本当なら他にもする事はある。だが、それでも今の気持ちに嘘はつけない。全員ではないが、シンデレラ・プロジェクトのアイドル達のレッスンを見る。別に今までも見ていなかったわけではないが、どこか心は別の所にあったのかもしれない。
「もう疲れたー」
「私も……もうダメです」
「レッスンってこんなにキツイもんだった?」
「みんな、ふがいないにゃ!」
本田未央、島村卯月、多田李衣菜、前川みく。この4人のレッスンを見ている訳だが普段の物とは少し内容を変えてある。主に実験で試している物を加えてみたが結果は一目瞭然だ。みく以外の3人は、疲労により床に座り込んでいる。
「やっぱりレッスンの違いなのかな? 身体よりも頭が疲れた感じがする」
未央は、座り込んではいるが体力的には余力が残っているのだろう。気分転換に身体を動かしている。
「私は、身体も疲れました」
「私も同じ」
未央は、体力だけなら十分ある。それこそ個人で追加してやっている物がなければ実験にも参加できるほどに。それに比べ、卯月と李衣菜は体力面に関しては普通ぐらいだ。
「さすが、Pちゃん! みく達がやって来た事は無駄じゃなかったんだね!」
普段は、プロジェクト・クローネと比べていた為に実感が湧きにくかったのだろう。それに比べると共に歩んでいた者達だからこそ実感も湧きやすい。少しだけ他からの視線が冷たい気がするけど。
「普段行っている物よりも意識的に動作を行いました。それにより慣れるまでは上手く身体を動かせずにいつも以上に疲れるはずです。ただ、これが自然に行えるようになれば更に上の段階へと行くことができます」
今行ったレッスンではダンスだけだが、本来なら歌を歌い、尚且つステージでのパフォーマンスも追加される。身体に覚えさせることは回数をこなせばできるようになるだろう。だが、質を高めたまま行うにはそれだけでは足りない。
「シンデレラ・プロジェクトのレッスンは、皆さんの個性に合わせて行われています。言い換えれば、長所を伸ばす物です。ですが、上に行くためには苦手な物もできるようになる必要があります。今までは、長所を伸ばす過程で短所も行ってきましたが、今日からは短所を重点的に行っていきます」
ここまでは、これから全員で行うもの。ここからは、個別に考えた物をやっていく事にする。
「本田さんは、動きの一つ一つを見直す形で行っていきます。元々ダンスに関しては適正があると思いますが、それ故に感覚に頼るところがあります。才能と呼べるものですが、複数で行う場合にはズレになります」
「前から言われてるから気を付けてはいるけど、今日みたいのだとやっぱり周りが見えなくなるなー」
未央は、個人でなら問題なくダンスを踊れる。才能とも呼べる感覚を持つ彼女はダンスに自分の色を付ける事が出来る。ただ、他の人と組んで行うと未央の色で相手側の色を邪魔してしまう。上手く混ざり新たな色を生む必要がある。
「島村さんは、考えている事と身体に差があると思います。その差を埋められるように特別な物を用意しました」
「特別な物ですか?」
「主にスポーツ選手が行うものです。詳しくは改めて説明します」
「頑張ります! 頑張って、プロデューサーさんの期待に応えます!」
卯月に関しては、おそらく普通だろう。特別ダメと言う訳ではないが、より高度な物になると身体が付いていけなくなる。別にダンス以外に重点を置けばいいだけの話ではあるが、ニュージェネレーションの未央と渋谷凛はダンスの才能がある。二人の長所を卯月のために潰す事はできない。だからと言って、卯月はニュージェネレーションには必要な人間である。どうにかして二人に追いついてもらいたい。
「最後に多田さんですが……」
正直、どう言えばいいか困る。
「……あれっ? もしかして、私って酷いの? 嘘だよね?」
武内が言葉を詰まらせたことにより李衣菜の表情が不安からか青くなる。
「いえ、その……多田さんは、別のレッスンも行っていますのでどうしても他の方と差が出てしまいます」
