはわかります。ただ、今行っているのは通常よりも内容が濃いものとなっています。短期間でものにするために」

 

加蓮もその辺りは理解しているようで、わがままや文句を言ったりはしない。彼女自身が誰よりもそれを実感しているのだから。

 

「でも、やらせてよね? ……やらせてくれるよね、プロデューサー?」

 

時々自信が無くなる時がある。彼女もまだ子供だ。

 

「北条さんが望むことを私は手伝います。必ず北条さんが望む状態でステージまで送り届けます。それが、私の役割ですから」

 

「……なんだか不思議だよね? プロデューサーに言われると安心する。なんだか凛が言ってた事もわかるよ」

 

「渋谷さんが?」

 

「うん。あんまり人の事だから言えないけど、今は信頼してるみたい。何があったかは話でしか聞かないからわかんないけど、それでも今はプロデューサーの言葉なら信じられるみたいだよ?」

 

思いがけない言葉に嬉しくなる。こうしてアイドルから信頼してもらえていると聞くと救われた気持ちになる。

 

「アタシもプロデューサーの事は信頼してるからね? よくわからないけど今は実感があるんだ。階段を一つずつ歩いている気がするんだよね。こう、一歩ずつ前に。前は、アイドルになれたのが嬉しいだけだった気がする。でも今は違う。今は、アイドルをやってるんだなって気がする」

 

「それは、良い事だと思います。自分に自信がある証拠ですから」

 

「そうなのかな? でも自信か……少し前のアタシにはなかったのかもしれないね。アタシ、身体が生まれつき弱かったからなにもできないって思ってたから。どうせ、途中でダメになるって」

 

加蓮は、遠くを見ている。過去の自分を。詳しくは知らないが、物心つく頃から入退院を繰り返していたそうだ。やりたいことも上手くできず、徐々にする事もなくなっていったと。

 

「今の北条さんなら大丈夫です。共に道を歩く仲間達が心を支えてくれます。私も傍で必ず支えます。北条さんが諦めない限り、前に進めるように」

 

「……ねぇ、プロデューサー」

 

加蓮がこちらを見る。自分の目を。

 

「プロデューサーは、凛のプロデューサーだけど、他の人達のプロデューサーだけど、今だけは……私と居る時だけはアタシだけのプロデューサーで居てくれない? そうだったら今よりも安心できると思うから……ダメかな?」

 

どう答えるのが正解なのだろうか? 答えがあるのかもわからない質問に迷いはする。ただ、一つだけ言える事はある。

 

「私は、北条さんの担当のプロデューサーです。それだけは変わりません。これでは、答えにはなりませんか?」

 

加蓮は、武内の言葉をかみ砕き飲み込む。自分の中にゆっくりと溶かし入れるように。

 

「……それでいいよ。今は」

 

それからは他愛もない話をする。特に何かがあるような話ではない。ただ何故だろう? 加蓮の姿が少しだけ変わったように見えたのは?

 


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