プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第34話

いよいよ担当しているプロジェクト・クローネのアイドル達のライブが近づいて来た。今日は、実際に会場となるステージでリハーサルを行う。まだ機材などはないが、それでも頭の中には本番と同じステージがそこにあるように見える。

 

「今日は、本番を想定して行います。既に皆さんの実力なら問題なく行えるはずです。リハーサルだとは思わず全力でお願いします」

 

武内の言葉にアイドル達は返事をして、いよいよリハーサルが始まる。

 

内容は、以前より変更が少しだけある。一つ目は、最初に行われる全員でのステージの数を一つ増やすことになった。これに関しては、予想よりも全体的に実力が付く形となったからだ。武内をはじめ、美城常務やマスタートレーナーの予想以上の結果を彼女達は達成した。二つ目は、北条加蓮の内容が変わったために順番を入れ替える事になった。これに関しては、渋谷凛、神谷奈緒、塩見周子の3人が予定通り調整役に回る事になったので問題なく進められるだろう。

 

「――君はどう思う?」

 

隣でステージを見ている美城常務に問われる。

 

「予想よりも仕上がりは良いと思います。問題を上げるとするならば北条さんですが、トレーナーの方とも話しましたが間に合うと思います」

 

「報告通りのようだな。だが、最後まで気を抜かないように。舞台は終わるまで何が起こるかわからないものだ」

 

「わかっています」

 

二人はそれだけ話すと再びステージへと視線を移す。今も彼女達は、自分のできることをしている。最高のステージを創るために。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

簡単な打ち合わせを行ってからの通しのリハーサルは予定通り終わる。この後は、演出家やトレーナーなど多くのスタッフ達を交えて話し合いが行われる。特に音や光などは実際にやってみないとわからない所が多い。今回も調整が必要なようだ。それにステージでやってみて動きなどを見直す話も出る。これも実際に行ってみた上での話だ。

 

(どうしますか……)

 

話し合いの内容をまとめながら考える。主に考えるのは、加蓮の事だ。これ以上の負担は彼女の夢を壊しかねない。だが、彼らもプロである以上は簡単には妥協しない。

 

「――今は、ここまでにしておこう。詳しくは、改めて行う事にする」

 

美城常務の言葉で話し合いは終わり、休憩していたアイドル達の下へと向かう。

 

「簡単にですが、話し合いの結果をお話します」

 

まだ決定ではないがアイドル達に話を行う。変更点は、大きい物はないが逆に言えば急に変更したことにより本番で間違える可能性があるような物ばかりだ。別に問題になるような物はないが、だからといっていいわけではない。間違いはステージの質を悪くし、与える印象もその分悪くなる。今回のライブには多くの意味がある。それを考えれば間違えてはいけない。

 

「撮ってたのは見たけど、プロデューサーから見てどうだった?」

 

「私も気になるな」

 

休憩中にリハーサル内容を彼女達は見ていた。他の人間の意見も気になるが、近くで共に道を歩んだ武内の評価が一番気になるのだろう。全員から視線が集まる。

 

「何人かに関しては、問題はないと思います。ただ、今回新たに加わる修正点を含めて考えるのなら安心はできません。それ以外の方に関しては、おそらく自分自身が一番わかっていると思います。後は、その部分を直すだけだと思います」

 

武内は、話の途中で加蓮と目が合う。それ以外の人間は、他でもない加蓮だ。

 

「まだ時間は残っています。休憩の後、個別で行っていきますので呼ばれたらお願いします」

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

残りの時間は修正点が見直された順番で行われる。全員で行うものから先に話し合われ、次に複数のユニット。最後はソロになる。一度で決まれば幸運。数度で決まれば上出来。今回で決まれば普通と言ったところだ。

 

「ねぇ、どんな感じなの?」

 

既に見直しを含めて終わっている凛が隣に来る。

 

「修正点に関しては試している部分があります。再度持ち帰り検討が行われると思いますが、概ね順調だと思います」

 

「じゃあ、私はどうだった?」

 

「渋谷さんに関しては、特に不安に思う所はありません。ニュージェネレーションとの掛け持ちでここまで安定して結果が出せれば十分過ぎる物だと思います」

 

「ふーん。そっか」

 

凛の表情には自信が満ちている。話し合いの時でも凛に関しては良い意味で話題には上がらなかった。

 

「でも、ちゃんと見てよね? 私のプロデューサーなんだから」

 

「わかっています」

 

二人はそれだけ言葉を交わし、今も行われているステージに目を向ける。

 

「聞いてみていい?」

 

「なんでしょうか?」

 

「加蓮はどうなの? 最近、力を入れているみたいだけど?」

 

凛は、今も行われている加蓮のステージを見ている。その言葉にはどんな思いが含まれているのだろうか?