最近、アイドルである木村夏樹と共にギターのレッスンを受けている。李衣菜は、ロックが好きなので楽器の演奏がしたいと要望があった。そのため他のアイドル達とは違い演奏のレッスンも組み込まれている。ただそうなると必然的に通常のレッスンの量が減り差を生んでしまう。
「最近、リーナちゃんレッスンに身が入ってないにゃ。ずっと一緒にやってるからみくにはわかるよ」
武内の言葉よりも一緒にレッスンを受けているみくの言葉の方が李衣菜には重いだろう。落ち込み過ぎて今にも泣きだしそうだ。
「どうすればいいんですか、プロデューサー」
李衣菜にその気がなくても他にする事が増えればその分意識も分散する。今回は、それを自覚するいい機会になったのかもしれない。
「木村さんと行っているレッスンも重要ですので今のままでいいと思います。ただ、やる事が増えればそれだけ意識が分散しやすいものです。その事に気を付けてみてください。多田さんは、とても良い耳を持っています。リズム感に関してはとても素晴らしい物を持っています」
「本当ですか?」
縋るような目で見られる。
「はい。これからも前川さんと一緒に頑張ってください。量が減ったとしても意識を強く持って行えば結果に繋がりますから」
「リーナちゃん。みくと一緒に頑張ろ?」
「うん。頑張る」
落ち込んでいた李衣菜を励ますようにみくが優しく抱きしめ頭を撫でる。ケンカもよくするが、なんだかんだ仲の良い二人で安心する。
♢♢♢♢♢
レッスンを見終わり、北条加蓮のレッスンに付き合おうと部屋を出ると途中で加蓮と出会う。どうやら待っていたようだ。
「お疲れさま」
そう言うと、加蓮は買っておいた缶コーヒーを武内に渡す。
「ありがとうございます」
「ううん、いいよ。いつもお世話になってるから。それよりもどうだった? シンデレラ・プロジェクトの方は?」
「そうですね。少しずつですが前に進んでいると思います」
「そっか。まあ、聞かなくてもわかるけどね。プロデューサーが担当してるんだもん。でも、これからはアタシを見てよね? 新しくいろいろと増えたから大変なんだよ?」
結局、加蓮にも追加や変更があった。最終的には、本番前日で改めて確認することになるがそれまでには仕上げておきたい。
「では、早速行うとしましょう」
「うん、一緒に行こう」
加蓮は、武内の横に付いて共に足を進める。その表情は、これから厳しいレッスンを受ける者とは思えないほどに華やかな物だ。
♢♢♢♢♢
《裏設定①》
この作品の設定の紹介を一つ。
既にわかっている方もいると思いますが、武内Pは楓達が行っていたステージである最初の舞踏会を創った内の一人です。
今西部長の下で行われた『終わらない舞踏会』と呼ばれるプロジェクトに担当であったアイドル高垣楓と共に参加する所から物語は始まります。
そこは、誰もが主役になれる場所。誰もが物語のシンデレラとして、王子として夢のような舞踏会に参加できる場所。決して終わる事の無い夢のような世界を創るプロジェクトが今のアイドル事業部の基になっています。実際、現在の346プロダクションの主なアイドル達はこのプロジェクトの参加者になります。
武内Pは、そのプロジェクトの一員として結果を出していきます。ただ、その過程で彼は必然的にただのプロデューサーではなくなります。部下を持ち、役割も増え、アイドルと共に歩くだけのプロデューサーではいられなくなります。
そして、失敗を犯し表舞台から消えます。
その後は、裏方として現場を支えながら過ごしていくのですが、今西部長からもう一度プロデューサーとしてアイドルを導いてみないかと誘われます。
その後は、アニメ本編に繋がる形です。
元々は、前作を書いてから書く予定の物だったので少し内容に変更はありますが概ねこんな感じです。あくまでも二次創作ですので多少は目をつぶって下さい。
凛は、独占型。
加蓮は、依存型。
奈緒は、「なんでもするから」って感じだと思います。
最近、ヤンデレ成分が足らなくてうずうずする。