 

「予想よりも素質のある方だと思います。もう少し早くレッスンを受けられていたら渋谷さんと同じだったかもしれません」

 

「やっぱりそうか」

 

凛も気づいているのだろう。加蓮が成長している事に。それこそ自分と変わらない程に。

 

「これでまだなんだよね?」

 

「そうですね」

 

二人の目に映るアイドル北条加蓮のステージ。まだ完成ではないが、それでも今までのステージでなら十分通用するだけの輝きがそこにはある。だが、まだ輝けるのはわかっている。だからこそ今は加蓮に時間を割きたいと思う。

 

「加蓮はさ、私をライバルだと思ってくれてるんだよね? でも、今は私も思うよ。もちろん、他にも居るけどね。ただ――」

 

視線だけがこちらを見る。

 

「プロデューサーが気に掛けてるのが嫌かな? 最近、加蓮しか見てないでしょう?」

 

心を見透かされた気がする。思わず息をのむ。

 

「私も見てよね? 私は、プロデューサーのアイドルなんだから」

 

凛はそれだけ言うと何処かへ行ってしまう。

 

「……気を付けないといけませんね」

 

自分は、北条加蓮だけの担当ではない。他にも多くのアイドルを担当している。昔の記憶を思い出す。忘れる事の出来ない記憶だ。

 

「今度は、見失いたくはないですね」

 

目の前のステージに居るアイドルも。別の場所に居るアイドルも。自分の担当するアイドルだ。それを忘れては昔の二の舞になる。自分の思うものと、彼女達が思うものは違うのだと知ったはずだ。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

リハーサルが終わったので、現場からそれぞれ家に帰した。今日は、レッスンをはじめ仕事なども入れていない。今は、オフィスで今後について考えている。リハーサルを見る限り、及第点は超えるだろう。そうなると忙しくなるはずだ。何人が、幾つのユニットが曲を得るかはわからないがその辺りも考えなければいけない。それこそシンデレラ・プロジェクトの方も合わせて。

 

(人員が必要ですね)

 

今のスタッフの数だけでは足らなくなるだろう。美城常務に要請を出しておかなければいけないが、それだけで問題にはならないだろう。問題があるとするならば――

 

「――時間ですか」

 

関わりが減るのはできれば避けたい。ここまで信頼のある関係を築けているのだ。もう失敗はしたくない。

 

「――プロデューサーさん。今、大丈夫ですか?」

 

扉が叩かれ、島村卯月が顔を出す。

 

「どうかされましたか?」

 

頭の中身を切り替えて対応する。

 

「えっと、これ……みんなで作ったんですけどプロデューサーさんにも食べてほしくて」

 

卯月の手には、小さな包みがある。可愛らしい包装紙で作られ、丁寧にリボンが付けられている。

 

「私にですか?」

 

「はい! いつも私達の為に頑張ってくれているので」

 

卯月がこちらまで来て渡してくれる。

 

「ありがとうございます」

 

「感謝するのは私の方です。じゃあ、邪魔しちゃうといけないから帰りますね」

 

卯月はそれだけ言うと部屋から出て行こうとする。

 

「――一つだけいいですか?」

 

部屋から出るところで立ち止まり振り向く。

 

「これからもよろしくお願いしますね、プロデューサーさん!」

 

卯月は最後にその言葉を残して部屋を去る。

 

「………………」

 

卯月の言葉にすぐに返せない自分が居る。

 

手には、卯月の気持ちが籠った物があるにも関わらず。

 

「……私も前に進みたい」

 

考えていた内容を全て消す。

 

「彼女達の思いを、願いを叶える為に」

 

卯月から貰った物を大切に目の見える所に置き、改めて作業を行う。シンデレラ・プロジェクトのプロデューサーであり、プロジェクト・クローネのプロデューサーとして。

 




やっと前編の折り返し地点が見えてきた。
長過ぎるね、本当に。

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